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人々の生活を支え続ける曲渕ダム


今 泉 暁 音


1.はじめに
平成30(2018)年度の土木学会選奨土木遺産として、福岡市早良区の「曲渕ダム(写真- 1)」が認定された1)。曲渕ダムは、福岡市水道創設の水源として1923(大正12)年に完成した水道専用ダムである。形式は重力式コンクリートダム、堤体表面は御影石の布積み、堤体は粗石混じりコンクリートである2)。現在も、福岡市の水源として使用されている。



2.曲渕ダムの歴史の概要
当時の福岡市において、人口増加や生活の近代化が進んで水需要が増していた3)。また、公衆衛生の向上、各種工業の勃興や船舶用給水などの産業発展のために上水道創設が課題となっていた3)、4)。
そのような中、水道計画が進められ、1923(大正12)年に完成した。この時すでに将来の人口増加に備えて、曲渕ダムは高さ6.06m の嵩上げができるよう計画されており、完成時、堤高31.2m、堤頂長142.7m、有効貯水容量1,422 千.であった5)。当時、神戸・長崎以外では初めて高さ30m を超えた水道専用ダムであった6)
築造後、1931 ~ 1934(昭和6 ~ 9)年の人口増加等による水需要増加に伴う6.06m の嵩上げ工事、 1989 ~ 1993(平成元~ 5)年のダム堤体改良工事などを経て現在に至る5)、7)。現在、堤高45.0m、堤頂長160.6m、有効貯水容量2,368千m3である2)、7)
1985(昭和60)年に厚生省(現在の厚生労働省)の「近代水道百選」に選ばれ、2009(平成21)年には「福岡市有形文化財(建造物)」に指定されている2)


3.市政と水道計画の始動
 福岡に市政が施行された1889( 明治22)年、英国人技師、W・K・バルトン(WilliamKinninmond Burton)氏により、上下水道の設計調査・報告が行われ、福岡市の水道計画の第一歩となった3)、8)。その後、明治後半から本格的な水道計画が動き始め、最終的に曲渕を水源とする案が採用され、1913(大正2)年に水道布設認可を受けて、1916(大正5)年工事に着工した3)、4)。2019 年は福岡市政130 周年となると共に、バルトン氏が福岡市へ調査に訪れてから130 年となる。


4.美しい眺めとそれを保つこと
(1)周囲の自然と調和した美しい眺め
自然に囲まれ、御影石に覆われた曲渕ダムの眺めは美しく壮大である。高層ビルが立ち並ぶ様子を見ることができる現在であっても、その大きさに迫力や技術の偉大さを感じる。当時の人々にはより大きな驚きがあったのではないかと思われる。
写真- 1 は桜の咲く4 月、写真- 2 は新緑が美しい5 月の曲渕ダムの様子である。写真ではお伝えできないが、鳥の声も聞こえる。ダム全景(写真- 1)は、ダムの下流部にある「曲渕ダムパーク(写真- 3)」から見ることができる。



(2)利用と保存の両立
土木構造物は長期に渡って利用されながら、社会、環境、設計基準の変化や老朽化などの様々な理由から変化を求められることもある。近代土木遺産の評価において、保存状態は特に重要な指標の一つであり、建造当時に近い雰囲気が保たれていることは高く評価されるべきとされている9)、10)
2. で前述した1989 ~ 1993(平成元~ 5)年の堤体の安定と漏水防止のために行われたダム堤体改良工事では、堤体漏水に対する止水を確実に行え、また、近代水道百選にも選ばれ、歴史的な価値を保存することからも、外観を損なわない堤体上流面(写真- 1、2 に示す面の反対側)を増厚する案が採用されている5)、7)。施工性や機能性などはもちろん、外観や歴史的価値への配慮がなされたことはとても意味あることと考える。


5.おわりに
福岡市内中心部から車で40 分ほどの静かな自然の中に佇む壮大な曲渕ダムは、完成から90 年以上が経った今もなお、福岡市民へ水を送り続けている。その変わらない姿は、見る者を感動さえさせる。先人たちの知恵と技で造り上げられた曲渕ダムは、自然に映え、風景の彩でもある。自然に囲まれた曲渕ダムを眺めながら、その歴史に思いを馳せてみるのもよいかもしれない。

写真- 1、2、3:筆者が撮影


参考文献
1)土木学会選奨土木遺産選考委員会:平成30 年度 土木学会選奨土木遺産 一覧、
  http://committees.jsce.or.jp/doboku_isan/node/48(2019/06/06 参照)
2)福岡市水道局:曲渕ダム、福岡市水道局刊行物・ビデオ等一覧、
  http://www.city.fukuoka.lg.jp/mizu/somu/shisei/001.html(2019/06/12 参照)、2011.3.
3)(編集・発行)福岡市水道局:福岡市水道五十年史、pp.19-51、1976.6.
4)( 編集・発行) 福岡市水道局: 平成28年度版 福岡市水道事業統計年報、p.1、2017.11.
5)(編集・発行)福岡市水道局:福岡市水道七十年史、pp.251-253、1994.3.
6)(編)土木学会 土木史研究委員会:日本の近代土木遺産-現存する重要な土木構造物2800 選- [ 改訂版]、
  丸善、pp.254-255、2005.12.
7)岩熊健、松藤良佑、案浦徳治:曲渕ダム堤体改良工事、地盤工学会、土と基礎39(6)、pp.73-77、1991.6.
8)福岡市役所:福岡市市制施行五十年史、p.316-317、1939.3.
9)(編・著)文化庁歴史的建造物調査研究会:建物の見方・しらべ方 近代土木遺産の保存と活用、
  ぎょうせい、pp.67-77、1998.7.
10)文献6)、pp.8-10


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