社会資本の現場を活用したツーリズムの取組


永 松 義 敬


キーワード:現場見学、観光振興、社会資本

1.はじめに
我が国の観光振興については、日本再興戦略(平成25 年6 月14 日閣議決定)において、2030年までに訪日外国人旅行者3000 万人の高みを目指すなど、積極的な展開を図っています。この日本再興戦略の中でも、「新たなツーリズムの創出」として「インフラツーリズム等我が国の豊富な観光資源を活かした新たなツーリズムの創出を促進する」とされるなど、日本の成長戦略の一つとしてインフラツーリズムが注目されています。
九州地方整備局でも、多くの社会資本を整備・管理しており、これまで以上に幅広い年齢層、特に子育て世代に現場を見ていただくことを目指し、インフラツアーを実施することにしました。

2.観光資源として注目される社会資本
九州には各地にある温泉、阿蘇くじゅう国立公園等の国立・国定公園、屋久島の世界自然遺産、島原半島の世界ジオパークや日本ジオパーク、豊富な食材など、観光資源が豊富で毎年多くの観光客が訪れています。
また、2011 年3 月の九州新幹線鹿児島ルートの全線開業や、東九州道の逐次延伸など、観光を支える高速交通ネットワークの整備が後押しとなり、観光宿泊者数は増加傾向で推移しており、2013 年の観光宿泊客数は観光庁の統計開始後最高となる延べ約4,800 万人を記録しています。
九州地方整備局が行った大手旅行会社へのヒアリングでは、近年の旅行形態として、団体旅行は減少傾向にあり、家族単位、友人・知人単位による個人旅行が主流となっているとのことでした。
また、小中学生を対象に夏休み等の長期休暇を利用した体験型の学習を柱とした旅行(例えば工場見学や施設の裏側を見せるバックヤード見学、歴史を探究する旅行など)の人気は高く、旅行会社としてもそうした学習の柱となる観光資源の発掘には大変関心があるとのことでした。
実際、九州では周辺観光地と自動車組み立て工場や缶ジュース工場、ビール工場などのタイアップにより、多くの観光客が工場見学に訪れています。また、社会資本自体が観光資源となっている事例として、立山黒部アルペンルートの黒部ダムや、瀬戸大橋や明石海峡大橋などが有名であり、毎年多くの観光客が訪れています。
そうした中、近年、北海道開発局では道路や河川、港湾などの公共施設を旅行会社がツアーに組み込み見学ができる「公共施設見学ツアー」を企画開催しています。また、中部地方整備局では「旬な現場」、近畿地方整備局では「魅せる!現場」、中国地方整備局では「現場百景」など、各地で現場見学の紹介をするホームページが開設されるようになりました。


3.鶴田ダムにおけるインフラツアー
私ども九州地方整備局においても社会資本の役割や重要性を広く一般の方に知っていただくということ、また地域の観光振興に社会資本を活用していただくとの観点から、2013 年よりインフラツアーの実施に向けた検討を始めました。検討にあたっては、観光を所管する九州運輸局と協力しながら、旅行会社へヒアリングを行い、インフラツアーへのニーズ把握や、実施における留意点等について事前確認を行いました。
その結果、2013 年7月~8月の夏休みを利用した2ヶ月間、鹿児島県さつま町にある鶴田ダムを対象にインフラツアーを催行していただける旅行業者を募集することにしました。
鶴田ダムは2006 年7月に川内川流域を襲った豪雨災害を契機として、既存ダムの治水能力を向上させるため、ダムの運用を継続しながらダム堤体に放流設備用の孔を3つ、付替えする発電設備用の孔を2つ増設するなど、国内最大規模のダムの再開発事業を現在実施しているダムです。


また、ダムの上流には東洋のナイアガラとも称される「曽木の滝」があり、連日多くの観光客が訪れています。また地元のタケノコを使った新作料理「黒毛和牛たけのこ丼」もあり、これも人気です。今回のインフラツアーの企画は、鶴田ダムと曽木の滝や地元グルメを連携させることで、幅広い年齢層に対するツーリズムとして成立させ、北薩地方の新たな周遊観光ルートの提案も目指したものです。


旅行業者の募集は、記者発表により広く周知・募集を行い、6社の旅行業者が鶴田ダムを組み込んだツアーを企画検討していただくことになりました。最終的には4社がインフラツアーを催行し、110 名の参加者がありました。ツアーですので参加者は数千円のお金を出して参加されており、その出費に見合う満足度の高いツアーになっているかという点が非常に重要です。


ツアー参加者へはアンケート調査を行っており、アンケート調査結果(図.3)では大人の参加者は年代的には20 代~ 40 代の子育て世代の参加が約4割あったほか、鹿児島市や鹿屋市、枕崎市など鹿児島県内の遠方からの見学者が多く参加されていることが特徴としてあげられます。見学時で特に印象に残ったものとしては「ダム内部」への見学と回答した方が約3割など、日頃目にする事がない施設の裏側への関心が高いことが分かりました。他に見てみたい工事現場としては「トンネル」 や「橋」の現場と回答した方が多い状況でした。
次に子供の参加者は、県外から来たという方が約3 割を占めるという予想外の結果となりました。これは、夏休み期間中の開催という点を踏まえると、故郷への帰省時におじいちゃん、おばあちゃんと一緒に見学に来た子供が比較的多くいたのではと考えられます。
見学時の印象としては大人の回答と同様に「ダム内部」とした方が約半数を占めていました。感想については「とても楽しかった」「楽しかった」が9割以上を占めており、非常に満足度が高く、当初の目的に対して一定の成果が得られたと考えています。
一方、インフラツアー実施における課題も明らかとなりました。
今回は夏休み期間中を対象にしましたが、ツアー実施は土日が中心となり、受け入れ側の事務所においては、職員が休日出勤し対応することとなりました。また、ツアーの最小催行人員数まで集まらずツアーの実施のキャンセルが多く見受けられました。
休日の現場見学の職員対応の課題については、九州内の多くの現場をインフラツアーの対象にすることで、一カ所当たりの負担を減らすなどの改善策があるのではと考えています。


4.「今見てほしい九州の土木」HPの開設
九州地方整備局では、鶴田ダムにおけるインフラツアーの取り組みを踏まえ、九州地方整備局管内の管理施設や建設中の現場を見学したい方の現場見学情報へのアクセスの向上と、インフラツアーを企画したい旅行業者の企画に必要な現場情報の提供を目的に、整備局管内の現場見学情報を一堂に取りまとめた「今見てほしい九州の土木」を九州地方整備局のホームページ内に2013 年12 月に開設しました。また、旅行業者にも九州運輸局を通じて情報を定期的に提供する取組を開始しています。
このホームページに掲載している現場は平成26 年4 月1 日現在で、工事現場16 箇所、施設見学17 施設、体験学習が出来る施設7 箇所、合計40 箇所を掲載するなど、随時情報コンテンツの充実を図っています。


5.おわりに
インフラツアーは、訪れた方々に社会資本の役割や重要性の理解を深めていただく広報としての要素と、地域の観光振興に社会資本を活用していただく要素があります。これまでも九州地方整備局管内の各地の現場において現場見学会等を開催し、多くの方に喜んでいただいていますが、現場の案内で完結しているものが多く、社会資本による新たなツーリズムの創出というところまでは至っていない状況です。九州地方整備局では、九州運輸局や旅行業者、地域とタイアップし、質の高いインフラツアーがより多く実施できるよう努めてまいります。
最後に鶴田ダムにおけるインフラツアーの取り組みにおきましては、九州運輸局を始め、旅行業者の皆様、さつま町や伊佐市など関係自治体の皆様、施工業者の皆様、川内川河川事務所並びに鶴田ダム管理所の皆様に多大なご尽力を頂きました。ここに、感謝の意を表します。