スクラバー方式による生物脱臭について
沖縄県工業試験場食品加工室研究員
(前)沖縄県下水道管理事務所技師
(前)沖縄県下水道管理事務所技師
池 宮 勇
1 はじめに
沖縄県中部流域下水道伊佐浜処理区の宜野湾浄化センターは,本島中部の宜野湾市伊佐浜海岸沿いに位置し,昭和45年7月より市町村の公共下水道を対象に分流式による簡易処理で共用開始した。昭和51年7月から標準活性汚泥法による高級処理方法に移行した。
当浄化センターの下水処理施設は,周辺地域の急速な市街化が進み,施設と住居が至近となり,環境調和を図ることが必要となった。
特に臭気対策は,地域に密着した公共施設としてクリアしなければならない日常的な問題である。
下水処理場での臭気成分のうち硫化水素とメチルメルカプタンの臭気濃度が非常に高いことを考慮し,脱臭処理設備として,現在注目を集めている生物脱臭法を平成3年度に採用した。
生物脱臭法の中でも特に充填式の生物脱臭は,低濃度から高濃度まで対応ができ,ランニングコストが低くかつ維持管理も容易ということで,近い将来,脱臭の主流になるものと考えられる。
今回,当浄化センターでは曝気槽等からの臭気を脱臭するにあたり,この生物脱臭法に着目し,活性汚泥を付着させた充填材を使用したスクラバー方式の生物脱臭設備を導入した。本報では実施設の始運転から現在までの運転状況,処理状況について紹介する。
2 脱臭設備概要
生物脱臭設備の,使用機器の仕様と運転条件を表ー1にフローシートを図ー1に示す。脱臭の対象ガスは処理場第2系の曝気槽および最初沈澱池の一部の臭気である。
脱臭ファンで吸引された原臭気は生物脱臭塔の第1塔(酸性塔)の底部より上向きに導入され,第2塔(中性塔)を下向きに通過する。その間にスクラバー内の微生物により酸化分解が行われ脱臭処理される。
第2塔の循環液はpHを中性に保つため苛性ソーダ液が適宜添加される。循環水の蒸発分の補給と微生物による分解生成物の洗い出しのため補給水(処理水)が補給される。
生物脱臭塔で処理されたガスはミストセパレーターを通り活性炭吸着塔で最終処理される。
生物脱臭塔内の充填材は特殊スポンジを用い,曝気槽混合汚泥を種汚泥として循環水槽に投入し液を循環させて馴養させた。
なお,運転条件は今後の最適運転条件の基礎データにするため変更を行わなかった。
悪臭成分の測定は悪臭防止法,臭気濃度は三点比較式臭袋法,水質の分析は下水試験法に拠る。
3 運転結果および考察
(1)馴養について
生物脱臭装置通気開始からの硫化水素(生物脱臭塔入口~出口)の除去率と第1塔(酸性塔)と第2塔(中性塔)の循環水のpHの日変化を図ー2に示す。硫化水素については10日以降の除去率が約100%になった。循環水のpHは第1塔,第2塔共に1カ月後に安定した。馴養は1カ月後第2塔共に1カ月後に安定した。馴養は1カ月後にほぼ完了するものと考えられる。
(2)硫化水素の連続測定
運転開始1カ月後の硫化水素の連続測定結果を図ー3に示す。入口硫化水素濃度は夜間から朝方にかけて低く,7時頃より上昇し,23時頃まで終日10ppm内外で推移した。原臭濃度は流入下水量の変動に起因すると思われる。硫化水素は,この濃度範囲で良好な処理状況であった。
(3)脱臭性能
夏場の通常運転の脱臭性能状況を表ー2に示す。硫化水素の平均原臭は18.9ppmと設計条件に比較して95倍になっていたが,その大部分が生物脱臭塔の第1塔で除去されており,第1塔での平均除去率は99.9%であった。
メチルメルカプタンの平均原臭は0.36ppmと設計条件に比較して36倍になっていたためか生物脱臭塔全体での平均除去率は63.3%であった。
硫化メチルおよび二硫化メチルの平均原臭濃度はほぼ設計条件値であったが,生物脱臭塔全体の平均除去率はそれぞれ18.0%,67.7%であり,特に硫化メチルの除去率が低かった。それに硫化メチルは生物脱臭塔内での濃度の逆転が見られる場合があり,メチルメルカプタンの分解処理過程で生じたのか,原因については不明である。また,その他の臭気物質濃度は全て定量限界以下であったので割愛した。
原臭の平均臭気濃度は13,200であり,第1塔,第2塔の平均臭気濃度はメチルメルカプタンの濃度と相関が高かった。従って,臭気濃度の低減をはかるにはメチルメルカプタンの除去が大きなポイントになると考えられる。
原臭濃度が設計条件を大幅に上回っているにも係わらず,脱臭装置全体の平均除去率は98%以上で,活性炭吸着塔の出口濃度は,概ね設計条件を満たしている。
(4)維持管理等
運転開始以来1年以上が経過したが,これとしたトラブルもなく現在に至っている。通常の稼働機器は脱臭ファン,循環ポンプおよび苛性ソーダ注入ポンプのみで,これらは全て自動運転である。
稼働開始後1カ月頃より増大しはじめた圧力損失も,3カ月頃より40mmAqで安定している。
脱臭装置の点検は稼働機器の点検と生物脱臭塔の硫化水素濃度調査および水質検査を行った。
各塔の循環水の水質試験結果を表ー3に示す。各塔のpHは主に硫酸イオンに起因しており,微生物により分解生成物が高いと思われる第1塔は第2塔に比較して電気伝導度および強熱減量が高い。電気伝導度と塩濃度との関係は調査中であるが,生物脱臭の管理指標としてpHと電気伝導度が大きなポイントになると考えられる。当浄化センターは電気伝導度100mS/cm程度以上になればろ過水(処理水)を補給し管理している。
4 まとめ
① 馴養は曝気槽混合汚泥を種汚泥として循環水槽に投入し,循環させた。
② 本施設の馴養は1カ月で完了したと考えられる。
③ アンモニアの原臭は低濃度であり,第1塔(pH=1.5)で完全除去された。
④ 硫黄化合物の中では硫化水素の除去率が,特に高く,第1塔で99%以上であった。
⑤ メチルメルカプタン等の中性臭気物質は処理としては不安定であり,活性炭吸着のバックアップが必要である。
⑥ 臭気濃度の低減のためにはメチルメルカプタンの除去が重要であると考えられる。
⑦ 生物脱臭塔の圧力損失は40mmAqで維持されている。
⑧ 生物脱臭の簡易な管理指標としてpHの他に電気伝導度がポイントになると思われる。