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ウエルネス浄化センター「清流館」
一省エネルギー型新下水処理システム一

宮崎県都城市下水道部
下水道建設課工務二係
 主査
園 田 秀 幸

1 はじめに
都城市は,宮崎県の南西部に広がる都城盆地の中央部に位置し,豊かな自然に囲まれた人口約13万人のまちである。当市は,大正13年市政施行以来町村合併を繰り返し,九州でも有数の行政面積306.7㎢を誇るが,これは,下水道普及の面からはかなり不利な条件である。しかしながら,市を南北に貫流する大淀川の水質汚濁解消や,環境問題への関心の高まりなど,下水道の整備は急務といえる。

2 新下水処理システムの導入にあたり
当市は,平成元年秋に「ウエルネス都城」(人が元気・まちが元気・自然が元気)の都市宣言を行った。この「ウエルネス」とはサブスローガンのとおり,街中何でも元気で生き生きしていることであるが,これを都市像とする第三次都城市総合計画では,その施策の大綱に「自然と共生する快適環境都市」を掲げている。当時,都城処理区の追加と2番目の処理場「清流館」の計画を進めていたが,これにも総合計画にふさわしい処理方式の導入が検討された。
新しい処理方式の導入にあたり平成2年度に「新技術導入検討会」を設置し以下の検討を行った。
① 「第三次都城市総合計画」の施策の柱である自然と共生する快適環境都市にふさわしい下水処理システムであること。
② 下水中の資源を回収し,再利用のはかれるシステムであること。
③ 下水処理水質は,従来の標準活性汚泥法と同等以上の処理水質が得られること。
④ 「ウエルネス都城」にふさわしい自然環境と調和のとれるシステムであること。
検討会はこの検討項目の内容にふさわしい新下水処理システムとして,昭和60年度から平成元年度まで建設省が行った「バイオテクノロジーを活用した新排水処理システムの開発(バイオフォーカスWT)」の技術を活用した「エネルギー自立型下水処理システム」を提案し,その導入が決定された。

3 「清流館」の概要
「清流館」の計画概要は,表ー1に示すとおりであり,平成8年4月に一期計画分7,200m3/日の運転を開始した。
全体の設備配置を図ー1に示す。

4 新下水処理システムの紹介
(1)処理フロー
新下水処理システムは標準活性汚泥法の水処理プロセスである,最初沈殿池,エアレーションタンク,最終沈殿池の代わりに,高効率固液分離槽,担体投入型エアレーションタンク,上向流ろ過池で水処理を構成する。図ー2にフローを示す。

高効率固液分離槽は,従来の最初沈殿池と比較して,流入下水中の固形物を効率的に除去することが出来るため,メタンガス発生量の高い新鮮な汚泥を大量に得ることが出来る。このため,汚泥処理プロセスの嫌気性消化槽(将来施設)での消化ガス発生量が高まり,エネルギー回収をより多くすることが出来る。
担体投入型エアレーションタンクは,従来のエアレーションタンクに担体を投入することによって微生物濃度を高くすることが出来る。このためエアレーション時間が,標準法の約半分となる。
仕上げ処理には,高効率固液分離槽でのSS除去率が高く,このプロセスヘの流入SS量を少なくすることができることから,従来の沈殿池形式に代わり上向流ろ過池を採用した。ろ過池の場合,バルキングなどに対しても処理水質が安定している。
高効率固液分離槽の洗浄汚泥は排泥槽に一旦貯留後,汚泥処理施設に送られる。上向流ろ過池の洗浄排水のうち,SS濃度の高い初期(4分程度)の排水は高濃度逆洗水槽に一旦貯留後,汚泥処理施設に移送し,その後のSS濃度の低い排水は上向流ろ過池の流入側へ返送する。なお,高効率固液分離槽へ返送するルートも設けている。

(2)高効率固液分離槽設備
高効率固液分離槽(写真ー2)の寸法および仕様は次のとおりである。
 寸  法:輻6.2m×長5.5m×深8.1m
 ろ過面積:27.9m2/池
 ろ過速度:140m/日
 充填ろ材:波型円筒状プラスチックろ材(外径φ14mm,長さ15mm)
 充填高さ:2.2m
 池  数:全体16池 1期分2池

高効率固液分離槽は,流入部,沈殿部,ろ材,ろ材支持装置,洗浄空気管で構成されている。
ろ材(写真ー3)は,比重が1よりも軽い小型円筒状のプラスチック製であり,固液分離槽内に浮上して充填されている。

汚水は,まず沈殿部に流入し,比重の大きい固形物が沈殿除去される。つぎに,上向流でろ層を通過し,微細な固形物がろ材で捕捉され,処理水は上部より流出される。写真ー2は上部の集水装置および上部ろ材を示している。
沈殿部はホッパボトムとし,沈殿汚泥の濃度が高くなるような構造としている。ろ材の分離は特殊なグレーチングで仕切り,し渣等が絡み付きにくい構造となっている。
ろ材に捕捉された固形物は,固液分離槽洗浄ブロワより空気を送ることでろ材から剥離させ,排泥ポンプにより排泥することにより洗浄する。洗浄頻度は1日1回程度で定期的に行う。なお,ホッパ部に堆積した汚泥は1日数回間欠的に引き抜く。

(3)担体投入型エアレーションタンク設備
担体投入型エアレーションタンク(写真ー4)の寸法および仕様は次のとおりである。
 寸  法:輻6.2m×長18.6m×深6.4m
 容  量:567m3/池
 有効水深:5.0m
 担  体:中空円筒型ポリプロピレン(外径φ4mm,内径φ3mm,長5mm)
 担体充填率:見掛容量比 40%(真容量比 10%)
 池  数:全体16池 1期分2池
担体投入型エアレーションタンクは従来のエアレーションタンクに担体を投人したものであり,活性汚泥のかわりに担体に付着し固定化された微生物が汚濁物質を浄化する。
担体(写真ー5)は,付着・固定化出来る微生物量を多くする日的で,中空円筒形状とし,流動化を容易にするため比重を1.005程度としている。また,長期間の使用に耐えるようにポリプロピレンを主成分としている。

エアレーションタンク底部全面に配置された散気装置から空気が吹き込まれ,担体の流動化と微生物への酸素の供給が行われる。担体により微生物濃度が上がり,エアレーション時間は3.8時間と短い。
エアレーションタンクは,反応効率向上のため仕切壁により3分割し,各分割槽毎に担体の流出を防止するためにスクリーンを設置している。
流入した汚水中の汚濁物質は,微生物による処理を受けた後,上向流ろ過池へ導入される。

(4)上向流ろ過池設備
上向流ろ過池(写真ー6)の寸法および仕様は次のとおりである。
 寸  法:輻6.2m×長6.2m×深8.8m
 ろ過面積:40m2/池
 ろ過速度:100m/日
 ろ層構成:砂・砂利の全層ろ過
 ろ層厚さ:2.3m
 池  数:全体16池 1期分2池

ろ過池は,単位ろ過面積当たりのSS捕捉量が大きい上向流ろ過池とし,調圧槽,下部分散装置,洗浄空気管,ろ層,グリッド,集水トラフから構成される。
調圧槽から下部分散装置を通過して,ろ層下部に導入された汚水中の比較的粒径の大きな固形物は砂利層で捕捉され,微細な固形物は砂層で捕捉されて,処理水は上部より流出される。ろ過池の場合,バルキング等に対しても処理水質が安定する。
ろ層の洗浄は,まずろ過池上部の処理水を一定レベルまで抜水した後,ろ過池下部より空気を送り空気洗浄する。つぎに空気洗浄中にろ過池下部より洗浄用水を送り込み,空気と水を用いた洗浄を行った後,送気を停止し,洗浄用水を用いた洗浄を行う。その後送水を停止し,一定時間静置してろ層を安定化させ,ろ過を再開する。洗浄頻度は1日に1回程度で定期的に行う。
処理水は,接触タンクに流入し次亜塩素酸ナトリウム消毒後,大淀川に放流する。

5 新下水処理システムの特長
本システムの特長は,従来の標準活性汚泥法と比較すると下記のとおりである。
(1)処理水質
処理水質は標準活性汚泥法と同等以上の水質が得られ,目標対応水質を十分満足することができる。
(2)建設費
汚泥処理まで含めた建設費は,標準活性汚泥法と同等と見込まれる。
(3)維持管理性
返送汚泥の必要がなく,バルキングの問題も無いなど,水質管理が標準活性汚泥法に比べ容易である。
(4)省エネルギー
高効率固液分離槽で効率的に流入下水中の固形物を除去することができ,消化分解率が高くメタンの発生量の高い新鮮な汚泥を大量に得ることができる。これによって,消化ガス発生量が標準法における場合よりも多く,最終計画値(57,600m3/日)でのエネルギー自立率は標準法より約33%増加が見込まれる。
(5)省面積
担体投入型エアレーションタンクを採用したことにより,水処理施設で約40%の省面積化が図れ,敷地面積を有効に活用できる。

6 おわりに
省面積の特長を生かし比較的余裕の生まれた「清流館」の河川沿いには,河川公園と一体化した広場を設け,建築は,本瓦葺きの和風イメージ建屋とした。これは,処理場を市民に開放し「水」を通して環境・エコロジーなどを考える場所として提供するためである。
「清流館」が稼働して約半年経過したが,現段階では流入水量が少なく発生汚泥量も少ないため,エネルギー自立率についての効果の具現には多時間を要するが,放流水質は安定して目標値以上のものが得られており,今回のシステムが順調に機能しているものと言える。今後このシステムが,下水処理方式のひとつの選択肢となることを期待するものである。

参考文献
1)鈴木宏:都城市新下水処理システム,季刊水すまし,No.70,pp.76~84(1992)
2)京才俊則,弘元晋一:「バイオフォーカス」と新下水処理システムの実用化,月刊下水道,vol. 16 No.6

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