中心市街地の厳しい交通状況下でコスト縮減を
目指した老朽橋の補修
目指した老朽橋の補修
建設省 北九州国道工事事務所
副所長
副所長
百 田 国 広
建設省 北九州国道工事事務所
交通対策課長
交通対策課長
西 豊 和
1 はじめに
最近の新幹線トンネルや高架橋のコンクリート剥離・落下事故にみられるように,社会基盤の維持管理と再生は今後の社会資本整備を推進する上で最も重要な課題の一つとして認識されつつある。
国道3号北九州市八幡西区黒崎地区の電線共同溝設置事業において,この維持管理・再生問題に期せずして遭遇した。対象となる構造物は合流式公共下水に架かる橋梁であり(写真-1),50年近い年月と下水からの悪影響により劣化・損傷が著しく,早急な対応を図る必要があると判断された。そのため,一日7万台を処理する国道3号黒崎地区での橋梁部改築と電線共同溝設置を同時施工することとし,交通の確保,工事中の環境保全,コスト縮減,工期短縮等の観点から対策工を比較検討し,実施したのでその概要を報告する。
2 既設橋梁の調査結果
(1)調査結果概要
既設橋梁は幅員25m橋長6m単純RCT桁の斜橋であり(写真-2),現地調査で確認された主な劣化・損傷状況としては以下のものが挙げられる。
① コンクリートに空隙が多いことから中性化が早く,硫化水素ガスの影響も受けて鉄筋腐食の進行は著しく,かぶりコンクリートの剥落・鉄筋露出・鉄筋断面減少・鉄筋破断を生じ,鉄筋腐食による損傷劣化が全体に広く進行している(写真-2,3,4)。
② 下部工のコンクリート強度はコア試験値から12.2~29N/mm2,反発度測定では5.4~15.9N/mm2と非常に低い値を示しており,耐荷力・耐久性とも大幅に低下している。
③ 損傷の進行が著しく,耐荷力はかなり低下した状態にあると推定されるが,現況交通に対しては,著しい応力ひび割れ・異常たわみ等の耐荷力不足に起因する変状は認められていない。
(2)下水道腐食の概要
下水道施設のコンクリートは以下のようなメカニズムで腐食する。まず,下水中の硫酸イオンが硫酸還元菌によって還元されたり,下水中のタンパク質が徴生物によって分解,還元されたりすることで下水から硫化水素が発生する。次に硫化水素は,下水道施設内に生息する硫黄酸化細菌が酸化して硫酸に変化する。この硫酸によってコンクリートが酸化して劣化,石こうのようにもろくなる現象が腐食である(図-1)。
3 対策工の検討
対策工の検討では損傷状況および立地条件等から,補強・補修工で対応するには工事が大規模となり,厳しい作業条件下(狭所作業,下水道内作業等)では必要な耐荷力・耐久性の向上が十分期待できる施工は困難であると判断して,橋梁部の改築を検討した。
(1)改築の制約条件
本橋梁部の改築における制約条件を以下にまとめる。
① 国道3号の交通を確保
② 工事中の周辺地域への影響軽減
③ 桁下部の既設地下埋設管路の移設は基本的に行わない
④ 既設下水道の他所への切り回しは不可能であり,現況を生かしながらの施工
⑤ 損傷著しい既設橋への影響が少なく,耐下水道腐食性を有する工法
⑥ 地盤は砂混じりシルトでN値は1前後,含水比高く極めて緩い
(2)対策工法の選定
既設橋の改築にあたっては,大規摸な交通規制を行って路上から施工する開削工法と,交通規制を極力少なくするために路下から施工する非開削工法について検討した。それぞれの工法に適合する対策工として以下の案を抽出した。
① 開削工法
a 全面架け替え案―上下部とも架け替えて現況を撤去する工法
b 上部架け替え案―下部工は既設橋台を使用し,上部工のみ架け替える工法
c 暗渠案―既設桁を撤去し,水路を開削工法で暗渠に改築する工法
② 非開削工法
a プレキャストボックス案―既設開水路を撤去し,プレキャストボックスを押し込み桁下空間はエアモルタルを充填する。
b 強化プラスチック複合パイプカルバート案―既設開水路を撤去し,強化プラスチック複合パイプカルバートを設置し,桁下空間はエアモルタルを充填する
c 熱硬化性樹脂による反転工法―熱硬化性樹脂を含浸させた繊維材を水圧や空気圧で水路内部に反転挿入し,熱硬化させて樹脂函体を構築する工法,桁下空間はエアモルタルを充填する
上記対策案の中から以下の理由により非開削工法の「熱硬化性樹脂による反転工法」を採用した。反転工法の施工概要を図-2,3に示す。
(a)当案が比較案中最も安価である。
(b)工事期間が短い。
(c)工事中における現況交通への影響が少ない。
(d)橋梁横断部の電線管路を桁下部に取り込み可能でありコスト縮減となる(図-4,5,6)。
(e)基本的に現況下水路と取り壊す必要が無く,現状のままで改築可能である。そのため,工事中における既設橋への影響が少なく,建設廃材の発生等も少ない。
(f)非開削工法による熱硬化性樹脂反転工法であるため省力化が可能であるとともに,騒音・悪臭など工事中の周辺環境への影響が少ない。
(g)耐下水腐食性に優れ,断面形状および変化を問わない。
4 技術的課題
採用した対策工法は橋梁構造をBOX構造に改築するものである。この場合,長期的な観点から既設橋梁の上部工は構造部材として考慮せず,既設埋設管,新設電線共同溝管路の防護板および舗装版として検討した。
(1)函体の設計
橋梁部前後の現況BOX断面と同一断面とした場合,幅と高さの比が約2倍となるため構造部材が厚くなり,たわみに対しても不利となる。一方,現況水路を生かしながら施工するためには2BOX構造とすることが望ましい。以上の2点を考慮して函体の基本構造はB1180×H1300を2本並列として,下記のフローにて検討した。
熱硬化性樹脂による反転工法は下水道管渠更正工法の一つであり,道路構築物の設計手法として確立されたものはない。そのため,道路土工カルバート指針たわみ性カルバートの設計に準じてフレーム解析し,道路構築物への適応を図った。検討の結果,ライニング材(熱硬化性樹脂材)は厚さ43.5㎜を使用することとした。
(2)施工上の問題点と解決策
当改築においてエアー反転工法(ICPブリース工法)を採用するにあたって次の点が問題となった。
① エアー反転工法では1層の施工厚さに制約(1層の最大厚さ36㎜)がある。
② コルゲートフリュームの内側は波消しを行うが,アスファルト系では熱硬化時の温水シャワー熱(80℃)で溶解する。
③ エアモルタル充填において床板下に空隙が残る懸念がある。
①については当箇所での厚さが43.5㎜のため2層(22.5㎜+21㎜)に分けてライニングする計画とした。2層構造の密着性や耐荷能力については試験施工により確認した(写真-5)。密着性については拘束効果を十分期待できるものであり,耐荷能力については5%たわみ荷重で単層と同等以上の値を示した。
②のコルゲートフリューム内側の波消しは薄鉄板を点付け溶接することで対処した。
③については床板部のエアモルタル充填を路上から注入孔を削孔して充填する。この場合,交通規制は電線共同溝設置工事と調整を図る。
5 施工順序
(1) 立坑構築
(2) コルゲートフリューム組立
(3) エアモルタル1次充填
(4) 1次仮水路切回し
(5) 反転工1連目施工
(6) 2次仮水路切回し
(7) 反転工2連目施工
(8) 新設管路桁下設置
(9) エアモルタル2次充填
6 おわりに
厳しい交通状況下における種々の制約条件から,BOXの構築に近年の下水道管渠更正法の一つである熱硬化性樹脂による反転工法を採用し,設計条件に適合すべく検討・解析・試験施工等を加えて道路構築物への適応を図った。しかし,反転工法は1層の施工厚さに制約があり,今後増えるであろう大断面への適用では多層構造とならざるをえない。そのため,1層当たりの施工厚をどのくらい厚くできるか,1回当たりの反転費をいかにコストダウンできるかが今後の課題となろう。