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橋梁設計における最近の動向

建設省土木研究所構造橋梁部
橋梁研究室長
藤 原  稔

はじめに
わが国の橋梁技術は今や世界のトップレベルにあるといわれるが,その基本ともいうべき道路橋示方書をめぐる最近の話題として,限界状態設計法に関する動向と現在最終段階にある現行道路橋示方書の改訂に関する動向を以下に紹介する。

1 道路橋示方書と許容応力度設計法
現行の道路橋示方書は,部材の強度に関する条項に許容応力度が導入されていることから,許容応力度設計法を採用していると言われている。許容応力度設計法は構造物に作用する荷重によって部材に生ずる応力度が一定の値(許容応力度)以下になるように部材の諸元を決定する方法である。この場合,許容応力度は部材の強度に対して一定の安全率を確保するように定められている。たとえば引張り力を受ける鋼部材の許容応力度は鋼材の保証降伏点に対して1.6~1.7の安全率を,圧縮力を受けるコンクリート部材の許容応力度はコンクリートの設計基準強度に対して2.5~3.0の安全率をそれぞれ確保するように定められている。
このようないわゆる許容応力度設計法では,与えられた荷重によって構造物がどのような状態になることを想定して照査を行っているのか,また許容応力度に対して用いられている安全率がどのような意味を持つのかが必ずしも明確な形となっていない。ただし,このことが許容応力度設計法を採用している道路橋示方書が道路橋の技術基準として不適切であるということを意味するものではない。道路橋示方書はその豊富な経験と実績から,通常の規模の道路橋の設計に必要な照査の条項はすべて備わっていると考えてよい。たとえば,設計では部材を弾性体と仮定して微小変位理論に基づいて構造解析を行うが,その限りにおいては部材の座屈等の不安定現象の影響を設計に反映できない。しかし,柱部材などでは実験等で確認された耐荷力に基づいて許容応力度が設定されている。また,構造物に作用する荷重と,それにより部材内に生ずる応力が比例しないような合成桁やPC部材などでは,供用期間中に生じ得るよりもさらに大きな荷重に対して破壊に対する照査条項が設けられている。

2 限界状態設計法への移行の動向
道路橋示方書が許容応力度設計法を採用している限り,前述したように照査の対象とする構造物の状態の不明確さや照査のもつ安全性の程度の不明確さは依然として残る。このような許容応力度設計法の持つ不明確さを克服するために内外において限界状態設計法や荷重係数設計法に関する検討が行われており,すでにこれらに基づいた基準も制定されている。米国の道路橋示方書(AASHTO)では従来の許容応力度設計法による基準に加えて,1973年の第11版において荷重係数設計法に基づく基準が桁橋を対象に制定された。英国の道路橋示方書(BS5400)では1978年から1983年にかけて限界状態設計法に基づく基準が逐次制定された。また,わが国においても土木学会により昭和61年にコンクリート標準示方書が,また昭和62年に鋼構造物設計指針がいずれも限界状態設計法に基づいてそれぞれ改訂あるいは制定された。
ここにいう限界状態設計法とは構造物の安全性を確認するために照査すべき限界状態を明確にすることを意図した設計法の名称であり,荷重係数設計法とは構造物に作用する荷重や構造物を構成する部材の強度の不確かさをそれぞれ係数で表現することを意図した設計法の名称である。これらいずれの設計法も許容応力度設計法の持つ照査すべき構造物の状態の不明確さや安全率の意味の不明確さを克服しようとするものであり,構造物の限界を示す状態を終局限界状態,使用限界状態などに分類して照査すべき限界状態を明確にするとともに,構造物に作用する荷重や構造物を構成する部材の強度を確率論的あるいは準確率論的に取扱ってそれぞれに考慮すべき安全率(荷重係数や部材抵抗係数などと呼ばれる)を設定することを意図している。
日本道路協会の橋梁委員会においても平成7年(1995年)に道路橋示方書を限界状態設計法に移行すべく,現在限界状態設計法分科会において荷重の特性や鋼部材の限界状態に関して基礎的な調査を実施しているが,本格的な検討は現在最終段階を迎えている今回の道路橋示方書改訂の後に開始される予定である。

3 限界状態設計法の概念
限界状態設計法に関して定まった定義はないが,おおむね次の条件を具備した設計法ということができる。
①照査すべき限界状態が明示されていること。
②照査式に部分安全係数が用いられていること。
③部分安全係数の決定に確率的手法が導入されていること。
以下にこれらの条件について概説する。
(1)照査すべき限界状態が明示されていること
構造物に作用する各種の荷重あるいはそれらの組合せによって生ずる構造物の限界状態には種々のものがあるが,限界状態設計法では照査すべき限界状態を一般に終局限界状態(構造物または部材が破壊したり,転倒,座屈,大変形を起こして安定や機能を失う状態),使用限界状態(構造物または部材が過度の振動,変位,変形,ひび割れ等の異常を生じたり,またそれにより耐久性を損なったりする状態)および疲労限界状態(構造物または部材が変動荷重の繰返し作用により疲労破懐する状態)に分類して扱う。
また,限界状態の照査は,式(1)により行われる。

ここにνは安全率(全体安全係数),s*は設計荷重値,S(s*)はs*にもどづいて算出される構造物の応答値である。またR(r*)は限界状態であり,r*は限界状態を算出するもととなる設計材料強度値(公称降伏応力等)その他の規格値である。なお,s(・)は構造解析の関数式であり,R(・)は強度解析式である。ただし,このRは必ずしも強度(断面力や応力で表わされる)とは限らず,たわみ,変位,ひび割れ幅等も含んでいる。
それぞれの限界状態の照査は,照査すべき限界状態を表示できる諸量(断面力,応力,たわみ,変位,ひび割れ幅,振動数等)を用いてRとSを表現して行う。たとえば,部材の座屈耐荷力などの部材全体の挙動に注目した照査は断面力,疲労などの局部的な応力状態に対する照査は応力度を用いて行う。
(2)照査式に部分安全係数が用いられていること
限界状態設計法では,式(1)の設計荷重値(s*),設計材料強度(r*)は,さらに式(2),式(3)のように表現される場合が多い。これは設計荷重値や設計材料強度がそれぞればらつきを有する量であるので,これらに対して一定の安全率を確保する必要があり,このために荷重係数や材料係数が導入されている。

また,安全率(ν)についても式(4)に示すように構造解析や強度解析の不確実性に対する安全率,構造解析係数νSおよび部材係数νと,νS,νに含まれない不確実性や構造物の重要度を考慮するための安全率νCに分けて表現される場合もある。

なお,許容応力度設計法では式(5)に示すように荷重,材料強度のばらつきやその他種々の不確実性を考慮した単一の安全率が材料強度に対して与えられているものと考えられる。

したがって,たとえば式(6),式(6′)に示す鋼部材の引張力に対する照査式からもわかるように,ばらつきの小さい死荷重とばらつきの大きい活荷重に同じ安全率が与えられていることになる。

限界状態設計法では,荷重のばらつきは荷重係数,材料強度のばらつきは材料係数,その他の不確実性は安全係数として考慮することができるので,許容応力度設計法では不明確であった安全率の内訳をより明確に示すことができる。
(3)部分安全係数の決定に確率的手法が導入されていること
荷重係数や材料係数はそれぞれ固有のばらつきを持った荷重や材料強度に対して安全性を確保するために導入された係数であり,これらを決定するには確率的統計的手法を用いるのが望ましい。いま,下図に示すように荷重および強度の確率分布をSおよびRとすると,構造物の供用期間中の安全性を確保するためには供用期間中にSがRを上回る確率PF=P(S>R)(破壊確率)が十分に小さいことが必要である。

荷重や材料強度のばらつきを扱う確率的手法は種々あるが,それらの統計的データがどの程度あるかによって各種の係数の決定方法もその内容も変わってくる。ほとんどデータのない場合には経験に基づいた工学的な判断により決定しなければならないことも考えられる。
以上,限界状態設計法の概念を述べたが,道路橋示方書への導入にあたっては,設計の実務が繁雑にならず,また誤解が生じないような内容とすることに留意する必要があろう。すなわち,照査すべき限界状態はまとめられるものはまとめて数を少なくし,これに対する荷重も組合せの数を少なくすることに配慮して設定するのが望ましい。さらに現行の許容応力度設計法の特徴の1つは照査式が簡明なことにあるので,限界状態設計法においても,各種の係数をできるだけまとめて簡明な照査式とすることが望まれる。

4 道路橋示方書の改訂の動向
道路橋示方書の各編が昭和53年または昭和55年に制定あるいは改訂されてから約10年が経過した。その間の技術の進歩に対応するため,現在日本道路協会の橋梁委員会において,道路橋示方書の各編の改訂作業が進められている。改訂作業は最終段階にあるが,以下に現時点での改訂案の主要な項目を示す。
Ⅰ共通編ではプレートガーターおよび2主構卜ラスの風荷重の変更,温度変化の影響を考慮する際の基準温度の設定,地震の影響と温度変化の影響の荷重組合せの規定の変更などであり,Ⅱ鋼橋編では耐候性鋼材のP種の削除,現場溶接部の許容応力度の条件付き緩和,リベットの記述の削除,トルシア形高力ボルトの規定の追加,疲労に関する規定の充実,鉄筋コンクリート床版の設計施工指針の統合,斜張橋ケーブルの安全率の変更,製作および架設に関する規定の充実などである。
また,Ⅲコンクリート橋編ではせん断力が作用する部材に関する規定の充実,鉄筋コンクリート床版の設計施工指針の統合,中間支点上の設計曲げモーメントの低減方法の変更,斜張橋に関する規定の新設などであり,Ⅳ下部構造編では基礎の設計上の区分の見直し,各種基礎の設計に共通する項目の整理統合,許容支持力・許容変位量等の見直し,鋼管矢板基礎に関する規定の追加,新しい設計施工技術に関する規定の追加などである。
Ⅴ耐震設計編では設計水平震度の見直し,地盤種別区分の改訂,連続橋の耐震計算法の充実,地震時保有水平耐力照査規定の設置,動的解析による照査規定の充実,けた端から下部構造頂部縁端までのけたの長さの規定の改訂などである。
これらはいずれも審議中であるが,成案を得次第関係機関に通達される予定である。

5 おわりに
道路橋示方書に関する最近の動向を述べた。現在供用中の橋梁を長持ちさせるために維持管理が今後ますます重要になることはいうまでもないが,これからは長持ちする,また維持管理が少くてすむ橋梁を建設してゆくことが大切である。道路橋示方書もその方向に向って内容を充実してゆく必要があり,限界状態設計法への移行に際してもこの認識のもとに設計者がその意図を理解できるように簡潔明瞭な形に整備する必要があろう。

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