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簡易浮体におけるフェイルセーフ思想

~事故が起きたとしても被害を最小限に抑える対策~


中 倉 浩 之


キーワード:簡易浮体、浮桟橋、維持管理

1.はじめに
簡易浮体は、潮位差の影響を受けず、円滑な漁業活動ができる係留施設であり、これまで多くの施設が長崎県内の港に設置されている。
しかしながら、簡易浮体は、潮位の影響で可動する係留部に異物等が接触すると破損しやすい構造であり、先般、放置された角材(写真- 1)により浮体が破損し、多大な被害を受けた。
今後、このような被害が起きないようにするため、事故が起きたとしても被害を最小限に抑えるフェイルセーフ思想を用いた対策方針を策定し、今後の維持管理に活用するものである。



2.背景
2-1 概要
県内の港で簡易浮体が傾いているとの通報があり、現場に急行したところ、ガイドレール取付箇所のコンクリート受台に角材が挟まっており(写真- 2)、陸側の浮体が上昇できず、浮体が45 度に傾き(写真- 3)、ローラー部や側壁、階段が破損していた。



また、浮体は連結材で固定されていたことから、浮体4 函(L=60m)全てに被害が及んでいた。その後、潮が引いた段階で、角材を撤去したところ、浮体は元の位置に戻ったが、簡易浮体に大きな被害が生じた。
事故原因としては、ローラー可動部に角材が挟まり、潮位上昇に伴い、浮体が上昇できずに、ローラー部を中心に異常な負荷がかかり、破損したものと考えられる(図- 1)。


2-2 被害状況
被害状況としては、下記の被害が確認された。





なお、浮体間は連結材により繋がっていたことから、角材が詰まった箇所の1 函だけでなく4 函全て破損する状況となり、補修費用は総額約1,500 万円と多額の被害が生じた(図- 2)。


2-3 問題点
浮桟橋は、従前、チェーンで係留されていたが、この方式は、波風による移動量が大きかったことから、動揺を低減出来る杭式が多く設置されてきた。その後、漁船などの外力が小さい場合に対応した安価なFRP製簡易浮体が開発された(写真- 7)。


FRP製の簡易浮体は、対候性に優れた樹脂を用いており、安価でメンテナンスも容易などのメリットがあり、県内の漁港(県整備延長3.7㎞)に多く採用されている。
一方、簡易浮体は、想定する波浪等の外力が比較的に小さい所に設置する施設であるため、コンクリート製の構造物と比較すると軟弱な構造と言わざるを得ない。
このようなことから、想定内の外力であれば耐えられるが、想定外の外力が生じた場合は、弱い箇所から順次破壊される事が今回の事故を通して再確認できる。
これまでの設計思想では、想定する外力に対して、耐えられる構造となるように設計するものである。今回のように想定外の外力が生じて、破壊された後の事は検討されておらず、新たな設計思想を加える必要があると指摘する。


3.問題解決への取り組み
3-1 考え方
想定以上の外力がかかった場合でも致命的なダメージを受けないように安全装置的な検討(フェイルセーフ思想)を行なっていれば、大きな被害を回避できたと考えられるため、このような問題を解決する手法を検討する必要がある。検討にあたっては、自然現象(台風、高潮)、係留ロープ、漁具の散乱、漂着物、釣り人、老朽化による破損などの事故が想定されるため、様々な可能性を視野に入れ、ハード面・ソフト面の両面からアプローチを行なった(図- 3)


3-2 進め方
対策の内容については、早急に対策を講じる必要があることから、ざっくばらんに議論が出来るメンバー(簡易浮体の知識が豊富な設計コンサル、施工業者、職員等)を集め、対策会議を開催し内容を検証した(写真- 8)



4.対策
4-1 対策方針
対策案については、様々な手法があるが、効果発現が早期に期待できるものとし、下記のように整理した。


4-2 ソフト対策(事前対策)
地元を巻き込んだソフト対策が最も効果が高い。このため、すぐに実践できるものとして、下記の内容を実施することを提案する。

【A:地元説明会の実施】
簡易浮体設置後は、地元説明会を必ず行い、禁止事項や事故事例などを利用者に説明する(写真- 9 )。


【B:注意喚起看板設置】
簡易浮体利用者が見やすい場所に、利用についての禁止事項、安全な利用がなされてない場合の通報先、発生しやすい事故事例を記載した注意喚起看板を設置する(写真- 10)


【C:点検体制強化】
職員は、日常点検の際に適正な利用がなされていない場合(写真- 11)は、地元漁協に指導を行う。また、地元漁業者でも点検できるチェックシートを配布し、地元との連携強化を図る(図- 4)。



4-3 ハード対策(事前対策)
事前対策では、事故が起きないようにすることを目指し検討を行なった結果、下記のD、Eの対策を提案する。

【D:異物混入防止対策】
今回の事故は、異物混入が原因であるため、下記の対策①、②を設計時に考慮する。
①ガイドレール取付部に異物等が引っ掛かることがないように無収縮モルタルの隙間や係留ローラー付近をカバーする鋼板プレー トの設置を検討する(図- 5)。


②浮体側面部や浮体間の隙間より、異物が侵入しないようにネットを設置する(写真- 12)。


【E:設計思想の見直し】
簡易浮体の材質はFRPであるため、多大な荷重を考慮すると、鋼製やコンクリート式しか採用できず、経済的に安価であるFRPのメリットが活用できなくなる。
このため、浮体全体が水没した場合は、ローラー部に非常に大きな力が加わる(図- 6)が、その場合に、補修が容易な部分から破損していくようにコントロールできないかと考えた。イメージはトカゲのしっぽ切りである。
そのためには、ローラー取付箇所の側壁は、ローラー部より先に破壊しないように補強を検討する必要がある。その結果、万が一壊れた後を想定した設計を行うことで、安価なFRPのメリットを活かし、トータルコストを抑えた設計が可能となる。



4-4 ハード対策(事後対策)
事後対策では、事故が起きた際に被害を最小限に留めることを目指し検討(フェイルセーフ思想)を行なった結果、下記のC、D、Eの対策を提案する。

【F:浮体の連結材改良】
今回のように、連結材が強固(図- 7)であることから、浮体全体が引き込まれて被害が倍増することを防ぐために、連結材の改良を検討した。連結材は、波による浮体間の段差をなくすために必要なものであるが、ステンレスチェーンが内蔵しており、浮体全体を引き込んでも問題ないくらいの強固な構造となっており、今回の事故でも無傷である。連結材自体が強固すぎるため、結果的に、浮体の側壁部が先に剥がれるようになっている。


そこで、浮体本体へ加わる力が、一定の限度に達すると、力の伝達を遮断するようにできないかと考えた。異常時に分離するには、常時と異常時の境をどのように設定するかを決める必要がある。
切断する力の判定が難しいところであるが、異常気象時に耐えられる構造とし、ある一定の荷重(浮体が持ち上がる荷重)がかかれば分離する構造とすることで、安全装置の働きが期待できる(図- 8)


【G:浮体のローラー架台部改良】
今回の事故で、本体FRPが剥がれ落ち、ローラー部が変形し、補修に多額の費用がかかることとなった。ローラー取付架台が一定以上の荷重で分離する構造(図- 9)であれば、異常な荷重がかかった場合でも、側壁が破壊される前に分離し、本体及び架台に損傷が生じない構造となる。


【H:浮体を浸水式に改良】
異物等が詰り係留部の可動が阻害された場合、浮体が上昇できなくなり、多大な浮力により、係留装置と浮体側壁に異常荷重がかかる。浮体に一定以上の水圧が生じれば脱落するカバー(図-10)を設置することで、その際にかかる浮力を軽減し、浮体側壁部や係留装置の損傷防止に効果が期待できる。




5.フェイルセーフ思想による効果
ハード対策(事後対策)F~Hについて、フェイルセーフ思想を組み込んだ対策による効果を検証した結果、対策を複合的に行うことで、図-11 のとおり、約1,500 万円の被害が100 万円程度(ポンプアップやボルト取替等)となり、補修も容易になることから、被害を最小限に留めることができる。
なお、事前対策を併せて実施することで、発生頻度も大きく減少させることが可能となる。
今回の対策は、設計時に考慮すると低コストで対応できるが、既設簡易浮体においては、費用対効果を検証しながら、維持補修時の部材交換時期に可能な限り対応を進めていく事を併せて提案したい。



6.おわりに
想定外の外力が加わった時に物は壊れることになる。しかし、想定外を想定することで、被害を最小限に留めることが出来る。
これまでの設計思想は、外力を想定し、壊れないように設計するものである。
しかし、施設全般に言えることだが、維持管理で点検を行う際、表面上に変化がない場合の劣化状況は分かりにくく、見落としやすい。
部材は経年劣化で日々、老朽化しており、設置当時の耐力は維持できないのが現状である。
これまでの設計思想である壊れないように設計する思想は、老朽化が生じれば成り立たないので、壊れることを認めないといけない。
いずれ壊れることを前提とした、フェイルセーフ思想を取り込んだ新たな設計思想では、点検漏れなども含め、万が一壊れても安全側に導くことが可能となる。
限りある予算の中、施設の維持管理を行っていく上では、完璧な維持管理は出来ないと認め、壊れた後を想定し、壊れても安全で、最低限の被害で収まるように検討することも必要である。
この事故を教訓に、フェイルセーフ思想を、今後の整備や維持管理に役立てていきたいと考えている。
最後に、今回、ご協力を頂いた関係者の皆様方に心より感謝を申し上げる。


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