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一般国道10号別大拡幅事業(別大地区)について

国土交通省 九州地方整備局
 大分河川国道事務所 副所長
春 田 義 信

㈱さとうベネック 建設本部
 技術部 技術開発課
蒲 生 和 久

1.はじめに
別大拡幅事業は交通混雑の緩和と交通安全の確保を目的とした日出町から大分市に至る総延長22.6㎞の現道拡幅事業である。そのうち通称「別大国道」と呼ばれる別大地区は別府市と大分市を結ぶ重要な幹線道路である。しかし近年の交通量増加に伴い慢性的な交通渋滞が続き,緊急時や災害時に交通が遮断されるなど,幹線道路としての機能が低下している。そこで渋滞の解消と災害に対する信頼性向上を図るため,平成5年度から6車線化の事業に着手した。平成17年2月までに全長7.0㎞のうち,うみたまご~西大分区間までのL=5.2㎞の供用を開始している。また残るL=1.8㎞区間についても,東別府地区(L=0.7㎞)およびうみたまご地区(L=0.3㎞)においては,平成19年度の供用を目指し鋭意施工中である。
図ー1および図ー2に別大地区の位置図を示す。

このような状況のもと,工事の施工にあたっては,安全性はもとより高品質で経済性を考慮した道づくりが求められている。そこで当該工事区間では越波対策として新技術である「非越波型波返し擁壁」を採用している。従来の直立護岸では,越波を防ぐために天端高を上げ,前面に消波ブロックを設置する必要があった。しかし非越波型波返し擁壁は大きく張り出した曲面形状となっており,波を滑らかに沖側へ返すことができる。よって低天端でも越波を大幅に低減でき景観性にも優れている。また堤体上部を歩道として利用でき,前面の消波ブロックも不要なため,前面水域の消失面積を小さくすることができ,周辺海域に与える影密を最小限に抑えることも可能である。
本稿では,非越波型波返し擁壁の計画,それに伴うコスト縮減,非越波型波返し擁壁の施工について報告するものである

2. 非越波型波返し擁壁の計画
別大地区において,高崎山の前後4.9㎞区間は越波による「特殊通行規制区間」に指定されている。そこで幹線道路としての機能向上のため指定解除を目指し,波浪時の歩行者および通行車両の安全性を高める計画としている。
現況の道路護岸は台風などの異常波浪による越波対策として直立護岸の前面に消波ブロックを設置した「消波ブロック被覆護岸」を採用している。
今回の道路拡幅では,平面線形が海側に張り出すため,急峻な地形においては消波ブロックを設置できない。また直立護岸で越波防止機能を満たすためには擁壁天端を現況よりも約6m高くする必要がある。しかし道路からの景観性を維持するためには,路面も擁壁に合わせて高くなるために多大なコストが必要となる。
よってこれらの環境条件を考慮したうえで,低い護岸高さでありながら越波阻止性能に優れる「フレア護岸(NETIS登録No.KK-040019)」と呼ばれる「非越波型波返し擁壁」を計画した。
図ー3に各種護岸ごとの水理実験の状況を示す。

「非越波型波返し擁壁」は,「直立護岸」と比較した場合において,越波流量水塊打上高さおよび波の反射率の大幅な低減効果が確認されている。また図ー4に示すように直立護岸に比べ非越波型波返し擁壁は,水塊が沖側斜め上方に打ち上げられるため,飛沫輸送量が低減されることから安全性の面においても優位性が高い。

図ー5に現況に対する非越波型波返し擁壁を採用した場合のイメージ図を示す。

計画段階においては,当該海域の海象条件を考慮した限界状態時の水理模型実験も行った。この実験の中で,「一般部」と「急深部」において海底の緩傾斜と急傾斜のそれぞれ4バターンを検証した。その結果から越波低減効果・波圧に対する特性・コストの観点から最適な張出し長さを決定しており,安全性の確認も行っている。
図ー6に一般部と急深部の護岸形状の違いを示す。

3.非越波型波返し擁壁のコスト縮減
現在,急深部については再検討中であるが,一般部については非越波型波返し擁壁を採用したことにより,事業費ベースで当初案23.6億円/㎞に対して,21.5億円/㎞と9%のコスト縮減が見込まれている。それは以下に示すような非越波型波返し擁壁の「構造上の優位性」や別大地区における「消波ブロックの漁礁利用」などの施策から達成されている。

(1)構造上の優位性
非越波型波返し擁壁は,前項に記した越波特性向上のほかにもコスト面において下記のような優位性がある。
①道路高さの現状維持
直立護岸であれば,護岸の天端高を現状の高さに抑えることはできないが,非越波型波返し擁壁を採用することにより,道路高さをほとんど変更することなく拡幅が可能となった。このように必要な越波機能を低天端で実現できたため,従来型の護岸構造と比較した場合,土工量の減少などの理由によりコスト縮減を図ることができた。
②道路平面線形の海岸側への張出し抑制
非越波型波返し擁壁は,擁壁上部の張出し部を歩道に利用できるため,道路拡幅計画において平面線形の海側への張出しを抑制することができる。よって特に急傾斜の海底部においては,構造物の大型化を抑えることができコスト縮減効果が得られた。
また,直接的なコストとして算定することは難しいが,下記に示す「景観」「安全」「環境」などに関する優位性は,この擁壁の特性により実現されている。このように高い越波防止機能と同時に社会的な要請に関する事項にまで配慮できたことは,コスト縮減の一端ではないかと考える。
・景観:護岸を嵩上げしないことにより車道およびJR車窓からの景色を妨げないこと
・安全:越波量を原則としてゼロとし護岸上を安全に開放できること
・環境:海域の消失面積を最小限に抑えること

(2)消波ブロックの漁礁利用
一般的に非越波型波返し擁壁は,消波ブロックで被覆する必要がないため,その製作および据付に関するコストが削減される。しかしながら,別大地区においては,非越波型波返し擁壁を採用することにより,既存の直立消波護岸を被覆している多数の消波ブロックが必要なくなったことから,多額の処分費用が必要となる問題が発生した。
そこで当初は,リサイクル利用の手段として消波ブロックを現地で破砕したのち盛土材料として利用する工法や発泡モルタルを併用することで破砕せずに裏込材料として利用する工法を実施してきた。
そのような中,同海域の漁業共同組合との補償協議の過程で,漁礁の設置に関する要望を受けた。そこで,新設の人工漁礁用ブロックを設置するのではなく,今回の工事で余分となった消波ブロックを用いた漁礁の設置を提案した。これは沖縄の北部国道事務所において,新橋建設に伴い不用となった旧塩屋大橋を漁礁として再利用したコスト縮減事例にヒントを得た提案である。
このような消波ブロックを用いた漁礁について経済検討を行った結果,漁礁として利用するほうが路体盛土に利用するよりも経済的であることから,消波ブロックの利用法の変更を実施した。同時に今回の事例においては漁業補償費の一部も削減できている。
この施策は,リュース,コスト縮減および海洋環境の維持など環境と経済を両立させた社会を構築するための3R(Reduce,Reuse,Recycle)政策にも合致する提案であった。漁礁の設置形状および設置状況を図ー7,図ー8に示す。

4.非越波型波返し擁壁の施工
(1)工程管理
非越波型波返し擁壁の製作においては,図ー9に示すような擁壁前面部に意匠登録されている特殊型枠を使用する必要がある。また新技術であることから型枠の数量も限られている。

このような制約条件から型枠の転用計画が工程に大きく影響を与えるため,型枠数や施工ヤードなど種々の条件をもとに,資機材の配置や運搬船への積込時の転置計画を考慮した綿密な製作工程を計画して工程管理を行った。これらの計画が予定通りに実施されたことにより,現地の据付工程に影響を与えることなく施工することができた。

(2)品質管理
非越波型波返し擁壁は,飛沫帯における鉄筋コンクリート構造物であるため,コンクリート標準示方書における環境条件区分としては「特に厳しい腐食性環境」といえる。よってできるだけひび割れ幅を小さくすることを目標とした。
製作ヤードが海岸沿いで海風が強いことから,ひび割れの主な発生要因として初期の乾燥収縮によるひび割れが懸念された。そこで九州地方整備局においても実積のあるポリプロピレンを材質とした網目状繊維を混入することとした。これにより有害なひび割れの発生を防ぐことができた。
次に図ー10に打設割付図を示す。型枠形状の制約から3回に分割してコンクリートを打設した。特に①の曲面部においては,コンクリートの充填の不具合が懸念されたため,型枠面に空気孔を設けることにより充墳性を高めた。

(3)出来形管理
別の場所で製作し運搬して据え付けるこの擁壁の性質上,出来形管理は製作時における「製品の出来形」と据付時における「据付精度の出来形」の両方がある。
図ー11に擁壁の製作状況を示す。この擁壁は高さが約6m,1基あたりの重量が約60tであるため,製作に広い敷地が必要となる。今回の工事では十分な広さの埋立地を確保することができたが,その敷地は表層が緩い砂礫層であった。そこで誤差の少ない構造物を製作するためには,地盤支持力を確保するとともに変形量も制御する必要があり,改良厚さ300mmの地盤改良を行って対応することとした。

次に非越波型波返し擁壁は,捨石上に直接据え付ける海岸構造物であるが,構造物上部は道路構造である。そのため道路幅員の確保を前提とした厳しい基準で管理する必要があった。
この擁壁を据え付ける際には,250t吊の起重機船を使うため,運搬・据付工程において,天候や波高などの気象条件の把握,潮位の確認,接触による製品の破損,捨石均しの不備による線形や高さのずれなど様々な不適合要因に対しで慎重に対処した。図ー12,図ー13,図ー14に擁壁の据付状況を示す。

(4)安全管理
別大国道は一般の通行者だけでなく,大分マリーンパレス水族館「うみたまご」や国立公園「高崎山自然動物園」への来場者の利用も多いため,第三者に対する安全や車両の誘導には特に配慮する必要があった。交通誘導員の確実な配置や一般車両優先の誘導はもちろんのこと,休日に増大する車両への対応策として工事用敷地の一部を一般駐車場へ解放するなどの協力を行った。
また海岸側の工事現場内に通行者が誤って転落することのないように既設国道の高欄上部に仮設の転落防止柵を設けた。海岸で強風であることや観光地の湾岸道路である環境条件などから,剛構造でないこと,視野を遮断しないことおよびデザイン性がよいことなどを考慮して図ー15のようなネット状の転落防止柵とした。

(5)施工性
非越波型波返し擁壁を施工箇所とは別の場所で製作したことから,現場打擁壁工と比較した場合,施工の面で下記のような特長があった。
①汀線付近での作業時間が短縮されたため,建設作業者の海難事故に対する危険性を大幅に低減できた。
②気象の影響を受けやすい箇所での施工工程が短期間となったため,台風などの工程遅延要素の影響を受けることなく計画工程を遵守できた。
このように非越波型波返し擁壁は越波阻止性などの完成後の様々な機能だけでなく,施工管理上においても優位性が認められた。

5.おわりに
大分の代表的な事業である「別大拡幅」も残すところ,急峻な高崎山と海に挟まれたわずかな場所に位置している高崎山地区の整備が最後の課題となっている。大分河川国道事務所では,これまで急傾斜地に不向きとされてきた非越波型波返し擁壁のフレア形状を杭構造護岸の上部に取り入れ,当初の施工案で計画されていた仮桟橋を不要とすることで大幅なコスト縮減を図った新たな計画について検討中である。
図ー16に示すように,別大国道は「道路」であるが,様々なウォーターフロント開発を伴い,海岸のアメニティ向上を期待されており,護岸上の散策などといったレクレーションのための親水空間の開放など,これからの社会的ニーズも担っている。このように従来型の渋滞緩和を中心とした都市機能性の向上だけでなく,様々な便益が期待される全線6車線化供用の早期実現を目指して引続き努力していきたいと考えている。

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