トップ  >  第62号 2018.03  >  論文  >  アンカー付鋼管杭における鋼製ブラケットと鋼管杭との溶接部および被覆コンクリートの耐荷力について

アンカー付鋼管杭における鋼製ブラケットと鋼管杭との溶接部

および被覆コンクリートの耐荷力について


右 田 隆 雄


キーワード:アンカー付鋼管杭、鋼製ブラケット、溶接、被覆コンクリート、耐荷力


1.はじめに
平成24 年7 月九州北部豪雨による地滑り災害対策として、アンカー付鋼管杭工法を採用した(図- 1、写真-1)。





アンカー頭部の構造は、2m 間隔で打設された鋼管杭に、上下2 段鋼製ブラケットを溶接し、この上に置いたH型鋼の間にアンカー台座を配置し、アンカー頭部全体をコンクリートで被覆するものである(図- 2 ~図- 5)。



アンカーにかかる水平力は鋼管杭で、鉛直力は鋼製ブラケットで受け持つこととした。
鋼製ブラケットと鋼管杭との溶接部の設計は、アンカーの鉛直力より鋼製ブラケット鉛直部材の両側を、長さ300㎜、のど厚7.07㎜の隅肉溶接としていた(図- 6)。



しかし、実際の施工は、鋼製ブラケット鉛直部材の上側75㎜と下側50㎜を両側のど厚3.9㎜、上部水平部を長さ75㎜のど厚3.3㎜での隅肉溶 接となった(図- 7)。



山留め設計施工指針(日本建築学会)に基づいて、隅肉溶接のど厚により応力度計算すると、実施工では許容応力度を超える結果となった。
しかし、実際は鋼製ブラケット(直線部材)と鋼管杭(円形部材)の隙間にも溶接材料は溶け込んでおり、溶接部の耐荷力は隅肉のど厚以上の耐荷力が期待できるのでは、と考えられた(図- 8)。



また、アンカー頭部はコンクリートで被覆されていることから、コンクリートの耐荷力も期待できるのでは、と考えられた(図- 9)。



この2 点を検証するため、載荷実験、FEM 解析、現場観測(定点観測、リフトオフ試験)を実施した。



2.実験およびFEM解析
(1)実験1(鋼製ブラケットと鋼管杭との溶接部の耐荷力確認)
鋼製ブラケットと鋼管杭との溶接部耐荷力を確認するため、設計(図- 6)と施工(図- 7)の実寸試験体を作成して、載荷実験を実施した。
試験体は、実際に現場で施工した溶接工が、現場と同じ溶接材料を使用して、現場と同じ溶接方向で製作した
実験時の目標とする荷重は、以下とした。
 ①ブラケット1 本に作用する設計アンカー鉛直力:56.5KN (参考:設計アンカー力226.0KN)
 ②降伏荷重:56.5 × 1.7=96.0KN
 ③極限荷重:56.5 × 2.5( 安全率)=141.3KN
載荷実験装置を図- 11、図- 12 に、実験状況を写真- 2 に示す。







実験とFEM 解析は、よく整合する結果となった(図- 13)。また、設計と施工で、耐荷力にほとんど差は見られず、目標荷重(降伏荷重)の約2 倍の200KN 程度まで弾性領域にあり、極限荷重は316KN となった。
施工時の溶接でも十分に耐荷力があることが判明した。







もともと、荷重作用方向と溶接線方向が同じ場合、側面隅肉溶接に作用するせん断応力は、ビードに沿って一様に分布せずビード両端で大きく中央部ではほぼゼロであること、曲げ応力は図- 7の緑色部分で受け持つこと、が知られている(* 1)。
FEM 解析の結果、この知見通り、設計、施工とも、ブラケットの上下部の相当応力が卓越し、中央部付近には、ほとんど応力が生じていない結果となった(図- 15)。
はからずも、現場施工は、合理的な施工となっており、溶接工は、経験上このことを知っていたものと思われる。



(2)実験2(コンクリートで被覆されたアンカー頭部の耐荷力確認)
つぎに、現場施工と同じ構造の、コンクリートで被覆されたアンカー頭部耐荷力確認のための実験を実施した。
試験体は、実験1 と同様に実際に現場で施工した溶接工が、現場と同じ溶接材料を使用して、現場と同じ溶接方向で溶接した鋼製ブラケット付鋼管杭に、現場と同じ品質のコンクリートで被覆して製作した。
現場と実験で異なる点は、現場の延長約50mに対して試験体の延長が2m であること。
荷重の載荷位置が、現場はアンカー台座であるが、実験ではコンクリート内部に載荷するわけにいかず、被覆コンクリート天端に載荷したこと。
この2 点だけである。
試験体の構造を図- 16、図- 17 に、実験装置を図- 18、図- 19 に、実験2 の状況を写真- 4に示す。











想定される抵抗力および目安となる極限値としては、以下を考えた。
 ①ブラケットと鋼管杭との溶接部の抵抗(1 段)
  実験1 の結果より = 316.0KN
 ②ブラケットと鋼管杭との溶接部の抵抗(2 段)
  316.0 × 2 = 632.0KN
 ③コンクリートの押し抜きせん断抵抗
  223,249㎜2 ×(0.9N/㎜2 × 3) = 602.8KN
 ④コンクリートと鋼管杭との付着抵抗
  875,522㎜2 ×(0.45N/㎜2 × 3)=1,182.0KN
 ⑤ ①(溶接)+③(せん断) = 918.8KN
 ⑥ ②(溶接)+③(せん断) =1,234.8KN
 ⑦ ②(溶接)+③(せん断)+④(付着)=2,416.8KN

実験2 の荷重変位の関係を図- 20 に、破壊状況を写真- 5、6 に示す。







極限荷重は約1,800KN となり、コンクリートで被覆されたアンカー頭部には、設計アンカー力(極限141.3KN)の約10 倍以上の耐荷力があることがわかった。

(3)実験2 のFEM解析
実験2 の結果より、想定される抵抗力のうち、どれが支配的で、どれとどれが同時に効いていたのか、又は、効いていなかったのかを解明するために、FEM 解析を実施した。



FEM 解析は、以下の4 ケース実施した。



FEM 解析ケースの組み合わせにより、わかる抵抗力を以下に示す。



各解析ケースの組み合わせ結果を以下に示す。

1)組み合わせA



Case1 とCase3 は、ほぼ同一の結果となった。両ケースの違いは、「④コンクリートと鋼管杭との付着抵抗力」の有無であるので、付着抵抗は、ほとんど効いていないと推察される。

2)組み合わせB



変位の小さい段階では、実験値と解析値はよく整合しているが、変位が大きくなるにつれて解析値の方が小さくなっている。
変位の小さい段階(4㎜程度)では、コンクリートの押し抜きせん断力が支配的に作用していたと推察できる。

3)組み合わせC



変位の小さい段階(4㎜程度)では、ブラケットと鋼管杭との溶接部(2 段)の抵抗は、あまり効かず、変位が大きくなるにつれて、効き始めると推察できる。

4)組み合わせD



変位の小さい段階(4㎜程度)では、ブラケットと鋼管杭との溶接部(1 段)の抵抗は、あまり効かず、変位が大きくなるにつれて、効き始めると推察できる。しかし、Case3 より、実験値との差は小さい。
以上のFEM 解析結果より、実験結果の荷重抵抗メカニズムとして、以下のことが推察できる。
 ①コンクリートの付着抵抗は、ほとんど効いていない。
 ②変位の小さい段階(4㎜程度まで)では、コンクリートのせん断抵抗が支配的である。
 ③変位が大きくなるにつれて、ブラケットと鋼管杭との溶接部(1 段)の抵抗が効き始める。

そこで、Case4 において、上部のブラケットと鋼管杭との溶接部の抵抗が、変位が大きくなるにつれて効き始めるよう、ブラケット周辺とコンクリートは付着していないモデル(図- 26)をCase5 として、解析を実施した(図- 27、28)







Case5 は、実験結果を良く再現した結果となった。
これにより、先に述べた①~③の荷重抵抗メカニズムの妥当性が検証されたと考える。しかし、この結果は、あくまで荷重の載荷位置が アンカー台座でなく、被覆コンクリート天端の結果であるが、コンクリートで被覆されたアンカー頭部には十分な耐荷力があると考える。


3.現場観測
現場の安定性を確認するために、定点観測、リフトオフ試験を実施した。
(1)定点観測
 1)観測期間および観測回数
   平成27 年3 月28 日~平成27 年10 月28 日、10 回
 2)観測点数
   7 点
 3)観測箇所
   被覆コンクリート天端
 4)観測方法
   レベルによる直接測量
 5)観測結果
   観測結果は許容値内にあり、被覆コンクリートに変状は発生していないことがわかった。



(2)リフトオフ試験
荷重を5kN ずつ増加しながら単調載荷を行ったところ、リフトオフ荷重(残存引張力)は222kN となった。
この値は定着時緊張力Pt = 226kN に対し98% の残存引張力を保持していることとなり、定着時緊張力の80% 以上の領域にあるため健全な状態にあるといえる。





4.おわりに
今回、はからずも現場溶接が設計と異なった施工で、基準書による計算値が許容値を超えたこともあり、実験、解析、現場観測を行うこととなった。その結果、耐荷力および現場の健全性を確認することができた。
土木の現場に限ることではないが、ミスは、いつどこにでも必ず起こる。
技術者倫理に関わる検査データの改ざんなど、「悪意のある不正」は、論外である。
しかし、「悪意のないミス」に対し何でも、現場の手直しや損害賠償を求めるのは早計ではないだろうか
ミスはミスとして深く反省しなければならないことは勿論だが、まずは、ミスが起きた原因を調べ、本当に不安定か、他の抵抗力は考慮できないかなどを良く検証するべきと考える
社会資本は、その目的に沿って安全に使用できれば良いと考える。
仕様設計から性能設計に移行している中で、技術者は、何か事が起きた場合、基準書至上主義になるのではなく、作用する外力に対し、実際働く抵抗力を考えて設計を行えることが大切と考える。
最後になりますが、今回の検討委員会の委員長を快く引き受け、実験場所も提供していただいた九州共立大学名誉教授((一社)NME研究所所長)牧角先生、委員として貴重な御意見をいただいた九州大学の濱田教授、園田教授、後藤教授、玉井助教、事務局の中央開発コンサルタント工藤氏には心から感謝申し上げます。
特に、園田教授、玉井助教には実験、解析をすべて実施していただきました。解析Case5 が実験値と良く整合した際は、委員会会場で割れんばかりの拍手が起こるほど、参加者全員感激しました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。

参考文献
(* 1)渡辺正紀、佐藤邦彦:溶接力学とその応用、朝倉書店、1965
プリンタ用画面
前
熊本地震により被災した阿蘇長陽大橋の復旧
カテゴリートップ
論文
次
白川激特事業における河道付替(ショートカット)の概要

サイト内検索
防災情報


防災情報提供センター


川の防災情報

かわ情報


九州 川の情報室

みち情報


道守九州会議


九州風景街道


九州の道の駅