九州技報 第40号 論文

桜島溶岩に巨大場所打ち杭(φ3000mm)・(オールケーシング工法)の挑戦

九州地方整備局 後藤 清正

 

1 はじめに
本工事は,一般国道220号の早崎防災事業(牛根地区)として計画されている牛根大橋(仮称:バランスドアーチ橋)P1下部工の杭工事である。この杭は桜島溶岩の地質に橋脚の基礎杭として,国内で最大級(世界で2台)の場所打ち杭(オールケーシング工法¢3000mm,12本)で大深度(最大約60m)を施工したものである。その工法は新技術・新工法のスーパートップ工法(RT-300H)である。
この施工箇所は,桜島南東部の鹿児島湾に面した海岸線に位置し,桜島が大正3年(1914年)の噴火活動の際に噴出した大正溶岩からなる地質である。そのため当初想定外の事態として,場所打ち杭施工中に地山変状を引起こす特殊地盤(ポーラスな地質)によるジャーミング(砂・岩砕の堆積・圧密)の発生が起こり,掘削機のケーシングがロックしたことにより掘削不能となった。そこで原因の究明及び工法検討・評価を行い,オールケーシング機械に発生するトルク値を照査し経済性,施工性に優れた補助工法を選定し,場所打ち杭の完成に至った。本論文は,完成までに至ったプロセスと評価について報告するものである。
 
2 P1橋脚基礎工の概要
2.1 工事概要
(写真-1,2,3,4,図-1,2参照)
杭 径:¢3,000mm
杭本数:12本
杭 長:31.0~59.5m(平均:46.2m)
掘削長:34.7~60.4m(平均:48.8m)

写真-1 牛根大横完成予想図

写真-2 P1橋脚施工中
 

写真-3 スーパートップ工法施工中

写真-4 3mのケーシング

 

図-1 牛根大橋全体図
 

図-2 P1杭橋脚図
 
3 施工箇所の溶岩地質の概要
(図-3,4参照)
現場周辺の桜島大正溶岩は固結程度差により,非常に硬いAn2溶岩(安山岩溶岩)と空隙や岩魂を含む非常にポーラスなAn1溶岩(火山灰質砂礫)の2層に区分される。特に施工地点の沿岸部は,急勾配であり崩壊土砂が堆積し,表層部は海水に洗われて,レキや岩魂のみが多数分布している。調査ボーリングのデータより,N値が50以上の箇所が点在し転石の存在も懸念されていた。基盤以外の地盤は非常にポーラスであり,透水係数も非常に大きく1.6×10-1程度である。

図-3 地質模式図

図-4 地質縦断図


4 スーパートップ工法の選定経緯
当該工事は,地質の概要で記述したとおり,粒径が微細で密度が低く粘性に乏しい火山灰で形成された火山灰質砂礫層が上層部を占め,その下層の岩盤(安山岩溶岩)を支持層とする海中の支持杭構造となる。そのために,長尺にわたる孔壁保護を行いながら岩盤掘削が可能であり漁港内の水質保全に配慮した工法選定が条件となった。そのためオールケーシング工法を採用した。
オールケーシング工法とは,先端に切削刃を取り付けられたケーシングを全回転型オールケーシング掘削機(以降,掘削機と称す)により回転圧入することで孔壁を保護しつつ,ハンマーグラブなどの搬出機で中掘りを行う工法である。通常の造成杭径は¢2,000mmまでが標準である。当該工事では,海中の転石を包含する火山灰質砂礫層の地盤を¢3,000mmの大口径で且つ約60mの長尺掘削を行うため,孔壁とケーシング外周面との接触面積の増大に伴う大きな摩擦抵抗が生じ,ケーシングを引き抜く作業の引き抜き力が大きくなることが想定され,その際の引き抜き力を確保した機械性能が要求された。そこで検討した結果,標準の掘削機では要求される能力が確保されないために,大深度掘削対応機として開発された現在世界に2台しかないスーパートップ(RT-300H)機を採用した。図-5にオールケーシング工法の標準機械構成を示す。また表-1に施工能力の比較を示すとともに,図-6に従来使用されている機械との機構の違いを示す。

図-5 硬質地盤用オールケーシング工の標準機械構成
 
表-1 掘削機(径3000mm対応)比較
【RT-300Hの特長】
・ハイパワー・・・・従来機(RT300)に比べ,押込み/引抜き力を40%,回転トルクを90%増強することにより,多重層掘削において増大する周面摩擦に対抗するケーシング操作能力を有している。
・パワーアップ機構・・・・非常ボタンを押すことで,最大トルク・引抜力を瞬時に約20%アップでき,より安全なケーシング操作が行なえる様,緊急脱出機構を有している。
・くさび型チャック機構・・・・くさび型チャック機構は独立した6~16個(RT300Hは16個)のくさびをケーシングと本体の間に圧入してケーシングを保持するため滑り難く,「バンド型」と比べチャックカが大きい。

図-6 機構の違い
 
サブチャック機構・・・・メインチャック以外にケーシングの自重を保持するダブルチャック機構を採用している。ケーシング引抜き時にはメインチャックにより1ストローク分ケーシングを引き抜いた後,次回ストローク分の引抜きを行なうためにメインチャック位置を下げ,支持するまでの間ケーシング位置を保持するために全ケーシング重量を支持する必要があり,標準径(¢1500)掘削長では一般的にクレーンにより懸垂するが,大口径掘削においてはケーシング重量が大きく,クレーンに対する負荷が高くなるため掘削本体による支持をおこなえるようサブチャックが装備されている。


5 P1橋脚施工における経緯と検討項目
平成16年11月に1本目であるA1杭の掘削を開始した。ところが,溶岩地質の特異性から,掘削時のケーシングに対し想定以上の拘束が生じ,深度27m地点で掘削機械の能力を超えた負荷が生じ,掘削不能の状況に陥った。その後検討を重ね試験施工で補助工法等の検証,評価を行い場所打ち杭を完成させた。図-7にその経緯と検討項目を示す。

図-7 場所打ち杭施工の経緯
 
6 ケーシングロックを起こした主な原因についての考察
1 ケーシングロックを起こした主な原因について考察すると,以下の4項目が考察された。
① ジャーミング現象の影響
② 機械重量の鉛直荷重の影響
③ 孔口崩壊の影響
④ ハンマークラブ等機械の振動の影響
次に主な発生原因となるジャーミングについて考察する。
 
7 主な原因のジャーミング(ケーシングロック)発生原因と位置の推定について
7.1 ジャーミング発生の概念
孔壁の崩壊により,砂・岩砕が下部の硬質層(N≧50)の孔壁とケーシング外側面との隙間に堆積・圧密したことでケーシングがロックされたと考察した。
7.2 ジャーミング発生模式図
A1杭におけるジャーミング発生位置想定図及び柱状図を図-8に示す。
 

図-8 ジャーミング発生模式図
 
7.3 ジャーミング発生位置の想定
経済性を考慮し,発生位置を特定することにより限定的な対策の可能性の検討を行った。その結果ジャーミング発生位置である硬質層(N値≧50)の位置の想定は,以下の理由により困難であると想定された。
・掘削試料と柱状図の比較では相違が見られる箇所が多く,支持層以外の硬質層の特定ができない。
・本現場の地山は,ポーラスで緩い溶岩砂礫であり転石・空洞等が多く存在するためボーリングデータから連続した地層としての評価,判断が困難である。
結論として,位置を想定したとしてもその信頼性が著しく欠けるものとなり,ジャーミング防止対策の局部的な対策は不可能である。


8 試験施工による対策工法の選定
(表-2参照)
以下の試験施工した対策工(補助工法)の採用経緯と目的について記述する。
 
表-2 対策工(補助工法)の採用経緯と目的

 
8.1 採用した補助工法の経緯と目的
① 桟橋追加施工(図-10参照)
A1杭施工における掘削不能の原因として,機械設置版の不等沈下による掘削機械が傾斜することになり,ケーシングが傾く。ケーシングが傾くことによる回転時の偏芯によって摩擦力が増大して掘削不能となる。そこで,ケーシング偏芯防止として必要とした。(掘削機械荷重:120t)図-9参照

 

図-9 偏芯を起こしたケーシング姿勢概念図
図-10 ①桟橋追加施工図(赤枠外の追加施工)
  
② 孔口地盤改良
A1杭施工における掘削不能の原因として孔口付近の崩落が考えられ,孔口部崩落対策が必要とされた。(図-11,12,写真-5参照)そこで,C1試験杭の対策工として孔口付近を地盤改良により補強することで孔壁の崩落防止を行い,地表面付近のトルクを低減させることにより掘削深度を増加させること,及び地盤改良による地盤抵抗の低減を図ることを目的とした。

図-11 A1杭 孔壁崩壊モデル

 

図-12 孔口改良モデル

 

写真-5  A1杭 孔壁崩壊状況

 
③ 孔壁地盤改良
A1,C1杭における試験施工で発生した,ジャーミングによるケーシングロックを発生させず,C2杭の試験杭を完成させるためには,補助工法として,孔壁地盤改良による孔壁崩壊防止対策を追加施工行うこととした。
孔壁地盤改良工法の代表的な工法としては,安定液(ベントナイト泥水)を使用する方法が一般的である。しかし,当現場においては,以下の理由で薬液による孔壁地盤改良とした。(図-13,14参照)
・海域内での工事であり,透水係数:1.6×10-1と非常に透水性が高い地盤であるため海域への流出が懸念される。
・プラント設備が過大となり,現場内での設置場所の確保が困難であること,及び泥水の最終処分が発生すること等から経済的ではないと考える。
・泥水中でのコンクリート打設となり,杭設計において配慮が必要となる。
地盤改良工の計画
試験杭及び地盤改良試験施工等の結果を踏まえ,以下のとおり計画・施工した。
【崩壊範囲の想定】
本地山における緩み領域を締切鋼管矢板施工中に発生した地山挙動時に検討された緩み領域調査の結果1.5mと想定した。
【改良範囲の設定】
試験注入結果から,注入影響範囲(直径)を1.6mと設定した。
【注入材料】
当該現場は,国立公園および魚の養殖海域内での作業であること及び大量の薬液注入工事であること等から,環境への影響を考慮した材料選定が重要であることから,今回の薬液注入工における使用材料として,非アルカリ系(シリカゾルグラウト)注入材を使用することとした。

図-13 ②③地盤改良施工範囲
 

図-14 ③孔壁地盤改良概念図
 
④ 滑材(安定液)の使用について
A1杭施工における掘削不能の原因として掘削時のケーシング拘束対策として滑材(安定液)の効果としての,以下の効果を得るための目的として滑剤(水溶性ポリマー安定液)を使用することとした。
a.掘削時の地山とケーシングの周面摩擦力の低減効果
b.水頭差確保のための孔内水位の持続性
⑤ 油圧ハンマクラブの使用
ジャーミングの防止対策として,ケーシング内の掘削・排土施工時の地山衝撃を考慮し,緩和することのために油圧ハンマクラブを利用することとした。
 
8.2 試験施工時における対策工法結果
A1杭のケーシング拘束による掘削不能の原因,検証を行い対策工として,試験施工も含め各種補助工法を採用した。表-3に各場所打ち杭施工時に採用した補助工法とその結果,図-15に試験施工時のトルク値を示す。
 
表-3 各杭施工時の採用補助工法と結果

 

図-15 A1,C1,C2試験施工時のトルク値


9 本場所打ち杭造成のための対策工(補助工法)の選定
前述における試験杭の検討結果の考察により本場所打ち杭造成のための対策工(補助工法)を表-4のとおり選定し施工することとした。なお、滑材の使用については経済性を考慮して孔壁地盤改良工のみで対応出来ると判断出来,不採とした。
・A1,C1,C2杭試験施工からのトルク低減確認(図-16参照)
滑材効果:40%低減
孔壁地盤改良効果:48%低減
(A1杭とC1杭で滑材効果,A1杭とC2杭で孔壁地盤改良効果の低減率推定)
 
表-4 採用した対策工(補助工法)の選定

 
10 採用した補助工法併用による施工検証
以下の内容について施工検証を行った。
① 桟橋施工,孔口地盤改良
・初期トルクの低減確認(図-16参照)
・孔壁自立状況確認(写真-6参照)
 

図-16 C2杭における実績トルク
 

写真-6 孔壁自立状況
 
② 孔壁地盤改良,油圧グラブの使用
・周面摩擦力(トルク)の低減確認(図-16参照)
A1杭試験施工時(掘削不台診及び造成完了時(対策工実施)の実トルクデータを図-17に示す。図-17のトルクグラフデータから,本場所打ち杭施工において実施した対策工(補助工法)の効果として想定したオールケーシング機械に発生するトルク(周面摩擦力)48%以上の低減効果を得ることが検証できた。その結果を基に対策工を行った。その結果,未施工の場所打ち杭の施工において,施工中大きなジャーミングの発生(ケーシングロック)もなく,全杭の造成を完成することができた。

図-17 杭試験施工時(対策工無し) 杭造成完了時(対策工実施)
 
11 あとがき
試験杭となったA1,C1,C2杭施工については,幾度となくケーシングが拘束され掘削不能の状態に見舞われた。そこで検証により掘削時のオールケーシング機械に発生するトルクを想定し地盤改良(薬液注入工)等の補助工法を併用することにより,場所打ち杭基礎を完成することが出来た。一般的に類似した地質で,変状等を発生させないためには,外部応力を地盤に極力与えない工法の採用が最重要課題といえる。しかしながら,外部応力を与えず施工することは極めて困難である。
今回の採用した工法としての場所打ち杭オールケーシング工法(全周回転掘削工法)は,岩を切削しながらケーシングによって孔壁を防護する場所打ち杭工法の中で最良の工法であったにもかかわらず,ケーシングが拘束される結果となった。そこで,溶岩空隙や岩魂を含むポーラスな岩盤に薬液を充填すること等の補助工法の併用によって,孔壁の崩壊を防ぎ掘削中のケーシングにかかる周面摩擦力を軽減することで掘削可能となった。今後,同様な特殊溶岩地盤への計画においては,今回の事例をもとに対処することが望ましい。しかしながら,一般的な地盤に適用する場合は経済性,施工性に優位となることが考察される。
参考までに牛根大橋の現在の工事状況を紹介すると,バランスドアーチの上部工については,鹿児島市で地組がちゃくちゃくと進んでいる。現在,施工中の下部工完成後に,4100t吊りFC船により上部工(3分割施工)を海上からの架設で予定されている状況である。