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超大断面トンネルの覆工コンクリートにおける

温度ひび割れ抑制対策の効果確認結果について


田 口 敬 二

古 原 正 人

松 井 匡 宏


キーワード:超大断面トンネル、温度応力解析、温度ひび割れ、部分パイプクーリング

1.はじめに
三光本耶馬渓道路は、中津日田道路の一部を構成する延長12.8㎞の自動車専用道路で、このうち6.3㎞はトンネル構造物である。本道路は、完成二車線の剛性中央分離帯となっており、幅員が12.0m である。そのため、本道路に計画されたトンネルの内空断面積は、約92㎡のトンネルとなる。さらに、山間部のためインターチェンジ付近においては、トンネル内にランプの幅員を確保することになるため、内空断面積139㎡の超大断面となる。超大断面部における覆工コンクリートの厚さは60㎝であり、下端がインバートに拘束されることで、覆工側壁部のブロック中央に水和熱に起因するトンネル輪切り方向の温度ひび割れの発生が懸念される。
本稿では、「(仮称)三光第1 号トンネル」の超大断面部における覆工コンクリートのひび割れ対策とその効果について報告する。


2.工事概要
工事名:大分212 号 三光第1 号トンネル新設工事
発注者:国土交通省 九州地方整備局 
施工者:株式会社 安藤・間
施工場所:大分県中津市三光田口地先
工期(施工):平成28 年1 月14 日~平成30 年3 月30 日
工事内容:トンネル延長:607.0m(坑門含む)
       覆工:41BL[L=10m](標準部) 28BL[L=6m](超大断面部)
       掘削断面積:122㎡(標準部) 170㎡(超大断面部)
       内空断面:92㎡(標準部) 139㎡(超大断面部)



3.覆工コンクリートの温度ひび割れ照査
超大断面部の覆工厚は、60㎝であり、コンクリート標準示方書[施工編]によれば、下端が拘束された壁では厚さ50㎝以上をマスコンクリートとして扱い、セメントの水和熱に起因する温度ひび割れの照査をすることとしている。そのため、図- 2 に示すフロー図に従い、三次元FEM 温度応力解析によるひび割れの照査を実施した。



4.三次元FEM 温度応力解析による照査
4.1 解析モデル
解析に使用したモデルは、トンネル断面を2分割し、覆工1 ブロック(L=6.0m)を中央で2分割した1/4 モデルとした(図- 3)。表- 1 に解析条件を示す。





4.2 事前検討結果
無対策時の解析結果を図- 4 に示す。
解析の結果、ブロック中央部の側壁下部において、縦断方向の引張応力が卓越し、最小ひび割れ指数が0.91 となり、1.0 を下回る結果となり、ひび割れの発生する確率が高いことが確認できた。



4.3 温度ひび割れ対策工の選定
上記の結果より、側壁部に温度ひび割れの発生が懸念されるため、ひび割れの発生が懸念される部分のみをクーリングする部分パイプクーリングを対策工法として採用した。表- 2 は、日本コンクリート工学会発行の“ マスコンクリートひび割れ制御指針2016”2) に記載のある対策に本報告で取り上げる部分パイプクーリングを追記し、覆工に適用する場合の評価をまとめたものである。部分パイプクーリングは、ひび割れ抑制効果が高いこと、次工程に影響しないこと、費用対効果が高いことから選定した。
図- 5 に部分パイプクーリングを実施した場合の解析結果を示す。ブロック中央部の最小ひび割れ指数は1.27 となった。ひび割れ指数が1.0 以上となり、無対策時と比較し0.36 改善したため、部分パイプクーリングは温度ひび割れ対策として適切と判断した。





5.部分パイプクーリングの適用および効果の比較
5.1 部分パイプクーリングの温度ひび割れ抑制メカニズム
部分パイプクーリングを実施した際のコンクリート部材内部の温度履歴およびひび割れ抑制メカニズムの概念図を図- 6 に示す。覆工コンクリート打設開始時よりクーリングを実施することで、図中①のように“ クーリングによる内部温度低減効果” が期待できる。その後、クーリングを停止すると周辺の未冷却部の温度は降下するが、冷却部においては図中②のように温度が再上昇し、“ 冷却部の遅れ膨張効果” を伴う。温度降下時、未冷却部の温度収縮ひずみ量が冷却部より大きいため、図中③の“ 未冷却部の締め付け効果” も期待できる。
これら3 つの効果により、限定された部分のみを短期間クーリングすることで、引張応力の集中する冷却部の引張応力を低減し、ひび割れの発生を効率よく抑制できる。



5.2 施工方法
本工事では、部分パイプクーリングを超大断面部で実施した。部分パイプクーリングの実施手順を以下に示す。

①セントルセット前に側壁下端に内径φ 25㎜、延長4.0m のクーリングパイプ(亜鉛メッキ鋼管:SGP 管) を 500㎜ピッチで3段、側壁中央部に水平に配置する(図- 7、写真- 1 参照)。
②打設開始直後から、冷却装置により通水温度を外気温程度に制御した冷却水を流量15L /分程度で通水する。通水温度および流量は、外気温および計測結果を参考に調整する。
③通水開始から1.5 日~ 2 日程度で通水を停止する。通水時間は計測結果を参考に調整する。
④通水停止後、配管内にはモルタルを注入し充填する。





5.3 計測概要
部分パイプクーリングのひび割れ抑制効果確認のため、部分パイプクーリングと無対策(RC 部材としての鉄筋のみ)およびひび割れ抑制鉄筋を追加した対策の効果を比較し、部材内に発生する拘束ひずみを定量的に把握することを目的として温度およびひずみの計測を実施した。計測項目を表- 3 に示す。打設条件等による影響を排除するため、A ブロックおよびB ブロックでは左側の側壁を“ 無対策”、右側を“ 部分パイプクーリング”とし、C ブロックでは左側を“ 無対策”、右側を“ ひび割れ抑制鉄筋部”、D ブロックでは左側を“ 部分パイプクーリング” 右側を“ ひび割れ抑制鉄筋”とした。また、覆工コンクリートの配合を表- 4に示す。





5.4 無対策との比較
1)計測条件
計測機器の設置位置を図- 8 に、設置状況を写真- 2 に示す。また、A ブロックおよびB ブロックの打設当日の打設状況およびクーリング管理状況を表- 5 に示す。







2)計測結果
A ブロックおよびB ブロックの覆工コンクリート内部温度の計測結果を図- 9、10 に、拘束ひずみの計測結果を図- 11、12 に示す。また、拘束ひずみは測定されたひずみ(全ひずみ)から温度ひずみを引いて算出した。
図- 9 より、A ブロックの“ ②パイプクーリング実施下部”(以下②)は27.0℃、および“ ④無対策下部”(以下④)は、30.9℃となり、3.9℃の低減効果が確認できた。また、図- 10 より、Bブロックの“ ⑥パイプクーリング実施下部”(以下⑥)は25.8℃、“ ⑧無対策下部(以下⑧)” は31.4℃となり、5.6℃の低減効果を確認できた。
図- 11 より、A ブロックにおいて、材齢28 日時点の拘束ひずみは、④は71.4 μ、②は21.5μとなり、49.9 μの低減効果が確認できた。また、図- 12 より、B ブロックにおいては、⑧は74.7 μ、⑥は2.5 μとなり、72.2 μの低減効果が確認できた。通常、拘束ひずみが100 μ程度(引張破壊時の引張ひずみ= 引張強度/ ヤング係数)でコンクリートにひび割れが発生することを考慮すると、部分パイプクーリングを実施したことで、ひび割れの発生が大きく抑制できたと考えられる。
また、図- 12 中の(c)において、クーリング停止後に拘束ひずみが圧縮側に30 μ程度推移した。これは、図- 10 中の(a)において覆工コンクリートの内部温度が3℃程度上昇したことにより膨張したためと考えられる。⑥パイプクーリング実施下部にこのような膨張作用が働く際に、図- 12 中の(b)の青点線に示すように、⑤パイプクーリング実施上部において収縮を継続し、下部を引き締めているため、⑥の拘束ひずみの低減効が大きくなったと考えられる。部分パイプクーリングの温度応力低減メカニズムが実測により確認できた。





5.5 ひび割れ抑制鉄筋との比較
1)計測条件
C ブロックおよびD ブロックの計測機器の設置位置を図- 13、14 に、設置状況を写真- 3 に示す。各ブロックの打設当日の打設状況およびクーリング管理状況は表- 6 に示す。







2)計測結果
図- 15 にC ブロックの拘束ひずみの計測結果を示す、“ ⑫無対策下部” および“ ⑩ひび割れ抑制鉄筋実施下部” の材齢28 日時点での拘束ひずみを比較すると概ね同程度のひずみ量となった。一方、図- 16 に示すD ブロックの拘束ひずみの計測結果において、“ ⑰ひび割れ抑制鉄筋実施下部”(以下⑰)および“ ⑲パイプクーリング実施下部”(以下⑲)を材齢28 日時点で比較すると、⑰は54.4 μ、⑲は27.8 μとなり、部分パイプクーリングを実施することで、拘束ひずみが26.6 μの低減することを確認した。これらの結果により、部分パイプクーリングはひび割れ抑制鉄筋よりひび割れ抑制効果が高いことが確認できた。
C ブロックのひび割れ抑制鉄筋に設置した鉄筋計の計測結果を図- 17、18 に示す。全ひずみの計測値はほぼゼロ (図- 17 中(a))となり、鉄筋はインバートからの鉄筋と結束線で強固に固定されており、変位していないことが確認できた。
一方、ひび割れ抑制鉄筋を設置した箇所の覆工コンクリートにおいては、無対策に比べ、圧縮側に拘束ひずみが30 μ程度大きくなっていることから(図- 15 中(b))、コンクリートの温度上昇時の膨張を鉄筋が拘束し圧縮ひずみが蓄積されたと考えられる。また、図- 18 に示すように、鉄筋計の圧縮側のひずみが215 μと卓越しており、コンクリートばかりではなく鉄筋にも圧縮ひずみが蓄積されたと考えられる。これらより、ひび割れ抑制鉄筋は、覆工コンクリート中に圧縮側のひずみを蓄積させる効果があるため、ひび割れ抑制効果があると考えられるが、今回の計測結果では材齢28 日での拘束ひずみの値は同程度であり、その効果は限定的であると考えられる。









6.まとめ
(1)施工前に三次元FEM による温度応力解析を行った結果、無対策の場合、インバート付近の側壁部でひび割れ指数が0.91 となり、1.0 を下回った。
(2)施工開始前の温度応力解析の結果、部分パイプクーリングを実施した場合、ひび割れ指数が1.27 となり、1.0 以上を確保できることが確認できた。
(3)ひずみ計測の結果、部分パイプクーリングを実施することにより無対策と比べ49.9 ~72.2 μの拘束ひずみ低減効果が確認できた。
(4)鉄筋計による計測の結果、ひび割れ抑制鉄筋を実施することでコンクリート部材および鉄筋に圧縮ひずみを導入できるが、そのひび割れ抑制効果は限定的であることが確認できた。
(5)今回、無対策部分においてもひび割れは発z.9~ 72.2 μ程度低減できたため、将来の温度変化による拘束ひずみの増加においてもひび割れが発生しにくいと考えられる。

三光第1 号トンネルは、平成30 年2 月に全覆工コンクリートの打設が完了し、同年3 月に無事竣工を迎えた(写真- 4、5、6)。超大断面部において、ひび割れは見られなかった。
今回実施した部分パイプクーリングによる温度ひび割れ対策及び効果確認の計測データは、今後の覆工コンクリートの品質向上のための貴重な試行データになったものと考えている。







謝辞
今回の執筆に当たり、貴重な資料や情報の提供を頂いた、施工者である株式会社安藤・間の工事関係者や株式会社千代田コンサルタントの皆様に感謝の意を表します。また、覆工コンクリートの温度ひび割れ対策について、ご指導頂きました大分工業高等専門学校の一宮一夫教授に御礼申し上げます。


参考文献
1)九州地区における土木コンクリート構造物設計・施工指針(案)
2)日本コンクリ―ト工学:マスコンクリートのひび割れ制御指針2016,pp.25 ~ 36,2016.
3)田口敬二・松井匡宏:超大断面トンネルの設計 ・施工に関する検証, 九州技報No.62 2018.
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