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俵山トンネルルート(県道熊本高森線)の全線開通

増尾明彦
伊藤直哉
橋爪隆介
岩下光司朗

キーワード:熊本地震からの復旧・復興、権限代行、山間部の道路構造物の被

1.はじめに
2016 年 4 月に発生した熊本地震では、かつて経験したことのない最大震度7を2 回観測し、熊本地方を中心に各地で甚大な被害が発生した。九州地方整備局では、熊本地震の発災直後より 国土技術政策総合研究所(以下「国総研」)および国立研究開発法人土木研究所(以下「土研」) などと連携し、整備局担当部局の熊本県内の熊本河川国道事務所や立野ダム工事事務所などで、緊急の復旧工事や点検・調査にあたった。同年 7 月には整備局内に「熊本地震災害対策推進室」を設立、2017 年 4 月からは被災地直近の南阿蘇村に「熊本復興事務所」を開所し、国道 325 号、阿蘇大橋地区斜面対策などの復旧事業について、現在も鋭意進めているところである。

2.県道熊本高森線の被災状況
県道熊本高森線は、地震動に伴う地盤の変動などにより、山間部に架かる橋梁の被災が著しく、また斜面や高盛土箇所の崩落、路面のひび割れや段差が至るところで発生し、トンネルでは覆工の崩落・ひび割れ等が発生した。

本県道の権限代行区間は、熊本地震にて活動されたと考えられる布田川断層の東端部に位置し、さらに断層は路線と並行していた、山間部の断層沿いに敷設された道路の谷越え橋梁が被災しており、地盤の変状などの影響を受けたと考えられる1)

3.県道熊本高森線の復旧経緯
甚大な被災を受けた県道の復旧方針は、橋梁およびトンネル・土工についてそれぞれプロジェクトチームを設置し会議(以下「PT 会議」)を実施し、その中で、国総研や土研の技術支援を受けるとともに、必要に応じ学識経験者の意見を得て決定した。
本県道は橋梁の被災が著しく復旧に時間を要することから、橋梁連続区間や被災が著しい区間について旧道等を活用した迂回ルートを整備して、暫定的な早期復旧を図ることとした。
大規模災害復興法に基づく国の代行事業として災害復旧を進めている俵山トンネルルート(県道熊本高森線:西原村小森~南阿蘇村河陰間、約 10㎞間)の復旧手順として、2016 年 12 月24 日に一部旧道を通る迂回路の開通を、続いて2017 年 12 月 14 日に扇の坂橋及びすすきの原橋の復旧工事完了と、俵山大橋と並行して設置した工事用仮橋を活用し、鳥子地区の部分開通を行った。以降は橋梁補修工事を順次完了させ、2018 年7月 20 日に桑鶴大橋の復旧完了後に旧道迂回路からの交通切替えを実施、2019 年 8 月3 日には俵山大橋の復旧完了に伴う仮橋迂回路からの交通再切替えを行った。そして同年 9 月 14 日に最終区間である大切畑大橋の復旧が完了し、震災発生から 3 年半の復旧作業を経て、ついに俵山トンネルルートの全線供用を再開した。

4.県道熊本高森線の復旧概要
(1)トンネルの復旧概要
復旧対象の 2 トンネルのうち、甚大な被害を受けていた俵山トンネルの復旧に当たっては、余震が続き交通機能が麻痺している中、発生 2 ヶ月後の 6 月よりトンネル調査を開始した。調査の結果、俵山トンネル全線で覆工コンクリートの崩落、剥落等が多数確認され、熊本側坑口付近では電気室が周辺地盤と共に崩落していた。また震災後の豪雨により坑口付近の斜面が崩壊する等、被害が拡大していった。更に、竹割坑門部は貫通ひび割れと目地部での水平移動に伴う大きなずれが確認された。復旧工事は調査完了後の 8 月より着手し、覆工撤去・鉄筋を追加しての打換え、支保工補修・再設置、インバートの撤去・打換え、剥落対策、コンクリート舗装の撤去・打換え、電気・防災設備の再設置などを実施した。

震災後不通となった俵山トンネルルートの早期供用が求められる中、工期短縮を図る必要があった。特に坑内工事や明かり部工事が輻輳する坑口部ではプレキャスト坑門を採用し、現場工期を短縮すると共に部材の据え付けを夜間に実施、また坑口明かり部の崩落土砂撤去・切土・法面工事等を昼間に実施することにより施工の効率化を図った。また作業員を全国から集め最大 200 人 / 日以上を投入して復旧工事全体での工程調整を行い、昼夜連続での復旧工事を全力で推進し、工事着手から僅か 6 ヶ月後の 2016 年 12 月 24 日に暫定供用を開始することができた。

(2)土工部の復旧概要
県道熊本高森線や暫定供用時に活用する旧道(村道)などの土工部では、斜面や高盛土部の崩落が至るところで発生した。被災当初の迂回路は標高 1,000m 超の外輪山を通過する通称:グリーンロードしかなく、冬季の凍結・積雪による通行止めが懸念された。そこで暫定ルートの 2016 年内供用を目標とし、俵山トンネル復旧と並行して、土工部の早期復旧を推進した。
復旧工事にあたり、崩壊土砂等の発生土は主として火山灰質粘性土で、含水時のトラフィカビリティー(作業性)が低下すること、更に土捨場の確保が困難なことから、移動式改良機を活用し盛土材として有効利用するなど施工の合理化を図った。また供給プラントも被災し、生コン供給が厳しい現場条件、打設・ 養生に要する期間短縮の観点から、擁壁はコンクリート使用量の少ない工法としてアンカー式ブロック積み擁壁(ラップブロック工法:NETIS:KT-020077-V)を採用し、施工時間の短縮や工事車両の削減を図った。

(3)橋梁の復旧概要
山間部に架かる橋梁 6 橋では、落橋はなかったものの、周辺地盤の崩壊や移動等により、下部工や基礎工に損傷が発生した他、桁の座屈変形や上部工の移動・逸脱など大きな被害を受けた。表-1 に、各橋梁における被災概要・対策概要・完了時期について整理する。
橋梁の復旧は、被災程度が比較的軽微であった、大切畑ダム橋は 2016 年度内に完了、すすきの原橋、扇の坂橋については、震災翌年 12 月の鳥子地区の部分開通に併せて復旧を行い供用を再開させた。以降の桑鶴大橋、俵山大橋、大切畑大橋の残り 3 橋については、暫定供用後も復旧工事に鋭意取組み、順次工事を完了させていった。
これら 3 橋の被災状況は先行した橋梁より甚大であり、かつ今までの地震による被災で見られなかった損傷形態が確認されるなどしたため、より高度な技術的課題へ対応する必要があった。その解決に当たっては、前述した橋梁 PT 会議を開催し、国総研、土研の技術支援を受けると共に、復興事務所内と同じ庁舎内に開設された「(国総研)熊本地震復旧対策研究室」と連携しながら復旧に取り組んでいった。
その結果、国内初の道路鋼斜張橋の斜ケーブル交換の実施(桑鶴大橋)2)、斜面変状が想定される範囲外への橋台の再構築と座屈した上部工の架替え(俵山大橋)3)、約 4,000t もの上部工の横移動と損傷主桁を戦略的に残置したままの追加主桁設置(大切畑大橋)4)などの復旧技術・工法の採用など、数多くの高度な技術支援を基に、確実な早期復旧に取り組んだ。

5.県道熊本高森線の開通
(1)今後の維持管理に向けて
権限代行にて復旧に取り組んだ県道熊本高森線の桑鶴大橋、俵山大橋そして大切畑大橋の復旧完了にあたり、熊本復興事務所と熊本地震復旧対策研究室と共に、供用開始前に道路管理者となる熊本県への現地説明会を開催した。
現地説明会では、各々の橋梁の復旧技術の概要や、構造や復旧方法を踏まえ今後の維持管理に役立つデータを、管理者である熊本県に説明した他、今後の維持管理に有用な基礎データの収集を目的とした実橋試験を実施した。
これらの実橋試験では、計測方法は何れも容易な方法でデータを取得できるよう配慮しており、将来的な被災時の橋梁の健全性の確認など、今後の維持管理に活かせるものと期待している 5)

(2)俵山トンネルルートの全線開通
県道の権限代行区間において、一番最後の復旧難関箇所となった大切畑大橋の復旧作業が 2019 年 9 月に完了し、震災発生から 3 年半ぶりに元の県道の姿に戻った。同月 14 日、澄み渡る青空の下、来賓・関係各位・地域住民が参加し、開通式典が開催され本ルートの全線開通を祝った
今回の俵山トンネルルートの全線開通により、南阿蘇地域と熊本都市圏との所要時間の短縮や、地域産業である農畜産業や観光業の発展に寄与すると共に、熊本地震からの完全な復旧・復興に向け、更なる推進力となることを期待する。

謝辞
阿蘇地域の復旧事業にあたり、国総研、土研等で構成される各検討会の委員から助言を頂いた。また事業に協力頂いた地域の皆様、昼夜厭わずに復旧にあたった調査および設計会社や施工業者等の関係者に感謝申し上げる。引き続き、関係各位と連携しながら、残る復旧 ・ 復興事業について、着実な事業推進に努めていく所存である。

参考文献
1)吉見雅行:断層活動・地盤変状について、土木学会地震工学委員会、2016 年熊本地震 1 周年報告会
2)松尾仙彦、橋爪隆介、嶋田智大:熊本地震により被災した斜張橋「桑鶴大橋」の復旧について、九州技報、第 64 号、2019.3
3)宮本尚卓、増尾明彦、橋爪隆介:熊本地震により被災した俵山大橋の復旧について、2019 年度九州国土交通研究会
4)岩下光司朗、増尾明彦、橋爪隆介:熊本地震により被災した大切畑大橋の復旧について、令和元年度国土交通省国土技術研究会
5)星隈順一:桑鶴大橋の復旧対策技術の現地説明会を開催~復旧プロセスで得たデータを今後の維持管理に活用~、土木技術資料、第60 巻、第 9 号、pp42 ~ 43、2018

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