松原ダム・下筌ダム樹林帯整備事業について


川 端 良 一


キーワード:樹林帯、水質保全、ダム管理

1.はじめに
松原ダム・下筌ダムは筑後川上流部の筑後川(杖立川)と津江川の合流点付近、大分県と熊本県の県境に位置し、流域面積は676k㎡(松原ダム:491k㎡、下筌ダム:185k㎡)の昭和48 年に完成したシリーズダムである(図-1)(写真-1)(写真-2)。
両ダムは、昭和28 年6月の筑後川大水害を契機に建設に着手し、洪水対策、発電を目的とした多目的ダムである。その後昭和61 年に再開発事業完了により、不特定用水、日田市上水も目的に加え現在に至っている。
また、流域には大分県日田市(旧日田郡前津江村、中津江村、上津江村、大山町)及び熊本県阿蘇郡小国町、南小国町、阿蘇市があり、古くから林業が盛んで杉等の植林が広く行われており、日本有数のスギ材産地としても有名な地域でもある。
今回、管理中のダムである松原ダム・下筌ダムの貯水池周辺で平成5年より整備を進めてきた樹林帯整備事業が、平成26 年3月で完了したことからその概要と取り組み状況について紹介するものである。


2.樹林帯事業の概要
2-1 事業の経緯
平成3年に北部九州を襲った台風19 号の猛烈な風により、植林地を中心に多量の風倒木が発生した(写真-3)。その後の山地復旧が遅れるなか、平成5年6月の集中豪雨により、山腹に放置されていた風倒木が流木となってダム貯水池へ流れ込み、ダム貯水池は流木で埋め尽くされる状況となった(写真-4)。
この時、貯水池周辺域では法面の崩れが発生し、これを起因とする堆砂の進行や濁水の発生など維持管理の問題が生じるとともに、景観の悪化など観光資源の価値の低下が危惧されることとなった。これを契機に、地域から森林整備が望まれるようになり、両ダム貯水池近傍の崩壊地等において、風倒木対策や濁水対策としての法面保護や森林の復旧を行う目的で、平成5年度にダム貯水池水質保全事業(グリーンベルト事業)が事業化され、対策に着手する事となった。
その後、平成9年の河川法改正により、従来の「治水」「利水」といった河川管理に、新たに「環境」が追加され、樹林帯を「河川管理施設」として規定する「樹林帯制度」が創設され、グリーンベルト事業を引き継いだ樹林帯整備事業に平成13 年度から移行し整備を進め、平成25 年度に完了した。


2-2 樹林帯の整備内容
樹林帯整備事業は、全国的にも実施箇所が少なく、河川の堤防に沿って実施する箇所、ダム貯水池周辺で実施する箇所、その中でもダム建設事業の中で実施する箇所等目的に応じて多様な形で実施されている。
当松原ダム・下筌ダムでは管理中のダムとして以下の内容で樹林帯事業に取り組んだ。

(1)事業の目的
ダム貯水池内に流入する土砂や濁水を抑制し、水質を保全するため湖畔林を樹林帯として保全するほか、濁水や土砂流出の原因であるダム貯水池周辺の荒れ地等に対して森林を造成するものである。また、樹林による付帯的な効果として、水源涵養機能の増大、景観改善の役割を担うことも期待されている。

(2)事業地
ダム貯水池の最高水位から法面距離にして概ね50m(50m の範囲内に道路等がある場合は道路区域より貯水池側)の範囲とし、その中で必要な用地及び樹木を取得し、樹林帯整備を行っている(図-2)。


(3)樹林帯整備の方針
平成12 年に専門家、関係行政等による松原・下筌ダム樹林帯整備計画検討委員会を設置し、潜在自然植生を生かした複層林への誘導、造成とする「樹林帯整備計画」を策定した。これは、樹種が多様で、大小様々な木によって構成される複層林は耐風性が高く、土砂流出・土砂崩壊の防止、濁水防止等に効果があり、景観にも優れていることを考えてのことである(図-3)。
整備の内容としては、濁水や土砂流出の原因となっているスギ風倒木被害後地・伐採後地においては、法面緑化工等の整備を行った。また、密生している不健全な樹林箇所においては、樹木伐採、間伐、補植等を行い、複層林へと誘導、造成を行う方針で実施した。


2-3 整備内容
当該事業による樹林帯区域指定予定面積、整備した箇所は以下のとおり。


2-4 住民参加の取り組み
筑後川上流域では、NPO等による広葉樹の植樹等の森林保全活動が活発に実施されている。当該樹林帯地域においても整備の一環としてその活動への協力を実施している(写真-5)(写真-6)。


また、ダム貯水池域でのイベントをきっかけに地元老人クラブとの交流が始まっており、周辺の除草や清掃活動などの活動も協同で実施するなどダム水源地域の方々との交流の場ともなっている。
さらに、地元日田市の祭り「千年あかり」では、3万本の竹灯篭を使用して開催されている(写真-7)(写真-8)。


その竹灯篭の竹については、当該事業地の森林を荒らしている竹を市民、地元企業が切り、運びだしを実施している(写真-9)。
以上の地域の活動、祭りへの協力も行いつつ、作業の一部を住民等に担ってもらうことで事業コストも低減できる取り組みについて積極的に実施している。


2-5 樹林帯地方連絡会議
樹林帯の整備にあたっては、通達に基づき、林野庁九州森林管理局、熊本・大分県、日田市・小国町の林政部局からなる『地方連絡会議』を毎年1月に開催し、保安林、治山事業、樹林帯区域の指定等について森林行政との十分な連絡、調整を図りつつ進めていった(写真- 10)。


3.今後の樹林帯の管理
既存のスギ林を中心とする人工林においては、健全な森林に育てあげていくには、適度に下草刈や除伐、間伐等の施業を実施していく必要がある(写真- 11)(写真- 12)。
また、新たに植栽した地区においては前記施業のほか、枯死したものについては補植が必要となる。


今後の維持管理にあたっては、その方針となる維持管理計画を地域社会との連携の視点を重視する内容で平成24 年度に検討を行った。
その中では、森林状況により管理内容が異なることから、「土砂流出防備の森」「郷土の森」「景観美の森」の3のタイプに分類し、そのタイプ別に森林整備の目標設定を行うとともに、効率的な管理を実施していくために、間伐等の優先順位づけを行うなどの管理方針を策定した。これにより、施業内容を明確化するとともに、早期に森林機能の健全化を図ることとした。

4.さいごに
平成26 年3月に事業が完了したことから、現在当該事業区域を河川法に基づく樹林帯区域指定に向けた手続きを進めている。
また、樹林帯区域指定後、森林法に基づく保安林指定を行う予定としている。樹林帯の管理にあたって出来るだけ手続きが簡素となるように樹林帯地方連絡会議メンバーと調整を進めつつ、今後保安林指定手続きにはいっていくこととしている。