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道路橋メンテナンスにおけるAIの活用
金澤文彦
石田雅博
野田翼
廣江亜紀子

キーワード:道路橋維持管理、AI、点検・診断、床版の土砂化

1.はじめに
政府の「日本再興戦略」では、IoT、ビッグデータ、人工知能による産業構造・就業構造変革の検討が主要施策の一つとして掲げられている。また、「第5 期科学技術基本計画」では、AI 等について関係府省の連携の下で戦略的に研究開発を推進することが求められている。
また、近年社会インフラの老朽化が喫緊の課題となる一方で、点検コストの増加や橋梁についての専門知識を持った担当者の減少などの問題が顕在化してきており、その解決策の一つとしてAI技術を活用していくことが期待されている。
このため、土木研究所では、平成30 年度から自治体や民間企業25 者とともに共同研究「AI を活用した道路橋メンテナンスの効率化に関する共同研究」を開始した。共同研究では、点検で必要な情報、損傷種類の特定や進行度等の推定、措置の方法など、熟練技術者の診断プロセスを言語化し,暗黙知で行われていた診断のロジックを明確化することを目標としている。
特に近年問題となっている床版の土砂化については、「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」の課題の一環として、電磁波レーダー等の情報から水の存在を早期に検出し、土砂化が進行する前に措置を行うことを目指して、実際の橋梁での調査を行っている。
本報文では、これらの取り組みを紹介する。

2.AIを活用した道路橋メンテナンスの効率化に関する共同研究
(1)共同研究の目的
近年社会インフラの老朽化が喫緊の課題となっているなか、橋梁では5 年に1 回行う定期点検が義務化された。一方で、老朽化橋梁の増加にともなう点検コストの増大や、橋梁についての専門知識を持った熟練技術者の減少などの問題が顕在化してきており、より効率的な維持管理が求められている。 そこで、加速度的に発展するAI 技術に着目して、メンテナンスサイクルにおける点検・診断・措置の信頼性向上を目指し、ロボットなどの支援により診断に役立つデータを取得する技術や、点検の見落とし防止や効率的な調書の作成など点検を補助する技術(点検AI)および、劣化要因の判断や的確な措置の判断など診断を支援する技術(診断AI)、ならびに点検・診断に関するデータの取得・保存・分析・活用を円滑に行うデータ基盤の開発を目的に共同研究を実施することとした。土木研究所が共同研究者を公募し、表- 1に示す25 者と土木研究所とで平成30 年度から共同研究を開始した。

(2)共同研究での検討内容
橋梁のメンテナンスサイクルは、点検→診断→措置→記録に分類されるが、これらは相互に関連するものである。点検は診断に必要な情報を収集するためにあり、診断は適切な措置方針を示すためにある。また、これらを記録しておくことで、次の点検において比較することにより、適切な診断が行える。
共同研究では、下記①~③のWG を設置して検討を進めるとともに、共通事項として④を検討している。共同研究の体制図を図- 1 に、点検AI と診断AI の概要を図- 2 に示す。

①点検AI(床版の土砂化)の開発
床版の土砂化を対象に、電磁波レーダー等の技術を活用して、水の早期検出技術の検証、及び、早期検出を前提とした措置法の検討を行う。
②点検AI(画像解析)の開発
ディープラーニングなどの画像解析技術を活用して、変状の抽出や要点検部位への誘導、採取データの分析等を行う点検AI について、必要とされる性能を検討し、実務で使えるAI の開発を行う。
③診断AIの開発
AI 技術等により形式化した熟練技術者の暗黙知や、既往の点検データ等を基に、診断ロジックを可視化し、技術者の判断支援を行うAI を開発する。
④データ基盤の開発
点検・診断・措置に関するデータを収集・保管・活用・更新する方法について検討を行う。以下、①点検AI(床版の土砂化)の開発WGにおける取り組みについて報告する。


3.床版の土砂化等に対する診断技術
共同研究における点検AI(床版の土砂化)の開発WG については、平成30 年度に開始された「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」のテーマの一つに「効率的かつ効果的なインフラ維持管理・更新の実現」があり、このテーマの一環として、床版の土砂化等に対する診断技術の開発を行っている。

(1)点検AI(床版の土砂化)の開発の目的
近年、床版の土砂化による損傷が問題となっている。床版の土砂化は、外観から検知することが難しい一方、突如、床版の抜け落ちに至るなどのリスクが存在する(写真- 1、写真- 2)。


床版の劣化は、水に起因して発生・進行することが多い。床版上の滞水に関しては、舗装や床版の変状からその有無を推測することは、可能であるが、多くの場合には変状箇所の舗装を開削して初めて確認され、この時点で既に床版の性能が著しく低下していることもある。
また、変状箇所の舗装開削により局所的な帯水を確認することは可能であっても、帯水箇所を面的に把握することはできず、潜在的な劣化箇所を特定することは困難である。
補修工事では、土砂化が進行した床版の補修は、床版のはつり作業等の大規模な工事になることが多い。また、舗装開削後の土砂化による劣化を確認し、舗装開削後に補修計画を再計画する必要があるため、効率的なメンテナンスが行えていないのが現状である。
このため、舗装の下の水の存在を早期に検知して適切なタイミングで措置を行うことができれば、床版の土砂化が進行する前に対処でき、維持管理が効率化される。
そこで、次のことを目標に研究を行っている。
・電磁波レーダーのデータや外観状態、環境条件等の各種情報と、内部劣化状態との相関を分析、内部変状と相関の高い重点点検項目を把握
・定期点検時に簡易な非破壊検査技術にて劣化を早期に検出するなど、多様な情報を活用した総合的な診断手法の確立
・予防保全の効果を最大限発揮できる劣化初期に有効な対策を提案する

(2)現地調査
1)調査橋梁
九州地方整備局の協力のもと、大分県日田市の橋梁で現地調査を実施した。
調査対象橋梁は、橋長240m、供用後約40 年経過した「鋼単純合成鈑桁橋+鋼2 径間連続非合成箱桁橋+鋼単純合成H 形橋× 4 連」である。標高が高い箇所に位置し,冬期に凍結防止剤を散布する区間である。
定期点検の結果、舗装面には、補修箇所の再劣化や土砂の噴出が確認されている。床版下面には、漏水・遊離石灰、床版ひび割れが発生している事が確認されている(写真- 3、4)。

2)測定方法
手押しカート式電磁波レーダー(写真- 6)と電磁波レーダーを搭載した車両(写真- 7)を用いて走行させ、橋梁の床版の調査を実施した。
測定原理は、一般的な電磁波法と同様、電磁波を発信し、異なる比誘電率の物質からの電磁波の反射をアンテナで受信し、その受信波形から損傷部の判定を行うものである。

3)測定結果
調査の一例を示す。舗装の状態(写真- 3)や床版下面の状態(写真- 4)など目視で得られる情報に加え、電磁波レーダーの情報により床版の劣化や水の存在を早期に検知して措置を講じることを目標としている。実際に床版がどのような状態となっているかを確認するために、開削調査を実施した(写真- 5)





図- 3、図- 4 に電磁波レーダーによる検証箇所を示す。
図- 5 に、電磁波レーダーによる測定結果と、舗装上面、床版上面、床版下面の比較を示す。
検証箇所の舗装状況を確認すると、上り線、下り線の中央分離帯箇所に舗装の部分補修跡およびひび割れが確認できる。これは、上下線の舗装打ち継ぎ目からの水の浸入が舗装の劣化要因として考えられる。舗装開削後の床版上面を確認すると、舗装補修跡の周囲に床版にひび割れが発生しており、一部土砂化の進行が確認できた。床版下面を確認すると、床版下面のひび割れ及びエフロレッセンスの発生が確認できる。ただし、床版上面のひび割れ範囲を判断することは出来ない。
これらの情報と電磁波レーダー結果を比較すると、床版上面で異常信号が検出された箇所と、実際の損傷状況はおおむね一致していることが分かる。



4)計測機器による比較
検証箇所を手押しカート式レーダーと車載式レーダーでの測定結果の比較を図- 6 に示す。車載式レーダーよりもカート式レーダーの取得データの方が、異常箇所がより詳細にわかる。これは、電磁波レーダーの取得方法(移動速度)の違いによるものと考えられる。ただし、手押しカート式電磁波レーダーで計測する場合は、車線規制が必要であり、取得時間・労力が必要である。
車載式電磁波レーダーは、車線規制が必要ではなく、短時間で多量のデータを取得可能である。車載式レーダーで調査箇所をスクリーニングし、カート式レーダーで詳細を調査するなどの手順を整理していく必要がある。

(3)AI技術による診断イメージ
電磁波レーダーは大量のデータが取得できるが、図化したものを熟練技術者が目で見て判断している。また、前述で報告したように、使用する電磁派レーダーの種別により測定結果に差異が生じることが分かる。このように、技術者の熟練度に応じて判断にばらつきが生じる画像の診断においてAI 技術を活用することにより、劣化した部材や水の存在している箇所を精度良く効率的に抽出することができると考える。図- 7 にAI 技術における画像診断イメージを示す。橋梁の環境条件(交通量、気温、凍結防止剤の散布等)との関連性を検討し、画像診断の精度向上を目指す。合わせて、画像診断により早期検知した舗装下の水を除去する措置の方法についても検討する。AI技術を活用して劣化が進行する前に早期に診断し、適切な予防保全を行うことが可能となると考えている。


4.おわりに
橋梁の点検・診断にあたって熟練技術者は、どのような損傷の可能性があるのか、診断に必要な情報は何か、どのような措置の選択肢があるか、などを知識と経験を基に現地で考えながら実行している。このような暗黙知を明確にするとともに、非破壊調査等のデータも必要に応じて加え、AI技術を活用することによりメンテナンスサイクルを効率化していきたい。

謝辞
本研究の実施にあたり、九州地方整備局道路部および大分河川国道事務所には多大なるご協力をいただきました。ここに謝意を記します。

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