佐賀県における都市のエリアマネジメント
~公共空間のリノベーションと立地適正化計画~
~公共空間のリノベーションと立地適正化計画~
佐賀県 県土整備部
まちづくり課
計画担当 係長
まちづくり課
計画担当 係長
矢 野 勝 久
キーワード:コミュニティデザイン、公共空間のリノベーション、立地適正化計画
1.はじめに
2006年(平成18年)のまちづくり3 法の見直し以降、まちづくり分野では、コミュニティデザインやリノベーションの手法が盛んになっています。また、2014年(平成26年)2月の都市再生特別措置法の改正に伴い立地適正化計画(以下立適という)や関連の都市再生整備計画事業等に取り組んでいます。これらの動きについて、関わりのあった佐賀県内の概要を報告します。
2.近年のまちづくり事情
(1)コミュニティデザイン
2012年(平成24年)に佐賀市の取組みで、まちなか3日学校が開かれました。当時、山崎亮氏の提唱するコミュニティデザインに興味があった私は、地域住民として入学しました。商工関係者など多様なメンバー約40 名に、studio-L、ワークビジョン及びopenA 協働での3日間プログラムで、「出会い」、「仲間」、「学び」をテーマに、街なかの魅力や課題を通じ活動するものでした。
街なかの4 つの空間資源(空地、空家、大型施設、通り・クリーク)の活用策を、4 チームに分かれて社会実験を試みました。
3日学校の半年後に、我々のチームと山崎亮氏と西村浩氏も加わり、佐賀市の中央マーケットで、秋物サンマBBQ(写真- 1)をしました。負の遺産と思いこみがちな空地や空家を、3日学校では、一定のコミュニティで活用すれば空間資源として活用できることを仲間とともに実践しました。
(2)公共空間のリノベーション
2015年(平成27年)に佐賀県では、佐賀県総合計画2015 を策定しました。政策推進に当たっての2 つの視点のうち1 つとして、人のくらし、まち・地域を心地よくし、豊かなものにする「さがデザイン」を取り入れています。この「さがデザイン」では、クリエイターやコンサルタントなど、総勢100 人に上る専門家の方々に協力をいただき、佐賀のまちづくりにも、多様なアイデアや助言を頂いています。
そのアイデアの一つとして、佐賀城公園のリノベーションが出て、県では、佐賀城公園、県庁屋上展望ホール、県庁地下食堂、岡田三郎助アトリエ等をリノベーションする構想が始まりました。関係部署は、都市計画、観光、資産活用、職員、文化の分野と多岐にわたっており、私は、政策課の担当として、全体調整に携わりました。2017年(平成29年)2月に、地方創生拠点整備交付金として、「佐賀県庁・佐賀城公園の賑わい・商い空間化事業計画」として申請し、事業決定されました。
これまで、行政施設(敷居の高い)と公園(遊び場、憩いの場)といった異質な施設が配置された佐賀城エリアを、県庁、図書館、美術館、佐賀城公園などそれぞれの施設を、心地よいものにすることはもとより、それぞれの回遊性を増すことによって、佐賀城エリアを空間全体としてリノベーションし、新たな拠点としたものでした(図- 1)。
県庁舎は、夜の観光スポットにもなるよう展望ホールでプロジェクションマッピングを始め、佐賀城公園の噴水は、子供たちが濡れて遊べる噴水(写真- 2)にリニューアルされました。
3.立地適正化計画の取組状況
2014年(平成26年)に、国において、「立地適正化計画制度」が創設されました。前章での公共空間のリノベーションのように街なかのエリアマネジメントに併せて、立適により持続可能な都市構造とすることが重要となります。立適では、まちづくりの方針(ターゲット)を検討し、課題解決のための施策・誘導方策(ストーリー)を検討していくものです。また、立適は市町村マスタープランの一部とみなされるものです。佐賀県内の立適の策定状況について、策定された順にご紹介します。
(1)小城市
2017年(平成29年)に、小城市の立適として、都市機能誘導区域が、先行して指定されました。その後、2018年(平成30年)に居住誘導区域を含めて改訂(図- 2)されました。立適の都市の将来像を「人と自然が輝く、希望と活力にあふれた生活創造都市・小城市」と定めています。通常、用途地域を市街地と想定し、誘導区域を検討していきますが、用途地域がないため、用途地域を想定し、これを目安に、誘導区域を設定しました。
この計画において、都市機能誘導区域に設定した教育文化施設について、西九州大学看護学部(写真- 3)を都市機能立地支援事業によって、誘致が行われました。
(2)嬉野市
2018年(平成30年)3月に、嬉野市において策定された立適は、「都市部でも集落でも歩いて暮らせる持続可能なまちづくり ~多極ネットワーク型コンパクトシティの実現~」を基本理念にしています(図- 3)。
2022年(令和4年)秋の九州新幹線西九州ルートの開通に伴い、嬉野温泉駅(図- 4)が誕生し、駅周辺整備と温泉街の一体とした都市再生が重要となります。
このため、嬉野温泉・嬉野温泉駅周辺地区都市構造再編集中支援事業として、2017年(平成29年)度から2021年(令和3年)度の期間で、地区の回遊性や賑わいを創出する観光文化交流センター、駅前公園等の駅周辺の一体整備、安全・安心や修景に配慮した都市空間の創出や温泉街の滞留性の向上に向けた市街地整備が行われています。
(3)鹿島市
2020年(令和2年)3月に、鹿島市において策定された立適は、「歴史と文化が織りなす、歩いて快適に暮らせるまち・鹿島」を将来都市像としています(図- 5)。
計画検討時に令和元年佐賀豪雨も発生し、これまでよりさらに、防災が注目されました。2020年(令和2年)9月の立適作成の手引きの改正前で、防災指針という定義はありませんでしたが、浸水想定区域を含む肥前鹿島駅エリアを、誘導区域としてどのように取り扱うかが課題でした。
このため、立適に浸水想定区域における防災対策の推進を計画に盛り込みました。併せて、浸水想定区域におけるリスク対策も、雨水ポンプ場の整備・更新、避難情報の確認、避難行動の心得などを記載しました。肥前鹿島駅エリア、市役所周辺エリア、肥前浜駅周辺エリア(写真- 4)で誘導施設を設定し、エリアごとの魅力向上に向けた施策に取り組まれています。
(4)基山町
基山町は、地方再生コンパクトシティのモデル都市(2018年3月)に選定され、UR 都市機構のハンズオン支援も受けて、「駅前からスタートする勝力あるまちづくり」に取り組んでおり、その一環で、2021年(令和3年)3月に、基山町の立適が策定されました(図- 6)。
2020年(令和2年)9月に、立適作成の手引きで「防災・減災の主流化」に向けた留意点等が追加されたことを踏まえて、県内初の防災指針のある立適となりました。このため、策定期限や事例が少ない中で、国土交通省の協力もあり、策定に間に合われました。
また、この計画には、公共交通に関する目標で、新たな交通手段としてスマートモビリティの運行系統を、1 系統つくることが盛り込まれており、既に新たな公共交通体系について研究(図- 7)を始められています。
4.おわりに
近年、いろいろな形でまちづくりに携わる中で、街なかの状況や国土交通省の制度など、日々刻々と高度化しています。これらの変化に対応しながら、まちづくりに関係するものは、官民問わず、人口減少やスポンジ化に対応し、街のエリアマネジメントなどにより、居心地のよい空間創出にチャレンジしているところです。この空間(街)での原体験が、次世代のシビックプライドにつながり、住みつづけられるまちづくりになることを望んでいます。
最後に、今回、立地適正化計画に尽力いただいた小城市、嬉野市、鹿島市、基山町の都市計画担当の皆様、策定の際に協力頂いた国土交通省都市局都市計画課及び九州地方整備局建政部都市整備課の皆様、基山町にハンズオンで支援いただいたUR 都市機構九州支社都市再生業務部まちづくり支援室まちづくり支援課の皆様に、改めて感謝の意を表します。
【参考文献及び資料】
(参考文献)
1)山崎亮:コミュニティデザイン~人がつながるしくみをつくる~、学芸出版社、2011
2)馬場正尊+ OpenA:RePUBLIC 公共空間のリノベーション、学芸出版社、2013
(参考資料:立地適正化計画)
各策定市町HP(小城市、嬉野市、鹿島市、基山町)に掲載されていますので、該当市町名と立地適正化計画をキーワードに検索願います。