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筑後川やすらぎと感動の川プロジェクト
~筑後川の魅力とその価値を高めるための取り組み~

国土交通省 九州地方整備局
 筑後川河川事務所 調査課長
浦 山 洋 一

国土交通省 九州地方整備局
 筑後川河川事務所 調査課 調査第二係長
古 川 貴 博

国土交通省 九州地方整備局
 筑後川河川事務所 調査課 調査第二係
仁 田 原 公 亮

1.はじめに
「川の価値とは何であろう?」との問いに,人々からはどのような答えが返ってくるだろうか。専ら「飲料水や生活・農業用水の供給源など」の水利用に関する答えが多い結果となるであろう。このような結果となるのは,水利用に関しては人々の生活に密接であり,比較的連想し易いからであろう。
しかし,川の価値とはそれだけに留まらず,もっと様々な価値も備えている。出来ればそのことも連想して欲しい。これは,もっと別の,本来川が持っている魅力を知ることによって,それらの価値は見いだせるはずである。
今回は,筑後川河川事務所(以下「当事務所」という)での,川の魅力とその価値を高めるための取り組みについて紹介する。

2.筑後川の概要
筑後川は,熊本県,大分県,福岡県,佐賀県の4県を流れる九州最大の河川である。板東太郎(利根川),四国三郎(吉野川)と並び「筑紫次郎」と呼ばれ,その昔,『ちとせ川(千年川,千歳川)』,時には,筑前,筑後両国の中間にあたるため『筑間川』とも称されていた。
筑後川は,その源を熊本県阿蘇郡瀬の本高原より発し,阿蘇外輪山や小国盆地の降雨を集め高峻な山岳地帯を流下し杖立温泉街を流れる。その後大分県日田市名等の典型的な盆地を流下した後に再び渓谷を過ぎて多くの支川を併せることとなる。そして,肥沃な筑紫平野を貫流し,著しい干満差と潟土の堆積で有名な有明海へと注いでいる。
その沿川は豊かな自然環境を有し,筑後川と周囲の山々が調和して緑豊かな景観美をつくり,下流部は特有の汽水環境を形成している。
筑後川はちとせ川の名のごとく輝かしい古代文化の花を筑紫平野に,有明海に育み,多くの先人達の努力によって河水は田園に導かれてきた。この結果我が国でも生産性の高い農耕地を形成し,幾多の産業を繁栄させ,流域内の産業・経済に限りない恩恵を与えてきた川である。

3.昔の筑後川と人々との関わり
かつて,筑後川では舟運が盛んで,下流部には諸富津,若津,蒲田津,早津江津などの川港が栄え,大阪などヘ米穀を売りさばく千石船が往来していた。

また,筑後川に橋があまりなかった時代には,多くの渡し船が各地で見られ,風物詩ともなっていた。最盛期には62箇所もの渡し場があり,長らく重要な役目を果たしてきた。
この時代は,陸上交通が未発達であり,舟運は最も身近な交通手段であった。江戸時代から明治,大正,昭和にかけて,上流の日田の木材を筏に組み,下流の木材集散地の大川へ運び,そこで木工産業を育んできた。
また,これまで幾度と無く洪水の猛威を見舞った筑後川には,治水,利水を目的として荒籠や井堰などが築かれ,これらの歴史的な構造物は現在も数多く残されている。
流域内の主な都市として,上流部の日田市,中流部の久留米市及び鳥栖市,下流部の大川市及び佐賀市などがある。これらの都市は,九州北部における社会経済,文化の基盤をなしている。
このように,流域では筑後川を中心とした人々の生活や文化がそこにあり,古くから筑後川との深い結びつきをもっていることからも,その存在意義は極めて大きいものであったことが伺える。

4.その後の筑後川と人々との関わり
日本でも有数の暴れ川として有名な筑後川では古くから治水に対する力が注がれてきた。明治22年の大洪水をきっかけに築堤や護岸,捷水路,水門整備などが行われ,更に大正10年,昭和28年の大洪水への対応として治水対策が著しく進んだ。その後の高度経済成長期に伴い,重点的な公共投資も行われ,河川事業では治水と利水を中心として事業が展開されてきた。また,この時代は,社会資本としてのインフラ整備が急速に進んだ時代でもあった。
この結果,かつては盛んであった舟運は,物資の輸送の主役が陸路へと変わるとともに衰退していった。また,上流から下流への筏流しについても,大分,福岡県境付近の夜明ダムの建設とともに昭和27年を最後に姿を消すこととなった。
さらに,かつて多数存在した渡しは.道路網(架橋)の整備に伴いその姿は滅少し,平成6年「下田の渡し」を最後に全てがその役目を終えることとなった。
このような時代背景のもと,社会経済の発展により生活水準は著しく向上し,人々は「物の豊かさ」を手にすることができた。しかし反面,生活様式の多様化や人々の価値観が変化し,工場排水や家庭雑排水等により川は汚れ,また,高度成長期の砂利採取等により川の水深は深くなり,上水道の整備やコンクリート護岸の整備等により人々は川へと近づく機会が少なくなり,人々の川への関心も薄れる時代となった。

5.川に対する今の想い
しかし,その後平成9年度の河川法改正での環境の追加に代表されるように,人々の価値観は更に変化し,「物の豊かさ」から「心の豊かさ」の時代へとなり,近年になって,住民の自然環境に対する関心が再び高まっている。
この河川法改正を受け,現在,当事務所においても,「筑後川水系河川整備計画」を策定中である。その整備計画では流域住民の「声」や「想い」を出来るだけ多く反映させるため,原案策定前の段階から地域住民との直接対話による意見交換(通称:流域1万人会議)を実施している。この会議では,流域の県や市町村,関係機関等と連携を図り,きめ細やかな地域の情報収集に努めた。
その中で,昔川で遊んだ経験のある人々は,「もう一度,川に人々のにぎわいを取り戻したい」,「子どもも大人も集う魅力ある川にしたい」という想いが多く寄せられた。

6.現在の取り組み
このような事からも,JI[の魅力について再度見直し,また川の魅力,再発見を高めるような取り組みを現在行っている。具体的に示すと以下のとおりである。

1)リバースクール
~学び体験活動できる川へ~
一般的に「川は危ないものだ」と思われ,また現在は学校等の教育現場でも川は危険であるため近づかないような指導がされているところもある。確かに,昔に比べ護岸等が整備されたことや水深が深くなったこと等を理由として,川に近づきにくくなった面もある。しかし,このような中でも,ルールを守れば川で安全に遊ぶ事は十分可能である。
リバースクールとは,地域の住民団体と地域住民及び河川管理者とが協働で,子ども達の自然体験活動をサポートするものである。
この活動は,子ども達を川で遊ばせることが,広域的な意味での川を知ることへと繋がり,同時に河川愛護意識の高揚,さらには子どもから高齢者までの地域ネットワークの再形成にも寄与するとの指摘もある。
現在,筑後川では日田市,久留米市にて,また支川の城原川では千代田町にて実施している。

2)リバーツーリズム
~観光交流空間づくりの川へ~
リバーツーリズムとは,いわば,川を中心とした観光交流で,川に訪れ,川を知ってもらうことにより,川の姿,流域の特徴,地域の産業などを理解し,広く一般に認知してもらう事を目的としたものである。これにより地域活性化,また,流域の市町村がより連携を深める事を目的としたものである。
筑後川でも現在,民間レベルで検討中である。

3)舟運の再生
~街を眺めることができる川へ~
先述したように水面利用が姿を消していくなか,新しい展開も現在模索中である。
筑後川における水面利活用の機運が中流下流域で高まっており,平成15年度6月に国土交通省と久留米市とが共同で,「久留米市地域舟運再生検討委員会」を発足させた。そこでは,舟運再生に向けて,防災面,観光面からの有効性について検討を行っている。また,下流域においても地城の活性化へ繋げるため,有明海等を含めた範囲での観光船によるクルーズも検討中である。実際にデモ運行等も行っている。
なお,現状では,河口域から中流域の舟運に,小森野床固(筑後川29k800付近)が支障となることから,現在,閘門を改築中である。

4)思い出の写真募集
~思い出が色あせることのない川へ~
新しい取り組みの一方で,昔の姿を後世に残す取り組みも行っている。筑後川には古くから関わってきた人々も多く,そこにはそれぞれたくさんの思い出も詰まっている。そこで,流城の人々の暮らしや風景を撮影した写真を集め,地域共有の意識として理解を深めること,また,ここから生まれる河川愛護の意識の向上を図ることを目的に『思い出の写真集』を作成している。
地域住民団体が中心となって応募を募ったところ,数多くの思い出の写真が寄せられた。今後は写真集と併せ,これらの写真をもとに,写真展や座談会の開催を予定している。

5)水辺の校庭プロジェクト
~大人と子どもの夢がつまった川へ~
支川巨瀬川の大橋地区では,地域住民と地元の大橋小学校の子供たちに,計画づくりから工事,管理までの川づくりに携わってもらうプロジェクトを実施している。これは巨瀬川を隣接する大橋小学校の「水辺の校庭」と考えて,水際までのプランを子ども達からみた「夢」,大人達からみた「夢」を語り,人々はもちろん,動植物も安心して暮らせ,大人も子どももみんなが集まる川づくりを行っているものである。
なお,実際の工事の施工時には,子ども達や地域住民に石を積んでもらうなど工事参加してもらうことも予定している。完成後は小学校の校庭はもちろんのこと,自然観察の場所に利用したり,また草刈り,ゴミ拾いなどの管理も地域と協力しながら行う事を考えている。

6)ちっご河童の川談義
~職場からの想いを川へ~
先に紹介した1万人会議を契機として,当事務所の職員で「ちっご河童の川談義」と称して,子供の頃の川での泳ぎや魚とりなどの思い出や,これからどのような川づくりを実施していけばよいかなどについて,意見交換している。今後も,様々なテーマでの議論を通じて,職場の活性化,若手職員の育成などを図っていく考えである。

7)まちを元気にする川づくり
~地域と連携を図りながらつくる川・まちへ~
筑後川流域の中でも特に日田出張所管内では,「協働と連携による川づくり・まちづくり」がキーワードとなる取り組みを実施している。これらの取り組みは,先駆的な事例として高い評価を受けている。これは,川づくりが持つ可能性を示す大変良い事例となっており,今後の河川事業の可能性をも示している。

7.日田地区における成果
ここで,先に説明した日田地区での取り組みの成果について紹介する。
1)台霧の瀬プロジェクト
日田市は「水郷日田(すいきょうひた)」と呼ばれている。その日田市を流れる三隈川(筑後川)で昔ながらのせせらぎを取り戻そうと,市民団体や地元自治会などの市民グループに日田市,国土交通省が参加して,ひとつのプロジェクトを実施した。
三隈川の河川敷を掘削し,長さ約200m,幅約15m,水深約0.3m程度,両岸には自然石を配置したせせらぎをつくり,「水遊び,川遊びができくつろげる空間」を目指して整備したプロジェクトである。
計画立案や工事,完成後の維持管理や利活用については住民団体が主導的な役割を果たし,日田市及び国土交通省は河川の占用やそれら活動に対する支援を行った。
現在ゴミ拾いや草刈りなど,その後の管理は地元地域が実施している。

2)豆田地区
「九州の小京都」といわれる日田市の豆田地区には,支川花月川が流れている。日田市は江戸時代には幕府の直轄地(天領)であった所であり,豆田地区では歴史的な街並みが残されている。この地区は平成16年「重要伝統的建造物群保存地区」に指定され,貴重な観光資源となっている。
このような背景を踏まえ,花月川では,それらの伝統的街並みとの調和に配慮した川づくりを地元との懇談会を重ねながら進めていった。その結果工事期間中には,豆田町の観光ガイドが自発的に観光客に対して工事内容について案内するなど,事業への協力も得る事ができた。
この工事完了後の今年4月には,地元の商店街が主催した手づくりの「花月川河川改修記念イベント」が行われ,夜には水面に約2,000本の竹灯籠が映し出され,幻想的な夜景が出現した。その後,10月の日田市天領祭りの夜には,竹灯籠が20,000本に増え,「千年灯り」として新たな観光の場が生まれた。

3)隈川中ノ島・日ノ隈地区
日田の三川分派の一つ隈川では,島内堰下流で根固ブロックが乱雑に積み重なっている状況にあり,周囲の良好な景観の中で地元地域の方々にその光景が問題視されていた。

そこで,景観形成事業に着手するにあたっては,計画段階から地域住民の意見を交わすため住民懇談会を開催しながら進めた。その会で,提供された様々なアイデアは施工図面へと反映された。この懇談会での熱意を感じた工事の現場代理人は,バレンタインデーの時期にはハートのイルミネーションを設置するなどして工事のイメージアップにも務め,その取り組みは地元新聞にも掲載されるほど好評を博した。
「水のカーテン」として生まれ変わった根固ブロックは,これまでの役割である堰直下の流水による河床低下防止機能に加え,川の流れに幾何学的な変化を与え,落水の音を奏でさせる機能を新たに兼ね備えることになった。

工事完成後は,清涼感あふれる川へと生まれ変わり,水辺に近づき易くなったことからも,子ども達の総合学習の場としても利用されている。
また,5月の川開き観光祭においては,高水敷に花火見物の多くの人々が腰を下ろしている光景が伺えた。

8.おわりに
「川の価値とは何であろう」,「川の魅力とは何であろう」
ひとつ日田地区を事例に挙げるなら,川づくりが,ひとづくり,さらにまちづくりへと展開してゆくことを示している。つまり,川への関心をもつ人同上が協働,連携しながら語らう過程の中で,川の魅力は人と人をつなぎ,そのことがまちを形成しうることを表している。
各地域における水辺体験活動(リバースクールの開催など)を推進することは,近年薄れつつある川に学ぶ社会の再構築,更にこれは「地域力」の向上へと繋がっていくものである。この「地域力」は地域の防災へと展開し,近年多発している水害に対しては,最も有効的な防災力となるものでもある。
また,リバーツーリズムは地域の活性化へと発展し,舟運の再生についても同じように地域の活性化に加え,防災や観光へと展開していく。思い出の写真集については川そのものが地域共有の意識となり,これは河川愛護へと発展していく。
このように川は様々な価値を持っており,その他にも,もっと別の魅力や可能性を秘めているものだと考えている。
より魅力ある筑後川を実現するには地域に受け継がれてきた豊かな文化や歴史などの個性を大切にすることが重要である。また,次世代によりよいかたちで伝えていくためには,流域住民と共に考え,共に行動する取り組みも重要である。
このような取り組みによって,川の魅力が高まり川の価値のひとつとなることに期待し,今後も,新たな魅力の発見や川が秘めている可能性を見いだすような取り組みを行っていく考えである。

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