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既存ストックを活用したまちなか再生の取組
横山哲英

キーワード:既存ストック、図書館、まちなか再生

1.はじめに
平成30 年4 月28 日、当市の中心市街地に新たな賑わい創出の拠点となる「都城市中心市街地中核施設(愛称:Mallmall[ まるまる])」が開業した。
今回開業したのは、図書館をはじめとする8つの公共施設で、うち3 施設は既存ストック(旧ショッピングモールと立体駐車場)をリノベーションして整備したものである。
施設開業後の状況としては、開業からの10 日間で全施設の来館者数(附帯駐車場除く)が11万人を突破し、図書館もわずか3 週間で来館者数10 万人を達成するなど、計画時点の予想を大きく上回るペースで来館者を集めており、久しく途絶えていたまちなかの賑わいが再生され始めている。
本稿では、まずは順調な滑り出しとなった中心市街地中核施設の整備に至る経緯と、整備に際して取り入れた視点、手法等について紹介する。

2.中心市街地の変遷と事業着手の背景
当市では平成25 年度に策定した都市再生整備計画「都城市中央地区」に基づき、中心市街地に新たな都市機能を集約し、賑わいの再生を図る事業として中核施設の整備を進めてきた。
これは、平成23 年に閉店した大型商業施設の土地・建物を活用し、官民が連携して公共、民間それぞれの施設や機能を集約整備することで、集客力の回復を図るとともに、既に集積している医療、金融、公共等の都市機能とのシナジー効果で、まちなかの賑わいを再生することを狙いとしている。
そこで、まずは当市の中心市街地の変遷と、本事業を開始するに至った経緯について説明する。

(1)線引き廃止の影響
当市は、戦前から鹿児島県の一部を含む宮崎県南・西部の経済圏の中心として発展してきた歴史を持ち、商業集積地であった当市の中心市街地(まちなか)もまた、圏域内外から来街者を誘引する中心核の役割を果たしてきた。当市では、昭和・平成期の市町村合併を経ながら都市形成を進めてきたが、昭和の合併後に導入した区域区分(線引き)制度によって生じた地域間格差を解消し、市内の均衡ある発展を図るため、昭和63 年、全国で初めて線引き制度の廃止に踏み切った。
しかし、線引き廃止後、開発の容易性やモータリゼーションの進展、バブル景気等により、用途地域縁辺部や幹線道路沿道等の用途無指定(白地)地域に対する住宅及び商業施設等の開発圧力が高まったことから、結果として人口密度の低下、DID 区域の拡大、中心市街地の求心力低下が進行することとなった。

(2)中心市街地の求心力低下
こうした状況を受け、当市では都市構造の中核となる中心市街地の活性化を図るため、地方拠点都市地域基本計画に基づき、平成6 年に土地区画整理事業に着手。市中心部において、居住に適した都市基盤の整備を開始した。また、平成11年には都城市中心市街地活性化基本計画を策定し、交流プラザや総合文化ホール等を整備したほか、平成12 年には、九州初となるシビックコア地区整備計画の承認を受けて国合同庁舎及び周辺部整備を進めるなど、中心市街地の機能回復、郊外への機能拡散の防止などに取り組んできた。

しかし、これらの中心市街地活性化事業を進める中でも、消費者ニーズの多様化やモータリゼーションの進展等はさらに加速し、郊外への大型商業施設の出店、複数のロードサイド型店舗の展開等が相次ぎ、こうした動きと連動するように、中心市街地で営業していた大型商業施設3 店舗のうちの2 店舗が閉店するに至った。こうしたまちなかの魅力低下に伴い、ピーク時(昭和60 年)には9,033 人だった中心市街地の終日歩行者通行量(休日)も徐々に減少し、平成22 年には、ついにピーク時の約20 分の1(458 人)にまで落ち込む事態となった。

(3)事業着手の背景
長引く景気低迷の最中にあった平成23 年1 月、中心市街地のシンボル的存在であり、最後の大型商業施設であった地元資本の老舗百貨店「都城大丸」が突如閉店した。これにより、市の顔となるべき中心部に、用途を失った約1.2ha の土地と、百貨店本館やショッピングモール、立体駐車場等の建物群が残されたほか、まちなかで唯一、生鮮三品を取り扱っていた百貨店の閉店により、日常的な買い物をする場を失った周辺住民の間には、いわゆる買い物困難者問題が発生するに至った。
この百貨店閉店を受け、まずは都城商工会議所を中心とする地元経済界が立ち上がり、平成24年9 月に跡地等の再生を目的とする会社を設立。平成25 年3 月には跡地等を一括取得するとともに、平成25 年7 月から商工会議所が主体となってアンケート調査や市民ワークショップを実施し、当市も協力しながら中心市街地の再生や跡地等の利活用に関する市民ニーズの集約を図っていった。
その後、集約した市民ニーズ等をベースに、平成26 年2 月、当市が都市再生整備計画「都城市中央地区」を策定。地方都市リノベーション事業を活用しながら、当市が図書館や子育て世代活動支援センター等の公共施設を、跡地等を取得した民間会社が買い物困難者問題の解消に向け、スーパーマーケット等の商業施設を整備する方向で事業に着手することになった。

3.中核施設整備に取り入れた事業手法
当市においては、こうした経緯を経て中核施設の整備に着手したわけであるが、事業の推進に際しては、さまざまな視点、手法を取り入れることにより、整備効果の発現(集客力の向上)、事業コストの圧縮や財源確保を図ってきた。ここでは、そのいくつかのポイントについて紹介したい。

(1)「市民ニーズ」に即した施設・機能集約
本事業では、経済動向に影響されず、持続的に多くの集客が期待できることから、8 つの公共施設を集約整備している。具体的には、既存ストック(旧ショッピングモール)を活用し、図書館と地域交流センターにリノベーションしたほか、都城大丸の立体駐車場を中核施設全体の附帯駐車場として改修整備している。また、跡地等を取得した民間会社によって解体された百貨店本館の跡地には、子育て世代活動支援センター、保健センター、地域交流センター、バス待合所、屋根付きの多目的広場を新築整備した。

中心市街地に集約したこれら施設・機能については、商工会議所や当市が行ったアンケート調査、市民ワークショップ等の結果を反映しているが、大きく分けて3 つの視点でニーズの充足を図ることで、市民の来街・来館動機に結び付けている。
まず、図書館は、さまざまな世代が利用する施設として市民共通のニーズに即した施設であり、本事業の核となる施設として当初から位置付けられていた。また、その機能や規模の充実も長年市民が望んでいたことであり、その充足(次項参照)を図った結果、平日で3 千人、休日には8 千人以上が訪れるという想定外の実績に繋がった。
また、子育て世代活動支援センターと幼児健診等を行う保健センターの集約整備については、子育て世代がほとんど中心市街地を訪れていないというアンケート調査の結果を受け、中心拠点区域外から移転・集約することで相乗効果を高めるとともに、子育て世代活動支援センターに魅力的な“ 遊び場空間” を整備することで、安定した来館者数(平日で約400 人、休日は約800 人)の確保を実現している。併せて、子育て世代の来街動機に影響する駐車場からの移動円滑化等にも配慮した取組も進め、結果的にかなりの割合の来館者がリピーターとして再訪する状況をつくっている。

さらに、まちなかでの定期的なイベント開催を望む市民の声に対応するため、天候の影響を受けない屋根付きの多目的広場を整備するとともに、年間200 回の自主事業実施を指定管理の条件としたことで、広場では平日、休日を問わず大小さまざまなイベントが開催されており、多様な世代が日常的にまちなかを訪れる動きに繋がっている。
公共施設の整備を進める上で、こうした市民との合意形成、ニーズの充足は当然のことではあると思うが、事業担当者としては、単にニーズに即した施設を整備するだけでなく、コストとのバランスを取りつつも、多面的にきめ細かい配慮をしていくことが、事業効果の発現にも大きく影響することを学ぶ良い機会になったと感じている。

(2)「ストーリー性」のある施設整備
本事業の核施設である図書館については、市民ニーズの充足と合わせて、集客力の向上と事業コストの圧縮を図るため、新しい手法を検討、実施してきた。
まず、今回の図書館整備では、ショッピングモールという既存ストックを有効活用することにより、交付金等との兼合いで新築整備では難しい規模の施設(旧市立図書館の約3 倍の床面積)を実現することができた。これは、仮に同規模の図書館を新築整備した場合と比較すると、約31 億円のコスト縮減に繋がっており、ストック効果を発現する取組事例として、一定の評価を受けているところである。
次に、驚異的な集客効果を見せた図書館としては、佐賀県武雄市立図書館の事例が記憶に新しいところであるが、当市においても集客力の向上を図るため、図書館の整備に際しては、さまざまな手法を模索してきた。ただし、既存ストックの活用であり、ショッピングモールと床荷重が全く異なる図書館へとリノベーションするという制約条件もある中、魅力的な図書館をつくるという目標達成は当初から困難を極めた。
試行錯誤の結果、最終的に今回の整備では、「図書館備品調達等業務」と「管理運営業務(指定管理業務)」、「カフェ運営業務」の3 委託業務をパッケージにし、公募型プロポーザルで事業者を選定する“VE・O・C 方式” という方法を実施することとした。これは、施設整備と並行して指定管理者を選定し、整備のプロセスに一定の関与をさせつつ、館内の家具・備品のレイアウト作成や調達、空間構成に対するVE(Value Engineering)を行わせることで、空間的な高質化を実現するとともに、開業後の指定管理業務(O:Operation)の円滑化を図ることも目的にしている。また、昨今の図書館ではトレンドとなっているカフェ(C:Cafe)の誘導・整備・管理運営も行わせることで、集客力の上乗せ効果も期待して選択した方法である。

プロポーザルの結果、従来の図書館にはなかった機能、「ストーリー性」のある施設整備・運営の考え方を提示し、空間的高質化の面でも優れた提案のあったMAL コンソーシアム(株式会社マナビノタネ、コクヨマーケティング株式会社、株式会社ヴィアックスで構成)を事業者として選定した。紙面の関係上、ここでは館内の設えの一部を紹介するにとどめ、その理念や機能の詳細については割愛するが、開館からわずか3 週間で10万人が来館した実績から、この手法を導入した効果については推察していただけると幸いである。

(3)最新の事業スキームへの転換
これまで、さまざまな中心市街地活性化事業を進めてきた当市では、今回の事業をまちなか再生のラストチャンスと位置付けており、その目的達成には本事業の円滑かつ確実な推進が必要であると考えてきた。
事業全体で見ると、公共施設整備は都市再生整備計画に基づき、その実現性がほぼ担保されている反面、民間が整備を担う商業施設等については、当初から、いかに事業を持続し、市民ニーズを充足する環境を維持するかが課題となっていた。
そうした中、平成26 年8 月、都市再生特別措置法の改正により、新たに都市再構築戦略事業と都市機能立地支援事業が創設された。当市は、事業推進の確実性を高めるため、まずは公共施設整備を九州管内で初めて、地方都市リノベーション事業から都市再構築戦略事業に移行することを決定した。また、民間施設整備についても、すべての事業用地を当市が取得して土地の流動化を防いだ上で、都市機能立地支援事業を活用し、買い物困難者問題の解消に繋がるスーパーマーケットを都市機能誘導施設に位置付け、公募によって事業者を選定する方針に転換した。
このように時機を逸することなく、最新の事業スキームへの転換を図ってきた結果、財源確保も含め、公共施設部分については円滑に事業を推進することができ、当初の予定通り平成29 年12 月の竣工を経て、今春の開業を迎えることができた。
一方の民間施設整備については、2 回の公募を経て選定した民間事業者が、本年度中には必須機能である商業施設(スーパーマーケット)と、ホテルや事務所フロアで構成する複合施設の整備に着手する予定である。事業に着手した平成25年度当時と比べ、民間施設部分の事業手法や主体者は変わったが、今後も官民連携の取組として民間事業者の支援を続け今回開業した公共施設とともに中心市街地中核施設の両翼をなす民間施設の早期完成目指していきたい。

4.おわりに
今回は、まちなかの既存ストックを活用しながら、さまざまな施設を集約するとともに、事業コストの圧縮や財源確保を図りつつ、施設整備効果のさらなる発現に.がる視点、手法を模索した当市の事例を紹介した。現時点では、一定の集客力を発揮している中核施設ではあるが、真の中心市街地活性化を実現するには、今後、中核施設で誘引した来街者を中心市街地全体へと導き、回遊させる方策、あるいは居住へと繋げていく施策の充実が必要であると考えいる。
本事業を計画当初から牽引してきた当商工観光部としては、こうした今後展開を見据え、施設整備と並行しながら、平成29 年度からの3 ヵ年計画で、さまざまな市単独のソフト事業(中心市街地再生プラン事業、まちなか活性化プラン事業等)を実施し、魅力的な店舗・事業所等の誘導、再開発等の促進を進めている。
平成31 年度の民間施設完成で区切りとなるハード整備とともに、こうしたソフト事業を畳み掛けるように展開していくことで、このまちなか再生のラストチャンスを確実なものとできるよう、今後も試行錯誤していきたいと考えている。

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