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高尾川における地下河川の整備について


田 浦 康 司


キーワード:地下河川、床対事業、模型実験、リスクマネジメント

1.はじめに
平成26 年8 月22 日の未明から朝方にかけ、福岡県筑紫野市の周辺では寒冷前線の南下に伴い発生した雨雲により、局所的に猛烈な豪雨が発生し、気象庁の太宰府観測所では8 月としては既往最大となる1 時間に98.5㎜という雨量を記録した。この豪雨により筑紫野市の中心を南北に貫流する二級河川高尾川が氾濫し、商店街を含む多くの家屋が浸水被害を受けた。
高尾川流域は、市街化が進んでおり、川に沿って商店街や県内最古の酒造が立ち並ぶなど、浸水対策の必要性に加え、当該地域の歴史や街並みの保全、また地域の活性化が望まれていた。
そのため福岡県では、本浸水被害の再度災害防止を目的とした床上浸水対策特別緊急事業(以下、「床対事業」という)の実施に当たり、用地買収が必要ない現況河川の真下に、河川に沿って地下河川の整備を進めている。




2.流域の概要
高尾川は、福岡県の北西部を流れる二級河川御笠川の二次支川であり、筑紫野市の中心市街地を流れ、一次支川である鷺田川に流入する流路延長1.5㎞、流域面積4.4.の小河川である。流域近傍には西鉄大牟田線やJR鹿児島本線、九州自動車道、国道3 号等があり、交通の要衝となっている。



3.流域の浸水被害
(1)過去の浸水被害
高尾川は、この10 年間だけでも5 回も氾濫しており、およそ2 年に1 回の割合で床上浸水被害が発生している。


(2)H26.8.22 の浸水被害
平成26 年8 月22 日の豪雨においては、浸水面積7.4ha、床上浸水被害46 戸、床下浸水被害46 戸という浸水被害が発生し、市民生活に大きな打撃を与えた。




4.事業の概要
(1)事業の経緯
福岡県では、度重なる浸水被害を受け、平成24 年度より一次支川鷺田川の赤岸堰(0k920)地点から二次支川高尾川の西鉄橋梁(1k020)地点までの約2.1㎞において河川改修事業に着手していた。しかし、平成26 年の浸水被害を受け緊急的な解消を目指す必要があると判断し、鷺田川の西鉄二日市駅付近(1k780)から高尾川の県道紫橋付近(0k840)までの約1.0㎞において平成27 年度から床対事業に着手した。本事業はおよそ5 箇年で予算を集中投資することで再度災害の発生を防止し、当該地域の浸水被害の軽減を図ることを目的としている。



(2)高尾川床対事業の概要
本事業は、都市部において限られた期間内に事業効果を発現させる必要があるため、従来の用地買収を伴う河道拡幅等に加え、地下河川によるバイパスについても洪水防御計画の一つとして比較検討を行った。その結果、経済性、社会的影響を総合的に判断し、地下河川によるバイパスと流下阻害の原因となっている橋梁架替と一部区間の特殊堤整備をメニューとした。
【事業概要】
 ・事業延長 L=1,040m
 ・事業期間 H27 ~ H31
 ・事業費  78 億円
 ・整備内容 地下河川(シールド工法)L=1,040m 橋梁架替 N=1 橋、特殊堤 L=120m


(3)設計概要
地下河川の計画諸元は、河川分派に伴う流入損失、管内ロス, 流出損失等のロスを考慮し、目標流量の分派に必要な地下河川規模を設定した。
①計画流量 河道30m3/s、地下河川30m3/s (H26.8.22 河道40m3/s、地下河川30m3/s)
②トンネル延長1,040m
③内径(外径)φ 5.0m(φ 6.0m)
④曲線半径 R60(3 箇所)、R30(8 箇所)、R25(1箇所)、R20(9 箇所)、R18(4 箇所)、R16(2 箇所)
⑤流下方式 自然流下圧力管方式
⑥流入形式 越流堤(横越流)
⑦流出形式 逆流防止堰




5.事業の目標と課題
(1)目標
度重なる浸水被害を早期に軽減するため「限られた期間での確実な事業効果発現」とした。

(2)課題
本事業における地下河川は、あまり事例がない中で、限られた期間内に確実な事業効果を発現させるために「設計における課題」と「施工における課題」を抽出して対応策を検討する必要があった。


6.設計における課題
(1)課題
本施設に求められるのは「洪水時の確実な流下機能の確保」であり、地下河川への分流特性は種々の要素に支配されるため、机上検討では再現精度に課題があると考えられた。(ここでいう機能とは計画流量の流下とする)

(2)対応
課題に対し、大型の水理模型を用いて施設形状を決めるための実証実験を行うこととした。


7.施設形状の決定に資する実験
(1)実験概要
本実験に使用する模型は、経済性や再現性を考慮の上、対象区域を3 つに区分し、縮尺1/25 スケールで製作した。それを利用して各部における損失を実証するため、湾曲損失実験、流入施設実験、流出施設実験を実施した。





(2)実験結果
製作した模型の流入、流出形状等を複数案変化させ、各施設における損失を評価し、完全越流で計画流量が流下可能な形状を決定した。



(3)まとめ
水理模型実験により施設の最終形状を確定し、洪水時の確実な流下機能を確認することができた。また、止水域となる部分の形状変更や施工性の改善によるコスト縮減を図ることができた。



8.施工における課題
(1)課題
本施工に求められるのは、「工事の確実な早期完成」であり、経験の少ない工法において、いかに施工上のリスクを抽出、評価、低減するかが課題であった。

(2)対応
県では、過去に実績のない工事であり、課題解決に向けた高尾川地下河川技術検討委員会(以下「技術検討委員会」という)を設立し、本シールド工事のリスクマネジメントに取り組んだ。


9.技術検討委員会での取組
(1)工事概要
対象工事は、本事業の主要工事である高尾川地下河川築造工事とし、発進立坑の築造と地下トンネル部分を泥土圧シールド工法にて築造するものである。
本工事は, 連続する急曲線シールド掘進(R=16~ 60m、27 箇所)や掘進位置の地層が著しく脆い風化花崗岩であること、また河川直下での低土被りシールド掘進である等の特徴があり、施工管理を行う上で非常に難易度が高いものである。


(2)技術検討委員会の概要
本委員会は、発注者、施工者、設計者、学識者で構成され、本工事の特徴を踏まえたリスクを抽出し、その対応や情報の共有化を図るものである。


(3)技術検討委員会の取組
本委員会では、工事着手前のリスクアセスメント(リスクの抽出、分析、評価)、リスク対応とその評価、実施時のPDCAサイクルの構築等を実施した。


10.リスクアセスメント
(1)リスクの管理方針
リスク管理方針は、事業の主旨を踏まえ、「工程の遅れ(事業の遅れ)」と「労働災害」とした。

(2)リスクの抽出・分析
本工事において想定し得るリスクを抽出し、管理方針に基づき分類した。

(3)リスクの評価
 リスクは、評価項目を「工期への影響」、「工事費への影響」、「発生頻度」として以下のとおり定義し、影響度又は発生頻度のいずれかを改善することで低減されるものとした。リスク=影響度(工期, 工事費)×発生頻度
また、評価は「高」、「中」、「低」の3 段階とし、可能な限り定量的な評価を行うことを基本としたが、やむを得ない場合は定性的な評価を行った。また、表- 3 のとおり影響を「重度」、「中度」、「軽度」に分類した。





11.リスクマネジメント
(1)リスクの低減目標
発生が想定される事象毎に工程や工事費への影響を考慮し、表- 3 のように影響が重度, 中度な事象については、発生頻度を「低」とすることでリスクを低減し、影響が軽度な事象については発生頻度を「中」とすることでリスクを保有することとした。


(2)リスク対策とその評価
リスクの低減目標に向けた対策案を検討し、再度リスク評価を行い最終的な対策を決定した。


(3)PDCAサイクルの構築
現在, 工事は工事着手前の計画段階(Plan)の検討を経て、工事の実施段階(Do)となっている。今後は技術検討委員会の枠組みを利用した評価段階(Check)、改善段階(Action)の取組を適宜行い、PDCA サイクルが円滑に回るよう努めている。



12.おわりに
近年、気候変動等による水災害の激甚化、頻発化が懸念されている。高尾川のような都市部における浸水対策は事業用地の確保が難航し、長期化するリスクを抱えている。
本事業の実施にあたっては、事業用地の確保という長期化のリスクを回避すると共に、それから生じる二次リスクに対し、様々な設計における課題や施工における課題と向き合い早期に事業効果を発現できるよう事業を進めている。一方で、安全対策や地盤沈下、地下水、騒音・振動といった周辺環境への配慮、住民への情報提供のあり方等についても十分な検討が必要である。
当該地域は、平成30 年7 月豪雨において再び床上浸水被害が発生した。浸水被害の軽減に向けた本事業への地域の期待も一層高まっており、現場では事業目標の達成に向け厳しい施工管理と工程管理が求められる中、昼夜・休日を問わずシールド掘進が進められている。
27 箇所もの急曲線の連続施工は、本工事規模のシールドトンネルにおいて国内でも例がないものであるが、本工事の事例は都市部における浸水対策の1 つの解決策となり得るものであり、この知見を埋もれさせることなく、ナレッジの蓄積を図ることが重要である。
本事例が、同様の被害に苦しむ地域における抜本的取組の参考となれば幸いである。






謝辞
今回の執筆にあたり、資料や情報を提供いただいた施工者である(株)安藤・間の工事関係者やパシフィックコンサルタンツ(株)、中央コンサルタンツ(株)の皆様に感謝の意を表します。また、技術検討委員会の委員に就任いただき、学術的なサポートをいただいた早稲田大学創造理工学部社会環境工学科の岩波基教授に御礼申し上げます。


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