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阿蘇大橋(仮称)の計画・設計における地盤変状の影響を最小化するための配慮

~熊本地震で被災した橋から学ぶ~


西 田 秀 明

今 村 隆 浩

星 隈 順 一


キーワード:地盤変状、構造リダンダンシー、早期機能回復


1.はじめに
道路橋示方書では、既往の地震による被災経験から得られた知見を踏まえて、津波、断層変位、斜面崩壊等の工学的に不確実性の極めて高い荷重要因については、耐荷性能の照査の前提としてこれらの影響を受けないよう架橋位置又は橋の形式の選定を行うことが標準的な対応として規定されている1)。下部構造の設置位置についても、斜面崩壊等の影響を受けない箇所を選定することが標準と規定されている2)。このような理由により、これらの影響に対して橋に作用する具体的な影響を評価する手法は道路橋示方書には規定されていない。
一方で、道路のような線状の施設では、路線全体の計画に係る様々な諸条件により、やむを得ずこれらの影響を受ける架橋位置又は橋の形式となることも想定される。その場合には、少なくとも致命的な被害が生じにくくなるような構造とする等、地域の防災計画等とも整合するために必要な対策を個別に検討して講じていくことが求められている。
こうした中、平成28 年(2016 年)熊本地震の際に落橋し、現在新しい橋の架替えが進んでいる阿蘇大橋(仮称)は、既設路線上の道路構造物の再構築となることから、架橋位置の選定にあたっては種々の前提条件を考慮する必要があった。この結果、やむを得ず地盤変状の影響が懸念される位置に架橋する計画となった。このため、この架替えにあたっては、将来再び大規模な地震に見舞われたとしても地域活動に支障を及ぼす影響をできる限り小さくするよう、地盤変状の影響に対する構造的な配慮や、被災が生じた後の機能回復を少しでも早く図ることができるようにするための技術的配慮をしている。本稿では、熊本地震での他の橋の被災とその復旧過程で得られた知見等を踏まえて、地盤変状の影響が橋の性能に及ぼす影響を最小限に留めるために阿蘇大橋(仮称)の架替えの計画、設計段階で取り入れた技術的配慮について紹介する。


2.熊本地震において地盤変状が橋に影響を及ぼした影響と橋の性能の観点から見た教訓
(1)熊本地震における橋の被災の特徴
熊本地震での橋の被災の特徴としては、地震動だけでなく地盤変状の影響を受けたことにより、橋としての速やかな機能回復を図ることができなかった事例があることが挙げられる。具体的には、a)橋梁上方斜面の崩壊に伴い落橋を生じた例(南阿蘇村道栃の木~立野線戸下大橋)3)や、b)架橋地点全体の地盤の移動や斜面崩壊等により一部の下部構造を支持する地盤が失われて下部構造が移動し上下部構造間に大きな相対変位が生じた例(熊本県道28 号俵山大橋や南阿蘇村道栃の木~立野線阿蘇長陽大橋)3)がある。


(2)阿蘇長陽大橋の事例
前述の事例のうち、阿蘇大橋(仮称)の架替えにあたって参考とした阿蘇長陽大橋の被災とその復旧内容に関して示す3)、4)
4 径間連続PC ラーメン箱桁橋の阿蘇長陽大橋は、橋台の支持地盤の斜面崩壊に伴いA1 橋台が約2m 沈下したが、PC 箱桁の損傷は断面貫通を伴わないひび割れに留まった。また、中空断面で構成される橋脚では、P3 橋脚で中空断面を貫通するひび割れが生じたが、その他の橋脚では貫通ひび割れは生じなかった。この復旧では、PC 箱桁ではひび割れ補修を行うとともに、ひび割れによる抵抗力の低下分を補うために炭素繊維シートを貼り付けた。また、沈下が生じたA1 橋台は、開口亀裂や地盤の緩みがみられた地盤を掘削して支持地盤とするとともに、斜面対策は実施しつつも将来橋台前面地盤が部分的に崩壊したとしてもできるかぎり橋の機能を早期回復できるようにするために橋台を剛性の高い5 連ラーメン構造として再構築した。P3 橋脚ではコンクリート充填によるせん断抵抗機能の回復による復旧を行った。


(3)被災事例から学んだこととは?
構造的観点に着目して阿蘇長陽大橋のA1 橋台部とその上部構造の損傷状況を見てみる。ここでは、斜面崩壊に伴い橋台が約2m 沈下し、上部構造端部で鉛直支持できる支点を失ったにもかかわらず、PC 箱桁は落下せず、かつその損傷は断面貫通を伴わないひび割れ程度で留まった。この要因の一つは、支承が破壊して上部構造と下部構造が分離したことで、PC 箱桁に力が伝達されなくなったためと考えられる(写真- 1)。もう一つの要因は、P1 ~ A1 径間は張出架設工法で施工されていたため、端支点部で鉛直支持できなくなったとしても他の橋脚が自立していれば上部構造が落下しない構造特性を有していたためと考えられる(写真- 2)。この事例から、地盤変状に対する構造的配慮としては、端支点部を支持する下部構造が移動した場合でも他の下部構造が自立している限りは落橋には至らない状態にできる構造形式や架設工法によること、この際に最終的な破壊箇所を支承部に誘導することが有効であるといえる。



また、橋の機能の早期回復を図るための配慮としては、P3 橋脚の調査の事例が教訓になる。中空橋脚では、地震による繰返し作用により内空部にまで損傷が生じると軸力を支持できずに致命的な状態となりかねないことから5)、ひび割れが貫通しているかどうかを見極めることが適切な診断と対策を行う上で不可欠である。阿蘇長陽大橋の調査では、当初は重機を持って近づくことができなかったため遠望目視やUAV により外観の確認を行った。その後、ロープアクセスにより橋脚外面を近接目視をしたところ、後にひび割れが貫通していることがわかった箇所でわずかな段差が見られた。これを踏まえて、ひび割れが断面を貫通しているかどうかを確認するために中空断面内部の確認を行った。この際、中空断面内部にアクセスすることができなかったために、柱頭部に開口部を設けたうえで、内部に光源やカメラを挿入して、高さや向きを確認しながら調査を実施した。この事例から、中空断面橋脚については、外側だけでなく中空断面内側の調査が必要になることを念頭に、地震後に橋の状態を確認するための調査を行いやすくしておくことが必要があるといえる。


3.阿蘇大橋(仮称)で行われた地盤変状の影響を最小化するための設計と配慮
(1) ルート選定段階での配慮
新しい阿蘇大橋(仮称)の架橋ルートは、1)熊本地震による震災を踏まえて安全性が高いルート、2)可能な限り早期に復旧可能、3)阿蘇観光の玄関口としての機能確保、4)地域間交流の保持の4 項目を基本的な考え方として設定された6)。具体的には、1)と2)の観点から、復旧の時期がルート選定時点で不明確であった斜面崩壊箇所や周辺斜面の影響を回避できるルートとすること、3)の観点からは主交通方向である熊本市と南阿蘇村を結ぶルートとして迂回感のないルートとすること、さらに4)の観点から南阿蘇村の中心部と同村立野地区のコミュニティー確保にも寄与するルートであること等が総合的に考慮された。この結果、最終的には、熊本地震の際に崩落した元の阿蘇大橋の位置から黒川の下流側に約600m の位置にある図- 1 のB のルートが選定された6)


一方、本ルートは既存資料に加え個別に実施された現地踏査や現地調査を踏まえてルート検討段階で推定された横ずれが支配的な活断層の存在が推定される帯域(以下、「推定活断層」という)を跨ぐ計画となる6)。推定活断層と交差する区間の道路構造形式については、ルート上の地形条件と道路の縦断勾配等を総合的に検討した結果、やむを得ず橋で計画することとなった。そこで、断層変位によって橋に生じる影響の範囲を少しでも小さくする観点から、ルートの線形は推定活断層となるべく直交に近い角度で交差するように配慮した。


(2)構造リダンダンシーを高めるための配慮
断層変位のように発生頻度も変位量も定量的な予測が難しく、不確実性も大きい作用に対しては、橋が有する耐荷力や変形能を大きくすることだけで対応することには限界がある。そこで本橋では、想定外の状態に対しても橋を致命的な状態にしにくくするために、断層変位によって橋に生じうる変形を受け流せるように最終的な橋の破壊形態を予め計画し、その計画した破壊形態となる信頼性が高まるように設計段階で配慮した。
本橋の構造計画においては、推定活断層が横ずれを支配的とする断層であることを踏まえ、このような動きの変位に対して容易には落橋しないように配慮することが可能な構造形式を選定した。すなわち、図- 2 に示すように、推定活断層を跨ぐ区間は単純桁橋構造とし、断層変位により地盤に追随して下部構造が大きく移動するような状況となった際は、構造部材の破壊を支承で先に生じさせ、下部構造や隣接する上部構造に不測な力を伝達させないように配慮した。これは、下部構造は自立した状態を維持しつつ、単純桁は支承からは外れてはいるが下部構造の頂部で支持され、かつ、隣接する桁には影響を波及させないという考え方によるものである。この際、上部構造間の相対変位が橋軸直角方向に生じた際に隣接する桁に力が伝達しないような伸縮装置を採用した。その上で、下部構造間に生じる横ずれの相対変位に対して単純桁の支点部が下部構造の頂部から脱落しにくくなるように、橋軸方向とともに橋軸直角方向の桁かかり長の確保に配慮した(写真- 3)。



また、深いV 字谷となっている渡河区間の構造形式は張出架設工法によるPC ラーメン橋を採用した。これは、推定活断層の動きによって仮に端支点を支えるPR1 橋脚に大きな移動や沈下が生じた場合には、PR1 橋脚に設置された支承の破壊を先行させることでPC 箱桁と橋脚の接合を分離させ、PR1 ~ PR2 の側径間はPR2 橋脚と一体となって自立した状態を作ることで橋の崩落を防ぐという考え方によるものである。


(3)機能回復性を高めるための配慮
断層変位に対して支承の破壊を先行させる戦略を述べたが、支承自体も様々な部品で構成されており、その壊し方には幾つかの選択肢がある。本橋の設計においては、支承が破壊した後に生じる段差に着目し、これができる限り小さくなるような破壊形態に誘導できるように設計した。これは、支承の上側の部位で破壊させると、それだけ段差も大きくなること、さらに橋座面が脱落する際の衝撃で桁に悪影響が及ぶリスクも高まることから、橋の機能回復性の観点からは、図- 2 のように支承の下側の部位で壊す方が望ましいとの考え方によるものである。このような破壊形態となる実現性を高くするために、支承に作用する荷重条件とその力の伝達経路を踏まえ、破壊させる部材(本橋では下沓取付ボルト)と破壊させない部材それぞれの耐力のばらつきを考慮したうえで、両部材間で耐荷力の階層化を図る設計を行った6)
被災後の橋の状態を速やかに調査できるようにする観点から行った配慮を図- 3 に示す。


調査対象位置へのアクセスをしやすくするための配慮として中空断面内部へのアクセス孔の設置した。また、渡河部の橋脚は最も高いところ(PR2)で97m と高い橋であるため、橋脚外側の近接目視調査を行う際に橋梁点検車では近接できず、ロープアクセスが必要となる箇所がある。ロープアクセスにあたっては、調査者が対象構造物の状態を確認しつつフックを設置しながら調査箇所まで移動をするため、調査に時間を要する。この時間短縮を図るため、高橋脚には近接目視調査の際のロープアクセスで必要なインサートを先施工で設置した(写真-4)


応急的な機能回復を速やかにできるようにする観点からは、多少上部構造がずれた状態でも応急的な供用ができるように単純桁を支持する下部構造の横ばりには予め補強鉄筋を配置した。また、地震後における桁の応急的な固定装置の設置に備え、予め橋座部の鉄筋間隔を広く確保した箇所を設けアンカー定着を行う際に横梁の鉄筋を切断せずにアンカー削孔できるように配慮をした。さらに、橋脚の橋座部は支承交換時の施工の確実性、迅速性を確保する観点から支承交換の際に必要となるジャッキ設置用のスペースを考慮した大きさとした。これにより結果として橋軸方向の桁かかり長が大きくなっている(写真- 5)。高架部及び断層交差部の桁はベント架設で施工を計画し、その施工段階で構築されるベントの基礎は計画的に残置することとした。これは、桁がずれた時の応急措置や復旧工事を行う際に、このベント基礎を活用できるようにしておくことで復旧に要する工期を少しでも短くするための配慮である。



4.おわりに
現在架替工事が行われている阿蘇大橋(仮称)は、黒川の渡河部は橋長345m の3 径間連続PCラーメン箱桁橋、また、黒川の右岸側(立野側)はアプローチ部の180m が橋で計画されており、3 径間鋼連続桁橋(橋長115m)と単純鋼箱桁橋(橋長65m)で構成されている(写真- 6、7)。



本橋ではこれまでに述べたように、熊本地震での被災や復旧プロセスで得た教訓を踏まえた構造的な対策や機能回復のための措置を早期に実施できるようにするための配慮をしている。ただし、本橋は、既存の路線の早期機能回復が求められる中で、結果としてやむを得ず推定活断層を橋で跨ぐ計画となった特殊な事例である。したがって、ここで紹介した対策が標準的な対策ということでは必ずしもないが、今後地盤変状の影響を受けうる箇所に架橋せざるを得ない場合に、配慮すべき事項の考える際に参考となれば幸いである。
なお、本稿で示したダメージコントロールのような設計の考え方は、構造物の危機耐性を高めるための具体的な方法の一つになるのではないかと考えているものの、部材の破壊特性の信頼性に基づいた設計体系について研究途上の段階であり、今後研究開発の進捗に応じて発展が必要な分野であると考えている。


謝辞
復旧に係る検討の実施にあたっては、国土交通省九州地方整備局及び国土技術政策総合研究所、(国研)土木研究所、熊本県等で構成されるプロジェクトチーム(橋梁PT)の委員から様々な助言を頂いた。また、阿蘇大橋のルート及び構造の選定については、九州地方整備局が設置した「国道325 号ルート・構造に関する技術検討会」で助言を頂いた。ここに記して感謝の意を表します。


参考文献
1) (公社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説Ⅴ耐震設計編、2017.
2) (公社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説Ⅳ下部構造編、2017.
3) 平成28 年(2016 年)熊本地震土木施設被害調査報告、国土技術政策総合研究所資料第967 号、土木研究所資料第4359 号、2017.
4) 辻芳樹、星隈順一、荒牧聡、平原慎也、宇土力、三原真一:熊本地震で被災した阿蘇長陽大橋の復旧、橋梁と基礎、 Vol.60、2018.
5) 八ツ元仁、堺淳一、星隈順一:高軸力を受ける高軸方向鉄筋比の中空断面RC 橋脚の正負交番繰返し荷重下における破壊特性、土木学会論文集A1、Vol.69、No.2、pp.139-152、2013.
6) 平敷健太、福原茂、湊康彦:推定活断層を踏まえた阿蘇大橋の橋梁設計について、平成30 年度九州国土交通研究会、Ⅰ部門、2018.


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