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福岡市下水道事業の現状と今後


原 口 明


キーワード:浸水対策、下水道資源の有効利用、下水道事業のPR

1.はじめに
福岡市の下水道は、昭和5年に博多・千代部の整備に着手して以来、水洗化の普及や浸水対策の推進等に取り組んできた結果、下水道人口普及率は平成27年度末で99.6%と概成、管渠の管理延長は約7,100キロメートルに達し、雨水整備も一定程度進むなど、都市における必要不可欠な社会基盤施設として整ってきた。


2.福岡市の下水道事業
本市では、下水道事業の基本理念を「人と自然を守りくらしをささえる下水道」と定め、この理念のもとに、平成21年度から平成30年度までの10年間の基本計画として「福岡市下水道ビジョン2018」を策定している。
当ビジョンでは、下水道の使命を掲げるとともに、6つの施策目標を定め、下水道事業を推進していくこととしている。
更に、この「福岡市下水道ビジョン2018」で示した目標達成に向けて、事業を計画的に進めるための4年間(平成25年度から平成28年度)の実施計画として、「下水道経営計画2016」を合わせて策定し、浸水対策や改築更新などを推進している。
また、現行のビジョンは策定して8年が経過しており、局所的な集中豪雨の頻発や「平成28年(2016) 熊本地震」の発生など、下水道を取り巻く環境は大きく変化し、下水道に求められる役割も多様化していることを踏まえ、現在、「福岡市下水道ビジョン2026」と「下水道経営計画2020」の策定を進めているところである。


3.浸水対策について
(1)過去の浸水被害
福岡市では、豪雨による浸水被害が過去度々発生している。
平成11年6月に時間最大降雨量79.5ミリ、平成15年7月に御笠川流域を中心に時間最大降雨量104ミリ、更に、平成21年7月には時間最大降雨量116ミリの記録的な豪雨が観測されている(写真-1、写真-2)。


なかでも、平成11年の豪雨では、博多駅近くのビルの地下が水没し、尊い人命が失われるなど、市内各所で甚大な浸水被害が発生した。


(2)雨水整備Doプラン
平成11年の浸水被害を踏まえ、平成12年度に「雨水整備Doプラン」を策定した。
本計画では、市内で浸水した138地区のうち、浸水被害が重大で、かつ過去にも複数回浸水した59 地区を「重点地区」と位置付け、優先的に整備を進めている。
対策の内容については、雨水整備水準を5年確率降雨(時間雨量52.2ミリ)から10年確率降雨(時間雨量59.1ミリ)に引き上げ、ポンプ場や雨水幹線等の基幹施設の整備を進めるとともに、グレーチング蓋の設置や雨水桝の改良など、短期的に効果が現れる対策についても併せて行うものとし、平成30年度完了を目指し事業を推進している。


(3)雨水整備レインボープラン博多
また、博多駅周辺地区については、平成11年、平成15年の記録的豪雨により甚大な被害を受けたことから、博多駅を三度(みたび)浸水させないために、雨水整備水準を平成11年度の実績降雨である時間雨量79.5ミリとした「雨水整備レインボープラン博多」を策定し、従来の流下型施設に加え、雨水貯留管、雨水調整池や浸透側溝などの雨水流出抑制施設を導入した整備を進め、平成24年6月に、雨水貯留管や山王雨水調整池等の主要施設の整備が完了した(図-1、図-2)。




(4)雨水流出抑制対策
加えて、福岡市では、「福岡市雨水流出抑制指針」に基づき、道路において透水性舗装などの整備を行うとともに、公園や学校などの新設や再整備時には、オンサイト型の雨水流出抑制対策に各管理者が取り組むこととしている。
また、公共施設以外でも、雨水貯留タンクや雨水浸透施設を設置する市民や事業者に助成を行うなど、浸水防除に対する市民意識の向上・啓発にも取り組んでいる(図-3)。



(5)事業紹介(雨水整備レインボープラン天神)
さらに、博多駅周辺地区と同様に、地下空間が高度に発達し、都市機能が集積している天神周辺地区についても、雨水整備水準を強化(79.5ミリ)した「雨水整備レインボープラン天神」を策定し、雨水貯留管や浸透側溝などを導入した整備を進めており、第1 期事業として10年確率降雨(時間雨量59.1ミリ)に対応できる施設整備を平成30年度に完了させる目標で事業を推進している。
第1期事業では、現在、主要な雨水管渠である中部2号幹線の工事に着手しており、本幹線については、上流側の内径が4,750ミリ、土被り約30メートル、延長約1.4キロメートル、下流側の内径が5,000ミリ、土被り約16メートル、延長約0.9キロメートルと、福岡市の雨水管渠の中でも大規模なものであり、シールド工法で施工を行っている(図-4)。


上流側については、平成27年6月に掘進を開始し、平成28年7月30日に小学校グラウンドに設置した立坑に到達したところである。また、下流側についても、早期完了に向けて事業を進めている(写真-3)。



(6)整備効果
福岡市の浸水対策事業で、近年、特に整備効果が現れた事例としては、「雨水整備レインボープラン博多」が挙げられる。
本事業で整備した、「山王雨水調整池」は、都心部での限られたスペースを有効活用するため、既存公園内に設置した調整池である。
特に、1号調整池は野球場を掘り下げた貯留施設であり、晴天時は野球場として利用され、また、リニューアルされた公園内では、愛護会による花壇づくり活動等も行われるなど、公園と融合した施設として平成18年6月に供用を開始した(図-5)。

平成21年7月の時間最大降雨量116ミリを記録的した豪雨の際は、市内各所で床上・床下浸水合わせて1,000件を超える浸水被害が発生し、市民生活に多大な影響をもたらしたが、博多駅周辺地区では、山王雨水調整池が初めて稼働し、約2万m2を貯留したことをはじめ(写真-4)、雨水幹線・ポンプ場が機能したことなどにより、浸水被害は床下浸水1 件に止まったことから、施設の整備効果が発現したものと考えている。



(7)今後の浸水対策
「雨水整備Do プラン」では、平成11年6月29日の集中豪雨で浸水被害が発生した地区のうち、被害が重大で過去にも複数回浸水した地区の対策を重点的に進めているところであるが、近年では、計画規模を超える局地的な豪雨が全国的に増加傾向にあり、都市化の進展に伴って、短時間に大量の雨水が流出し、内水氾濫のリスクが増大している。
このような中、本市では、これまで重点的に整備を進めてきた地区以外にも浸水地区が多数存在することから、引き続き雨水対策に取り組む必要があるため、「雨水整備Do プラン」の見直しを行うこととしている。
雨水整備には多大な事業費と期間を要することから、見直しにあたっては、事業の選択と集中を図りながら、効果的な対策となるよう検討を進めることとし、また、対策完了地区についても効果の検証を行い、必要に応じて改良箇所の検討を行うなど、きめ細やかな対策を実施していく。
さらに、今後は、平成27年7月に施行された改正水防法を踏まえて、地下空間を有する博多駅・天神地区においては、発生し得る最大規模の降雨を想定した「浸水想定区域図」の策定や、豪雨時の下水道管渠内の水位情報の周知などについて、防災部局等と連携しながら、豪雨に対する市民の備えを支援する取り組みにも力を注いでいきたいと考えている。


4.下水道資源の有効利用について
(1)下水道は「資源の宝庫」
下水道は、都市内の貴重な資源・エネルギーの宝庫として、大きなポテンシャルを有しており、地球温暖化や世界的な資源・エネルギーの逼迫が懸念される中で、その有効利用は、これからますます重要となっている。
本市においても、低炭素・循環型社会を構築し、地球環境の保全に貢献するため、下水道の持つポテンシャルを活用し、積極的に有効利用を図っている。


(2)下水処理水の有効利用
再生水利用下水道事業は、昭和53年の大渇水を契機に策定された「福岡市節水型水利用等に関する措置要綱」に則り、昭和55年度から日本初の試みとして、市の中心市街地である天神地区の官公庁ビルの一部に対して、下水の再生処理水を水洗便所の洗浄用水や雑用水として供給開始している。水道料金より安い料金設定や条例化など安定した事業を継続することにより、供給箇所数を伸ばし、平成27年度末において供給区域1,421ha、供給箇所数430 箇所となっており、ともに日本一である(図-6)。


また、新たな取り組みとして、西部水処理センターにおいて、海水淡水化施設(まみずピア)の使用済み膜を再利用し、下水処理水からボイラー用水を製造・供給する施設を、平成27年度より供用開始している。


(3)下水バイオガス(消化ガス)の有効利用
下水を処理する過程で発生する下水汚泥は、固形分の大部分が有機物であり、質・量ともに安定している。
この下水汚泥は、処理処分する際に、減量化と安定化を目的として消化槽で嫌気性消化を行っており、その際にメタンガスを多く含んだ下水バイオガスが発生する。
下水バイオガスは、消化槽を加温するボイラーの燃料や汚泥焼却施設の補助燃料として有効利用している。
また、昭和59年度からは中部水処理センターにおいて(写真-5)、平成26年度からは和白水処理センターにおいて、下水バイオガス発電設備を導入しており、発電した電力を水処理センターで使用する電力の一部として利用している。さらに平成28年度からは、下水バイオガスを民間のガス発電事業者へ売却する事業も開始しており、ガス発電事業者は固定価格買取制度(FIT)を利用し、発電した電力を電力会社へ売電している。
このように、下水バイオガスを有効利用することで、水処理センターの維持管理費の低減を図っている。

また、世界初の取り組みとして、平成26~27年度に下水バイオガスから水素を製造し、燃料電池自動車(FCV)へ供給する技術の実証事業を中部水処理センターで実施し、平成28年度からは維持管理の効率化やコスト縮減に向けた研究等を進めている(写真-6)。これらの取組みにより、下水バイオガス発生量の約9割を有効利用しており、今後、余剰ガスの発生見込みに応じた新たな活用について検討する予定である。



(4)下水汚泥等の有効利用
消化後の下水汚泥(脱水汚泥)は、焼却するなどし、土質安定材やセメントの原料として全量有効利用している。
また、西部水処理センターの汚泥焼却施設の更新に合せ、温室効果ガス排出量の削減や処理処分コストの縮減等の観点から、汚泥をバイオマスとして利用する汚泥燃料化施設の導入について検討を進めている。
その他に、本市では、平成8年度から全国初のMAP法によるリン除去を目的としたプラントを導入しており、取り出されたリン(MAP顆粒)は、化学肥料の原料として売却している。リンは、世界的に枯渇が懸念されており、リンを産出している国も限られていることから、全量輸入に頼る日本は、長期的かつ安定的なリン資源の確保が必要とされている。



(5)下水道ポテンシャルの新たな活用
下水の水温は、大気に比べ年間を通して安定しており、冬は暖かく夏は冷たい特質がある。この下水水温と大気温との差(温度差エネルギー)を、冷暖房や給湯等に利用することにより、省エネ・省CO2効果の発揮が期待されるため、下水熱導入について検討することとしている。


5.下水道事業のPRについて
(1)これまでの取り組み
下水道事業の推進には、事業内容を市民の皆さまにご理解頂くことが重要であることから、これまでも事業内容や財政状況等の情報を市政だよりやホームページ、市民向け広報誌等によって発信してきた。
また、市民の皆さまが参加できる身近なイベントとして毎年「下水道フェア」を開催しており、夏休みには小学生とその保護者を対象とした「夏休み下水道たんけん隊」(写真-8)を水処理センターなどで開催している。また、ぽんプラザの下水道PRコーナーの常設展示や出前講座などの広報活動も行っている。



(2)建設部署での広報計画
下水道は特性上地下構造物が多く物理的に見えにくいことから、日常的にその存在を意識している市民は少ないと考えられる。そのため、市民に下水道への理解と関心をより深めてもらうため、平成27年度より下水道PRを道路下水道局の運営方針に位置付け、より積極的に情報を発信することとした。 なかでも、道路下水道局建設部では、下水道整備に係る工事の設計・監督を所管していることから、新たに建設部広報計画を策定し、施工中の工事現場での見学会や完成時イベント等で市民が実際に「見て・聞いて・さわる」体験を通じて土木の良さを実感し、社会基盤の役割や市民生活への貢献を理解する機会を積極的に創出することとした。


(3)将来へ繋げる見学会
特に、現場見学会には重点的に取組み、開催回数を増やした結果、参加者数は平成26年度は約180名であったが、平成27年度は約1,000名、平成28年度は上半期で約1,200名と大幅に増加した。また、現場見学会に小中高の学生を積極的に招待したところ非常に好評であったことから(写真-9)、本年度は専門学校生や学校教員にも対象を拡大しており、工事現場での実体験を通じて「将来のドボクの担い手育成」を推進することとしている。



(4)報道機関等との連携
また、広報には報道機関との連携が有効であるが、取材して頂くにはトピックとタイミングが重要であることから、福岡市が政令指定都市で第5位の人口となったことを記念した全市的なイベント「Go FUKUOKA」とコラボした現場見学会(写真-10)や、シールド工事の発進や到達に関連したイベントに報道機関を招待することで、新聞やテレビで報道して頂く回数も増加している。



(5)PRポスターの作成
このほかにも、下水道事業PRポスターを第1弾で2種類、第2弾で5種類作成し,市役所庁舎内や地下鉄の駅に掲示したが、多くのポスターが掲示される中で、市民の目に留まりかつ下水道をアピールするには、印象が強く記憶されやすいキャッチコピーが必要である。
普段、ポスター作製に慣れていない土木職員が、あれでもないこれでもないと少ない広報センスを最大限に出し切って議論を重ねた結果、第2弾では大胆にも数字のみのキャッチコピーとするなど、福岡市らしい思い切りの良さを発揮し下水道PRを行った(写真-11)。


(6)今後の展開
下水道事業について、市民の皆様の理解がより一層深まり、下水道への良き理解者・協力者となっていただけるよう、ホームページやポスター等による広報の充実や多様な媒体による幅広い広報手段の活用等により、下水道事業の一層の「見える化」に取り組んでいきたい。


6.おわりに
下水道に求められる役割は、時代と共に変化している。下水道事業に携わる我々は、変化を敏感に感じ取り、その時々のニーズに合った施策を立案・実行し、下水道本来の役割である、快適なくらしを守ることはもちろんのこと、都市の魅力を高め、未来につなげる下水道となるよう、常日頃から研鑽を重ねながら時代の要請に応えていかなければならない。
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