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[熊本地震関連]

阿蘇山における土砂災害対策について
~平成30年度直轄事業にて新規着手~


山 上 直 人


キーワード:直轄砂防、火山砂防、阿蘇

平成30 年度予算成立に伴い、阿蘇山直轄砂防事業が新規事業化され、熊本復興事務所において直轄砂防事業を実施することとなった。以下にその事業概要とその背景を中心に紹介する。

1.はじめに
平成28 年熊本地震とその後の降雨により土砂災害の危険性が高まっている阿蘇地域において、土砂災害から住民の生命、財産および重要な幹線等の社会基盤を保全するため、砂防堰堤などの施設整備を推進し、地域の安全性の向上を図る砂防事業を実施する。
■事業期間:平成30 年度~平成39 年度(予定)
■総事業費:約150 億円
■整備内容:黒川下流地区、黒川上流地区、中央火口丘西部地区、高森地区において概ね25 施設程度を予定。(今後の調査等により変更の可能性がある。)
■整備効果:砂防堰堤等の整備により土砂・流木の流出を抑止・抑制し、家屋約600 戸、国道57 号、国道325 号、JR 豊肥本線等への土砂災害を防止・軽減する。



2.流域の地形・気象の概要
阿蘇山は、九州地方の中央部、熊本県の北東部に位置し、世界最大級となる阿蘇カルデラを有する。阿蘇カルデラは、東西18㎞、南北25㎞、面積約380.におよび、切り立った外輪山に囲まれ、カルデラ内には阿蘇5 岳(根子岳、高岳、中岳、杵島岳、烏帽子岳)を主とする中央火口丘群がある。それらの山麓平地部を平均河床勾配約1/50の白川上流(阿蘇カルデラ内)と、1/80 と比較的緩やかな黒川が流れる。





阿蘇山は我が国有数の活火山であり、約三十万年から九万年前の巨大噴火によりカルデラ地形が形成された。約九万年前の巨大噴火では大規模な火砕流が発生し、多量の火山砕屑物を周辺に堆積させた。さらに近年においても活発な噴火活動を続けており、周辺に多量の火山灰を堆積させている。このため、地質的には火山灰、火砕流堆積物および溶岩が表層およびその下部に厚く堆積しており、堆積年代の違いや、風化・土壌化の程度の違いにより強度や透水性が異なり、さらに火山地帯特有の地質や地質構造により多量の地下水が地層の中に存在していると推定され、斜面崩壊や地すべりが発生し易い条件にある。



気象面の特徴としては、平均年間降水量が全国平均の約2 倍となる約3,200㎜(阿蘇山雨量観測所)を記録する多雨地域であり、加えて、九州他地域に比べ、年間降水量に占める梅雨時期の降水量が約4 割と多く、梅雨期の土砂災害が顕著である。過去に大規模災害をもたらした気象事例では、平成2 年7 月2 日に阿蘇乙姫で最大日降水量448㎜、平成24 年7 月12 日に同観測所で日降水量493㎜、最大1 時間降水量108㎜を記録している。






3.事業区域内の人口、資産、産業等
阿蘇カルデラ内の阿蘇市・高森町・南阿蘇村の人口は約4 万5 千人、世帯数約17 千世帯である。これらは3 市町村の役場周辺に主に集中し、外輪山縁辺部と国道沿いにも点在している。カルデラ内には、熊本-大分間の人流・物流を担っている国道57 号とJR 豊肥本線が白川上下流から黒川沿いを通っている。また、白川上流(阿蘇カルデラ内)沿いには、南阿蘇鉄道と宮崎県高千穂町方面へつながる国道325 号が通っている。また、阿蘇地域の大半が阿蘇くじゅう国立公園内にあり、野焼きによって守られてきた広大な草原や、阿蘇特有の希少動植物などの地域資源は世界的に高く評価され、世界ジオパーク及び世界農業遺産に認定されている。さらに、「阿蘇・火山との共生とその文化的景観」は世界遺産の国内暫定リスト入りに着実に近づいており、世界的な視点から見た阿蘇の価値、ブランド力は、今後一層高まっていくことが予想される。熊本県を訪れる観光客の約27%が阿蘇地域を観光し、約40 万人(県内の約6 割)の外国人宿泊客が宿泊している状況にあり、2020年までに訪日外国人観光客数4,000 万人以上を目指している政府目標の達成に向け、阿蘇地域が観光面で担う役割は更に重要性を増している。







4.阿蘇地域の過去の土砂災害
国内外から注目されている阿蘇地域だが、これまでに土砂災害、洪水氾濫、火山噴火災害等の被害を度々受けてきており、貴重な地域資源及びそれらを支える地域社会、経済活動は、常に自然災害に脅かされている。特に昭和28 年、平成2 年、平成24 年は梅雨期の降雨による土砂災害、土砂・洪水氾濫で甚大な被害が発生している。さらに平成28 年熊本地震とその後の降雨により、阿蘇カルデラ内の渓流や山腹等には不安定土砂が残存している。土石流及び降雨を起因とした土砂移動による土砂・洪水氾濫被害のリスクが高まっており、平成24 年7 月九州北部豪雨の際に生じたような土石流、洪水、浸水被害が生じる恐れがある。
流域を荒廃させる火山活動も被害拡大に影響を及ぼしている。昭和28 年の西日本大水害では、直前4 月の中岳噴火により流域に大量の降灰があり、その後の土石流、土砂・洪水氾濫被害を拡大させた。中岳では、熊本地震より半年後の平成28 年10 月に第一火口において36 年ぶりに爆発的噴火が発生し、阿蘇市をはじめ広域で降灰が確認されるなど、依然として活発な火山活動が続いている。





5.阿蘇地域の土砂移動現象の特徴
阿蘇地域の土砂移動現象について、以下に平成24 年九州北部豪雨を踏まえた現象の分類と、エリアごとの土砂災害発生の要因(素因)、平成28年熊本地震での土砂移動現象の発生状況を記す。

(1)外輪山カルデラ壁
外輪山カルデラ壁における土砂災害の発生要因(素因)として以下の①~⑤が挙げられる。

①急峻な地形
・カルデラ壁は約300m ~ 600m の比高を有する傾斜30°以上の急崖地形を呈している。

②脆弱な地質構造
・火砕流堆積物等から構成されるカルデラ壁:阿蘇山外輪部のカルデラ壁は、火山岩類の溶岩・火砕流と、その上位に位置する火砕流堆積物から構成されている。阿蘇カルデラ東部には、輝石安山岩質溶岩や黒雲母流紋岩がカルデラ壁底部~中標高部にかけて分布しており、これを阿蘇火砕流のASO-1 ~ ASO-4 が薄く覆う地層構成となっている。これらの地層の多くは、阿蘇火砕流の数度に亘る噴出によって寸断あるいは破砕されている。カルデラ北部にかけては、カルデラ底部の低標高部に旧カルデラ湖形成時の砂礫層を覆ってASO-1 ~ ASO-3 の古い時期の火砕流堆積物が分布している。これらの火砕流堆積物は、柱状節理に富む溶結凝灰岩部分と非溶結状態のスコリア層とが、これらの間に火山灰や軽石の薄層を挟み概ね成層して累重する形で分布している。阿蘇カルデラ西部の立野地区は、カルデラ壁には先阿蘇火山岩類である輝石安山岩質溶岩が分布しており、この上位にASO-2 火砕流が分布している。
・厚く堆積する崖錐堆積物:カルデラ壁の中腹~底部には、崖錐堆積物が厚く分布しており崩壊の発生源の一つとなっている。

③地下水が湧出しやすい地質構造
・カルデラ壁の斜面中腹から下部には、ほぼ直立した急崖をなす溶結凝灰岩や多亀裂な溶結凝灰岩の層があり、その層の下位にある不透水の溶結凝灰岩との境界で地下水が地表に湧出しやすい構造となっている。

④渓床や山腹斜面に不安定土砂が多く堆積
・カルデラ壁の過去の崩壊・土石流等の堆積や風化により、渓床や山腹斜面に不安定土砂が多く堆積している。

⑤カルデラ壁上部の牧草地
・カルデラ壁上部の地形が緩やかな箇所は牧草地として土地利用がなされている。樹木が生育していない牧草地では、樹木の根による土壌緊縛力が働かないため、表層崩壊が多く発生し、その崩壊土砂の一部が土石流化した事例がある。
平成28 年熊本地震においては、地震断層に近いカルデラ内壁の西側やカルデラ内の中央火口丘の西側、ならびに外輪山の周辺において、斜面崩壊、地すべり、土石流などの多様な土砂移動現象が集中的に発生した。
また、地震後の降雨により新たな斜面崩壊が多数発生するとともに、斜面および下流に堆積していた土砂が土石流となって流下した。地震後の降雨により崩壊の拡大も認められた。

(2)中央火口丘群及びその周辺
土砂災害の発生要因(素因)として以下の①~③が挙げられる。

①急峻な上流部と広い集水域
・中岳(1,506m)等の中央火口丘群とカルデラ底部(標高約400m ~ 500m)とでは約1,000m程度の比高を有しており、特に山頂付近においては傾斜30°以上の急崖地形を呈している。また、山頂からカルデラ底部に流れる各渓流はそれぞれ、外輪山の渓流より広い数.規模の集水域を有している。

②火山活動に伴う脆弱な地質構造
・中央火口丘群の火山である高岳、中岳、烏帽子岳、杵島岳は、阿蘇カルデラを形成した4 回の噴火後に形成された火山群であり、溶岩流等の堆積物より構成される脆弱な地質構造を有する。

③中腹の牧草地
・中央火口丘群の中腹は牧草地として土地利用がなされている。牧草地内では、樹木の根による土壌緊縛力が働かないため、表層崩壊が多く発生し、その崩壊土砂の一部が土石流化する場合がある。
平成28 年熊本地震においては、表層が火山灰、その下部が火砕物( 火山灰、軽石、溶岩片) および溶岩からなる急勾配の斜面において斜面崩壊が多数発生した。さらに同様の地質構造の緩斜面でも地すべりが多数発生した。これらの斜面崩壊や地すべりでは、一部の土砂は不安定な状態で渓流内に堆積し、またそれ以外の土砂は土石流となって流下し、氾濫堆積した。
また、地震後の降雨においても新たな斜面崩壊が多数発生するとともに、斜面および渓流内に堆積していた土砂が土石流となって流下した。また、崩壊が拡大した斜面もあり、これに伴い土石流が発生して下流で氾濫した事例も認められた。


6.おわりに
これまでに幾度も土砂災害の甚大な被害を受けてきた阿蘇地域において、今年度からようやく直轄砂防事業に着手する運びとなり、地元からは沢山の期待の声が寄せられている。地域住民の皆様の安心と安全を確保し、重要な交通を守ることはもちろんのこと、世界農業遺産や世界ジオパークなど、「世界の阿蘇」にふさわしい砂防事業となるよう努力して参りたい。


参考文献:
阿蘇地域土砂災害対策検討委員会 報告書(平成25 年3 月, 熊本県)
平成28 年熊本地震による土砂災害に関する緊急調査報告書(平成28 年12 月, 砂防学会)
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