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地すべり災害への対応について

~南さつま市平崎地区~


藏 元 豪一郎


キーワード:平崎地区地すべり,集水井,災害関連

1.はじめに
平崎地区地すべりは、鹿児島県薩摩半島の南さつま市役所から南西へ7㎞程隔てた国道226 号線沿いの平崎集落を含む北西向きの斜面に位置している(図- 1)。



当地区は、昭和55 年に地すべり防止区域に指定され、国庫補助事業等で対策(横ボーリング等)を進め、昭和62 年に概成していたものの、平成26 年6 月17 日から23 日にかけての連続雨量が351㎜に達する豪雨により、地すべりブロック末端部付近の市道において舗装の隆起等が確認されたことから、地すべり対策事業(防災・安全交付金)の採択を受け、平成27 年度から、地すべり対策に係る調査・観測及び対策工の検討を行う予定としていた。
しかしながら、平成27 年6 月10 日の梅雨前線豪雨により、地すべり現象が急速に進行したことから、災害関連緊急地すべり対策事業の採択を受け、緊急的に地すべり防止工事を実施するとともに、併せて特定緊急地すべり対策事業により、再度災害防止を含めた対策工を集中的・重点的に実施をしているところである。
なお、当該地すべり区域内には、保全対象として人家7 戸、緊急輸送道路である国道226 号等があり、地すべり発生規模が急激かつ大規模な範囲に及ぶ場合、社会的影響が極めて大きいことから、平成26年の地すべり兆候確認直後から、調査・観測を行うとともに、学識経験者で構成する本県の土砂災害対策アドバイザーの技術的指導・助言を得ながら、対策工及び警戒避難体制等の整備を行っている。
本稿では、当地区の災害状況、これまでの対策工事の実施内容や対策効果、今後の事業の進め方などを紹介する。


2.地すべりの概要
1)地区の概要
当地区が位置する薩摩半島南端の西部域は、標高250 ~ 450m( 最高峰591m:野間岳) の中起伏山地が北西から南東へ約20㎞に亘り連なる。山地の西側は東シナ海に面し、開析の進行した山地部に接しているため、入り組んだ湾が連続する地形を呈している。


2)地形概要
当地区の地すべり防止区域は、図- 1 の西向きの海岸に近い斜面に位置し、地すべりが発生している範囲は、写真- 1 に示した緩地形部分( 地すべり活動区域) である。
平崎地区全体は、図- 2 の拡大図に見られるように典型的な地すべり地形を呈する。
写真- 1 では、海岸から尾根に至る斜面に、深層崩壊跡が認められる。
また、地すべり活動区域末端に該当する部分の海食崖は周囲の海食崖と比べ低いのが特徴的である。





当地区の地すべり地形は、深層崩壊で斜面下部に堆積した土塊(崩積土)が、その後、海側へ滑落を繰り返し、現在の地形に変遷している。
現在活動しているのは、かつての深層崩壊で堆積した崩積土のうち、まだ侵食されずに残っている部分である。よって、深層崩壊堆積物のうち、相当量は地すべりや崩壊で既に消失したと考えられ、地すべり活動区域には、粘土質の崩積土が残存しており、この崩積土がバランスを崩すと地すべりが急速に進行する状態にある。

3)地質状況
当地区一帯には、新第三紀中新世の古期火山岩類の火山砕屑岩が分布する。
当該地すべりの地質は、基盤が層状溶岩と自破砕溶岩( 凝灰角礫岩状) ないし、これらの互層で、地すべり地の海侵崖に露出する。( 写真- 2 参照)部分的に、熱水変質部( プロピライト化作用) が認められ、脆弱(粘性土化) となっている。(写真- 3)また、基盤の上位は崩積土( 全体的に軟質) により被覆されている。





4)ブロック区分
当該地すべりは、幅約200m、長さ約295mの規模であり、全体としてボトルネック形状を成している(図- 3、写真- 4 参照)。
地すべり範囲全体を占める部分をA・B ブロックとし、その中間~末端域にかけて細分化したものがC・D・E ブロックである。Eブロック内には、さらに細分化したEm - 1 ブロックが存在する。A・B ブロックの右翼側に隣接するR ブロックは、D ブロックの活動により生じたものである。B ~ E ブロックとR ブロックは顕著な変状が見られるが、A ブロックは現在のところ目立った変状の拡大が見られないことから、安定を保っているものと推察される。





5)被災状況
ここからは、各ブロックの状況を写真とともに示す(図- 4 写真位置図及び各写真)







6)これまでの経緯
平成26 年6 月中旬、地すべり現象の確認後、観測調査を開始し、平成27 年度に、地すべり対策事業(防災・安全交付金)を再開し、その後、それまでの観測結果等を基に本県の土砂災害対策アドバイザーである下川鹿児島大学特任教授に現地調査に赴いて頂き、観測を引き続き継続的に行うこと、地表水面と地下水の排除のための応急対策工事の検討すること、また、各関係機関による避難指示解除等の判断に係る情報共有や意見交換等を行うための連絡会議の中において、当面の避難体制等の助言を頂いたところである。その後、平成27 年6 月10 日からの降雨により、地すべり現象が進行し、その対応に追われることになるが、下記に概略の経過を記載する。


【これまでの経緯】
・昭和55 年~ 62 年:
 地すべり対策事業実施( 区域指定S55.4.5)
・平成26 年6 月:
 地すべり現象の確認( 市道の舗装亀裂・滑落崖等)
 ⇒ 調査・観測の実施
 ※変状はあるが、警戒避難にまで至らず、不測の事態に備え、警戒避難体制を整備
  [避難判断基準値]地盤伸縮計の変位で判断
   ①2㎜ /h が連続2 時間以上  ②4㎜ /h 以上
・平成27 年4 月:
 地すべり対策事業( 防災・安全交付金) 再開
・平成27 年5 月29 日:
 第1 回連絡会議  内容(現地調査及び今後の方針等)
・平成27 年6 月10 日~:
 梅雨前線豪雨により、地すべり現象が急速に進行
・平成27 年6 月15 日:
 国道226 号全面通行止(舗装亀裂)
・平成27 年6 月16 日:
 地区内居住の4 世帯7 名に避難指示( 南さつま市)
 ⇒ 地盤伸縮計変位が避難判断基準値(2㎜ /h が連続2 時間以上)を超過
・平成27 年6 月16 日~:
 応急対策工事実施 ⇒ H27.7.24 日に完了  工事内容:抑制工(地表水・地下水排除工)
・平成27 年6 月17 日:
 第2 回連絡会議  内容(地すべり運動の進行度調査)
・平成27 年7 月27 日:
 第3 回連絡会議
  内容(応急対策工事・住民避難・国道交通規制の状況報告等
  ⇒避難及び規制等の解除の目安・考え方等)
・平成27 年8 月~:
 災害関連緊急地すべり対策事業
  工事内容:抑制工( 集水井工)⇒ H29.3 月に事業完了
  ※集水井工本体施工期間(H28.5 ~ H28.10)
・平成27 年8 月28 日
 第4 回連絡会議  内容(国道の交通規制緩和と住民避難解除について)
・平成27 年9 月3 日:
 国道226 号全面通行止 ⇒ 片側交互通行
 地区内居住4 世帯7 名避難指示 ⇒ 解除
 ※応急対策工事の効果確認による規制緩和
・平成28 年4 月~:
 特定緊急地すべり対策事業  工事内容:抑止工(アンカー工)⇒ 現在工事施工


3.対策工事等について
1)応急対策について
 (図-5 応急対策工平面図及び写真-5 応急対策工完了)
当該地すべり地は、ボトルネック状の凹地形になっており、その末端部であるE・D ブロック付近に地下部及び地上部の両方から水が集中しやすい。また、地すべり地の左側に沿って小さな自然の流路( 沢) があり、集水域の上流から供給された表流水が沢から地中に浸透し、これが末端付近の地下水位上昇を誘発し、地すべりの活発な動きになっていると考えられるとの県土砂災害対策アドバイザーの助言を踏まえ、沢からの表流水を浸透させないで地すべり地外へ排出することと併せて、末端部ブロックの地下水位低下を図るため、応急対策工事を実施した。
応急対策完了後、地すべりの大きな変動が観測されず、その対策工事に一定の効果があったと判断し、国道226 号の交通規制の緩和と併せ地区住民の避難指示解除を行っている。





2)地すべり対策工法について
(1)地すべり機構解析
A・B ブロックの長さは295.0m と230.0m、幅は共通で220.0m であり、平面形状はボトルネック状を呈している。すべり面は共通で、その深度は14.0 ~ 20.4m の範囲にある。断面形状は船底型で「崩積土+風化岩地すべり」の複合型に分類される。


(2)地すべり発生機構
素因としては、崩積土と凝灰角礫岩が、変質した溶岩・自破砕溶岩互層の上に堆積しており、地下水が溶岩・自破砕溶岩互層の上面を流下することによって、すべり面付近の地層が劣化している。また、崩積土層内には休眠中のすべり面が存在している。
誘因としては、海岸部の斜面が湧水等により崩壊し、地すべりブロックは末端部から次第に不安定化していた。そこに、降雨による地下水位上昇ですべり面付近に過剰な間隙水圧が発生し、地すべり活動が活発化した。


(3)地すべり活動順序(図-6)
 ① E 及び末端崩壊ブロックの活動開始
 ② D(C)ブロックの活動開始
 ③ B ブロックの活動開始
 ④ A ブロックの活動の活発化のおそれ
 ※末端側ブロックから活動を開始⇒「後退性地すべり」に分類



(4)対策工の実施方針
各ブロックの動態観測の結果に基づき、初期安全率をA・B ブロックに設定し、まずは、地すべり活動に有害な地下水の低下を図るため、抑制工である地下水排除工を災害関連緊急地すべり対策事業において優先的に実施し安全率の上昇を5% とした。
抑制工において、計画安全率に達しない分については災害フォローとして、特定緊急地すべり対策事業等により抑止工の対策を行うこととした(図- 7)。



(5)災害関連緊急地すべり対策事業について
降雨時の末端部ブロック付近において、地表面付近まで地下水位が観測されており、その水を排除するにあたっては、応急対策として横ボーリング工は非常に有効であった。
しかしながら、地中内での深い位置にある水位の低下を図るためには、すべり面付近の帯水層と思われる深い位置において、集水井により集水ボーリングをする必要があり、ブロック頭部域を中心に6 基の集水井を実施した。また、最末端部の集水井からの排水について、海岸線までの距離を考慮して、中継井を1 基実施している(図- 8、9 及び写真- 6)。







(6)抑制工の効果について
これまでの抑制工(地表水及び地下水排除工、横ボーリング工、集水井工)の効果により、地盤変動量については、観測期間中、大きな変動が無く、また、地下水位については、全体的な水位の低下が図られ、集水井の施工前後を比較した結果、降雨後の地下水位の低下速度が速まる傾向であった。また、降雨前後における集水井内部において、集水が確認できた(写真- 7)。
今現在、顕著な地すべり活動は見受けられず、沈静化の傾向にあるが、今後の降雨状況次第では、地すべりが活発に動き出す可能性は否定できないことから、今後も対策工の推移と変動状況を注視する必要がある。



(7)特定緊急地すべり対策事業について
地すべり全体であるA ブロック及び活動的なB・D ブロックを抑えるため、抑止工のうち最も経済的であるアンカー工を採用した。
アンカー工の施工位置及び施工範囲については、人家及び国道・市道等を保全し、地すべりを効果的に抑止するため、D ブロック末端部の市道付近に、基本、現地形に沿った形で計画し、現在施工中である(図- 10・11、写真- 8)







4.おわりに
これまでの対策工事等により、一定の効果が発現し、地すべり活動は沈静化している状況ではあるが、今後も引き続き、観測調査を継続するとともに抑止工(アンカー工)の整備を進めることとしている。
また、地すべり施設全般に言えることであるが、継続的な効果を維持していくために、整備した施設の定期的な点検を行い、その機能低下防止に努めていくことが重要と考えている。
今回の執筆にあたり、貴重な資料や情報の提供を頂いた工事関係者やコンサルタントの方々に厚くお礼申し上げます。
最後に、この平崎地区地すべり災害において、国立大学法人鹿児島大学地域防災教育研究センターの特任教授であります下川悦郎先生におかれましては、鹿児島県土砂災害対策アドバイザーとして、発生直後から現地調査を行い、迅速かつ的確な災害復旧対応の実施及び警戒避難基準等について、様々な技術的助言・指導を頂いたところであり深く感謝します。
また、去る平成29 年9 月8 日には、防災功労者内閣総理大臣表彰を受賞されたことをこの場をお借りしまして、お祝い申し上げます。





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