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ネコヤナギ植栽護岸による生態系改善効果の検討
~川内川におけるモニタリング調査結果について~
林田邦宏
藤田薫

キーワード:河川環境、生態系改善、ネコヤナギ

1.はじめに
川内川では、平成22 年3 月、直轄管理区間45k 付近の神子(こうし)地区において、水辺における緑化環境並びに緑陰形成による生態系環境の改善を目的として、既設のコンクリート護岸に「ネコヤナギ」を活着させた植栽を実施したところである。
本論文は、前述の目的に対する状況把握を行うため、施工から3 年経過にあたる平成25 年度において、株の成長に伴う護岸水辺の景観向上と、水辺の陸域及び水中域における生態系の生息環境改善効果についてモニタリング調査を実施した。
今回、その調査結果について報告するものである。
なお、「ネコヤナギ」の採用に当たっては、その早期の活着性及び成長力、さらには、流水に対する柔軟性等の優位度から決定した次第である。

2 植生による既設護岸の緑化工法の概要
生態系環境に配慮して、川内川流域に自生しているネコヤナギから「挿し穂」を採取して、竹ポットに「挿し木」する。
また、植栽作業は、図-2に示すとおり、既設のコンクリート護岸の表面をコアカッターにて削孔し、挿し木したネコヤナギ(竹ポット)を、削孔した孔に植栽するものである。

3 調査概要
3.1 調査項目及び調査区間
調査項目は、植栽調査及び水中域調査、陸域調査とし、調査方法は表-1に示すとおりであり、また調査時季は、夏季及び秋季の2回とした。さらに調査区間は、図-3に示すとおり、「ネコヤナギ植栽護岸」との比較を行うため、「未植栽護岸」及び「自然河岸」も調査対象とした。

3.2 調査結果の概要
3.2.1 植栽調査
植栽調査において、植栽したネコヤナギの個体計測の結果より、水面カバー長(垂れ下がり部分)が約70㎝以上確保されており、写真-2に示すとおり、緑陰形成に必要な葉張りや枝分かれが十分に発達していることから、緑陰の形成が確認できた。

3.2.2 水中域調査
水中根調査について、ネコヤナギの水中根に付着した藻類を採取して、強熱減量及びクロロフィルa を調べた。なお比較するために、1㎡当たりの河床礫付着量も併せて測定した。その結果、ネコヤナギに発生した水中根の付着物については、図-4に示すとおり、強熱減量については河床礫の約35㎡分、クロロフィルa のそれは約26㎡分に相当する量であった。

また魚類調査については、図-5に示すとおり、夏季調査において個体数・種数ともに植栽護岸に多く見られた。一方で、秋季では顕著な差異は見られなかった。
また水生生物については、図-6に示すとおり、夏季から秋季にかけて、種数・個体数ともに植栽区間に多く見られた。

3.2.3 陸域調査
陸生付着昆虫については、図-7に示すとおり、種数・個体数ともに自然河岸と大きな差はなく、自然河岸と同様なハビタットを形成していた。

鳥類については、カイツブリ(写真-3)が、植栽護岸区間で潜水を多く繰り返しており、カワセミ(写真-4)も、飛び込みを行っている姿が確認され、またホタルについては、植栽護岸への直接の産卵確認・蛹の確認は出来なかったが、ホタルの幼虫の餌と考えられるカワニナについては、図- 8 に示すとおり、植栽護岸に個体数が多く確認された。

4 景観意識調査
4.1 調査方法
植栽施工区間における住民の意識調査を目的とし、二択(YES、NO)でアンケートを実施した。

4.2 アンケートによる調査結果
住民アンケートの結果、表-2に示すとおり、「景観がよくなっていると思う」の項目に対して約69%の人がYES と回答し、半数以上の人が良いイメージを持つ結果となった。ただし、本調査の質問に関しては、サンプル写真(写真-5)を見ての回答も含まれていることから、植栽護岸に対する「イメージ的感覚」も計上されていることを付加する。

5 安全性(枝の強度)の確認
ネコヤナギ植栽に期待される機能の一つに、繁茂することによって得られる効果として、滑落時等の安全施設としての代用が挙げられる。
5.1 枝の引張強度試験
引張強度試験は、植栽されたネコヤナギの枝の引張強度を測定することで、ロープの代用品等としての効果を調べる目的で写真-6、写真-7に示す供試体で試験を実施した。

5.2 試験結果
本試験において、ネコヤナギの枝が細径及び生木であることから、固定器具の噛み合わせ部分に滑りが生じたため、枝径6.6㎜、6.7㎜の場合を除き供試体が切断強度までは計測出来なかった。
強度については、本試験での器具及びデータ数等からは定量化し難いが、表-3に示すとおり、直径6㎜程度の細い枝であっても、100㎏以上の引張強度を有することが確認された。

6 おわりに
既設護岸に対し、ネコヤナギ植栽を行った箇所では、未植栽護岸に比べて、景観の向上や、水辺の生態系(景観、魚類、水生生物、昆虫類等)の改善、並びに水辺に集う人々の安全対策等に対して、「一定の改善効果」が期待できることを確認した。
しかしながら一方では、未植栽護岸と比べ、一部の生物種の調査項目において、定量的な差異が見られなかったことも否めない。
従って、今後、生態系環境を改善するにあたり、より快適な環境へと創造させるためには、その差異を検証して具体な要因を把握するとともに、併せて本工法に加え、他の工夫を試みる等により、さらなる効果が発現できるのではないかと推察する。
なお、今回の調査結果については、あくまで川内川水系直轄管理区間の神子地区のみにおいて得られた結果であることを、改めて付け加えるものである。
また最後に、本工法における現場での施工に関して、現地での指導及び工夫等については、松本技術コンサルタント㈱に協力頂いた次第である。

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