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中間堰改築工事の施工概要
柏木弘志

キーワード:取水堰、半川仮締切、非出水期施工

1.はじめに
(1)遠賀川の概要

福岡県と大分県の県境にある馬見山、英彦山を主たる水源とし、響灘にその水をそそぐ一級河川遠賀川。本河川は北九州・筑豊地方の人々の暮らしと深く関わっており、古くは炭鉱最盛期、水上運搬経路として、また現在においても上水、農業・鉱工業用水として広く利用されている。九州内では筑後川に次ぐ流域内人口67万人を誇り、流域内人口密度では1平方㎞あたり650人で九州一の河川である。

このような生活に密着した河川ゆえ、過去に洪水で甚大な被害が多数発生しており(表-1)、また近年のゲリラ豪雨等による異常出水でも度重なる洪水が発生している状態である。
中間堰改築工事はこれらの洪水を安全に流下させるため、上流域の治水安全度の向上を図ることを目的とした「特定構造物事業」と呼ばれる大規模事業である(写真-1)。

(2)地域特性
中間市のほぼ中心部に位置する堰であり、中間市民をはじめとして北九州市への上水及び工業用水として利用されている。直下流には支川笹尾川、黒川が合流しており、河川の形態が大きく変化する場所でもある。右岸側には、市役所・消防署・中心市街地が控えており、騒音・振動はもとより交通渋滞の頻発する交通管理に対しての配慮が必要となる。

(3)堰の諸元
今回施工する中間堰と現在の中間堰の諸元について表-2に示す。中間堰は大臣特認制度を活用した案件であり、堰柱上流面の傾斜化を図ることにより径間長を36mから28mに緩和させる方策を講じており設計上特色のある工事である。

2.堰改築に係る工事工程について
(1)全体工事工程
本工事は平成23年より開始され、出水期である6月~9月を除く全5期工事の分割施工となっており(表-3)、新規取水堰での取水開始を平成27年3月末からとしている。主な工事内容としては、堰本体工、機械ゲート工、操作室・橋梁工であり、各工種が競合しての作業となるため作業動線、エリア等綿密な調整が必要とされる。

(2)非出水期施工

当該施工は、現在の中間堰より約100m上流で右岸高水敷から左岸側の中島まで横断する範囲で行われる。2期、3期工事は右岸側半川仮締切、4期、5期工事は中島側半川仮締切の形態とし、締切後堤内側の排水を行い、ドライアップした状態で施工を実施するものである。
半川仮締切方式において工程を確保する点においては通年施工が望ましいが、その際半川締切により欠損する河積を確保する必要がある。
しかし、中島は中島自然再生事業として環境整備事業が計画されており、その保全エリアと干渉するため河積確保のための掘削が出来ない。そのため、各期において仮締切の設置撤去を余儀なくされ、その工事期間は非出水期間全8ヶ月のうち3ヶ月程度を費やす状況である。このことより本体工事に掛けられる実質工程は5ヶ月しかなく各工種の競合作業による工程調整が重要なポイントとなる。

(3)分割施工
堰本体は全長139mの5径間、10ブロックで構成されており、今回発注済の1~3期工事では6ブロック4堰柱、次期発注予定の4~5期工事においては4ブロック2堰柱を施工する(図-2、3)。

3.1~3期工事における工事施工フロー
既発注分である1~3期工事における施工フローを説明する。

(1)1期工事

工事期間:平成23年1月14日~5月31日

河積の阻害を最小限にするよう川流れ方向の二重鋼矢板式仮締切(以下仮締切)を設置した(写真-3)。クレーン台船及び資材台船を使用した水上施工となるが、河口堰及び現在の中間堰があり、海上からの台船曳航が不可能である。そのため、ユニフロートを陸上輸送し現地組立・艤装を行い、バイブロハンマーを使用して鋼矢板の打設を実施した。また、中詰土工においては中島の掘削土を流用し、中島側よりベルトコンベアにて40m搬送し投入を行った(写真-4)。
なお、本仮締切は3期工事まで存置するため、出水による中詰土の流出防止を目的として仮締切天端に平張コンクリートを打設し、また上流端部へ隔流壁を設け、出水時の流速を軽減させている。
平成23年出水期は大きな出水が無く、2期工事に向けて鋭意工事に努めている。

(2)2期工事

工事期間:平成23年10月1日~24年5月31日

1期工事で設置した仮締切の上下流より右岸側へ鋼矢板を打設して半川仮締切とし、堤内側の排水を行いドライアップ後、土砂掘削・杭打ち・躯体構築を行う。排水については堤内外の水頭差が発生することによる矢板の変状が大きな課題であり、安全に施工するため、盛土や地盤改良を余儀なくされる。
本躯体の基礎形式として、右岸側は躯体下面が岩盤層(軟岩)であるため直接基礎、河川中央付近においては沖積粘性土(N値1~2)が厚く堆積しているため杭基礎とし、岩着させて支持力を確保する。三点式杭打機を使用し、中堀工法により鋼管杭及びPHC杭を打設する。
躯体構築は、6ブロックの底版及び右岸側の2堰柱とし、2堰柱の進捗に応じて調節ゲート戸当り部の設置を行う。堤内側を入水後、上下流に設置した仮締切を撤去する。

(3)3期工事

工事期間:平成24年10月1日~25年5月31日

2期工事同様に仮締切を設置しドライアップ後、残り2堰柱の構築及び調節ゲートの設置を行い、ゲート設置後操作室を施工する。また堰柱構築次第、各径間に制水ゲートの設置を行い、可動できる状態とする。
右岸側高水敷部においては取水口からの配管を敷設する導水路工及び管理橋上部工を行う。また仮設工では、4~5期工事に使用する川流れ方向の仮締切として、河川中央側の堰柱に鋼矢板を連結し、先行仮締切を行い、上下流及び1期工事に設置した仮締切を完全撤去する。

4.今回施工の課題と対策
(1)施工における課題
1~3期工事における品質、精度、安全について施工上の課題と対策を3つ列挙する。

①躯体コンクリートの品質確保
本躯体は河川構造物であり、水密性を確保する必要があるが、躯体厚は底盤部5.7m、堰柱部5.3mといずれの部位も厚くマスコンクリートであるため、温度ひび割れの発生が懸念される(図-12)。

②急傾斜した岩盤ラインへの支持杭打設精度の確保
本施工エリアの地盤は沖積土と軟岩により構成されており、中島(左岸側)より右岸高水敷に向かって軟岩層が急激にせりあがった形となっている。この急勾配となった軟岩層への支持杭打設に対する精度確保が必要とされる。

③仮締切の変状管理
仮締切鋼矢板は下流側の一部を除きすべて沖積粘性土に根入れしている。本地盤のN値は1~2程度であり、施工時の堤内外の最大水頭差は約10mとなるため、堤内側排水時及び排水後のドライワーク時における鋼矢板の変状管理が必要とされる。

(2)課題に対する対策
①躯体コンクリートの品質確保

水密性・耐久性を向上させるために、マスコンクリートの温度ひび割れ対策として、材料及び施工方法について以下の対策を講じる。
a.コンクリート使用材料の変更
コンクリートは、硬化時の温度が高いほど内部に生じる引張応力が増加し、ひび割れが発生しやすくなるため、高炉セメントB種(BB)に代わり低熱型高炉セメント(LBB)を採用する。これにより、温度上昇量を約30%低減できる(図-13)。

b.膨張材の添加
コンクリートの収縮量を低減し、温度ひび割れを抑制するために膨張材(太平洋ハイパーエクスパン)を使用する。これにより、コンクリートの収縮量が約50%低減され、温度ひび割れの抑制に寄与する。
c.打設後養生方法の選定
コンクリート硬化時の最高温度を低減するために、堰柱部においてパイプクーリング養生を行う。
これにより、コンクリートの最高温度が最大31℃(60℃→29℃)低減できる。

②急傾斜した岩盤ラインへの支持杭打設

a.定規材の使用
特殊定規を用いて定規面での偏心量を10㎜以内に抑える(図-14)。

b.鉛直精度確保のための計測
トータルステーションによる鉛直精度計測を実施し情報化施工を行い、オペレータが操作室でモニターを確認しながら精度1/2000以内を確保する(図-15)。

③仮締切の変状管理

自動視準トータルステーションを用いた変位計測及び挿入式傾斜計を用いた傾斜計側を行う。
a.変位計測
自動視準トータルステーションは地上部の堤内・堤外側の鋼矢板にプリズムを設置してリアルタイム(1回/約20分)に自動計測を実施するものであり、観測結果はモバイルインターネット回線を介して施工業者事務所に伝送され、管理値を超過した場合には警報を発令する(図-16)。

管理値は最大掘削深度位置での鋼矢板変位を3次管理値(100%)と定め、その1次管理値を50%、2次管理値を70%とし、各管理値の超過に従い以下の方法による周知・対応策を講じる(表-4)。

b.傾斜計測
挿入式傾斜計を用いて人力にてガイド管にプローブ(計測器)を挿入し、1.0m毎にガイド管の傾斜を計測する。地上部及び根入れ部の鋼矢板変位を1断面で連続して計測できるため、トータルステーションでは計測できない根入れ部を計測するとともにトータルステーションの計測により得られた地上部データの整合性を確認できる(図-17)。

6.おわりに
中間堰改築工事は、これからの遠賀川流域の安全と安心をもたらす重要な構造物の改築である。
5年間の工事期間は長く感じられるが、施工計画を立案していくと、とても短いハードスケジュールとなっている。1期工事が完了し、2期工事が始まったばかりで施工上の問題や苦労、工夫した点など現時点で詳しく記載できないが、この先日々変化する現場と向き合って完成を目指していく所存である。

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