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九州技報 第40号 平成18年度九州国土交通研究会「学術賞」受賞作品

海洋短波レーダーによる有明海広域表層流況観測の実用化について

国土交通省 九州地方整備局 下関港湾空港技術調査事務所 環境課長
 中島謙二郎
国土交通省 九州地方整備局 下関港湾空港技術調査事務所 環境課 建設管理官
 江口秀之

1 はじめに
閉鎖性海域である有明海海域では,近年漁獲量の減少や水質の悪化,浮泥の堆積といった様々な環境異変が生じており,平成14年には「有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律」が制定されるなど,総合的な海域環境に関する調査や保全・再生施策の推進が求められている。
このような中で水質変化や底質の浮泥堆積など海域環境の変化に絡む重要な要素である流況について,広範囲な海域の表層流況情報を準リアルタイムに観測が可能である「海洋短波レーダー」の本格導入に向け,設置計画や活用方策等の検討及び有明海湾奥部を対象として試験観測を実施し有効性の確認を行い,本年度より本格観測を開始している。
本報告は,導入に至るまでの検討結果・本格導入状況・今後の活用方策等を報告するものである。

2 海洋短波レーダーについて
2.1 海洋短波レーダーシステムの概要
海洋短波レーダーは,海岸沿いの陸上に2箇所以上設置して観測を行うリモート局と観測されたデータを解析する中央局で構成される。各リモート局は1時間毎に海面に短波周波数帯のレーダー電波を照射し,海面に反射して戻ってきた電波を受信し,送信した電波と受信した電波の周波数のずれを解析することにより流向・流速データ等を取得するというシステムである。(図-1)

図-1

2.2 海洋短波レーダーの有効性
従来の流況・波浪観測は,流向・流速計や波高計等を海底に設置するまたは,船舶・ブイ等を利用することでその地点における海域状況を観測するものである。これに対し,海洋短波レーダーによる観測は,陸上に設置されたレーダー局から海上に向けて短波帯の電波を発射し,海面の波浪に反射して返ってきた散乱信号を周波数解析することにより,表層の流況や波浪等のデータを広範囲にかつ連続的に観測するシステムである。
このように,海洋短波レーダーと従来法は全く異なる観測方法である。海洋短波レーダーが従来法より優れている点について以下に示す。
① 計測器設置位置
流向・流速計や波高計等は計測器を海底に設置するため,漁業が行われている海域,及び船舶の往来が激しい海域等に設置することは困難である。これに対して,海洋短波レーダーは沿岸の陸上部に計測器を設置して観測する方法であるため,陸上における設置条件を満足すれば,海面の利用状況に左右されず設置可能である。
② 観測範囲
流向・流速計や波高計等は,その地点における流況・波浪を観測するものであり,点の観測結果である。これに対し,海洋短波レーダーでは広範囲の海域の情報を得ることができ,面の観測が可能である。(図-2)
③ 観測項目
流向・流速計では流況(流向・流速)観測しか行えない。これらの計測器によって流況観測以外の物理量(波浪)を観測する場合には新たに計測器を追加しなければならない。これに対し,海洋短波レーダーでは,流況(流向,流速),波浪(有義波高,有義周期)を同時に観測することができる。
④ メンテナンス
流向・流速計や波高計等は海底に設置するため,容易にメンテナンスを行うことができない上に,メンテナンスするためには膨大な費用がかかる。これに対し,海洋短波レーダーは沿岸域の陸上にアンテナ,送受信機を設置するため,比較的容易にメンテナンスを行うことが可能であり,費用も流向・流速計等と比較して安価である。

3 海洋短波レーダー試験観測
閉鎖性水域である有明海沿岸には干潟が広く分布し,水際線にはコンクリート護岸に囲まれているところも多い。海洋短波レーダー電波は,これら周辺環境や航行船舶の影響を受けることが懸念されるため,安定かつ確実なデータを取得できるか確認を行うことを目的とし,有明海湾奥部を対象に平成17年1月から10月まで試験観測を実施した。(図-2)
試験観測にあたっては,有明海への本格導入をより効率的に行うために国土技術政策総合研究所所有の海洋短波レーダー(2基)及び,同研究所の研究成果を活用することとした。その結果,水深5m以上の個所においては,正常にデータが取得されることの確認が出来た。また,レーダー観測区域内の8地点において,過去5年以内の既往調査による流況観測データと今回のレーダー試験観測データを各々調和解析し,潮流楕円による精度確認を行ったが,潮流楕円の形が近似していることが確認でき,正常な取得が出来るものと判断した。(図-3)

図-2 試験観測データ

図-3 潮流楕円による精度検証結果(一部)

4 海洋短波レーダー本格導入について
4.1 最適周波数帯の選定
海洋短波レーダーにより流況・波浪の2次元観測を行うためには,2局のレーダーによって同時観測し,2局の観測円の重なった部分を観測する必要がある。そのため,閉鎖性海域の観測を行う場合,レーダーの観測可能範囲が対岸まで届く能力が要求される。
有明海は対岸までの距離が約25kmであるため,観測可能範囲が20km程度のVHFレーダーでも有明海をほぼ網羅できると考えられる。しかし,有明海は胃袋型に湾曲した複雑な地形を有している上,干潮時に広大な干潟が形成されるという特徴を持つためアンテナ設置場所が限定されることから,VHFレーダーで有明海全体を網羅するにはアンテナ数が10基以上必要となり不経済である。
国内実績においてHFレーダーでもっとも高い周波数は24.5MHz帯である。24.5MHz帯レーダーの観測可能距離は各機器メーカーにより多少の相違があるが,カタログ値で40km~50km程度である。この周波数帯であれば机上の配置計画では6基程度で有明海全域を網羅できる。
24.5MHzよりも低い周波数のHFレーダーを選択した場合,最大観測距離自体は長くなるが,地形の複雑な有明海では岬等により電波が遮断されるため,有明海を網羅するための設置数は24.5MHzと変わらないと考えられる。また,低い周波数帯のレーダーを配置しても出力電力の低減を行うと,結局のところ24.5MHz帯のレーダーと同程度の観測距離,配置数となるため,24.5MHz帯のレーダーが有明海に設置するレーダーとして最適であると考えられる。
また,レンジ解像度は13MHzで3km,24.5MHzで1.5kmであるため,設置数が変わらない場合はより精度良く観測できる24.5MHzが適していると考えられる。
以上のことから,有明海に設置する海洋短波レーダーの周波数は24.5MHzとした。
表-1に周波数による比較表を示す。
表-1 周波数による比較表

4.2 配置位置の決定及び本格導入状況について
前項で得られた条件を基に,HFレーダーの能力と地形的条件,コスト面から配置個所について複数の候補選定を行い,さらに現地踏査にて実際の状況を確認した上で,図-4に示すとおり有明海の約3分の2をカバーできるリモート局4基を配置することとした。

図-4 本格導入配置図

4.3 本格導入の仕様内容・状況について
① レーダー仕様
・周波数帯:24.5MHz
・方式:DBF方式
・アンテナ数(送信1本,受信8本)
② 取得情報
・広域表層流況・波浪情報
(流向・流速・波高・周期)
③ 取得時間・メッシュ
・1時間毎に1.5kmメッシュのデータを取得以上の機器仕様とし,熊本港湾空港・整備事務所において平成17年度より現地工事に着手し,平成18年4月1日から本格観測を開始している。(図-5)なお,観測データについては,HPにて常時公開している。

図-5 本格導入設置状況

5 海洋短波レーダーの今後の活用方策
5.1 浮遊ゴミ等の回収の効率化
有明海では現在,環境整備船「海輝」が浮遊ゴミの回収を行うため,定期的に巡航し環境の保全に努めているが,フェリーや漁船等の航行船舶から連絡を受けて回収に向かう場合には,浮遊ゴミの動向を正確に予想することで,回収の効率化・コスト縮減が図られる。
また,海洋短波レーダーにより得られる波浪情報を「海輝」運航の判断材料とすることにより波高の高い箇所を事前に把握でき,運航時の危険回避が可能となる。
よって,海洋短波レーダーの流況データを有効活用した浮遊ゴミ移動予測システムの開発を行う。(図-6)

図-6 ゴミ移動予測システムイメージ

5.2 環境異変に関する研究等の基礎情報
観測データを蓄積することにより,未解明であった有明海の流況特性を明らかにし,環境異変に関する研究及び,再生施策の検討に資する基礎情報とする。
(有明海の長期的な流れをデータベース化することで,経験的な流れ状況の把握が可能となる。また,有明海の環境の変化と潮流の関係について長期的に判断する材料とすることができる。)

5.3 航行船舶への情報提供
有明海の流況情報をホームページにより常時公開することにより,航行船舶のより安全な航行を可能にできる。

6 今後の課題
現状では,水深の浅い干潟区域等(水深5m以浅)については,正確なデータ取得ができないことから非公開としている。したがって,5m以下の浅海域については今後検証・検討を行い,流況観測範囲の拡大を行う必要がある。

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