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白川激特事業における河道付替(ショートカット)の概要


池 川 裕 和


キーワード:ショートカット、激特事業、龍田陳内

●はじめに
白川は、阿蘇郡高森町の根子岳を源とし、阿蘇の南郷谷を西流し、同じくカルデラ南側を西流する黒川と立野で合流した後、大津町、菊陽町、熊本市を流下して有明海に至る流域面積約480㎞2延長約74㎞の一級河川です。



この白川では、平成24 年7 月11 日から12日にかけ発生した、平成24 年7 月九州北部豪雨(熊本広域大水害)により、流域全体に未曾有の被害が発生しました。
この水害を受け、県管理区間の小磧橋~みらい大橋までの、白川の中流域にあたる延長9.4㎞の区間について、河川激甚災害対策特別緊急事業(以下、激特事業)により緊急的な河川改修に取り組むこととなりました。
激特事業9.4㎞区間のうち、河道法線を大きく変えるいわゆるショートカットによる改修を実施している龍田陳内・下南部地区の河道付替が6月に完了しましたので、概要について報告します。



●龍田陳内地区の浸水被害状況
平成24 年7 月12 日未明から阿蘇カルデラ内を中心に短時間で記録的な大雨となり、阿蘇市では1 時間あたり100㎜前後の雨が4 時間継続するなど、12 日0 時から9 時までに492.5㎜(阿蘇乙姫)を観測する記録的な豪雨となり、白川水系では河川の水位が大きく上昇し、白川流域全体で広範囲に浸水被害が発生しました。この洪水により、住宅が密集する白川右岸の熊本市北区龍田陳内地区においては、浸水面積約6.2ha、浸水戸数154 戸の浸水被害を受けました。





●河道付替(ショートカット)計画について
龍田陳内4 丁目では、被災から25 日後の平成24 年8 月7 日に地元へ事業説明会を開催し、河川改修の検討に入ることと、現地測量の同意を諮りました。今回の9.4㎞区間の改修計画は、川幅を拡げて水位を下げる掘込河道で整備することとしました。
しかし、大きく蛇行する龍田陳内4 丁目では、川幅を拡げるだけでは計算水位が下がらず、同規模の洪水に対し、再度災害が回避ができないため、湾曲部をショートカットする検討を行い、最適案として、今回の新たな河道法線を決定しました。
この河道計画の発表及び用地取得範囲について、洪水発生から約3 ヶ月半後の平成24 年10月23 日に地元に事業説明を行いました。





●用地の確保
この計画により、右岸側に位置する龍田陳内地区では、必要面積約2.7ha、対象家屋戸数110戸について御提供いただくこととなりました。
10 月の事業説明会後、直ちに境界立会を実施し、平成24 年12 月から用地交渉を開始、昼夜問わずの交渉、要望があれば個別説明会を開催し、鋭意努力を重ねた結果、平成26 年12 月に取得が完了、面積約2.7ha、対象家屋110 戸について、約2 年という短期間でご協力頂きました。


●河道付替における技術的取組
龍田陳内・下南部地区の河道付替区間では付替後、左岸側に約3ha の廃川敷が発生することとなります。この旧河川敷に、激特事業9.4㎞区間において、発生する掘削土砂の受入を決定しました。
掘削土砂の受入により、下南部地区へ高盛土を計画したため、高盛土に対する技術的課題や新たに創設される土地と地域が一体となったまちづくりを検討する場として、有識者5 名、熊本市、地元代表者(自治会長)をメンバーとする「龍田陳内・下南部地区川づくり検討会」を設置しています。検討会では以下に示す検討事項について、調査・検討を行っています。
 1. 高盛土に対する技術的な課題
 2. 環境・景観への配慮
 3. 周辺地盤への影響
 4. 新たに創出される平場の土地利用

また、検討会における検討事項について、河道形状、環境、景観及び土地利用に対して、必要な事項を検討するために、学識者4 名、熊本市、熊本県で構成するワーキンググループを設置し、より細かな内容を検討しています。
検討会では、検討事項の前段として、旧河川の法線の復元をイメージした法線形状の検討、河床低下対策、高速流への対応について意見があったため、地質調査、平面流況解析・河床変動解析、国土交通省国土技術政策総合研究所(つくば市)の施設を用いた河床低下対策の水路実験、水理模型実験など詳細な調査解析を行っております。
検討会における検討事項の取り組み状況は以下のとおりです。


1.高盛土に対する技術的な課題
高盛土の技術的な課題としては、「①高盛土の安定性」・「②耐震対策」・「③環境や景観への配慮」が考えられることから、それぞれの課題について検討を行っております。

 ①高盛土の安定性
不等沈下等の抑制や地下水の連続性の確保の観点から、ゾーニングによる土質区分設定をしました(図- 4)。



材料A は、河岸部盛土(端部)材【旧川締切部】で、地震時の慣性力に対するすべり安定性を確保するため、c = 10kN/㎡,φ= 25°相当以上のせん断強度を確保します。
材料Bは、旧河川河床部で、河床直下や背後地に分布するAg 層又はDg 層は、白川の水位と連続しており、この連続性を確保する必要があり、透水性の高い材料として、k = 1.0 × 10-2㎝ /s ドレーン相当以上の透水性をもった材料を敷設します。
材料C は、既設の護岸等構造物周りの盛土であり、締固めが容易かつ良質な材料を用い、層厚1m を確保し、振動ローラ等で丁寧に締固めを行います。
材料Dは、一般盛土材として、締固め度90%を確保、安定計算の結果から、c = 5kN/㎡,φ= 20°相当の材料強度で安定性が確保できることから、現地発生土を材料試験で確認の上、受入れを行っています。

 ②耐震対策
現地河道掘削発生土の土質に合わせた定数を設定し安定照査を実施しました。
照査については、「道路土工盛土工指針」に示される性能に対する照査の他、熊本地震により既存盛土部の被害が多く発生したこと、本箇所周辺には宅地が隣接していることを踏まえ、「宅地防災マニュアル」に準拠した地震時における設計水平震度を用いた照査も行いました。
この照査により、熊本地震に対しても安定することを前提に高盛土部の法面勾配や盛土高などを決定しました。


2.環境・景観への配慮
環境・景観に関しては、護岸・法面の形状、河畔林の維持・復元、瀬や淵など周辺の自然環境の保全に対する配慮などを課題として検討を行いました。
更に、浸水時に避難の遅れが発生した右岸側龍田陳内地区に配慮することとし、石積護岸2 段目の天端高を概ね1 年に1 回の出水水位に合わせて設定し、インジケーターとしました(図- 5)。
今後は、龍田陳内地区の住民に、避難行動の目安として活用していただくことを期待しています。



計画堤防高上部の盛土部については、「1.高盛土に対する技術的な課題」で述べたように、耐震対策等を考慮し法面・盛土形状を検討しました。また、護岸付近や盛土法面部等に可能な限り河畔林の復元を考えており、ワーキンググループで議論を重ねて計画したところです。
瀬や淵など自然環境の保全に対する配慮としては、旧河道の環境により近いものを求め、左岸側に深みを持たせた断面形状とし、淵を再現しました。このエリアでは重要種であるニホンウナギが確認されえております。ニホンウナギなど魚類が生息する多孔質な空間を創出するため、左岸の深み、護岸前面のところに寄せ石を施工しました。
また、水際付近のカバー効果に寄与する緑化を可能な限り実現するため、ネコヤナギによる緑化や可能な箇所へのヤナギ等の植樹について実施することとしています。


3.高盛土による周辺地盤への影響
課題として、高盛土を施工したことにより周辺地盤が沈下、変形することが考えられますが、地質調査の結果、高盛土周辺部の地山の地盤は阿蘇4 火砕流堆積物や保田窪砂礫層で、1 万年以上前に堆積した強固な地盤が確認され、高盛土による沈下の影響はないという結論を得ました。


4.新たに創出される平場の土地利用
現河道部へ激特事業9.4㎞区間において発生する掘削土砂を受入れ、盛土するため、新たな土地が創出されます。ただし、高盛土施工後、安定性が確認できるまでの当面の間は、河川区域として平場の利活用を考えています。
この新たな土地については、新河道及び平場の一部は地区住民の協力のもと提供されたものであり、その利用には地区の理解が不可欠のため、「龍田陳内・下南部地区川づくり検討会」において、土地利用について議論を行っております。


●河道付替工事の状況
龍田陳内・下南部地区の河道付替え工事は、平成26 年12 月に新河道の掘削に着手しました。
新河道の河床面については、地質調査の結果から、軟弱な地層が確認され、浸食が懸念されたことから、現地発生の玉石を3 層敷設し、玉石の間隙を現況河床材料程度の砂礫(マトリックス材)で充填する構造とする河床低下対策工1)を実施しております。
旧河道から新河道への切替については、非出水期の施工が原則となるため、平成26 年2 月下旬から平成29 年6 月上旬までの約4 ヵ月間で、6月6 日に無事、河道付替を完了しました。
河道付替は図- 6 ~ 11 に示した5 つのステップを踏んで実施しました。以下、ご紹介します。


・河道付替前の状況
平成26 年12 月から平成29 年2 月までは、住宅地だった右岸堤内地の掘削、護岸、河床低下対策等の整備を進めました。



・ステップ1
新河道部のほぼ中央に縦断的に仮締切(①赤実線)を設置し、上下流右岸側の仮締切り(②赤点線)の撤去を行いました。



・ステップ2
②の仮締切の撤去により、新河道の一部に河川水が流入しました。



・ステップ3
現河道と新河道を仕切る仮締切(④赤実線)を設置し、これにより現河道部への盛土が可能になりました。



・ステップ4
⑤現河道と新河道を仕切る護岸の施工(⑤赤実線)と盛土を進めました。



・ステップ5
現河道と新河道を仕切る護岸が完成、仮締切(⑥赤点線)を撤去し、平成29 年6 月6 日に河道付替が完了しました。



おわりに
龍田陳内・下南部地区の河道付替(ショートカット)において、用地取得を2 年、工事施工を2年半で実施し、平成24 年7 月の被災から5 年以内に新たな河道への付替えを完了いたしました。
今回、平成24 年7 月の九州北部豪雨に伴う緊急改修に対し、地元住民の皆様には、改修計画、用地買収、工事の影響など多岐多様に渡りご理解とご協力頂いていることに感謝申し上げます。
併せて、検討会やワーキングにご尽力いただいている有識者の皆様、地元自治会長、熊本市関係者には貴重なご意見を頂き、測量・設計に携わった方々、工事関係者の皆様には、熊本地震への対応を余儀なくされる中で、河道付替という難題に貢献頂きました。深くお礼申し上げます。
現在、下流直轄区間においても激特事業が実施されております。激特事業9.4㎞区間については、改修による下流直轄区間への水位上昇等による影響が無いよう国土交通省と事業スケジュールを確認しながら、激特事業目標の達成、完了に向け取組んでいます。




参考文献
1)脆弱な地層が分布する法線是正区間における河床低下抑制のための現地発生材使用による対策工法の提案、土木学会河川技術論文集、第22 巻、2016 年6 月

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