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コンクリート構造物におけるひび割れ抑制
対策マニュアル(案)の成作について

(前)国土交通省 九州地方整備局
 九州技術事務所 技術課長
国土交通省 九州地方整備局 
熊本河川国道事務所 工務第三課長
川 北 一 明

(前)国土交通省 九州地方整備局
 九州技術事務所 技術課
 技術第二係長
国士交通省 九州地方整備局
 海の中道海浜公園事務所 管理係長
松 本 義 浩

国土交通省 九州地方整備局
 九州技術事務所 技術課
技術第二係
田 島 大 輔

1 はじめに
近年,橋梁下部工やボックスカルバート等,コンクリート構造物の施工時における幅0.2mmを超えるひび割れの発生が数多く指摘されている。こうした土木コンクリート構造物ひび割れの問題を解決するためには,事前に検討すべき技術的課題ならびに対策を明らかにして,施工段階だけではなく発注や設計段階においても「良いコンクリート構造物を造るにはどうすればよいか」といった視点から総合的な検討が必要であり,コンクリートひび割れの防止,抑制対策を講じることが緊急の課題となっている。
このような状況を踏まえ,平成14~15年度において産学官が連携した検討会において,コンクリート構造物に発生する温度ひび割れに関して,コンクリート構造物のひび割れ発生の原因分析を行うと共に,コンクリートの配合,設計,施工,気象等の各条件を考慮したひび割れ対策を検討し,ひび割れ抑制対策マニュアル(案)(以下,「マニュアル(案)」という)を作成した。本稿では,マニュアル(案)作成に至る背景及び検討内容を紹介する。

2 ひび割れに関する現状について
(1)九州地方整備局管内におけるひび割れ調査について
平成13,14年度に施工した鉄筋コンクリート構造物のうち,重要構造物である橋台,橋脚,函渠について実態調査を行った。その結果は全183基数のうち70%にひび割れが発生していた。その状況には類似のパターンがあり,フーチングなどに隣接して比較的厚さがある壁構造部材において壁延長方向のほぼ等間隔の位置に,延長方向にほぼ直角方向に連続した直線状で脱型から数日の間に発生する場合がほとんどである。
このような比較的長い直線状のひび割れが規則的に発生するのは,ひび割れに直交する方向に一様に作用する引張力が原因であると思われ,コンクリート硬化時の水和熱による温度変化や乾燥収縮などに起因するコンクリートの自己変形,がフーチングなどの隣接部材に拘束されることにより生じる引張力が作用したためと考えられる。

(2)現状でのひび割れ対策
九州地方整備局管内における現状の設計,施工段階でのひび割れ対策やひび割れ予測のための温度応力解析の現状は下記のとおりである。
 ① 設計段階でのひび割れ対策
ひび割れの予測等,特別な対策は講じていない。
 ② 施工段階でのひび割れ対策
統一的な対策は講じていないが,養生方法,膨張材,高性能AE減水剤等を検討しているのが一般的である。
 ③ 温度応力解析
温度ひび割れを対象とした対策としては,構造断面,施工時期などが定まる設計段階,施工計画段階において,ひび割れ発生の有無をあらかじめ検討し,対策を講じることは可能であるが,ほとんどの場合,行われていない。その原因として,
a)条件設定が容易でない。
b)3次元FEMなどによる解析法の検討が進んでいるが,実務分野に普及していない。
c)水和熱はセメントや骨材など使用材料により差異があり,実際に使う生コンクリートの熱特性を調べるための簡単な試験方法がない。
d)解析設定値の選択に高度な熟練を要する。
これらの現状を鑑み,本検討会では,ひび割れの発生は温度応力が主因であることを確認するとともに,設計あるいは施工計画段階で,温度応力解析によりあらかじめひび割れ照査を実務で行えることを目的として,解析条件設定の簡易化,ひび割れ指数把握のための簡易型熱特性値測定装置(使用生コンの熱特性を簡便に測定できる小型の装置)の開発等を行い,並行して,水和熱を低減させるコンクリート材料や配合について検討した。また,ひび割れ発生の確率が高い場合における改善策の提案,実構造物を利用した温度・ひずみ計測を通じての温度ひび割れの検証を行うとともに,コンクリート打設後の現場管理に用いる計測機器の開発のための検討を行った。

3 検討フローについて
コンクリートのひび割れ抑制対策を効果的に行うためには,想定されるひび割れ発生の原因(どのような条件下で何が原因で発生するのか)を明らかにして,実条件下でのひび割れが発生する確率(どの程度ひび割れが発生するのか)を予測し,実行可能なひび割れ対策(どうすればひび割れ発生の原因を緩和あるいは除去できるのか)を選定する必要がある。
この考え方に基づき,主にコンクリートの水和熱に起因する温度ひび割れ対策について,以下のフローで検討を行った。
なお,フーチングについては,厚さ80~100cm以上,壁厚50cm以上を対象とした。

4 温度ひび割れの予測と抑制対策について
(1)温度応力解析手法の検討
① 温度応力解析の概要
温度応力によるひび割れの発生を予測するためには,温度応力解析を実施する必要がある。
マスコンクリートの温度応力解析は,時々刻々と変わる構造物内の温度を計算する非定常熱伝導解析と,計算された温度を用いて発生する応力を計算する応力解析の2段階の解析を行っている。
温度ひび割れの発生評価には,ひび割れ指数が一般的に用いられ,その値が大きいほどひび割れが発生しにくく,小さいほどひび割れが発生しやすい。

 ② 温度応力解析ソフトウェアの現状
日本コンクリート工学協会から発売されている一連のソフトウェアは,2次元解析が主であり,温度解析はFEM温度解析が用いられている。応力解析は,一般的なFEM応力解析の他にCP法が使われ一般に広く普及し,信頼性の高い手法である。また,ひび割れ幅まで計算できるCPひび割れ幅法のソフトウェアや,FEMによるひび割れ幅の解析として,離散ひび割れモデルによるFEMひび割れ幅法のソフトウェアが発売されているが,数値計算の多少のノウハウを必要とし.データ作成に膨大な時間を必要とするなど,簡単には使いこなせないという問題がある。また,計算力学センターから発売されているASTEA MACSは,機能が高く使いやすいが,価格が高価で,なかなか導入できないという問題がある。

 ③ 解析条件の設定等の簡略化と使いやすいソフトウェアヘの取り組み
本検討会では,温度応力解析ソフトウェアを容易に使用するため,入力物性値の設定や温度応力解析ソフトウェアの使い方について.わかりやすく解説したものを作成し,土木技術者が困難なく解析できるように取りまとめた。

(2)簡易型熱特性測定装置の開発
設計や施工計画段階でひび割れ指数を把握し,対策を講じるところは少なく,また把握していても精度上問題がある。原因として,
 ① 温度ひび割れ指数を計算する場合,コンクリートの各種熱特性値は推定値を用いていることが多く,各生コンクリート工場が生産しているものと差異があると計算結果に誤差を生ずる。
 ② コンクリート標準仕様書は性能照査型に移行し,各種熱特性値は試験により求めることを原則としているが,各種熱特性値を測定する試験には高額な費用が必要となる。
③生コンクリート工場や施工業者で高額な断熱温度上昇試験機を保有しているところは稀である。
これらを解決するため個々の現場で温度ひび割れ解析プログラムに反映し,ひび割れ指数計算の精度を向上させ,生コンの品質保証や管理に容易に対応できかつ,安価な費用で小型の断熱温度上昇試験装置を開発した。断熱温度上昇試験機と開発したものとで試験した結果は,グラフのとおり両者はほぼ一致しており,十分活用できるものである。今後は改良を加え実用化していく予定である。

(3)コンクリート配合の検討
公共工事で使用している24-10-20BBを基本配合とし,材料及び配合を変化させ,熱特性を把握するため断熱温度上昇試験等行い比較した結果は
①単位セメント量が同じでも,練り上がり温度が高いと,熱によるコンクリートの硬化促進が生じ,温度上昇速度が速くなり,終局断熱温度上昇量は高くなる。
②最大骨材寸法を20mmから40mmへと変更すると,単位水量が減少し,強度一定のもとでは単位セメント量を減じることができ,終局断熱温度上昇量が小さくなる。
③高性能AE減水剤を用いると,単位水量が減少し,単位セメント量を減じることができ,終局断熱温度上昇量が小さくなる。ただし,今回の試験の場合,高性能AE減水剤を用いた配合は,AE減水剤を用いた配合よりも水和速度が速く,減じた単位セメント量の割には効果が小さかった。コストアップにつながる高性能AE減水剤の使用は,硬化速度を変化させる可能性があるため,その費用対効果を事前に確認することが望ましい。
④スラグ混入率を55%まで上げると,湿度上昇速度は遅くなり,終局断熱温度上昇量も小さい。ただし,この配合はレディーミクストコンクリート製造工場では最も採用し難い対策である。

5 実構造物による温度性状とひび割れ調査について
(1)実構造物を利用した温度性状およびひび割れの調査
これまで打設後のコンクリートの温度性状について詳細に計測した事例はほとんどない。そこで,ひび割れと各性状との関連を明確にするため,平成15年度施工の実構造物を利用して詳細な温度性状計測を行った。対象構造物は,事例調査の結果ひび割れ発生の多かった壁式橋脚とボックスカルバートについて各1基選定し,測定項目は,コンクリー卜温度,コンクリートのひずみ,鉄筋のひずみ,さらに壁式橋脚に関しては,実応力,構造物周囲の日射量と風向・風速とした。各計器は,温度ひび割れと温度性状との関連を調べるため,構造物の温度分布(内部拘束)および温度降下時の収縮応力(外部拘束)の両方が計測できる位置に設置した。
測定結果として,特記すべき点は以下のとおりである。
・かぶりコンクリート部分の温度勾配は小さく,直線的な分布を示した。
・ひび割れが計器の近傍に発生した場合にも収縮ひずみの急増現象が生じることが明らかになった。
・ひずみ曲線の最初の不連続点は脱型後2日後に発生しており,脱型がひび割れの一つのきっかけとなると考えられる。
・コンクリートに発生する応力の挙動だけで,ひび割れ発生との関連を考察することは困難である。
・施工が冬場であったため,コンクリート温度に及ぼす日射の影響は小さかった。(施工が夏場の場合は,影響は大きいと考えられる。)

この実構造物による温度性状およびひび割れの調査結果は,今後のひび割れ検討対策のベースになるとともに,得られたデータを用いて逆解析を行い,温度応力解析の入力物性値に反映させる等,役立てることができるものである。
また,打設後のコンクリート温度の実測値は,同じ実構造物の各条件を入力して行った温度解析の結果と傾向がほぼ一致し,本検討会で提案するひび割れ予測のシステム(4の(1)の③参照)の妥当性を確認できた。

(2)新たな施工管理用計測機器(多機能プロープ及び変位計測装置)の開発
構造物の膨張・収縮ひずみや内部温度を計測し施工管理を行うことは,一般の工事ではほとんど実施されていない。しかし,比較的小規模なボックスカルバートや橋台においても最近温度ひび割れが多数発生していることから,一般の工事においても適用可能な施工管理用計測機器の開発の必要性が高いため,コンクリート構造物の変形量をミクロンオーダーの精度で計測でき,操作性が良く,かつ安価な多機能プローブと変位計測装置の開発を行った。

実構造物による温度性状およびひび割れの調査において,この施工管理用計測機器を並行して用いたところ,急激にひずみが変化する時期も埋込型ひずみ計が示した結果とほぼ一致した。
新たに開発した施工管理用計測器は,コンクリー卜養生中の温度やひずみ計測を行うことにより,型枠解体の時期を確認することに応用できる。また,設置,計測が簡易であり計測コストが安価であるため,今まで手段が無かった現場管理者のための管理手法となる可能性がある。

6 温度ひび割れ抑制対策マニュアル(案)の概要について
ひび割れ発生の原因や予測,対策等の検討を行い,ひび割れ抑制対策マニュアル(案)を下記のとおりとりまとめた。

(1)コンクリートの温度ひび割れ抑制対策
①設計図書に基づき,構造物の仕様,水セメント比と下記コンクリート使用区分等を確認する。
②現地踏査を行い,施工上の制約及び周辺環境等を確認する。
③施工計画書を作成する。

④当初契約時の条件(配合,工程,その他)に変更が生じる場合は発注者と協議する。

(2)温度ひび割れ抑制対策マニュアル(案)の運用について
① 施工段階における温度ひび割れ照査の実施
「1 適用範囲」に該当する構造物は,原則として温度ひび割れ照査を行い,構造物形状や施工する地域の生コン事情を考慮して,「ひび割れ指数が1.0以上(ひび割れ発生確率85%以下)」を確保できる施工法を確認し施工する。

【配合】配合は高炉セメントB種を基本ベースとして,下記4案を中心に検討する。なお,何れの配合案を採用する場合でも,原則として開発した「簡易断熱温度測定装置」を使用し,事前に断熱温度上昇値を測定しひび割れ照査に反映させることとする。

【型枠】型枠(合板)設置期間を延長する。
【養生】脱枠後必要な期間保温する。(シート等で覆う)

(3)打設後のコンクリート温度およびひび割れの計測
型枠組立完了後に,今回開発した「多機能プローブ」を設置し,養生中の温度,ひずみを計測するとともに,型枠を解体する時期を確認する。

(4)温度ひび割れ抑制対策の例について  橋台編

7 おわりに
今回作成した,マニュアル(案)は,ひび割れを絶対に発生させないためのマニュアルではなく,なるべく発生させないための効果的な手法を示したものである。今後は,このマニュアル(案)に基づき,セメントの水和熱に起因する温度ひび割れの影響が考えられる鉄筋コンクリート構造物(橋台,橋脚,擁壁,カルバート等)について,設計段階から適用し試行を重ねながら改正し,最終的には有害な温度ひび割れが極力発生しないようなマニュアルに改定していく予定である。ひび割れを防ぐことによりコンクリート構造物の長寿命化が図られることで,コスト縮減に寄与できるものと考えている。
最後に本マニュアル(案)作成のため,ご尽力いただいた各委員の方々に,本誌上をお借りし,心より感謝申し上げます。

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