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鹿児島県内に残る近代土木遺産の現在
本田泰寬

キーワード:近代土木遺産、鹿児島県

1.はじめに
平成28 年熊本地震が発生した際、近代土木遺産の被災状況調査に参加する機会を得た。管理者に被災の有無を問い合わせ、被災有りとの情報があれば現地に赴いて被災状況を確認・記録するという形で調査を進める中、地震発生以前に、何らかの理由ですでに撤去されていた土木遺産が数件あることがわかった。おそらく、やむを得ない事情で撤去に至ったのであろうと想像されるが、地域の暮らしを支えることを目的に、試行錯誤を重ねてつくられたであろう土木遺産がなくなってしまうと言う事実にはやはり寂しさを感じる。
はたして、筆者の暮らす鹿児島ではどの程度の土木遺産が残っているのだろうか。残っているとしてどのような状況にあるのだろうか。このような考えのもと、平成29 年から鹿児島県内の近代土木遺産を訪ね歩いている。意外にも多くの近代土木遺産が活躍していることがわかった。

2.近代土木遺産とは
すでにご存じの方も多いと思われるが、本稿で述べる近代土木遺産について簡単に触れておきたい。近代土木遺産とは一般に「幕末を含む明治期から第二次世界大戦前(場合によっては昭和30年代の初め)の間に造られた土木関連の施設の中で、文化財として次世代に残してゆくべき風格を備えた優れた構造物を指す言葉1)」とされるが、その実質を重視して歴史的構造物と表現されることもある。
これら近代土木遺産の「保存・活用を図るためには、まずその実態の把握が必要である」との問題意識のもと、平成3 年頃から土木学会土木史
研究委員会を中心に近代土木遺産の一覧が作成され、『日本の近代土木遺産 現存する重要な土木構造物2000 選』として2001 年にとりまとめられた。その後、件数を大幅に増加した『日本の近代土木遺産 現存する重要な土木構造物2800 選[改訂版]』が2005(平成17)年に発行された2)。この一覧はホームページにも掲載され、データ更新が継続されてきた3)
なお、鹿児島県の近代土木遺産は、48 件がリストアップされており(3 件の撤去を確認)、このうち40 件について状況を確認すべく現地調査を実施した。

3.鹿児島県の近代土木遺産の状況
調査を実施するにあたっては、単に現存するかどうかだけでなく、具体的な状況を把握するために『建物の見方しらべ方 近代土木遺産の保存と活用4)』にもとづいて、①場所、②使用状況、③活用度、④保存状態の4項目に着目した調査を実施した。表- 1 は各項目の具体的な状態と、項目ごとの件数を示したものである。ひとくちに土木遺産と言ってもその状況は多岐にわたっていることがわかる。以下、それぞれの項目ごとに具体例をご紹介したい。なお本稿では以下、近代土木遺産を「土木遺産」と略記する。

(1)場所
表中の「①場所」については原位置での使用が36 件で、移築されているのは1 件のみであった。唯一、移築保存が実施されていたのが、南さつま市にある坊津町石管水道である。築造は江戸末期または明治期とされ、現在の位置の対岸にあったものを移築している(写真- 1)。石管水道自体は現在は機能していない。周辺は地元産と思われる赤色の石材を各所に用いた公園として整備されている。公園内には古くからの水くみ場や磨崖仏、堰堤などが存在し、土木遺産と地形との関連性を実感することができるものの、石管水道がどのような経路で水を導いていたのかは、想像力を働かせて現状から推測せざるを得ない。

(2)使用状況
表中の「②使用状況」については、完全現役が21 件、限定現役が5 件、転用は0 件、使用停止が11 件であった。特筆すべき例として、完全現役としてカウントした日置市の姶良河橋をあげておきたい(写真- 2)。本橋は石桁を組み合わせたもので、増水時には水に浸かる沈下橋のように見受けられる。現在は橋面に簡単なアスファルト舗装が施されており、交通量は多くないが車輌も通過する。もともとは荷車程度の荷重を想定していたのではないかと推定されるが、それ以上の機能を発揮し続けている事例である。

(3)活用状況
表中の「③活用状況」の大部分を占めるのは日常使用(26 件)である。前述の「②使用状況」と併せて考えると、50 パーセント以上の土木遺産が現役の土木構造物として日常的に使用されていることを示している。調査を開始するまでは、かなりの数が放置に近い状況にあるのではないかと想像していたが、意外にも多くの土木遺産が大切に使い続けられていることがわかった。
一方、5 件がカウントされている「放置」は、表中の「具体的な状況」の解説にもとづけば否定的な評価と言わざるを得ない(写真- 3)。しかしながら、撤去されてしまったら最後となる土木遺産にとって、放置という状態は必ずしも最悪な状態とは言い切れない。例えばフランスでは、100 年近く放置され、朽ち果てていた吊橋が遊歩道の一部として復活したという事例もある。このようないわば「積極的な放置」は、ひとつの選択肢になり得るのではないかと考える。

(4)保存状態
表中の「④保存状態」については原形保存が20 件、部分変更は12 件、大改造は1 件であった。部分変更12 件のうち、10 件が日常使用されているものである。これは、土木遺産を現役の土木構造物として継続的に使用していく上で、交通荷重の増大等様々な与条件の変化に対応するために、何らかの変更を加える必要が生じたためと推察される。なお、大改造とされる1 件は、指宿市山川町にある山川港(旧)渡し船船着き場である(写真- 4)。本施設は土木学会が作成したリストでは石積構造物として記載されているが、今回の調査では全体が完全にコンクリート製の船着き場に変更されていることがわかった。改造前の状況を把握するべく関係機関に問い合わせたが、工事が実施された時期すら特定することは困難な状況であった。しかしながら、現在も山川町内に残る排水路や護岸などに残る石積や、山川町漁業協同組合に残る大正期の写真からは、石積が存在していた頃の港の様子の一端を見ることができる(写真- 5)。

4.活用例
前章の(3)とも関連するが、最後に活用例をいくつかご紹介したい。

(1)石橋の活用
日置市の浜田橋(写真- 6)をあげる。本橋は現在、歩道やサイクリングロードの一部として利用されているが、橋上からは海岸を眺めることができ(写真- 7)、右岸側には自治体が運営する地域の物産館や地元産のそば粉を使ったそば屋がある。また、浜田橋右岸側には橋詰め広場のようなスペースもある。下流側には撤去された鉄道橋の橋脚が残り、土木遺産によって構成される空間の活用可能性を見出しうる事例である。
さつま町にある穴川橋は車道として利用されていたが、隣接して新橋が建設されたために格下げされ、現在は歩道として利用されている。新橋は歩道が設けられてはいるものの、車両の交通量も多く、大型車両も多いため歩行者や自転車には危険であるが(写真- 8)、穴川橋が保存されていることで安全な通行が確保されている。石橋等歴史的橋梁の保存・活用の一方策を考える上で有用な事例であると考える。

(2)駅舎空間の活用
霧島市の大隅横川駅(写真- 9)では、第一・第三日曜にぽっぽ市と呼ばれる朝市が開催されている。地域の方がパンやお総菜や手芸品を持ち寄って販売するもので、この間は列車の停車時間が通常より長く確保されている。乗客にもこの朝市を楽しんでもらうため、地域と公共交通機関が一体となった取り組みである。駅から商店街に向かう途中に架かる清水橋は、戦前期に建設されたRC 橋の特徴のひとつでもある塔状の親柱が残る(写真- 10)。本橋の高欄は鋼製に変更されているが、親柱に当時のものが残されていることで、駅~橋~商店街という昔ながらの軸線が守られているように思われる。

(3)土木遺産の周辺空間の活用
姶良市にある山田の凱旋門そばでは、火曜日と木曜日にJA 姶良の移動販売車がきて、地域住民で賑わう(写真- 11)。近くにスーパーなどがないため、交通手段が限られている人にとっては日常生活を送るための重要な手段となっている。この場所は神社の境内の一部でもあり、公民館前の広場でもある。公民館では夜学が開かれていた歴史もあり、地域にとって重要な空間であったと考えられる。こうした履歴の延長にある現在の凱旋門は、その空間の重要性を象徴するかのようである。
また、南九州市にある知覧門之浦荷揚場は加治佐川の河口に築かれた港で、石積の岩壁や護岸状の構造物が対岸や上流部にも残っている(写真-12)。加治佐川上に新たに新設された橋梁の橋台のテクスチャを石積風にするなど、景観的な配慮をうかがうことができる。岩盤上の小高い丘には海を望むことができる木陰があり、地域住民によって憩いの場として利用されている(写真- 13)。

5.おわりに
この調査を開始した当初、かなりの数の土木遺産がなくなっているのではないかと想像していたが、撤去された例は思いのほか少なかった(が、この調査を進めている間にも1橋のRC 橋が撤去された5))。一般に土木遺産というと、その技術的な価値や希少性が注目される傾向にあるが、その活用方法を見つけるとなると容易なことではない。しかし、今回ご紹介した事例では、歩道橋として石橋が再利用されていたり、使われなくなった川湊の周辺空間が居心地のよい空間として地域住民に利用されているといった状況を見ることができた。ストックの活用が重視される今日、インフラとしてのポテンシャルを見出されることで、土木遺産は現代社会でも十分活躍することができそうだ。

謝辞
本調査の実施にあたっては、(公財)鹿児島県建設技術センター平成29 年度地域づくり助成事業による助成をいただきました。また、関係機関の皆様にはヒヤリングや現地調査の実施等において多大なるご協力をいただきました。ここに記して感謝申し上げます。

【参考文献】
1)文化庁編:『建物の見方・しらべ方 近代土木遺産の保存と活用』、p.12、ぎょうせい、1998
2)土木学会:『日本の近代土木遺産 現存する重要な土木構造物2800 選 [改訂版]』、2005
3) 日本の近代土木遺産2800 選HP:
http://www. jsce.or.jp/committee/hsce/2800/index2(2800).htm
4)前掲1)、pp.104 - 1145)羽野:旧山田橋の解体に伴う跡地空間のデザイン~土木遺産の再利用に関する試み~、第一工業大学研究報告第30 号、2018

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