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立野ダムの計画概要と工事の状況


宮 成 秀 一 郎

寺 下 進 一

森 康 成


キーワード:流水型ダム、治水計画、転流工

1 はじめに
立野ダムは、白川沿川の洪水被害の防止または軽減を目的とした治水専用ダムであり、放流孔を現況河川の高さとほぼ同じ位置に配置して穴あきの状態にしているため、平常時はダムの貯水池に流入してきた水は流下し、洪水時にのみ流入してきた水を自然に貯留し洪水を調節します。
このため、平常時はダムの上下流において水質の変化がほとんどなく、魚類等の遡上や土砂流下など、ダム地点における河川の連続性の確保が貯留型ダムに比べて容易であるという特徴があります。
このような形式のダムを“ 流水型ダム” と呼んでおり、近年は環境の面から注目を集めています。
既設の流水型ダムは、益田川ダム(島根県)、西之谷ダム(鹿児島県)などがありますが、国内においては事例が少ない河川管理施設であり、立野ダムは直轄ダムとして初の流水型ダムになります。
また、立野ダムの建設予定地は、阿蘇くじゅう国立公園内に位置しているため、公園の景観又は景観要素の保護に努め、自然風景を改変する恐れのある建築物等工作物の設置、木竹の伐採、土石の採取等を実施するにあたっては、地形の改変を極力抑え、建築物や仮設物についても色彩や形状に配慮しています。流水型ダムは、貯留型ダムとは異なって平常時の貯水池が空虚であるため、ダムの上流面や貯水池斜面等も景観要素となり、周辺景観への配慮が必要であることから、学識者のみならず地域住民の皆様のご意見も伺いながら景観に配慮した設計を進めるなど様々な取り組みを行って事業進捗を図っています。


2.白川流域の概要
白川は、図-1に示すとおり熊本県の中央部を貫流する河川で、その源を熊本県阿蘇郡高森町の根子岳(標高1,433m)に発し、阿蘇カルデラの南の谷(南郷谷)を流下し、同じく阿蘇カルデラの北の谷(阿蘇谷)を流れる黒川と立野で合流した後、熊本平野を貫流して有明海に注ぐ、幹川流路延長74㎞、流域面積480㎞2の一級河川です。流域は、約8割の面積を阿蘇カルデラが占め、中・下流域は極端に狭くなっており、オタマジャクシのような形をしています。


3.白川の洪水特性
(1)降雨量
白川流域の阿蘇山観測所における平均年降水量は約3,200㎜であり、図-2に示すとおり全国平均の約1,600㎜に比べて約2 倍の量にあたり、全国的にみても降水量が多い流域になります。


(2)白川の流下特性
白川の河床勾配は、白川中流部の勾配が急峻になっていることから、白川上流部の阿蘇カルデラに降った大雨が白川下流部(熊本市街部を含む)に向かって一気に流下するという特性があります。

(3)白川下流部の特徴
熊本市街部を含む白川下流部は、図-3に示す昭和28年6月水害時の痕跡水位を見ると洪水時の水位より周辺地盤高が低いことから、一度洪水が氾濫すると浸水被害が拡大する特徴があります。


(4)洪水後の特徴
白川上流部にあたる阿蘇地方の地表は、「ヨナ」と呼ばれる火山灰混じりの土砂で覆われ、洪水時にはそれが濁流となり大量に流出するという特性を持っています。そのため、写真-1のとおり、氾濫した区域は泥土に埋もれ、復旧作業に時間を要するなど、生活に多大な影響を及ぼします。


(5)これまでに起きた主な洪水
白川では、戦後、昭和28年6月洪水を始め、昭和55年8月洪水、平成2年7月洪水で氾濫し、最近では写真-2に示すとおり、平成24年7月の九州北部豪雨では、白川沿川でも甚大な被害が発生し、現在、激甚災害対策特別緊急事業等により河川の改修が進められています。



4.立野ダムの目的と機能
(1)立野ダムの目的
立野ダムは、昭和28年6月洪水と同じ程度の洪水において、図-4に示すとおり、基準地点である代継橋地点における基本高水のピーク流量3,400m3/s を、立野ダムにより400m3 /s の洪水を調節し、計画高水流量3,000m3 /s に低減して洪水被害の防止又は軽減を図ります。


(2)立野ダムの機能
立野ダムは、洪水の調節だけを目的とした河川構造物であるため、図-5に示すとおり、平常時は放流孔を現在の川とほぼ同じ高さに設置して、水を貯めず通常河川と同じ状態にし、ダム地点において河川の連続性を確保することとしています。
また、洪水時は、図-6に示すとおり放流能力以上の流入水を自然貯留し、下流における洪水時のピーク流量を低減させて洪水被害の防止を図ると共に、洪水時のピーク流量の発生時間を遅らせ、白川下流部で浸水が想定される場合においても、避難する時間を確保するという機能があります。



5.立野ダムの諸元
立野ダムの諸元を表-1に、図-7に立野ダム平面図、図-8に立野ダム下流面図、図-9に立野ダム標準断面図を示します。



6.立野ダム景観検討の概要
(1)立野ダム周辺景観の特性
立野ダム建設予定地周辺は、公園の風致を維持するために自然公園法の規定に基づいて指定された地域であり、主な分類は、ダムサイト右岸側が普通地域となり、左岸側一帯が阿蘇北向谷原始林(国の天然記念物)を含んだ特別地域に分類されています。

(2)立野ダムの景観検討の進め方
景観検討は、図-10 に示すとおり、ダム堤体やダムサイト管理施設等の景観の検討を堤体WG、ダム周辺地域の利活用等の検討を地域WGで行い、委員会で確認しながらダムの完成前から景観創出と並行して地域づくりにも取り組んでいます。


(3)立野ダムの目指すべき景観
立野ダムでは、「豊かな自然を保全し、人々の暮らしを支える立野らしい景観の創出」を目指し、①北向谷原始林との調和や川らしさの表現、②水を貯めない流水型ダムである特徴を活かしたデザイン、③阿蘇観光の玄関に相応しい景観形成という3つの方針を掲げて、自然風景にとけ込むダム景観の創出を目指しています。


7.事業進捗状況
立野ダム建設事業は、平成21年に新たな基準に沿った検証の対象とするダム事業に選定され、平成22年9月28日に国土交通大臣から九州地方整備局長に対して、ダム事業の検証に係る検討を行うよう指示がありました。このため、立野ダム建設事業の検証に係る検討を継続して行い、この過程において、関係地方公共団体からなる検討の場を開催する他、関係住民の意見聴取等を行い、最終的には平成24年12月6日に、国土交通大臣において事業継続の対応方針が決定しました。この決定を受けて、治水効果が早期に発現できるよう鋭意事業を実施しているところです。
現在の事業進捗状況は、用地取得や補償については概ね完了しており、ダム本体関連工事である仮排水路トンネル工事に平成26年11月より着手し、平成27年4月には仮排水路トンネルが貫通しています。また、11月には上流仮締切工事に着手しており、平成34年度の立野ダム建設事業の完了に向けて着実に事業を推進しています。


8.おわりに
平成24年7月の九州北部豪雨災害を受けて、地域住民の皆様からは立野ダムを早期に完成するよう強い要望と期待が寄せられているため、一刻も早く洪水調節効果を発現できるようスピード感を持って工事を進めて参ります。また、立野ダム建設は、優れた自然風景や生態系を保護しなければならない阿蘇くじゅう国立公園内での開発行為になることから、風致や景観に与える影響を極力抑えるように努め、多様な生態系に対しても自然環境の保全に配慮をしながら周辺環境との調和を図り事業進捗を図って参りたいと考えています。

謝 辞
立野ダム建設事業を進めるにあたり、ご理解、ご協力をいただいている地権者や地元住民の皆様に対しまして本稿を借りて厚くお礼申し上げます。
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