一般国道3号久留米大橋(旧橋)の撤去工事について
建設省福岡国道工事事務所
工務課長
工務課長
久 原 義 宜
1 はじめに
一般国道3号久留米大橋は,九州の交通動脈で国道3号線(北九州市~鹿児島市 ℓ=454km)が九州屈指の大河筑後川(一級河川)を横過する橋梁である。
旧橋は,昭和9年に架設され昭和44年に歩道部(2m)を増設したものであるが,近年のモータリゼーションの伸展のなか,幅員狭少,通行車両の大型化のため,架替えが望まれていたものであり,昭和59年度に河川改修計画と調整を行い,架替え事業を実施したものである(図ー1,写真ー1)。
新橋は,昭和63年度に着手以来,約5年の歳月を経て,平成4年11月27日供用開始した。
ここでは,新橋の供用開始と同時に旧橋の撤去工事に着手し現在施工中であるが,特に上部工の切断にダイヤモンドワイヤーソーを用いてブロック切断を行ったもので,これらを中心に旧橋撤去工事の報告とともに,約60年の間風雪に耐えてきた旧橋の耐力,品質等の調査を実施したので中間報告するものである。
2 旧橋の概要
上部工型式:鉄筋コンクリートゲルバー桁橋
橋長,支間割:25.0m+9@30.5m+25.0m=324.5m
幅 員:7.5m
橋格・荷重:自動車荷重8.0ton
群集荷重500kg/m2
下部工型式:壁式橋脚
基礎工型式:オープンケーソン基礎,鉄筋コンクリート杭基礎
3 撤去工法の選定
3.1 上部工の撤去工法
上部工桁は,RCゲルバー桁であり構造上慎重な解体,撤去計画による施工が要求された。渇水期内施工,河川汚濁,切断後の主桁の安定,吊り上げクレーン能力と桟橋の施工性,安全性等,検討の結果以下に示す3案を比較した。
第1案……仮支柱による撤去工法(図ー2,写真ー2)。
多数の仮支柱で主桁を受け,小ブロックに切断,桟橋上からクレーンで撤去,搬出する。
第2案……仮受け桁による撤去工法
仮受け桁で主桁を受け小ブロックに切断,桟橋上からクレーンで撤去,搬出する。
第3案……エレクションガーダーによる撤去工法
エレクションガーダーを主桁上に設置し,ガーダーで主桁を吊り,小ブロックに切断,クレーンで撤去,搬出する。
上記3案中,河川汚濁処理,安全性,施工性に優れている第1案を採用した。
3.2 部材の解体方法
部材の解体には,大型ブレーカー,大型ニブラ(クラッシャー),ダイヤモンドワイヤーソー,コンクリートカッター等が使われる場合が多いが,当工事においては,主桁をダイヤモンドワイヤーソー,床版部の部材厚の小さい部分をコンクリートカッターにより切断する方法とした(図ー3,写真一3)。
ダイヤモンドワイヤーソー工法とは,強靱なダイヤモンド砥粒をリング状に焼結(図ー4)し,一定間隔に装着されたワイヤーを切断対象物に環状に巻き付け高速走行させて切断する工法である(図ー5)。
この工法の特長としては,①工期短縮,②河川汚濁処理の簡易さ,③コンクリート残片の発生が無い,④粉塵が無い,等である。また,当橋のような太径鉄筋(φ34)が密に配置された大型鉄筋コンクリート構造物の切断には,最適な工法と言える。
3.3 流水部における上部工の撤去
仮支柱は旧橋の舗装を剥がした後に床版に削孔し,旧橋上からH杭をバイブロで打設した。これと並行して,桟橋(W=8m)の架設にのり,支保工完了後ただちに床版の切断,主桁の切断に入り,橋の完成を待って,切断工事を行った。
切断部材は,仮支柱の配置,切断箇所の設定により,切断ブロック重量を最大で30t程度にした。これは,クレーン吊り上げ能力と切断ブロック重量,クレーンの必要とする桟橋幅員等比較検討の結果,150tクローラクレーンを採用した。切り出された部材は,トレーラーで河川敷に搬出し,大型ブレーカーにより粉砕した(図ー6,写真ー4a,4b,5)。
3.4 高水敷における上部工の撤去
高水敷であり,河川の汚濁や作業ヤードの問題等が少ないため,経済的かつ工期の短い方法で実施した。桁直下に盛土を行い大型ブレーカーを使用し解体して,ユンボ,ダンプ搬出した(図一7)。
3.5 下部工の撤去
(1)高水敷部
陸上部であり,経済的な大型ブレーカーで解体した。
高水敷部の橋脚基礎の根入れは,計画高水敷より1m以上深いため橋脚躯体まで解体した。
(2)流水部の撤去
流水部における橋脚の撤去は,来渇水期に施工する計画である。桟橋の架設を行い締切りを施工,ドライな状態で施工を考えている。躯体,基礎とも経済的な大型ブレーカーまたは,大型クラッシャーで解体する計画としている。
流水路の橋脚基礎(ケーソン基礎)の撤去は,計画河床より-2mまで行う(図ー8)。
4 耐久性・耐荷力調査
本調査は,久留米大橋と同年代に施工され,現在も供用中である多数のコンクリート橋における維持管理,および余寿命診断に必要な資料を収集することを目的として,調査・試験を実施した。今回実施した内容は,現橋状態での実橋載荷試験を中心に,下記の5項目について行った。
① 目視調査
② 材料試験
③ 供用状態での応力頻度測定
④ トラック載荷試験(静的載荷)
⑤ 床版載荷試験
今回の調査・試験は,切り出し桁の破壊試験が予定されているP9~P10径間の吊桁部を中心に行った。
以下に今回実施した調査・試験から得られた結果をまとめ報告する。
4.1 目視調査
橋梁の状態を,コンクリートの欠落・剥離・鉄筋の露出・ひびわれの状況に着目して調査した。床版については,文献1)を参考にひびわれ密度(0.1mm以上)を求めたが1m/m2~2m/m2程度のひびわれ密度で損傷度Ⅰに相当した(写真ー6)。目視調査結果では,本橋は健全な状態を保っていると推定できる。
4.2 材料試験
材料試験は,コンクリートの圧縮強度,弾性係数,および鉄筋の引張強度,降伏点強度,弾性係数について行った。なお,文献2)に本橋と同時期施工され,同型式である下流の豆津橋の材料試験記録が記載されている(図ー9,表ー1)。
今回測定したコンクリートの圧縮強度は,主桁部分では420kgf/cm2程度を,床版部分で350kgf/cm2程度を示した。また弾性係数は主桁で3.1×105kgf/cm2程度となり,土木学会のコンクリート標準示方書に示されている普通コンクリートの弾性係数とよく当てはまる値となった。鉄筋については,降伏応力が24~30kgf/mm2,引張強さが38~43kgf/mm2,伸び率が3.8~4.3%,弾性係数が2.1×106kgf/cm2程度を示した。
以上より,当橋を材料強度の点からみると,鉄筋は施工当時と比べほとんど変わらない性状を示し,コンクリートにおいては施工当時より圧縮強度が増加している傾向にあり,経年的な材料劣化は見られなかった。
4.3 供用状態での応力頻度測定
本橋の交通が,新橋へ切り替えられる前に,交通供用状態での鉄筋歪の状況を測定した。測定は,鉄筋歪をビストグラムレコーダーを用いて24時間×1週間のデータを頻度分布で集計した。表ー2に鉄筋歪の測定範囲を示す。
表ー2によると鉄筋の最大活荷重応力度は約400kgf/cm2である。
4.4 トラック載荷試験
トラック載荷試験はP9~10径間の吊り桁部について行った。載荷したトラックは総重量20tfで,載荷パターンは,2台並列載荷,各桁ヘの偏載荷,幅員中央載荷,等が考えられるパターンをできる限り行った。荷重の載荷位置は,吊り桁支間の6等分点とし,載荷点にトラックの後輪の中心がくるように載荷した。載荷状況を写真ー7に示す。
図ー10は2台並列載荷時の各載荷点におけるたわみ図である。○で示したのが載荷試験より得られたたわみ量で,実線・破線で示したのが,単純桁として計算したたわみ量である。なお,計算は全断面有効とした鉄筋換算断面で,弾性係数比を応力計算で一般的に用いられているn=15(破線)と,試験値から得られたn=6.7(実線)により求めた。この図によると,計算上のたわみ曲線と,実測値は同じ傾向を示しており,このことは吊り桁部の単純桁としての構造(ゲルバーヒンジの機能)が十分機能していたことがわかる。
図ー11は各載荷点での鉄筋歪分布図である。○で示したのが,載荷試験より得られた鉄筋歪で,吊り桁を単純桁とし,計算で得られた各載荷点での曲げモーメントの位置にプロットしている。実線および破線はたわみ図同様,弾性係数比の違いによる曲げモーメントと鉄筋歪の関係であり,全断面有効とした状態(Ig)と,コンクリートの引張領域を無視した状態(Icr)で算出した。なお,A,E断面(端部)とB,C,D断面(中間部)の違いは鉄筋量の違い(配筋状態による)であり,約1.5倍程度中間部の鉄筋量が多い。鉄筋歪はn=15のIcrとIgの間でほぼ直線的に分布していることから,吊り桁は弾性体の性状を保った単純桁として機能していたと推定できる。
4.5 床版載荷試験
床版の耐荷力,および破壊形式をみるために,床版載荷試験を行った。実橋への床版載荷を行うために,主桁に反力を取らせる構造の載荷フレームを載荷荷重100tfを目標にH鋼で製作した(図ー12)。
床版載荷は油圧ジャッキを用い,道路橋示方書に示されるT-20の後輪形状と同じ面積の載荷板(20cm×50cm)にて,床版支間中央に載荷した。載荷状況を写真ー8に示す。
これによる載荷では,載荷フレームの設計耐力カである100tfを載荷しても破壊には至らなかった(床版支間中央の主鉄筋歪は,1130µ,鉄筋応力で2400kgf/cm2程度を示した)。そこで載荷板を12.5cm×12.5cmの面積の小さいものに変え,載荷位置も舗装コンクリートがない部分(舗装コンクリートが約5cm程度の厚さで床版上面に,一体化していた)に移し載荷したところ,P1=14tfの載荷荷重で,押し抜きせん断により破壊した。破壊は瞬時にて,大きな破壊音と共に起こった。破壊形状は床版下面の鉄筋位置まで円錐状に破壊面が広がり,この鉄筋に沿って破壊面が大きく広がる状態であった(写真ー9)。
4.6 調査・試験のまとめ
本橋の総合的な評価は,次回に予定している桁の破壊試験,材料試験,材料分析を行った後に行うこととし,今回行った調査・試験から,橋梁状態を判断すると,本橋は60年経った現在でもほぼ健全な状態を保っていたといえる。ただし,活荷重に関しては,供用状態での応力頻度測定で鉄筋歪が180µをカウントしており,トラック載荷試験での20tfトラック2台並列載荷時の鉄筋歪の90µの2倍の値を示した。これは,吊り桁部に20tfトラック2台並列の倍の活荷重状態があったことを示し,本橋の活荷重がいかに大きかったかを表わしている。この設計当時の予想をはるかに超える活荷重が将来にわたり,橋体にどのように影響するかは問題となるところであろう。
今後,同様な橋梁の状態を調査するには,目視調査はもちろんであるが,たわみと鉄筋歪を測定することが有効な手段であるといえる。これを調べることにより,構造状態およびコンクリートの状況が把握できる。しかし,実橋におけるたわみ測定は不動点の設定等に問題があるため,鉄筋歪のみの測定でも有効であると考える。また実走行状態での応力頻度測定は,トラック載荷試験とリンクさせれば,供用状態における活荷重状況を把握でき,維持管理上の有効なデータになると考えられる。
5 あとがき
久留米大橋の残撤去工事は,流水部の下部工の解体撤去のみとなっている。
ダイヤモンドワイヤーソー工法の採用により所期の目的を達成することが出来た。
心配された桟橋上からの150tクローラクレーンによる重量30tの切断部材の撤去もスムーズに終了し,河川管理上並びに水利関係者,漁協関係者へも迷惑をかけることなく順調に施工することが出来た。
また,旧橋撤去でみた当時の設計資料や,現場での細部を見るにつけ,丁寧な設計,施工をすることによって「名橋」となり得るものだと感じた。
今回の旧橋撤去工事並びに耐荷力等調査にあたり,東亜建設工業㈱,鉄建建設㈱,㈱千代田コンサルタント,九州学土木工学科,牧角助教授,宮崎大学土木環境工学科,中沢助教授,さらに九州構造橋梁工学研究会(KABSE)「長年月供用されたコンクリート橋の耐久性調査法に関する分科会」の会員諸氏,㈱構造技術センターのご協力により工事の施工および業務が完了した事に感謝の意を表します。
参考文献
1)維持修繕要綱(橋梁床版編)昭和53年7月,日本道路公団
2)鉄筋コンクリート橋の歴史 福岡県の古き橋の調査報告 田上為己
3)コンクリート標準示方書 平成3年度版 土木学会