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上尾トンネルにおける建設CALS実証フィールド実験への取り組み

建設省九州地方建設局宮崎工事事務所
 調査第二課長
(前)九州地方建設局 大分工事事務所
 建設監督官
春 田 義 信

1 はじめに
平成8年度より,建設省では建設CALSの実現に向けて実証フィールド実験を進めている。大分工事事務所では,平成9年度より「上尾トンネル上り線新設工事」で施工管理部門を中心に建設CALSの実証フィールド実験を実施しており,従来の紙を媒体とした情報の作成・交換・保存をコンピュータを利用しで情報の電子化を図り,データベースとして保存するとともに,通信ネットワークを介して共有・連携の実験をしたものであり,1事例としての紹介ならびに今後の課題について報告するものである。

2 実験の内容と目的
(1)工事打合せシステム
① TV会議システム+サイトモニタリングシステム
従来,対面で実施してきた工事打合せと現地での状況把握をパソコン画面上で同時に行うシステムで,書類と相手の顔を見ながら打合せ,画面切替によりビデオ映像で現場状況を把握することも可能である。
監督官詰所から現場まで往復約30km,1時間を要することから距離がもたらすロスを解消するため当システムを採用している。

② 電子メール(E-mail)による文書データの交換
上記の打合せ完了後,打合せ内容確認のため書類をE-mailで交換,発注者側から返信する際にはファイルに保護をかけ,その後のファイルに変更を加えることができないようにしている。ファイル名称にはルールを定め,文書保存後データの検索をWindows95のファイル管理ソフトExplorerにより簡単に行えるよう工夫した。
当詰所内も連絡ミス防止のためE-mailで送受信を実施している。

③ 電子印鑑を用いた決裁
今回のCALS実証実験では,従来の業務プロセスをそのまま電子化した場合の情報交換や情報共有について取り組んでいる。
その代表的なものとして決裁のための捺印作業があげられるが,今回のCALSの対象となっている文書は,受注者・発注者ともすべて電子印鑑により決裁を行っている。

(2)情報共有およびデータの標準化
施工管理情報ならびに工事実績情報の電子化を図ったため,それらの電子情報をデータベース化して受発注者間で共有し活用している。
データベース登録情報は,打合せ関係書類のほか計測管理情報や進捗状況情報などがあり,電子化したものはほとんどDB化している。また,計測関係や進捗状況は原則として日々更新しておりリアルタイム情報として活用が可能となっている。
本DBの公開はセキュリティの面で問題があるため,事務所・詰所・現場の3カ所からのみ閲覧可能なネットワークで運用している。
また,本DBではデータの標準化への取り組みも行っている。作成した文書データは一太郎やWord,Excelといった様々なアプリケーションに依存しているため,閲覧するためには作成したアプリケーションが必要であるが,今回の実験ではPDFファイルを用いて管理・表示を行った。PDFファイルではアプリケーションの違いやプラットフォームの違いに関係なくオリジナルの体裁を保ったままでブラウザに表示することが可能である。PDFのReaderは無料で入手可能である。

(3)電子媒体による成果品納入(予定)
現段階では,どんな種類の電子媒体で成果品を提出してもらうか検討中である。提出の対象となる成果物は工事打合せ簿や工事写真,計測データ等であるが,いずれもカメラ画像やスキャナデータを多用しており大容最の記録媒体が必要である。これまでに候補としてMOやCD-ROMを検討しているが,現段階の写真管理基準(案)の規定ではMOの場合230MB以下の容最のディスクしか認められておらず,大量なデータを記録するためにはCD-ROM(650MB)が有利と考えられる。
さらに,通常市販されているパソコンは,CD-ROMは装備しているがMOは外付けの場合がほとんどで,利用面を考えた場合でもCD-ROMが有利と考える。

3 上尾トンネルCALSの特徴
(1)経済的で簡単なシステム
建設CALSを推進するためには誰もが手軽に利用でき,安価でなければ意味がない。CALSだからと構えて多大な投資をする必要はないと思われる。
今回の実験に使用したパソコンおよび周辺機器,ならびに使用ソフトは下の表のとおりすべて市販品でなおかつ安価なものを使用している。回線の設置費用まで含めて1,700千円程度となっている。

(2)ネットワークの使い分けでセキュリティの確立
今回の実験では目的に応じて下記3種類のネットワーク(右上図参照)を使い分けしている。
・TV会議:詰所と現場を直結
・E-mail:インターネット利用
・共有DB:事務所,詰所,現場を直接ルータを用いて接続

(3)従来の業務プロセスの検証
従来の対面での打合せに対してTV会議の実施,ワープロで作成していた書類をパソコンで情報として作成,印鑑による決裁に代えて電子印艦の採用,書類の管理をデータベースヘ移行し検索が容易に行えるよう改善,等々色々と試みたが少しの工夫で従来プロセスも容易に電子化が可能である。

(4)情報共有への試み
① 詰所と現場+事務所も情報共有
詰所と現楊の当事者だけでなく,事務所からもデータベースを覗きにいけるようにしたことで,日々の工事進捗状況や切羽の画像・各種データが事務所でもリアルタイムに入手可能となった。
② 情報の標準化への試み
九州地建で使用している代表的なソフトは一太郎とExcelであるが世間一般では様々なソフトが使用されている。せっかく構築したデータベースも作成したソフトがないと閲覧できないようでは機能が半減してしまう。その対応としてPDFファイルを用いて管理・表示を行った。PDFファイルの閲覧ソフトは無料で配布されている。
③ 日常作業がDBに変身
従来の業務プロセスを可能な限りパソコンやデジタルカメラで電子化した結果,日常作業の書類作成が完了した時点でデータベースのデータが完成したことになる。トンネルの場合,工事打合せに加えて各種計測や進捗状況管理が頻繁に行われており,日頃から実施している作業をパソコン上で作業しただけで情報として活用範囲が広がった。その一例として図ー6に切羽の観察記録を紹介する。

④ 簡単に閲覧できるホームページ形式データベース
せっかくのデータベースも操作方法が複雑であったり手間がかかるようでは,データベースを利用する人が限られてしまう。パソコンに不慣れな人でも検索や掘り下げが簡単にできるようインターネットのホームページ形式でデータベースを構築した。そうすることによって見たい情報が分かりやすくスピーディに検索が可能となった。

(5)ファイル名称の付け方にルールを設定
データベースの元となる決裁済みの文書はパソコン上に作成した項目別フォルダ(図ー7)で保存・管理している。各書類には内容と決済日が分かるようにファイル名称の付け方にルールを設けており,元データでも文書検索がスピーディに行えるよう工夫している。

4 これまでに発生した問題点と対応策
① ファイルの肥大化によるE-mailでの送信不能
(原因)デジタル画像やスキャナデータの多用によるファイルサイズの肥大化,プロバイダのメールサーハ容最の不足(2MBまで)などがあげられる。
(対策)ファイルの圧縮ソフト(WinZip)を導入し,画像データの解像度を設定した。
② ファイルの改ざん防止
(対策)詰所側で決裁後の文書に書き込みパスワードを設定して内容変更不可とした。受注者の名誉のため付け加えるが,これまでに改ざんは一度もない。

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③ パソコンやネットワークに関連したトラプル
(対策)CALSシステムの構築時に発注者側でシステムの専門技術者を常駐させトラブルに対するサポート体制を樹立。CALSの運用を開始した段階では対処方法について受発注者ともある程度技術を習得したため専門技術者の常駐を解除した。

5 実験結果の評価・従来方式との比較
(1)定性的評価
① TV会議等による決裁の迅速化
② 日常業務=データベース=成果品
③ 文書情報のデータベース化による書類検索の迅速化
④ 事務所からもリアルタイムで現場状況等把握
(2)定量的評価
従来の対面方式による打合せでは,書類1件の決裁完了までに,打合せ時,提出時,返却時の最低3回の移動が必要であった。
CALS方式ではTV会議システムとE-mailによる決裁のため移動回数はゼロとなる。
その結果,移動に伴う燃料費の節減は図られたが,代わりに通信費のコストが上昇した。
また,従来の紙による資料保管方式から電子データでの保管となったことから,資料保管スペースと重量の削減がなされている。

6 今後の課題
(1)調査計画から維持管理まで一元化されたデータベースの構築が必要
今回のCALS実証実験は工事部門の施工管理について実施してきたが,構築したデータベースの有効活用を図る意味からも維持管理部門への引継が必要である。将来的には,調査計画から維持管理までの一元化されたデータベースの構築が必要と思われ,データ整理と管理の方法について考える必要がある。
今回の実験では地図情報(GIS)は使用していないが,設計変更等に対応するためにはGISの積極的活用が必要と思われる。
(2)データの標準化
現状では,アプリケーションに依存したデータの交換が行われている。受発注者間のアプリケーションの違いやバージョンの違いなどにより様々な問題が生じた。使用するアプリケーションを統一することは実際には困難であると思われ,今回の実験ではPDF形式での標準化ファイル管理について試行を行ったが,PDF形式の場合加筆修正ができないという長所(改ざん防止)があるものの,逆に修正が不可能というデメリットも合わせ持っていることが判明した。この問題については,電子化の進展に合わせて適当な標準フォーマットの出現を待たねばならない。
(3)建設CALS教育と専門技術者の育成
今回の実験が比較的スムーズに進展した背景として,受発注者双方のシステムに精通した技術者の存在が大きい。私自身も含めて,実際にシステムを運用していくためにはパソコンの教育とサポート体制の充実が不可欠であり,今後,建設CALSの進展を図る上では重要な問題である。
(4)事務所へのCALSサーバ設置の必要性
今回の実験では1つの工事に対しての実験であったため,比較的簡易なシステム構成で対処できたが,今後,複数の工事やあらゆるフェーズでの実験若しくは運用がなされれば,図ー10に示すように事務所側にCALSサーバを設置するなどの対応が必要である。
また,同時に高速・大容量のデータ通信が要求されることは間違いなく,ネットワークの回線速度や容量・セキュリティの観点から通信回線については専用線の必要性が高いと思われる。

7 おわりに
本来,建設CALSは官と民さらに一般住民まで含めた広い意味での情報の交換・共有・連携を目指しており,実現に向け官民一体となって取り組んでいく必要がある。

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