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堤防法面張芝の長寿命化を目指して


古 賀 尚 永


キーワード:改良芝、堤防植生、除草、維持管理方法とコスト

1.はじめに
河川堤防の被覆材としては、野芝が一般的であるが、野芝は施工後、比較的短期間でセイバンモロコシ等の雑草に遷移しやすい傾向にある。そこで、九州地方整備局では、被覆性、耐病性、永続性等について野芝よりも優れているとされる、いわゆる改良芝について、平成21 年度より「九州・剛毛芝プロジェクト」として試験施工を開始し、平成24 年度には、「河川堤防における改良芝の試験施工ガイドライン」を策定し、管内各所で試験施工を実施しているところである。
本稿では、各施工箇所における野芝と改良芝のモニタリング調査結果をもとに、堤防法面における改良芝の有効性についてとりまとめ、今後の展望について報告する。


2.モニタリング調査と調査項目
【表- 1】は、平成29 年度時点で試験施工により導入実績のある改良芝の品種(10 品種)と長寿命化に資する性能として、被覆性、耐病性、アレロパシー、永続性の観点からとりまとめたものである。とりまとめにあたっては、メーカーパンフレット等の情報を元に作成した。
各項目の有効性を評価する項目は、大きく被覆性、耐侵食性、維持管理コストの3 点を設定し、改良芝の評価に必要な現地調査を実施した【表- 2】。





3.被覆と土壌条件との関連
有効性の評価とあわせて、張芝の生育基盤となる表土について、土壌硬度、pH と植被率との関係を整理した。

a)土壌硬度
芝の生育に適する土壌硬度(山中式土壌硬度計)は10 ~ 25㎜の間とされており、施工箇所は概ねその範囲内にあった。
土壌硬度が適値より高い箇所では、改良芝の活着不良が確認されたが、それ以外の箇所では土壌硬度に起因する芝の生育不良は確認されず、通常の締め固めを行えば改良芝の生育に支障は無いと判断される。

b)pH
芝が生育できるpH は4 ~ 8 程度とされており、pH に対する適応性が高い植物である。
施工箇所のモニタリング調査結果からは、pHと芝の生育との間に関連性はみられず、強酸性またはアルカリ性でない限り、改良芝の生育に支障は無いと判断される。

c)土の違い
【写真- 1】は、同一施工箇所内で表土に購入土と流用土(高水敷掘削土)を用いた事例である。
購入土使用箇所では芝の被覆が維持されているのに対し、流用土使用箇所では施工後1 年目から高水敷に繁茂していたセイバンモロコシが発生し、芝がほぼ消失しているのが確認された。
以上のことから、改良芝は、野芝同様の施工方法、養生方法で対応可能であり、施工性において特段の問題はないが、改良芝を使用する場合にも表土の選定には注意が必要である。



4.調査結果及び有効性の評価
(1)被覆機能からの評価
【図- 1】は、施工後8 年目の箇所における各品種の植被率の変遷を比較したものである。「ムカデ芝系、イヌ芝系品種のグループ」は、野芝と比較して芝の植被率が高く、良好な被覆が維持されていることを確認した。


さらに、【図- 2】において、雑草の植被率を見ると、「ムカデ芝系、イヌ芝系品種のグループ」で雑草の植被率が低いことがわかる。
これは、「ムカデ芝系、イヌ芝系品種」は、アレロパシーと呼ばれる性質を持つことが確認されており、このアレロパシーにより雑草が抑制されることにより芝の被覆が維持されていると推察される。


(2)耐侵食性能からの評価
一般に、堤防法面(地表面)近傍の流速低減効果は根毛層の厚さに依存するとされており、地表付近に多くの根毛量を有する芝は耐侵食性能が高いと考えられている。
【写真- 2】は、土中の根の状況を「野芝系品種、野芝と高麗芝の種間雑種のグループ」と、「ムカデ芝系、イヌ芝系品種のグループ」で比較したものである。
土中の根の状況は、2 つのグループで異なり、前者は地下茎で広がり、厚い根毛層を形成するのに対し、後者は地下茎が少なく、土中の根毛層が薄いのがわかる。


そのため、【図- 3】に示すように、施工後5年目時点での土壌緊縛力を比較すると、野芝系品種は高い値を保っているが、施工後8 年目時点では野芝系品種のグループは、土壌緊縛力が低下し、各品種とも芝等で得られる目安の300kgf・㎝前後となる結果が得られた【図- 4】。
これは、野芝系品種の植被率の低下に伴い、根毛層が減少したことによるものと推察される。



(3)維持管理面からの評価
a)点検・巡視の容易性(視認性の確保)
低茎草本である芝の被覆が維持されれば、年間を通じて低い草丈が維持されるが、セイバンモロコシ等の高茎草本に遷移すると、【図- 5】に示すように、年2 回の頻度で除草を実施しても、梅雨明けから9 月にかけて約2m の高さまで成長し、堤防法面の変状発見が困難になるなど、点検・巡視等、河川管理の障害となる。


これに対し、【図- 6】に示すように、改良芝は、施工後8 年経過しても、草丈が30㎝未満となっており、点検、巡視の支障にならず、視認性の確保に寄与するものと考えられる。


b)維持管理コスト比較
【図- 7】は、施工後1 年目の箇所における改良芝と野芝、またセイバンモロコシ繁茂箇所での刈草処分費と刈草発生量を示したものである。


改良芝施工箇所では、野芝施工箇所と比較し、刈草処分費が約1/2 に抑えられた。
一方、セイバンモロコシは草丈が2 m以上まで生育するため、芝と比較して刈草発生量と処分費用が非常に大きくなる。
改良芝施工箇所での芝の草丈は、先に述べたとおり30㎝未満となっており、芝の被覆が維持されるため、セイバンモロコシ等の雑草と比べ刈草発生量が大幅に少ない結果となった。
これまでのモニタリング調査での傾向から、以下の算出条件のもとで10 年間のランニングコストを試算した結果を【図- 8】に示す。
-算出条件-
 ・野芝施工後4 年目には雑草侵入が顕著になる。
  → 4 年後に維持管理コスト(※)が発生。
 ・ムカデ芝、イヌ芝系品種は被覆を維持する。
  →維持管理コストは除草のみ。


これに、芝の導入コストを加算したトータルコスト(初期コスト+ ランニングコスト)を【図- 9】に示す。


ランニングコストのみの比較であれば、施工後10 年目には野芝は改良芝の3 倍以上のコストとなる。
しかし、トータルコストで考えると、改良芝の導入コストは野芝のそれの概ね2倍弱かかるため、改良芝のトータルコストが野芝を下回るのは9 年目にかけてとなる。
以上より、点検・巡視の容易性や刈草発生量の抑制の観点から見ると、雑草への遷移が野芝に比べ抑制される改良芝を使用することで、芝の被覆が長期間維持されると言える。


5.有効性評価のまとめ
改良芝の有効性評価結果を【表- 3】に示す。
まず、「野芝系品種、野芝と高麗芝の種間雑種のグループ」は、被覆機能は野芝と同程度であったため、刈草処分費の縮減が見込めないうえ、導入コストは野芝より高いことから、トータルコストは、野芝より劣る評価となった。
次に、「ムカデ芝系、イヌ芝系品種」は、被覆機能はアレロパシーによると考えられる被覆の維持が認められ、導入コストは高いが、刈草処分費の減により、トータルコストは野芝と同程度と判断される。
最後に、「他種とのブレンド」は、施工箇所において期待した品種が発生しない事例があったため、品質の安定性に課題があると評価しカッコ書きとした。


以上より、改良芝には、次のような効果が期待される。
【効果①】雑草の侵入が抑制され、芝による良好な被覆が長期間維持される。
【効果②】雑草と比べ根毛層の厚い芝が維持されることで、堤防の耐侵食性が長期間維持される。
【効果③】刈草発生量が少なくなることで、維持管理費用の縮減に繋がる。
【効果④】高茎雑草への遷移が抑制されることで、堤防の点検・巡視が容易になる。
【効果⑤】高茎雑草への遷移が抑制されることで、沿川の居住環境が改善される。
【効果⑥】ノダイコンのような根による腐植が発生しないことで、モグラ等の小動物の巣穴被害が抑制される。


6.施工・維持管理ガイドライン作成
今回、モニタリング調査及び改良芝の有効性評価を実施した結果を踏まえ、平成24 年度から活用してきた「河川堤防における改良芝の試験施工ガイドライン」の一部を見直し、「九州の河川堤防における芝の施工と維持管理のガイドライン」の検討及び作成を行った。
主な修正、追加記載内容は以下の通りである。
 ○各改良芝の特性をよりわかりやすく整理
 ○九州管内での改良芝導入経緯
 ○現在九州管内で施工実績のない改良芝
 ○ムカデ芝、イヌ芝のアレロパシー
 ○除草・集草・運搬・処分の費用割合、各使用機械の単価比較等、コスト検討に資する基礎情報
 ○除草機械とその適用勾配
 ○乗用芝刈り機も含めた機械選定フロー
 ○被覆維持とコスト縮減の両立を目指す維持管理方法についての事例 等


7.今後の堤防法面管理に向けた提案
(1)改良芝の有効性に関する知見の蓄積
施工後5 年と8 年のモニタリングの結果、「野芝系」は根毛量、土壌緊縛力が低下傾向であることから、雑草に遷移しやすい傾向にあること、「ムカデ芝、イヌ芝系」は、アレロパシー効果等もあり、雑草に遷移しにくい傾向にあると考えられる。
今後も、適宜改良芝の長期的な有効性について知見を蓄積する事が望ましい。

(2)堤防法面管理のコスト縮減に関する事項
今回見直し検討したガイドラインでは、更なるコスト縮減の方法として、高頻度の維持管理を提案している
芝の導入から維持管理までのコスト面からは、雑草抑制効果を持つ改良芝を導入することで、刈草処分費用の削減に寄与すると言えるが、4(3)で述べたとおり、導入時のコストが野芝に比べ大幅な増となるため、例えば、芝の管理に適した芝刈り機を用いる、刈り込み回数を増やすことで草丈を低く維持し集草処分を行わない等、改良芝導入後のコストも含めた維持管理計画を立て、効率的な維持管理に努めることが必要である
従って、今後は、高頻度維持管理(除草の年4回刈りなど)の実証実験を行い、モニタリングを実施するなどして、維持管理がしやすく、かつ堤防の安全性が確保できる堤防法面のあり方をコスト縮減及び良好な芝の被覆維持に関する効果を検証しながら検討していくことが望ましい。



謝辞
最後に、今回の執筆にあたり、モニタリング調査とそのとりまとめ及びガイドライン検討等ご指導、ご協力いただいた九州地方整備局関係者各位ならびに各調査資料、データをとりまとめていただいた株式会社建設技術研究所の関係者各位に感謝の意を表す。
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