トップ  >  第61号 2017.09  >  トピックス  >  呼子大橋の修繕代行について

呼子よぶこ大橋の修繕代行について


野 尻 浩 人


キーワード:橋梁保全、補修、斜材ケーブル

1.はじめに
呼子大橋は、佐賀県西北部の玄海灘に面した東松浦半島の北端、呼子町殿ノ浦と離島加部島を結ぶ延長728 mの海上橋梁で、そのうち加部島側494 mがPC3 径間連続斜張橋となっている。平成元年4 月に供用を開始、現在まで28 年経過している。
これまで、唐津市において定期的な点検や修繕を行ってきたが、斜張橋の斜材ケーブルの振動抑制対策として実施した制振ワイヤに破断が生じ、度重なって取替えを実施してきた経緯があった。
平成27 年度に唐津市の要請により直轄の各部所から高度な技術力を有する技術者集団を派遣し診断を実施した。
「直轄診断」を実施した結果、主桁内部に多数のひびわれの発生や強風時においてケーブル振動の発生が明らかとなり、今後、斜材ケーブルの振動抑制対策の見直しや強化も視野に入れ、対策検討を速やかに行うことが極めて重要であると、技術的助言を国から唐津市に報告した。
「直轄診断」報告を受けた唐津市の要請により、翌平成28 年度より権限代行による修繕代行事業の着手に至った。
平成27 年度に実施した「直轄診断」においては、呼子大橋の損傷原因の究明と効率的かつ効果的な修繕対策を策定するにあたり、有識者及び専門技術者で構成した「呼子大橋修繕対策検討会」を設立し、検討を行った。
本稿では、修繕代行事業として、風環境および本橋本体および斜材ケーブルの振動特性について詳細な調査を実施し、風による主構造の各部の挙動、既に生じているコンクリート部材のひび割れなどの損傷への影響を把握し、振動抑制と本橋の耐久性、信頼性の向上に対し、効果的で且つリスクが可能な限り少ない対策を選定した検討について紹介する。



2.呼子大橋のこれまでの維持管理
橋梁諸元を表ー1、上部工断面図を図ー2、橋梁側面図を図ー3 に示す。







唐津市が、本橋の本格的な維持管理に乗り出したのは平成20 年で、遠望目視による点検を実施した。その結果を踏まえ、平成21 ~ 22 年度補修工事(制振ワイヤ取替工、コンクリート補修工、伸縮装置取替工等)が実施された。
また、平成26 年に点検要領等に基づき近接目視による定期点検を実施し、主桁外面及び主塔のひび割れ、主塔ケーブル定着部のカバープレートの変形などを確認している。
また、斜張橋の斜材ケーブルの振動抑制対策として実施した制振ワイヤは、供用期間中に強風に伴う破断(写真ー1)により、度々、取替えを余儀なくされている状況で、同年にも制振ワイヤ取替工を実施している。



制振ワイヤの破断が頻繁に生じている状況から強風時の斜材ケーブルが大きく揺れていることは想定されるが、定期点検では、斜材ケーブルの振動特性の把握は困難であること、また、主桁や主塔に生じているひび割れや定着部のカバープレートの損傷と斜材ケーブルの振動の関連性を調査すること等、結果的に橋梁全体への影響を与えている可能性について、高度な技術力が必要な調査及び診断となることから、唐津市から「直轄診断」の実施が申請された。


3.直轄診断の実施
直轄診断では、中央径間が250 mを超える大規模橋梁であることから、診断にあたっては、橋梁の耐荷性、耐久性の低下に関る重要な部位・部材に橋梁点検車及び高所作業車などを用いて近接目視調査を実施した。
その結果、橋梁全体として、既存資料及び現地調査結果から判断すると、緊急対応が求められるような橋梁の耐荷性能の低下は確認されなかった。
しかしながら、ケーブル振動の実態から、現在の制振対策では比較的頻繁に生じる風に起因する振動を十分に抑制出来ていない可能性が高く、ケーブル振動発生によって、制振ワイヤの振動抑制効果が低下し、コンクリート部材における新たなひびわれの発生、既存ひびわれの進展、斜材ケーブルの損傷など、将来的に主構造の健全性の低下に影響を及ぼす可能性が示唆された。


4.検討会の開催
「呼子大橋修繕対策検討会」では、図ー4 に示す流れで、検討を進めた。これまでに3 回の検討会を開催し、ある一定の補修工法の方針が示されたものである。以下に各段階の検討概要を述べる。



4.1 現地測定及び結果の評価・分析
これまで実際の振動観測データが存在していなかったこと、また、主桁内面のひび割れについて、斜材ケーブルの振動で生じた可能性も考えられたため、関連性を把握することを目的として、設置が簡単かつ長期計測可能な無線センサを使用して、ケーブルと主桁の振動実態を詳しく調査するとともに、振動に伴ってひび割れ幅が変動するか測定を行った(図ー5 及び写真ー2)。着目ケーブルは、呼子大橋施工時に振動が測定された、S- 18 ケーブルとした。






10 月に実施した計測では、降雨のない条件下、且つ15m/s を超える東側からの風があった際、顕著なケーブル振動を観測された。振幅は± 3㎝程度(図ー6)であり、風下側のケーブルで、より大きい振動が見えられる現象で、ウェイクギャロッピングを抑えることで発生したサブスパン振動と考えられる。



ここで、ウェイクギャロッピングとは、2 本のケーブルが並列に配置されたとき、風上側のケーブルの後流(ウェイク)の作用によって風下側のケーブルに発生する振動現象のことである。サブスパン振動とは、ウェイクギャロッピングの対策を目的として設置された制振ワイヤによって、1本のケーブルがいくつか分割された際、その分割された部分で発生する振動を称して言う。
また、追加で西からの季節風が吹く2 月にも、測定を実施し、10m/s を超える西側からの風に対し、振幅± 1㎝程度の同様な振動が観測され、頻繁に振動が発生していることがわかった。一方で、ケーブルが振動している際、主桁内部に存在するひび割れは、顕著な開閉は見られなかったことから、損傷の進展性は緩やかと推定される。


4.2 対策案の検討
呼子大橋の斜材ケーブル間隔は、ケーブル径に対して1.85 倍であり、ウェイクギャロッピングが発生しやすい設置状況であった。対策の方向性としては、先ずウェイクギャロッピングの振動発生を優先的に抑え、他の振動も合わせて抑えていくことが効率的であると検討会にて判断された。
主桁に発生したひび割れの進展を抑制するとともに、制振ワイヤが度重なる風に伴う振動により破断を抑え、更にはコストを抑制し、将来の維持管理費を平準化することが可能と考える。対策案の検討は、同様の斜張橋は全国的にあるものの、その斜材ケーブルの振動を抑制する技術は確立されていない状況であったことから、事例などを調査した結果、ウェイクギャロッピングの発生を抑制することを目的として、2 本の並列ケーブルを束ねて、間隔1.25 倍程度にすることで、ウェイクギャロッピングの制振に対し有効1)であったとの伊唐いから大橋の事例2)を参考とした。
なお、過去の制振ワイヤの破断履歴から、側径間に比べ中央径間部分の破断が顕著であったことから、束ねケーブルの実施は中央径間側に対して優先的に実施する。
ただし、束ねケーブルのみの対策では、ケーブルの振動が充分に抑制できない可能性も踏まえ、束ねケーブルと現在の制振ワイヤを再利用する組合せの対策を基本としつつ、更なる振動の抑制が必要となった場合は、追加対策の実施を検討する。
ここで、検討したケーブルの振動抑制対策の束ねケーブル制振ワイヤ設置等の各対策を最適化していくため、個々の対策の効果を確認できるように、表ー2 に示すような対策の組合せを計画し、現地条件に適合した対策となるように段階的に測定を行いながら実施する。なお、上記の対策効果の確認は、これまでの振動測定において、ケーブルの振動が確認され、優先的に振動対策が必要と考えられるS - 18 ケーブルを着目箇所とする。
このほか、写真ー3 に見られるような、斜材ケーブルの定着部付近の損傷に対して、防食機能の回復を目的とした鞘管の取替えと、鞘管内への水の進入を防ぐ構造への変更を行う。







5.修繕代行事業に着手
平成28 年度に唐津市より道路法第17 条第6項に基づき要請がなされ、呼子大橋の代行事業に着手した。
呼子大橋は、先に述べた斜材ケーブルの振動による損傷発生のほか、下部工や上部工の主桁内・外側に浮きや剥離・鉄筋露出、ひび割れが確認されている。これらの損傷は、海上に立地する橋梁でもあることから塩害による予防保全の観点から早急な対策が必要であった。
先ず、側径間部分のA1 橋台からP5 橋脚間の補修工事に着手し、コンクリートに浮きや剥離が生じている劣化部の断面の修復とひび割れ補修の実施、及び塩分の浸透を抑制するための表面保護を行う。なお、橋脚部は海水部にあたることから、施工は、潮待ちとなる。水際の施工には、速乾性の表面保護材を適用し、一般部は、塩分の浸透の抑制を考慮した表面含浸の材料を使用するなど、新技術も活用しつつ施工を実施している。



6.今後の展開
引き続き、斜張橋部の修繕工事の発注を予定しているが、束ねケーブルを前提とし、風速10 ~15m/s の条件の下、振動が抑制できる対策の組合せの最適化を図るために、試験施工を実施する。特に、供用中の斜張橋に対し、束ねケーブルによる対策を実施した事例は存在しないため、対策効果が得られるのか計測及び評価を行うとともに、効率かつ効果的な工法を有識者の助言を得て策定していくこととしている。


7.おわりに
平成27 年度に唐津市からの要請を受け「直轄診断」を経て、翌、平成28 年度より修繕代行事業として事業に取り組んでいるが、技術者の不足、予算の不足などの課題を抱える地方公共団体からの期待は大きいものがある。
本橋の修繕事業は、引き続き試験施工を行いつつ効率かつ効果的な工法を策定するとともに、今後の維持管理についても継承していくよう道路管理者と共に取り組んでいきたい。


謝 辞
検討会における闊達な議論を頂き、対策工の修繕代行事業の着手を迎えることができました。呼子大橋修繕対策検討会の日野伸一座長(九州大学大学院工学研究院教授)、松田一俊(九州工業大学教授)をはじめ、参画いただいた国土技術政策総合研究所、国立研究法人土木研究所のメンバーの方に謝意を表します。


参考文献
1)久保喜延,斜張橋用複数本ケーブルの耐風挙動,第13 回 風工学シンポジウム(19940)
2)斜張橋並行ケーブルのウェークギャッロッピング制振対策検討マニュアル(案),土木研究所 共同研究報告書 第134 号(平成7年9 月)

プリンタ用画面
前
小石原川ダム建設事業の今~ダム建設工事最盛期に向けて~
カテゴリートップ
トピックス
次
諫早大水害から60年 本明川の治水対策について~本明川ダム、河川改修、ICT土工~

サイト内検索
防災情報


防災情報提供センター


川の防災情報

かわ情報


九州 川の情報室

みち情報


道守九州会議


九州風景街道


九州の道の駅