トップ  >  第55号 2014.07  >  論文  >  県立総合運動公園陸上競技場フィールドの早期供用に係る芝生舗装工法の検討

県立総合運動公園陸上競技場フィールドの早期供用に係る

         芝生舗装工法の検討


谷 口 由 香


キーワード:都市公園、陸上競技場、芝生舗装

1.はじめに
諫早市にある長崎県立総合運動公園は、開設面積約32ha の県営の都市公園で、陸上競技場、野球広場、テニスコート等のスポーツ施設の他、芝生広場や遊具広場などが整備された広く県民に利用されている総合公園である(図ー1参照)。


この県立総合運動公園の陸上競技場が平成26 年に開催される第69 回国民体育大会及び第14 回全国障害者スポーツ大会のメイン会場として総合開閉会式や陸上競技の会場として使用されることが決定した。昭和44 年に開催された国体のメイン会場として利用されたこの陸上競技場は、国体の開催に必要な第1種公認陸上競技場としての基準を満たしていないことや老朽化していることなどから全面建替えを行うことになり、平成21 年度からその周辺も含めた関連施設の整備、改修を実施してきた(写真ー1参照)。
本論文では、県立総合運動公園陸上競技場の供用開始の前倒しに伴うフィールド整備における工法変更に関する検討内容について考察する。


2 陸上競技場のフィールド整備
2.1 求められる仕様
陸上競技場のフィールドは主に陸上競技の投てき種目や跳躍競技、サッカーのグラウンドとして利用されるが、それぞれに求められる主な仕様は表ー1のとおりであり、特にサッカーグラウンドには芝生の高い質が求められる。


2.2 天然芝を常緑に保つ手法
前項で陸上競技場のフィールドの仕様を示したが、この中でも「年間を通じて常緑の天然芝を保つ」ためには、適切な時期及び管理下において、表ー2で示す2種類の芝、1つは芝生のベースとなる夏芝(暖地型芝草)、もう1つは冬場の緑を確保する冬芝(寒地型芝草)の切替えを行わなければならない。


2.3 フィールド整備の当初計画
県立総合運動公園陸上競技場のフィールド工事は、当初、平成25 年5月の完成を目指し、2.1で述べた競技場として求められる仕様を満たすため、107m × 71m のフィールド部分約7,500㎡の面積に、芝生のベースとなる夏芝にティフトンを選定し、施工単価が安価で強い芝生を形成することができる「播き芝工法」により、夏芝の張りつけに最も適した春先(3~4月頃)の施工を予定していた。

2.4 供用開始の前倒し
平成24 年度に入り、平成25 年8月に開催される国体リハーサル大会(九州陸上競技選手権大会)に向け新しい競技施設や用具に合わせた運営ノウハウを作るため、競技場の早期の供用開始について関係団体から要望が出され、供用開始の3か月前倒しを検討することになった。

3 供用開始の前倒しに伴う施工時期の変更について
3.1 課題
供用開始の前倒しを検討する中で前提となるのは、供用開始時期として設定された3月初旬の芝生の状態である。この時期は、ベースとなる夏芝が休眠している時期であり、特に今回の工事においてこの時期に供用を開始すると言うことは、夏芝が床土の中まで充分に根を伸ばし床土と一体化する前に、冬芝だけでフィールドを形成し供用を開始することを示している。つまり、表ー3で示すように、当初の計画では平成25年の春先に夏芝の張りつけ工事、秋頃にWOSを実施する予定だったフィールド工事が、供用開始が3ヶ月前倒しされることで、その1年前に生産された夏芝を 前年のうちにフィールドに張りつけ、その上で冬芝を生育させ供用開始に備えるという、芝生の工事としては1年の前倒しに対応しなければならないことを意味している。


3.2 前提条件の整理
供用に耐えうるフィールドを形成するためには、図ー2に示すように、冬芝の根が少なくとも10㎝は伸張し床土をしっかり掴み一体化することが必要と考えられ、供用開始の前倒しを検討する中で考慮しなければならない重要な事項であった。
今回の工事では、平成24 年9月までは陸上競技場の屋根の現場溶接等にフィールドを使用しているなど、建築本体工事との調整により芝の張りつけ時期が11 月以降に限定された。この場合、張りつけ工事終了後の現地におけるWOSでは供用開始までに冬芝を成長させフィールドを形成するのに充分な養生期間を確保できない恐れがあった。それは、冬芝であっても10℃を下回ると成長速度が低下し、5℃を下回ると活動を停止してしまうからである。このため、9月の時点で予め圃場の夏芝に冬芝を播種すると言う一般的には実施されないWOS手法について芝生産業者に問合せたところ、播種後、圃場における冬芝の養生期間が2ヶ月程度確保できるのであれば施工可能との回答が得られた。
この手法を採用することで、表ー3で示すように施工後の現地におけるWOSと比較し養生期間を2か月程度長く確保でき、供用開始までに冬芝を充分生育させることができると判断した。


3.3 播き芝工法から張芝工法への変更
前項で述べたことを踏まえたうえで、平成25 年3月初旬に陸上競技場を完成させるにあたりフィールド工事の前倒しが技術的に可能かどうか、芝の張りつけ工法について検討を行った。
張りつけ工法について比較検討を行った結果は表ー4のとおりであるが、今回の工事では建築本体工事との調整により芝の張りつけ時期が11 月以降に限定されたため、フィールド現地において直接芝を植えつける「播き芝工法」による施工は不可能となった。代わりに、圃場で生育させた芝をロール状にして運搬しフィールドに張りつける「張芝工法」であれば、11 月以降の芝の張りつけが可能であり、その後の養生管理により供用開始に間に合わせることができると判断した。張芝工法については、芝片の大きさの違い(ロール芝とビッグロール芝)による2種類の工法を比較検討することとした。比較の内容として、必要工期と養生期間でビッグロール芝が優れるが、このことは供用開始時におけるフィールドの状態には影響しない。また、施工の特殊性がなく、コストが安価なロール芝が優位と考え、最終的にロール芝による張芝工法を採用した。
以上の検討の結果、陸上競技場のフィールド工事は、当初計画と比べ3ヶ月の工期短縮を実現することができた。
なお、今回の工事では現地における芝の張りつけ工事の際、黒土を残したままの施工とした。通常は、栄養分を多く含む黒土を残すと芝の根がその部分で成長を止めてしまい強い芝生の形成を阻害することに繋がるため圃場の黒土を洗い流す(洗い芝)が、今回は圃場のWOSから現地での芝の張りつけまでの期間が短く充分に成長していない冬芝が洗い芝によって流出することが懸念されたためである。可能な限り黒土層を薄くし芝の根の伸張を阻害しないよう考慮はしたものの、黒土は芝生の透水性を悪くし、また、病害虫を発生させる原因ともなるため、今後、コアリング等で これを除去、芝生の状態を改善していくことが今回のフィールド工事の課題として残る形となった。


4 おわりに
これまで述べたとおり、県立総合運動公園陸上競技場のフィールド整備は、一般的に実施しない「夏芝が育成していない状況での冬芝による供用開始」、「厳寒期の芝育成」、「現場ではなく圃場でのWOS」という異例ずくめの状況の中で行われた。
しかし、WOS手法や芝の張りつけ工法の変更、また、芝の張りつけ後の気候変化に対応した養生管理など、状況変化に応じ関係者全員が協力してノウハウをフル活用することで最善の対策を実施することができた。この結果、供用開始の3ヶ月前倒しを可能とし、多くの県民の皆様と共に落成式を迎えることができた(写真ー2 参照)。
天然資材を材料とする工事やその管理に100%の正解はないと思われるが、県立総合運動公園陸上競技場フィールド工事の経験が、長崎県のフィールド整備、芝生管理の技術力向上の一翼を担えたことは間違いない。
今回の執筆にあたり、貴重な資料や情報の提供をいただいた施工者である株式会社松田久花園の工事関係者やフィールドの維持管理を行っている県立総合運動公園の指定管理者:一般社団法人長崎県公園緑地協会の皆さまに感謝の意を表す。



プリンタ用画面
前
災害対策用照明装置の開発
カテゴリートップ
論文

サイト内検索
防災情報


防災情報提供センター


川の防災情報

かわ情報


九州 川の情報室

みち情報


道守九州会議


九州風景街道


九州の道の駅