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甑(こしき)島における海上橋づくりの取り組み

~島をひとつにつなぐ藺牟田瀬戸(いむたせと)架橋~


安 田 伸 司


キーワード:海上橋、塩害、ひびわれ制御

1 はじめに
甑島は、鹿児島県薩摩半島西方の東シナ海に浮かぶ、上甑島、中甑島、下甑島の3 島からなる、豊かな自然と豊富な海産物に恵まれた島である。
平成16 年10 月12 日に旧川内市を中心とした1 市4 町と甑島内の旧4 村(里村、上甑村、鹿島村、下甑村)との海を隔てた広域合併により、現在は薩摩川内市となっている(図- 1、2)。
平成5 年に甑大明神(こしきだいみょうじん)橋と鹿の子(かのこ)大橋が開通したことに伴い上甑島と中甑島は一つに結ばれた。しかしながら、中甑島と下甑島は藺牟田瀬戸(いむたせと)の海峡により未だ隔てられており、現在、地元の長年の夢である「甑は一つ」の願いをかなえるべく、道路整備を進めている。

2 全体計画の概要と整備状況
道路整備延長は全くの新設区間であり、トンネル3 本と海上橋梁、明かり部(盛土・切土)の約5.1㎞からなる(図- 3)。
これまでに、陸上部において起点側の1 号トンネルL=497m と終点側の3 号トンネルL=1,674m の掘削が完了し、現在2 号トンネルL=587m の掘削と2、3 号トンネル間の盛土を実施している。また、海上部においては、起点側の第1 橋及び海峡部の第2 橋について発注し実施中である。

3 海上橋梁部の概要
藺牟田瀬戸海峡と呼ばれる架橋位置は、海峡部に位置し東シナ海からの潮の流れが速く、また南北に遮蔽物がないことから台風時や冬季の風浪の影響を大きく受ける場所である。
藺牟田瀬戸架橋(仮称)はL=1,533m の海上橋梁区間である。本橋は、鹿児島県内の海上橋としては最大規模のものとなる。また、第2 橋の中央径間部は航路としての位置付けもあり、径間長L=165m はPC連続箱桁橋において国内最大級となる。なお、航路の桁下高は巡視船「とから」を最大マスト高の船舶として決定し、H.W.L から23.0m 以上確保している(図- 4)。
海底の地質は、白亜紀の非常に硬い堆積岩である姫浦(ひめのうら)層群(頁岩)が主体となっており、一部に未固結な堆積層が分布している箇所があるものの、岩盤が海底ほぼ全体に露頭している状況にある。
したがって、下部工(橋脚)基礎形式は直接基礎を採用している。このうち、浅層域部に位置するP1~P3及びP9~P 14 の9橋脚は仮桟橋方式の鋼管矢板締切りによる陸上施工を採用し、深海域部に位置するP4~P8の5橋脚はフローティングドッグで躯体製作後に現地曳航し、大型起重機船で吊り下ろし据え付ける方式による施工を採用している。
なお、深海域部のなかでもP4~P6については、大水深であることからケーソン基礎形式を採用している。
また、橋脚は全方位の波力影響を考慮して円柱形状としている。
上部工については、PC連続箱桁橋4 連から構成されており、張出し架設工法を採用している。浅海域部にある第1 橋、第3 橋及び第4 橋については、下部工で使用する工事用仮桟橋を利用した施工が可能であるが、深海域部にある第2 橋については、作業船舶を使用して施工することとなる(図- 4、表- 1)。

4 海上橋における課題
先に述べたように甑島においては、平成5 年に上甑島と中甑島を結ぶ甑大明神橋(写真- 1)と鹿の子大橋(写真- 2)が海上橋として整備された。

上記の2 橋については平成21 年度に橋梁の長寿命化計画に基づき定期点検を行っている。
ここでは、甑大明神橋について述べる。
甑大明神橋は6 径間単純PCポステンT桁橋、2 径間連続PC斜長橋及び3 径間単純PCポステンT桁橋からなるL=420m(直接基礎形式)の橋梁である。上部工、下部工ともに設計かぶり70㎜の普通鉄筋により施工されている。
定期点検の調査結果によると、コンクリートの圧縮強度、中性化については問題がないことが確認された。また、アルカリ骨材反応についても下部工において一部亀甲状のひび割れが発生しているが、現状では概ね問題がないことが確認された。しかし、塩害については、塩分の浸透が著しく今後塩害の影響を全部材が受ける状況であることが予測・確認された。特に下部工においては、構築後16 年程度しか経過していないにもかかわらず今後10 数年で鉄筋位置において塩化物イオンが鋼材腐食発生限界濃度の1.2kg/m3を超える予測となった(図- 5)。
さらに、P10 橋脚においては、含有塩分試験結果で飛沫帯のコンクリート表面における塩化物イオン濃度C0 がコンクリート標準示方書で設定されている13.0kg/m3を約2 倍上回る計測結果(図- 6)が出る等、塩害地域における過酷な環境が確認された。
上記の結果を受け、甑大明神橋では補修設計を行い、ひびわれ注入工、断面修復と表面含浸工、橋面防水工、伸縮継手取替工等の補修工事に対し1.5 億円近い費用を費やしている。


5 藺牟田瀬戸架橋の設計照査
藺牟田瀬戸架橋においては、道路橋示方書(H14)に基づき耐久性を確保することとしている。
塩害の対策として設計かぶり90㎜(上部工は70㎜)とエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用することとした。コンクリート仕様については海洋コンクリートとした(表- 2)。


本橋においては、設計上の目標期間を100 年として塩害に対する耐久性の照査を行った。照査は、水セメント比が45%のときのコンクリートの塩化物イオン設計拡散係数D d(cm/s)をコンクリート標準示方書の式より算出(D d =1.99E-08)することにより行った。
その結果(表- 3)、鋼材腐食限界到達年については、甑大明神橋構築時に使用していなかったエポキシ樹脂塗装鉄筋の使用と鉄筋かぶり90㎜により、コンクリート標準示方書の条件で100年以上を満足することが確認できた。また、甑大明神橋で実測された想定イオン濃度に対しては92 年であった。こちらについても、水セメント比の低減(実際は43.5%で施工)と実際の鉄筋かぶりが90㎜を超えることから100 年以上を満足することは可能である(参考:W/C=43.5 のとき101 年)。


しかし、この結果についてはエポキシ樹脂塗装鉄筋使用によるみかけのかぶりが大きくなったことによる影響が大きい。エポキシ樹脂塗装鉄筋では被膜により酸素の供給が抑制され、鉄筋の腐食が抑制される効果がある。エポキシ塗装樹脂鉄筋の耐久性に関する知見はその使用年数からみても少ない。その理由としては鉄筋塗装から、運搬・保管・加工・組立・コンクリート打設までの現地環境と管理により耐久性が左右されるからである。
したがって、100 年の耐久性を確保するためには塗膜確認と塗装補修が重要になってくる。
また、ひびわれの限界値wa(㎜)については0.315㎜と算定され、この限界値を上回らないようなひびわれ制御が必要となる。

6 橋脚施工とひびわれ制御
当該橋梁は円柱橋脚を採用しており、その断面はφ 4,500㎜~ 7,000㎜のマスコンクリートである。上記の断面条件で算定したひび割れ指数と、過去の実績から得られたひび割れ発生確率により設定された目標ひび割れ指数とを比較することによって温度ひびわれの照査を行った。
当然ひび割れを防止するのが望ましいが、今回の施工はコンクリート断面が大きく、目標を達成するためには相当なコストがかかることが想定される。そこで、ある程度のひび割れを許容するが、そのひびわれ幅が過大とならないように制御することを目標とし、ひびわれ指数を1.0 以上と設定 した。ここで言うひびわれ幅が過大とならない幅については、先述の0.3㎜を限界とする。
一般的に温度ひびわれを低減する方法は、
Ⅰ コンクリート温度低減
 ①単位セメント量の低減
  単位水量の低減(高性能AE 減水剤の使用、粗骨材最大寸法の変更)
 ②低発熱性セメントの使用
  中庸熱ポルトランド、低熱ポルトランド、フライアッシュ等
 ③打設温度の低減
  暑中時昼間施工の回避、プレクーリング
 ④部材からの放熱増大
  リフト高の低減
 ⑤部材内部温度の低減
  パイプクーリング
Ⅱ 温度応力の緩和
 ①外部拘束低減
  ひびわれ誘発目地の設置、施工目地間隔の低減
 ②内部拘束低減
  パイプクーリング、保温養生、養生期間の延長
Ⅲ コンクリート自体のひび割れ抵抗性向上
 ①プレストレスの導入
  膨張材の使用
 ②引張強度の増加
  繊維補強コンクリートの使用があげられる。
 現段階でP1、P2の柱部施工が完了している。
その中で採用した温度ひびわれ低減策は、
 ・高性能AE減水剤の使用による単位水量の低減
 ・早朝打設による昼間施工の回避
 ・2.5m/リフトとした(リフト高の低減)
 ・脱枠時期を遅らせる(2週間程度)と脱枠後の養生継続
である。
 これにより、目標とするひび割れ指数1.0 以上を確保することができた(図- 7、8)。



そのほか、事前検討したものとして、低発熱性セメントの使用とプレクーリング、パイプクーリングがある。低発熱性セメントについては、当該橋梁に供給可能な生コン製造工場が2 社(下甑島3 社)しかなく、特殊セメントを取り扱うことができる空きセメントサイロがない。また、非常に高価であることから断念した。プレクーリング、パイプクーリングについても水の供給体制が確立できず(現地が頻繁に断水の可能性があり生コン工場でさえ水道水の使用を控えている)断念した。
また、現地においては、請負業者の協力により柱部のコンクリート内部温度の計測を実施し、次リフトの打設時期の決定や脱枠時期の決定等に役立てている。この結果については、フィードバック解析としてまとめることができ、当初の温度応力解析の妥当性を確認することができた。
今回の施工で残念ながらひびわれを回避することはできなかったが、そのほとんどは、内部拘束によるもので0.2㎜以下であった。その後の追跡調査によると収縮傾向にあることが確認できた。
また、ひびわれの状況については、有識者による現地確認を実施し問題ないとの判断も受けた。
そのなかで、
 ・本条件のもとではどのような対策を講じたとしてもひびわれをすべて防止することはできないこと。
 ・0.3㎜以下のひびわれについては、基本的には対策の必要性がないこと。
という非常に安心する結果をいただいた。
しかしながら、施工後何の対策もとらずに100年間の耐久性を確保できると勘違いしてはいけない。特に海上橋梁においては、耐久性確保のための定期的な点検が必要であり、長寿命化計画に基づく定期点検や予防補修の重要性について改めて助言をいただいた。

7 今後の施工と課題
藺牟田瀬戸架橋工事については、先行して仮桟橋を施工後の本体工事に着手してわずか1 年足らずである(写真- 3)。
海峡部のため潮流、冬季風浪(写真- 4)や台風(写真- 5)の影響を非常に受けやすく、安全管理を第一とした施工となる。



そのなかで、良好な品質を確保することは困難であるが、今後はさらに大断面となる梁部の施工を控える。こちらについては、高性能AE 減水剤に加えて収縮低減材の使用を検討している。これにより、ひびわれ指数が20%程度向上し、最大主応力では15%程度の低減を期待している。また、上部工については、大断面の柱頭部から初期の張出し架設部の温度応力解析とPC 鋼棒の定着突起部の応力集中によるひびわれ解析を実施し施工に反映させることとしたい。
本年度は、引き続きP3橋脚と第1 橋上部工の施工を推進する。さらに、第3 橋と第4 橋を施工するための仮桟橋工にも着手する。P4~P7橋脚をフローティングドッグ上で構築する工事も開始する。東北大震災の復興に向けた港湾・漁港工事の集中により使用する船舶の工程調整が必要になるケースも出てきている。今後は、発注者・受注者・設計者(橋梁設計・温度応力解析)による三者技術調整会により相互の理解を深め、施工に生かす予定である。
来年度は、深海域のケーソン橋脚の据付作業を4 ~ 6 月の海上が比較的静穏である時期に計画しており、年末にかけて第2 橋上部工にも着手予定である。
それ以降も第3 橋、第4 橋の工事に順次着手し、平成29 年度中の供用開始に向けて工事が急ピッチに進むことになる(写真- 6)。



8 おわりに
今回の整備は「甑縦貫道プロジェクト」として位置づけられており、さまざまな効果が期待されている。
まず、島内一体化による島民約6,000 人の生活圏が拡大される。現在はフェリーしか交通手段がないが、時間帯の制限なく自由移動が可能となる。
次に、島内完結の医療体制確立につながる。現在手術可能な施設は下甑島にDrコトーのモデルとなった先生のいる診療所のみで、多くの島民は本土に渡っている状況である。医療施設の再配置・合理化により、人口規模に応じた医療機関の充実・高度化が図られ、救急医療24 時間体制確保につ ながるものと期待される。
一方、薩摩川内市としては、これまで旧4 村ごとに設置されている市役所の支所機能集約の課題を抱えている。また、島内には高校がなく、進学時には島外で下宿生活を送るか、家族で島外移転している等、過疎化の不安を抱えているのが現状である。
しかしながら、甑島は豊富な観光資源や水産資源(写真- 7)を有しており、近年観光客の増加や交流人口の拡大に力を入れている。今回の橋梁整備がそれらの資源と島独特の伝統・文化を活かした地域振興に寄与することが期待されている。
これらの目的のために、今後も環境と安全に配慮しながら、甑島をひとつにつなぐ夢の架け橋となるよう、引き続き高品質な橋づくりを推進してまいりたい。



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