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みえないコンクリートの品質管理

国土交通省 九州地方整備局
 遠賀川河川事務所 工務課長
柳 田 公 司

国土交通省 九州地方整備局
 遠賀川河川事務所 工務課
石 村 勇 樹

1 はじめに
コンクリート構造物の品質の良否を判断する最も簡単な方法は、クラックの有無を目視で確認することである。
しかし、当所で施工した芳雄橋の橋脚は石積み型枠(残存型枠)を採用したことにより、目視による品質の確認ができない構造物である。このみえないコンクリート橋脚の施工に当たり産・学・官が一体となり、技術的課題を抽出し解決策を講じ、所要の品質を確保した。本報ではこの品質確保に向けた一連の取り組み及び、その結果を通して気づかされた今後のコンクリート構造物の品質確保のあり方について述べる。

2 芳雄橋架け替えに至る経緯
遠賀川32k500付近を横架する芳雄橋(写真1)は、築約80年を経過し老朽化が著しい上、橋脚が22本あり河積を阻害している橋梁であることから、架け替え計画が進行中であった。この計画を加速させたのが平成15年7月19日の大出水である。
この大出水により、遠賀川河川事務所では、再度災害防止のため、床上浸水対策特別緊急事業が採択され、芳雄橋も架け替えることとなった。

写真-1 旧芳雄橋

3 新芳雄橋の特徴
新芳雄橋のデザインは、市民との意見交換やアンケートにより、石を基調とした重厚感あるデザインが採用された(図1)。これにより新芳雄橋の橋脚は、化粧を兼ねた型枠である石積み型枠にて施工することとなり、一つの橋脚で石積み部(残存型枠)と一般部(合板型枠)が混在する構造となっている (図2) (図3)。

図-1 新芳雄橋イメージパース

図-2 新芳雄橋橋脚図面

図-3 新芳雄橋橋脚イメージパース

4 芳雄橋橋脚の施工における技術的問題点
① 壁厚が約2m、幅が約20mであることから、「温度ひび割れ」が懸念される。
② 石積み型枠は残存型枠であり、施工後のコンクリート表面が目視できないため、確実な充填性の確保が課題である。
③ 石積み型枠は、橋梁における施工実績がない。

5 対策工の検討
5.1 芳雄橋下部工施工管理検討委員会の設立
上記問題点を解決するための具体策を決定する場として、学識経験者、施工業者、資材関係者、コンサルタント、発注機関から構成する「芳雄橋下部工施工管理検討委員会」を設立し、対策工を検討した。
5.2 温度ひび割れ対策
温度ひび割れに対する対策工としては、各対策ケース毎に温度応力解析を行い(表1)、ひび割れ指数1以上を目標として、各橋脚における具体策を決定した(表2)。なお、この温度応力解析で、石積み型枠部は、石の保温効果により、合板型枠部に比べてひび割れ指数が高くなることがわかった(図4)。採用した具体策は以下のとおり。

表-1 対策ケース別温度応力解析結果(P3)

表-2 温度応力解析結果一覧表(各橋脚毎)

図-4 打設リフト別温度時刻歴図

① 膨張材の添加
プレストレスを加えることで、温度応力に対する抵抗力が増す。また、通常のコンクリートのセメント量は310kg/m3であるが、膨張材を添加する事により、セメント量も低減可能(セメント量290kg/m3、膨張材20kg/m3)となり、コンクリート温度が下げられる。
なお、コンクリート温度を下げる手法としては、低発熱セメントの使用も有効であるが、本現場では入手困難であるため、今回は使用しなかった。
② 誘発目地の使用
外部拘束度を小さくし、温度応力を緩和する事でひび割れを抑制する。なお、施工手間の少ない新技術の誘発目地(埋設型)を活用した。
③ 養生
養生時に外気温を上げて、部材内の温度差を小さくし、温度応力を緩和する。シミュレーションは10℃で行った結果、施工管理値は10℃~15℃とした。
④ リフト高の調整
リフト高を小さくし、コンクリート温度を下げる。
5.3 石積み型枠部のコンクリート充填対策
石積み型枠部のコンクリートは施工後に目視による品質の確認ができないため、確実に充填できる施工が求められる。そこで、作業員が、コンクリート細部への充填を確実に視認できるように、リフト高を約2mにおさえ、打設することとした。(図5)また、一層あたりの打ち込み高さなど、コンクリート打設時の施工条件の制約基準を設け、施工を行った。(表3)

図-5 橋脚施工要領図

表-3 制約基準一覧

5.4 石積み型枠の施工に関する対策
施工実績のない石積み型枠の品質を確保できるように、以下の対策を決定した。(図6)

図-6 石積み型枠施工要領図

<材料による対策>
① 石内面は割肌仕上(粗面)とすることにより、躯体コンクリートとの付着性を向上させる。
② 石型枠横継目の空隙の発生を防止するため、石型枠下面をフラットにした。
<施工による対策>
① 石型枠の一体性と鉄筋の防錆対策として、鉄筋挿入孔は確実にモルタルを充填させる必要がある。そのため、充填モルタル(1:3)は、試験練りで決定したものを使用し、施工は人力にて確実に締め固めを行った。
② 石型枠継ぎ目からの染み、垂れは、美観を損なうため、入念にコーキングを実施した。
5.5 対策工まとめ
委員会で決定した対策工は、(表4)のとおりである。

表-4 対策工一覧表

6 実施工
① 各橋脚のコンクリート配合表を(表5)に示す。各橋脚とも、膨張材を添加し、セメント量を減らしている。
② (表2)で決定された打設リフト高で施工し、充填を確実に行った。
③ 1例としてP1橋脚の養生温度管理記録を(図7)に示す。
ビニールシート及びジェットヒーター養生を 行った結果、養生温度は管理値(10℃~15℃) に収まっている。

表-5 コンクリート配合一覧表(膨張材の添加)

図-7 温度管理記録グラフ

写真-2 ひび割れ誘発目地

写真-3 ビニールシート養生

7 結果
検討した施工計画に基づいた施工を行った結果、各橋脚の誘発目地部において、微細なひび割れが確認された(写真4)。特に、ひび割れ指数の低かったP3橋脚の第5リフトにおいて、ひび割れが確認されている(図8)(表6) が、ひび割れ幅(tmax=0.10㎜)、深さ(Cmax=59㎜)と、鉄筋との位置を勘案すると、構造物の応力的な問題はないものであった。また、ひび割れは、誘発目地部に集中しており、誘発目地の効果を確認することができた。

写真-4 ひび割れ発生写真(P3)

図-8 ひび割れ位置図 (P3)

表-6 ひび割れ数量表(P3)

また、施工途中段階で実施した現地視察時の、委員からの意見は、以下のとおりであった。
・合板型枠部のコンクリートは小判型(曲線部)についても「むら」、「はらみ」、「砂筋」がなく良い品質で、出来上がりが良い。これは充填の管理、リフト高を低くしたことが効果的であったと考えられる。
・今回使用した誘発目地は施工手間が少なく、効果的であったため、今後も他の工事でも採用することが望ましい。

表-7 耐久性または防水性からみた補修の要否に関するひび割れ幅の限度(参考)

8 おわりに
今回のように、施工実績が無く、かつみえないコンクリート構造物の施工にあたり、産学官が一体となって技術的課題を抽出した上で解決策を講じ、結果として、所要な性能(品質)が確保された構造物を構築することができた。この一連の取り組みを通じ、施工業者をはじめとした関係土木技術者、なにより私自身の品質向上に対する意識を高めることができた。
また、今回の品質確保の対策工は、材料によるものだけでなく、リフト高の調整など、施工上の努力も多く検討された。このことは、限られた工期の中では限界もあるが、品質の確保の基本は、丁寧で確実な施工であることを再認識することができた。
今後、社会資本の整備に携わる土木技術者の一人として、市民の期待に応えられるよう技術研鑽に努める所存である。

写真-5 芳雄橋下部工完成(左岸側からの全景)

写真-6 芳雄橋下部工完成(P5橋脚とボタ山)

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