長崎港におけるクルーズ客船誘致のための

    情報通信技術基盤等の整備


中 瀬  聡


キーワード:長崎港、クルーズ、ポートセールス

1.はじめに
長崎港は元亀2年(1571 年)の開港以来、海外との交易によって発展してきた。クルーズ客船寄港の歴史は1958 年のカロニア号(34,100 トン)初寄港以来、毎年多くのクルーズ客船が寄港し、2012 年3月には延べ1,000 隻目のクルーズ客船が寄港した。
このような中、東アジアクルーズ市場の急激な拡大により、東アジア地域へ寄港するクルーズ客船は今後さらに寄港回数の増加と大型化が進んでいく見通しである。長崎港においては、これまで大型化に対応した岸壁やターミナルビルを整備し(図-1)、2012 年の外国籍クルーズ客船の寄港回数は過去最高の72 隻となった(図-2)。
本稿では長崎港へ寄港したクルーズ客船乗客へのアンケート調査から明らかになった長崎港の特徴及び課題、そして今後の長崎港におけるクルーズ客船誘致の新たな方策について述べる。


2.誘致活動
長崎県は長崎港をはじめ、離島などの観光資源に恵まれた良港が数多く存在する。これらの資源を活かし、クルーズ客船誘致と関連産業の振興を図ることを目的として、県内の関係市町や商工関係者で組織する「長崎県クルーズ振興協議会(クルーズながさき)」が2009 年に設立された。クルーズながさきは各地域が主体となって実施する歓迎イベントへの助成や県内各港へのクルーズ客船誘致のためのポートセールスを実施している。
具体的なポートセールスの内容として、国内外の船社や代理店への直接訪問や海外の各種コンベンションへの参加が挙げられる。他県の例ではポートセールスを観光部局だけで行うことが多いが、長崎県では技術職員が同行する。その理由は船社が寄港を検討する際には具体的な岸壁の係留能力やタグボートの能力といった技術的な検討が必要であり、そのような船社からの質問に対してその場で回答できるからである(写真-1)。
このような積極的な誘致活動の結果、2012 年の外国籍クルーズ客船の長崎港への寄港回数は過去最高の72 隻となった。この数字は博多港の85 隻に続き全国第2位となっている。寄港するクルーズ客船の種類については世界中から長崎港に寄港しており、2012 年の寄港した船の種類は横浜港の18 種類をおさえ長崎港は19 種類と日本一多様なクルーズ客船が集まる港となっている。これを外国籍に限ると長崎港は18 種類横 浜港は14 種類、博多港は7 種類となっており、ターミナル等の施設が充実し地理的優位性を有する長崎港が日本のゲートウェイとして選ばれていることがわかる。


3.アンケートの実施
実際のクルーズ乗船客の施設利用状況やニーズ等を把握し、今後の整備やポートセールス等の基礎資料とするため、クルーズの乗客へ直接アンケートを行った。アンケートは2013 年5月に長崎港に入港したボイジャー・オブ・ザ・シーズの乗客を対象として実施した(表-1)。
回答者の属性は、女性が約55%、年代は60代が34.1%と最も多く、50 代(21.1%)、70 代(12.5%)と続く。60 代以上が全体の半分を占めているものの、子育て世代である30 代と40 代も合わせて全体の20%以上を占めていた。このことからクルーズは退職後の趣味ではなく現役世代も楽しんでいるということがわかる。この要因の1つとしてクルーズ代金の低価格化が推測される。いまや1泊1万円程度のクルーズも出てきており、クルーズは今後ますます気軽に楽しめるレジャーとなっていくことが予想される。
住所については関東が全体の70%近くを占めており、参加人数は2人が半数以上であった。クルーズを利用した理由(複数回答)は「東京港発、横浜港着だから」という地理的理由と「今回のクルーズがボイジャー・オブ・ザ・シーズだから」という理由が多い一方で「長崎港に寄港するから」という理由は17.2%にとどまった。観光地への移動手段は今回の乗客が9割以上日本人であったことから、徒歩やタクシー、路面電車で観光地へ移動する乗客が多かった。
長崎港に関する意見としては「港を含め街がきれい」という意見や「港が市街地に近接していて便利」という意見が大半を占めており、他には「人が親切」や「料理がおいしい」という意見や「海から見る長崎の街と長崎港はとても魅力的」、「入港の際に女神大橋の上から市民の歓迎を受けたことに感動した」という意見の他に「フリーのWi-Fi に感動した」という意見もあった。
その一方で「案内看板がわかりにくい」など案内不足に関する意見や「港の近くに飲食や買い物ができる店がない」といった意見も多くあり、これらが今後の課題である。特に案内看板については松が枝国際ターミナル第2ビルを緊急的に整備したこともあり、ターミナル出口からの動線がわかりにくいことが原因の1つである。
今後はより長崎を楽しんでもらうため、市街地に近接し美しいという長崎港の魅力を活かしつつ、乗客がスムーズに目的地に行けるようにするなど観光時間を増やすことが重要であり、その方策を次に述べる。


4.今後のクルーズ客船誘致の新たな方策
4-1.新たな方策の背景と概要
長崎港は市街地に近接することから、下船後に徒歩や路面電車で移動する乗客が多く見られる。そしてクルーズは出航時間が決まっているため、限られた時間の中で効率的に観光することが重要である。しかし、多くの乗客は長崎に土地勘が無く、特に外国人の場合は言語や通貨といった障壁が存在する。これらの課題を解決することで乗客にとって利便性の良い港となり、ポートセールスの際に他港にはない長崎港の新たなセールスポイントとなる。また、効率的な観光により実際の観光時間が増えることで地域への経済効果も増加すると考える。
一方で乗客に対する利便性の向上だけでなく、今後国際的な人的交流を促進するためには受入側、つまり県民に対しクルーズに興味・関心を持ってもらうことが不可欠である。そこでクルーズに関する情報を積極的に提供するなどの啓発活動を行うことで県民に受け入れる側としての意識の醸成を図ることにより、長崎を舞台とした国際的な人的交流が促進すると考える。

4-2.クルーズ乗客に対する具体的な方策
外国からクルーズ客船が寄港した際には入国手続き(検疫、入国審査、税関)が行われ、その後に乗客はそれぞれの目的地へ向かう(図-3)。
この手続きのうち、特に入国審査に時間を要することから、入国審査の簡素化や迅速化が全国的に課題となっている。実際に全国の自治体で組織する「全国クルーズ活性化会議」が2年連続で国に対し入国審査の迅速化の要望書を提出していることからもその重要性がわかる。
幸いなことに長崎港では入国審査のためのブースを全国トップクラスの20 ブース整備していることから、入国審査に関するハード面の対応は現状ではほぼ完了しているといってよい。
そこで、さらに乗客の利便性を向上するために、動線をわかりやすくする多言語の誘導案内板等のハード整備を行うと共にスマートフォン等で活用できる情報通信技術の基盤を整備することで、港から目的地までの円滑な移動のサポートを考えている。具体的には行きたい観光地を入力するだけで移動手段や乗り換え案内、所要時間などがわかるアプリの導入などである。さらに自動外貨両替機をターミナルに設置し、現在クルーズ客船の入港のたびに手作業で行っている両替業務を機械化することで時間短縮を図る(図-4)。
自動両替機の設置にあたってはセキュリティの面や紙幣の補充業務などこれまでにない考え方や方法が必要となるため、今後は銀行などの金融機関や県の産業労働部などと協議が必要である。


4-3.県民等に対する具体的な方策
長崎県は日本有数のクルーズ県であるが、県民のクルーズに対する興味や関心が高いとは言えない。これは特に長崎市民にとってはクルーズ客船が頻繁に入港することから、クルーズ客船が長崎の当たり前の風景の1つになってしまっているのではないかと考える。確かにそれは他県には無い長崎の良いところかもしれないが、県民にもっとクルーズへの興味をもってもらい、クルーズ客船の入港という機会を国際的な人的交流の機会につなげることも重要であると考える。
そこで、他港にはない長崎港のすり鉢状の地形を利用し、稲佐山や女神大橋などの複数の場所へカメラを設置し、クルーズ客船の入出港状況をターミナルやweb 等を通じてリアルタイムで配信することを考えている(図-5)。併せてクルーズ客船の詳細な情報を提供することでクルーズへのおもてなしの気運が醸成され、国際的な人的交流の促進に寄与するものと考える。
さらに興味・関心を深めることで長崎港からクルーズ客船に乗船する人数を増やし、最終的には長崎港を発着港とするクルーズ客船の誘致(母港化)へと繋げたい。それが達成できれば長崎への経済効果は飛躍的に向上し、県の重要政策である「県民所得の向上」に寄与できると考える。
また、リアルタイムでクルーズ客船の状況を配信することで、県民だけでなく他県の方やクルーズの乗客にも効果があると考える。他県の方には長崎にはクルーズ客船を見学する視点場が多く存在することを周知することで、クルーズ客船の見学を目的とした観光客を長崎へ呼び込むことができると考える。一方、クルーズ客にとっては自分が乗船しているクルーズ客船を受け入れ側の視点で見ることができ、長崎の特長的な景観を印象付けることで再度長崎を訪れるリピーターを獲得する(図-6)。
このような効果によりクルーズ客船の寄港回数が増加すれば岸壁の使用回数が増え、ターミナルでのクルーズのお出迎えやお見送りの方が増えることによって岸壁やターミナルといった港湾施設の利用が促進されると考える。さらにリアルタイム配信の他の利用方法として、天候不良時でも室内でクルーズの様子の確認や、クルーズ入港時以外でも緊急事態が発生した際に現場に行く前に現地の様子を確認できるなどの利用が考えられる。



4-4.平成26 年度新規事業
上記の新たな方策の内、情報通信技術基盤の整備については長崎県の平成26 年度新規事業の1つである「長崎国際ゲートウェイ構築事業」として実施することとなった。今後関係者と協議を進め、利用者にとって使いやすい情報通信技術基盤の整備としたい。

5.おわりに
長崎港へのクルーズ客船寄港は東アジアクルーズ市場の拡大と共に年々増加傾向にあり、さらに同時に大型化してきている。今後の長崎の発展にはクルーズ受入のためにハード面とソフト面の両面から取り組むことが重要である。
現在県では松が枝岸壁を延伸し大型のクルーズ客船が2隻同時に接岸できるよう計画を進めているところである。このハードの整備に加え、誘致活動や情報サービスといったソフト面に土木技術職員が積極的に関わっていくことで、より大きな効果を生み出すことができると考えている。