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九州北部豪雨災害における砂防ソイルセメント活用による循環型社会

実現のためのゼロエミッション(Zero emission)の取り組みについて


渡 邉  勇


キーワード:豪雨災害、循環型社会、ゼロエミッション、砂防ソイルセメント

1.はじめに
1-1 論文構成
本論文においては、九州北部豪雨災害発生直後から、熊本県が阿蘇地域において、土砂災害対策として取り組んでいる砂防事業全般について、詳しく論述する。特に「砂防ソイルセメント集中プラント」は、全国初の取り組みであるとともに、単純にコスト縮減や工期短縮だけでなく、建設発生土等の利用による循環型社会形成促進を目的としており、将来的に有効な技術へ発展することを期待する。

1-2 災害概要
平成24 年7 月12 日に発生した九州北部豪雨により、熊本県阿蘇地方では死者23 名、行方不明者2 名、人家被害1,705 棟の未曾有の災害となった。
降雨量は、午前2 時から6 時までの4 時間連続で時間雨量約100㎜、24 時間雨量507 ㎜(阿蘇市乙姫観測点)の観測史上最高を記録した。これにより、阿蘇地域では、80箇所を超える土石流等の土砂災害が発生した。


1-3 土砂災害崩壊分類
熊本県では、阿蘇地域で発生した土砂災害を対象に、その発生状況と被害実態、土砂移動の特性等を総合的に整理・分析するために、「阿蘇地域土砂災害対策検討委員会」を開催した。本委員会では、土砂災害について、土石流を2分類、斜面崩壊を3分類に区分した。以下において、土砂災害の崩壊分類と代表的な箇所の写真を示す。


1-4 砂防災害復興事業概要
この甚大な土砂災害に対応するために災害発生直後から土石流発生箇所等の緊急調査を実施した。
緊急調査は、阿蘇地域の中央火口群及び阿蘇外輪山一円で実施した。調査結果を踏まえ、土石流や斜面崩壊の災害規模、人命や人家の被害状況等に基づき各箇所の被災度ランク付けを行い、次の砂防事業を計画した。
<阿蘇地域での砂防災害復興事業概要>
(1)災害関連緊急砂防事業 
   実施年度:平成24 年度
   箇 所 数:15 箇所(16 渓流) 
   工事内容:堰堤16 基
(2)砂防激甚災害対策特別緊急事業 
   実施年度:平成25 年度~ 27 年度(3 年間)
   箇 所 数:30 渓流 
   工事内容:堰堤22 基 渓流保全工20 箇所

2.砂防事業プロジェクトマネジメント
2-1 熊本県復旧・復興プラン
熊本県では、平成24 年7 月24 日に知事を本部長とする「被災者支援及び被災地の復旧・復興本部」(以下「復旧・復興本部」)を設置し、被災者に対する支援及び被災地の復旧・復興のための施策決定を行った。復旧・復興プランでは、次の3原則が規定された。
<熊本県復旧・復興プラン:3原則>
(1) 被災された方々の痛みを最小化する。
(2) 単に元にあった姿に戻すのでなく、創造的な復興を目指す。
(3) 復旧・復興を熊本の更なる発展につなげる。
2-2 砂防事業における創造的復興
砂防事業プロジェクトマネジメントにおいては、復旧・復興本部の思想に基づき、砂防事業における創造的な復興の意義を考え、計画ステージから実施ステージへ展開した。具体的な取組ステージでは、ハード対策とソフト対策をバランスよく組み合わせ、最新のICT を活用することで次のプロジェクトを実施した。
① 設計・施工時の工期短縮やコスト縮減
② 既設鋼製透過型堰堤の土砂・流木撤去
③ 砂防ライブカメラや雨量情報の提供
④ 住民やマスコミへの現場見学会の実施
⑤ 最新デジタル航空写真測量による3 次元GIS の構築
⑥ 現場の落石防止網やワイヤーセンサによる安全対策強化
また、これらのプロジェクトを具体的なテーマ毎に分類整理すると図-1のとおりとなる。


3.循環型社会の実現
3-1 建設発生土利用による循環型社会形成
建設廃棄物は、全産業廃棄物排出量の約2 割、最終処分の約2 割、不法投棄物の約6 割を占め、その発生抑制とリサイクルの促進は、社会において重要な課題である。なお、厳密には、建設発生土は、廃棄物ではなく、建設副産物となり、平成20 年度の有効利用率は78.6%(データ:2013国土交通省白書)である。
ゼロエミッションとは、資源消費型の社会から持続可能な社会へのパラダイムシフトの必要性から考え出されており、循環型社会の形成促進につながるものである。

3-2 砂防ソイルセメント活用の背景
阿蘇地域では、今回の災害により、大量の土石流や斜面崩壊土砂及び河川堆積土砂、復旧・復興工事で発生する掘削土砂等の建設発生土の処理が課題とされた。このため、建設発生土を有効に活用できる砂防ソイルセメン堰堤は、この課題解消に大いに資する工法であった。以下に砂防ソイルセメント堰堤の構造図(図-2)を示す。


3-3 建設発生土の活用スキーム
災害により発生した大量の建設発生土は、復旧・復興箇所が集中する阿蘇市内中央部の土砂ストックヤード(面積:14ha)に集積された。
また、集積された土砂・転石の活用スキームは、以下のとおりである。
なお、「他の復旧・復興工事の代表としては、今回の土砂災害により長期に全面通行止め等の甚大な被害が発生した県道内牧坂梨線の緊急防災避難道路(新設バイパス道路)工事の盛土材等に活用する。


3-4 阿蘇地域特有土砂への対応
阿蘇地域の地層は、阿蘇山の火山灰堆積物である高有機質土砂(黒ボク)が多く堆積している。
このため、砂防ソイルセメント(INSEM 工法)の示方配合は、(一財)砂防地すべり技術センターの研究にもとづいて、㈱新日鉄住金大分製鐵所の鉄鋼スラグを改良材として使用した。
また、セメント系固化材(高有機質土用):ジオセット225 を使用することで、INSEM 強度品質の安定化を図っている。

3-5 砂防堰堤単位体積重量の調整
砂防堰堤建設箇所においては、火山灰堆積層で地盤が軟弱な箇所が多く、地盤改良が必要であった。このため、地盤改良を少なく施工費を低減するため、砂防ソイルセメント内部材(INSEM 材)の改良材であるスラグは、水砕スラグと製鋼スラグの単位体積重量(以下単重)が違う2 種類のスラグの使い分けを行った。この結果、砂防堰堤単重の調整が可能となり、各現場に応じた最適な砂防堰堤断面と地盤改良厚を決定した。


  代表的な2 箇所の砂防ソイルセメント堰堤における単重設計を以下に示す。
(1)坂梨地区砂防堰堤設計(地盤支持力が低い)
   INSEM 単重:17.6 ~ 18.9KN/m3
   < INSEM 配合割合>
   土砂60% 水砕スラグ40% セメント150㎏ /m3
   ※水砕スラグ単重:15.0KN/m3
(2)北坂梨川1他砂防堰堤設計(地盤支持力が高い)
   INSEM 単重:17.6 ~ 20.0KN/m3
   < INSEM 配合割合>
   土砂70% 製鋼スラグ30% セメント200kg/m3
   INSEM 設定単重:18.6 ~ 20.0KN/m3
   ※製鋼スラグ単重:24.2KN/m3

4.砂防ソイルセメント集中プラント方式
4-1 計画背景
今回の砂防事業は、災害により大量に堆積した土砂や流木による二次的土砂災害を防止するために、早期に砂防堰堤を建設することが第一の使命である。砂防ソイルセメント集中プラント方式採用までに至ったフローを次に示す。


4-2 集中プラントの位置
集中プラントは、図ー4のとおり土砂ストックヤードを活用した。本箇所は、今回建設する砂防堰堤13 基の中央部にあり、砂防ソイルセメント堰堤5 基の現場が、半径2㎞以内に存在する位置である。


4-3 集中プラントの配置計画
土砂ストックヤードには、周辺の砂防堰堤工事や他工事で発生する土砂等が集積され、土砂、転石等に分類した。また、砂防ソイルセメントに必要な鉄鋼スラグの材料も貯蔵した。
集中プラント内では、砂防ソイルセメント製造に必要な土砂のふるい分け、材料撹拌、積込み作業を行った。INSEM 製造工程は、①材料ヤード→②製造プラント→③搬出ヤードとなり、品質の高いINSEM 材が効率よく製造された。以下に集中プラントの配置計画等を示す。
<集中プラント設備>
 INSEM 製造プラント(メサイア)3 機
 大型自走式スクリーン1 機、セメントサイロ8 基
<集中プラントINSEM 製造量>
 堰堤4 基:内部材44,696m3  地盤改良2,584m3
 なお、INSEM 材1日製造量は、900m3を実現した。


5.効果検証
現在、砂防堰堤工事が施工中である。このため、設計段階での試算で効果を算出した。効果算出においては、砂防ソイルセメント堰堤と集中プラント方式による効果があるが、以下のとおりに考えている。
<定量的効果>
(1)工期短縮 砂防堰堤建設工期:2 カ月短縮   9 カ月→ 7 カ月
   (コンクリート堰堤より約30%短縮)
(2)コスト縮減 砂防堰堤3 基建設費:2 億円縮減  11 億円→ 9 億円
   (コンクリート堰堤より約20%縮減)
ここでは、今回の災害で、一番被害が甚大だった「坂梨災害関連緊急砂防事業」について具体的な定量的効果を以下に示す。
<砂防本堤工事概要>
  構造 : 砂防ソイルセメント堰堤(不透過型)
  L= 168.3m H= 11.5m V= 10,472m3
  地盤改良(砂防ソイルセメント) V= 2,391m3
  工期:H25.11.18 ~ H26.6.30(予定)


本箇所の工事工程においては、平成25 年11 月18 日に着工し、本堤部INSEM 材(10,472m3 )を平成26 年3 月~ 4 月の2 ヵ月間(実稼働45 日)で施工した。このまま順調に工事進捗が図れれば、6 月下旬に全ての工事を完了する見込みである。


 次に、定性的効果を以下に示す。
<定性的効果>
(1)阿蘇管内コンクリート需要抑制
  (砂防ソイルセメントによるもの)
(2)現場周辺人家の騒音、振動、粉じん抑制
  (集中プラント方式によるもの)
(3)INSEM 材の一括管理による品質向上
  (集中プラント方式によるもの)

6.総括
今回の砂防事業は、大規模災害である九州北部豪雨に対応するものである。加えて、災害発生エリアは、阿蘇山カルデラ内の局部的な区域に集中している。
本県は、従来から土砂災害が非常に多い県である。しかし、これほどの大規模災害における砂防事業執行は、はじめてのことであった。その中で、以下の大きな成果を上げることができたと考えている。
特に、「砂防ソイルセメント集中プラント」についての成果実現には、同時期に、短期間で、複数の大規模砂防堰堤建設が必要であったことが大きな要因でもあった。従来の箇所別に完結した砂防堰堤計画に対して、広域的に隣接する複数堰堤を対象に計画する思想を組み込んだことが斬新だったと考えられる。
<総括成果>
① 砂防事業による創造的復旧・復興の実現
② 建設発生土の活用による循環型社会形成促進
③ 大規模災害時に対応した砂防事業の計画立案
④ 砂防ソイルセメント集中プラント方式
⑤ スラグを利用した砂防堰堤単位体積重量調整

7.おわりに
本砂防事業の事業進捗については、災害関連緊急砂防事業は、平成26 年3 月下旬までに4 箇所が完成しており、残り全ての砂防堰堤が平成26 年7 月下旬までには完成する予定である。
また、砂防激甚災害対策特別緊急事業は、測量・設計中であり、これから本格的に工事がはじまる段階である。
一方、これからの土砂災害対策は、地球温暖化が進行する中、短期降雨量が増加し局地的に集中豪雨や台風被害が発生している環境にある。
その中で、いかに発生する被害を軽減するか、また、災害が発生した場合には、いかに迅速に復興できるかが重要となってきている。
このため、本県が今回阿蘇地域で実施した多くの砂防事業の取り組みが、今後の大規模災害発生時の対応マニュアルや参考事例として、砂防技術の発展につながることを期待したい。
最後に、本稿ならびに本砂防事業の実施に対して多大なるご指導、ご支援を賜った(一財)砂防・地すべりセンター、京都大学大学院水山高久教授、SB ウォール工法研究会に深く感謝申し上げる。

【参考文献】
<平成25 年度砂防学会>
(1)「有機質土をINSEM 材に活用するための改良手法
     著者:(一財)砂防・地すべり技術センター
        ㈱インバックス
        京都大学大学院 水山高久教授

<平成26 年度砂防学会>
(1)「H24.7 九州北部豪雨災害における砂防ソイルセメント集中プラント計画について」
     著者:熊本県県北広域本部阿蘇地域振興局
(2)「阿蘇地域における集中プラント方式を用いたINSEM 工法の適用性」
     著者:熊本県県北広域本部阿蘇地域振興局
       (一財)砂防・地すべり技術センター
        ㈱インバックス
        京都大学大学院 水山高久教授
(3)「砂防ソイルセメントの集中プラントにおける品質管理について
     著者:熊本県県北広域本部阿蘇地域振興局
        ㈱インバックス


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