防波堤の「粘り強い構造化」の取り組みについて


鳥 集 一 郎

田 上  剛

疋 田 大 輔


キーワード:津波からの減災、港湾機能維持、水理模型実験


1.はじめに
本県は約400㎞の海岸線に、3つの重要港湾をはじめ、16の港を有しており、細島港の「ポート・オブ・ザ・イヤー2015」受賞、油津港の「受入環境整備によるクルーズ船寄港拡大」など全国的に脚光を浴びているところである。
一方で、南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域に指定され、沿岸10市町の人口が全体の約7割を占める本県においては、海岸の地震津波対策は喫緊の課題となっている。
このような中、本県の振興に欠かすことのできない重要なインフラであり、大規模地震発生時には緊急物資の受入拠点となる「港湾」の地震津波対策を進めているところである。



2.宮崎県の地震津波対策について
(1)取組方針と取組状況
①レベル1津波(L1)対策
津波被害が想定される地域について、背後の重要度などを配慮し防潮堤等を整備して防護する。現在は各港湾毎に防護ラインの検討を行っている。


②レベル2津波(L2)対策
津波からの減災や、発災後の港湾機能維持が図られる防波堤の延伸や「粘り強い構造化」、港湾労働者等が津波から安全に避難できるための避難施設整備、また、ソフト対策として避難訓練等を実施しており、今年度は『世界津波の日』にちなんだチリ共和国と合同の津波防災訓練が細島港で実施された。


(2)防波堤の「粘り強い構造化」について
本県の防災拠点にも指定されている3つの重要港湾(細島港、宮崎港、油津港)で、津波来襲時の港内への流入量抑制や、津波来襲後の港内静穏度を確保し、緊急輸送及び産業・物流機能の早期復旧を可能とする、防波堤の「粘り強い構造」への改良に取組んでおり、県では細島港と油津港で整備を行っている。



3.細島港の取組
(1)細島港の概要
細島港は古くから海上交通の要衝として、また地域開発の中核として重要な役割を果たしてきた。
近年では相次ぐ外貿コンテナ定期航路の開設、水深13m岸壁や、国際物流ターミナルの供用開始等、東九州地域の物流拠点として機能を拡充させてきた。


(2)防波堤の粘り強い構造化
細島港においては、余島防波堤を対象として、津波波圧に対する堤体安定の照査、港内側基礎マウンド部の安定性に関する水理模型実験を行い、「粘り強い構造」について検証を行った。



(3)検討条件
(3).1 抽出断面
検討対象となる余島防波堤の平面図を図-3に、検討対象断面を図-4 に示す。検討はB-1-4~6の代表断面としてB-1-4を、B-1-8~10の代表断面としてB-1-9を選定した。ここではB-1-4の結果を記載する。


(3).2 設計条件
防波堤の影響評価に必要となる最大クラスの津波に先行する地震動は、宮崎県において、「最大クラスの津波」を引き起こす地震として、“ 南海トラフ巨大地震(H25内閣府モデル)”、“ 日向灘を中心とした巨大地震(H25宮崎独自モデル)” の2地震が想定されている。細島港における最大クラスの津波をもたらす地震津波は、津波シミュレーションを比較した結果、津波高が高い“ 南海トラフ巨大地震” の地震動を採用する。

(4)基本断面の検討
(4).1 地震動に対する現況断面の安定性照査
余島防波堤の現況断面について、偶発状態(L1:発生頻度の高い津波に先行する地震、L2:最大クラスの津波に先行する地震)における地震応答解析(FLIP計算)を実施し、沈下量の評価および安定性の照査を行う。地震応答解析はL.W.L. 時で実施し、算定結果から設計計算および水理模型実験時に採用する沈下量を設定する。地震応答解析のモデル図を図-5に示し、算定沈下量のまとめを表-1に示す。


(4).2 津波波圧に対する現況断面の安定性照査
津波波力は図-6のフロー(防波堤の耐津波設計ガイドラインP21)で算定する。

沈下後の堤体の安定性照査結果をまとめると、表-2のとおりである。その結果、十分な安定性が確保できていることがわかった。

基礎の被覆石について、津波の防波堤回り込みによる流速に対して安定の照査を行ったところ、不安定との判定となったため、水理模型実験で検証することとした。

(5)水理模型実験による検証
(5).1 実験概要
本実験では、現況断面や耐津波設計で検討された断面に対して、津波作用時の水理特性及び港内側基礎マウンド部の安定性に関する水理模型実験を行い、耐津波安定性について検証を行う。水理模型実験は、①越流実験と②水平流実験を実施し、被覆工の安定性を検証する。模型縮尺は津波による流量と実験装置の性能を考慮して、1/50に設定した。実験に関わる諸量はフルードの相似則に従うものとする。

(5).2 実験施設
実験は、写真―2の直線水路(長さ18.5m、幅0.6m、高さ0.8m)を用いる。

本実験では、現況断面や耐津波設計で検討された断面に対して、津波作用時の水理特性及び港内側基礎マウンド部の安定性に関する水理模型実験を行い、耐津波安定性について検証を行う。水理模型実験は、①越流実験と②水平流実験を実施し、被覆工の安定性を検証する。模型縮尺は津波による流量と実験装置の性能を考慮して、1/50に設定した。実験に関わる諸量はフルードの相似則に従うものとする。

(5).3 実験結果
①越流実験の結果は表-3、②水平流実験の結果は表-4のとおりである。②水平流実験では現況の2t被覆石は安定していたが、①越流実験では流出したため、その対策として、16t被覆ブロックを設置することで安定性が確保できることを確認した。
越流実験における流速分布・ベクトル図は図-7のとおりであり、最大流速9.86m/s、法面付近では8m/s 程度の高流速であった。全体を通して、基礎法面に沿った強い流れである。




(6)測量調査
余島防波堤は建設後30年以上が経過していることから、現状のマウンド形状を定量的に把握する必要があると判断し、潜水調査やマルチビーム測量調査を実施した。

(7)対策断面
基本設計及び水理模型実験により対策として、16t被覆ブロックを港内の基礎マウンドに設置することにより十分な粘り強さを発揮することが確認できたため採用した(図-8)。



4.油津港における取組
(1)油津港の概要
油津港は、江戸時代に飫肥藩主により日本三大運河の一つとされる「堀川運河」が開かれ、阪神、関門、朝鮮方面への木材の搬出等で発展し、現在は国内定期RORO航路や国際定期コンテナ航路が開設されており、「県南地域の物流拠点」として重要な役割を果たしている。
また、クルーズ船の誘致や受入れを地元自治体と連携し積極的に取り組んでおり、入港隻数が4年間で7倍に増加するなど地域の経済活性の一翼を担っている。

(2)防波堤の粘り強い構造化
油津港については外防波堤である東防波堤で検証を行った。


(3)検討条件
(3).1 抽出断面
検討対象となる東防波堤の平面図を図-9 に、検討対象断面を図-10に示す。検討は3区間で行いここでは、1区間(東-1)の結果を記載する。



(4)設計の地震動
本設計で対象とする地震動として、発生頻度の高い津波(L1津波)に先行する地震マグニチュードは8.6(2003年内閣府中央防災会議モデル)、最大クラスの津波(L2津波)に先行する地震マグニチュードは9.1(H25 宮崎独自モデル)を用いて検討を行った。

(5)沈下量
設計計算及び水理計算で用いる沈下量については、LWL 時とHWL 時で地震応答解析(FLIP計算)を実施し設定する、地震応答解析のモデル図を図-11に示す。解析の結果、LWL 時の沈下量が大きくL1 津波で0.2mL2津波で2.2mとなった。


(6)構造形式の検討
(6). 1 堤体の安定性
L1及びL2津波に対する現況断面の安定性照査を行ったところ、検討した断面で堤体の安定性は満足する結果(表-5)となった。


(6). 2 基礎マウンドの安定
津波シミュレーションにより判明した防波堤に沿って生じる平面流速に対して、被覆材の安定照査を行い、L1及びL2津波に対して、既設被覆ブロックの安定性が確保されている結果となり、水理模型実験で越流による安定性の検証することとした。


(7)水理模型実験
(7).1 実験の概要
L2津波来襲時の被覆材の安定しているかどうかを照査することを目的とし、既設断面に対して越流実験を行った。
 津波水位は津波シミュレーションの解析結果である防波堤近傍の津波水位の時刻歴に基づいて、最大水位や前面背面の水位差等を考慮して、被覆材にとって厳しい条件を想定して、津波越流時の被覆材の安定性の確認を行った。

(7).2 実験結果
①現況断面
実験の結果、既設2tブロックと4tブロックについて越流による動揺(写真-4:越流時)が確認された。


②粘り強い構造の検証
2t及び4t被覆ブロック下に、孔空きアスファルトマットの敷設によりブロックの動揺を抑え安定が確保されることが確認(写真-5)されたことから、対策断面を図-12とした。



5.おわりに
防波堤の粘り強い構造化については、平成25年度から油津港東防波堤の設計に着手したが、当時はまだ事例が少なく、また設計基準が明確になる途中段階であり、九州地方整備局港湾空港部や下関港湾空港技術調査事務所、宮崎港湾空港整備事務所などの指導の下、慎重に設計に取り組んだところであり、油津港では本年度を持って整備が完了する運びとなった。
また、同時期に設計に着手した津波避難施設についても、本年度に細島港の津波避難階段が完成し、宮崎港においても津波避難高台の整備が進むなど、地震津波対策が進んでおり、これまでご協力いただいた関係者の皆様に厚く感謝の意を表する。