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“ 決断力” と“ スタッフ力” について思うこと


 なか しん いち ろう


3:11から1年がたち、大地震・津波そして原発事故が発生した中でとられた危機管理の状況が少しずつ明らかになってきています。
ケビン・メイアの「決断できない日本」には、右往左往する日本政府・関係機関の状況が米政府における対日支援のタスクフォースの調整役を務めた立場から臨場感をもって描かれています。
彼は「今回の大震災で東北の被災地の人たちは日本が凛とした威厳に満ちた文化を持っていることを世界に示してくれました。」「こんな国民が多く暮らしている国がいつまでも低迷しているわけはない。政治がしっかりと決断し、国民を勇気づけながら明確な目的に向かって進めば、必ず日本は新たな成功を収めると思うのです。」と述べ、リーダーの“ 決断力” にその原因があると断じ、その根源として「行き過ぎたコンセンサス社会は、危機の時代にその恐るべき弱点をさらけ出します。危機を解決できないばかりか、危機を増幅させ、国家存亡の瀬戸際に追い詰めることもあります」と述べ、リーダーが“決断力”を身に付けていることの大切さを指摘しています。
では本来、危機管理対応時の“決断”はどのようにしてなされるのでしょうか。リーダーの“決断力”さえあれば大丈夫なのでしょうか。佐藤喜久二氏は著書「主導の地震応急対策」のなかで、災害対策本部における意思決定のプロセスとして、スタッフとして行う状況判断{1、任務の分析 2、状況の把握・分析と判断事項の決定 3、判断事項に対する対策案の列挙 4、対策案の比較検討 5、結論(最良案の選択)}を踏まえたうえで、対策本部長や主管部長がリーダーとして行う決心(決断・決定)が存在するとしています。
つまり状況判断をスタッフが組織として行うことと、リーダーの決断とが共に重要であることを指摘していると思います。
もちろん「関係職員が状況判断を通じて得た結論と災害対策本部長の決心(決断・決定)が常に一致するとは限りません。
意思を決定する側としては、むしろ何の議論もない時ほど気をつけなければなりません」と指摘し、リーダーの“決断力”の難しさを説いています。
昔から危機に際しては果断に行動することが鉄則とされ、「誤った決断でも何も決断しないよりもましだ」とも言われています。一面その通りだと思います。しかしそれはスタッフが情報の収集と分析を的確に行っていることが大前提です。ですから決断を行うことが大切と言っても、スタッフによる状況判断を踏まえず、判断すべき事項や判断要素の検証を無視して、さらには“危機管理の定石”を日頃の訓練で培わないままのリーダーが、ただ思いつくままに決断を行うのでは危機を増幅しかねないことは明らかです。
では今回の原発事故ではどうだったのでしょうか。福島原発事故独立検証委員会の報告書では、“官邸における原子力災害への対応”の中の“事故からの教訓”として「制度的な想定を外れた展開の中で、専門知識・経験を欠いた少数の政治家が中心となり、次々と展開する危機に、場当たり的な対応を続けた」と指摘しています。今回確認された多くの課題と教訓として、「複合災害への備えを欠くマニュアル、危機対応に関する政治家の基本的な認識不足、情報伝達の多層化による遅滞、官僚機構の人材不足、技術アドバイザーの脆弱なサポート体制、首相のリーダーシップの在り方、現場の指示への違背など」多岐に亘る課題を挙げ、状況判断を取りまとめる“ スタッフ力” からリーダーの行う“決断力”に到るまでの全般について機能不全を起こしていたことを指摘しています。
平成20年6月、フロリダ州で行われたFlorida Catastrophic Planning (FLCP) のワークショップを視察する機会がありました。FLCPは巨大なハリケーンがフロリダ州を襲うという設定で、詳細な被災シナリオを作成し、このシナリオの下で連邦・州・郡・市そして民間の関係機関相互が連携して対処するにはどのようにすればよいのか、をワークショップで徹底して討議し、マニュアル(共通知)化していくものです。



2008年6月実施のワークショップは、第6回目のワークショップで、政府、州、郡、市、赤十字、救世軍、ボランティア団体など、様々な機関より300人程度が参加していました。参加者は19の専門的な分科会に分かれて同時進行で討議し、その運営調整、結果のとりまとめ・指導はUnified Commandと呼ばれる総括部で行われていました。
その中で“Informed decision-making”という言葉が使われているのを知りました。
これは多数の関係機関が発する支援要望の項目と数量を統一的に取りまとめ、一方で応援が可能な関係機関の支援可能項目と数量を把握したうえで、順次支援のための意思決定を進めていこうというもので、“スタッフ力”を徹底して高め、情報に裏打ちされたリーダーの決断へ導こうとしているのが印象的でした。
“ スタッフ力” が大切と言う意味から、もう一つ牧本信近氏の<防大54 期生に特別講話>を紹介します。その中で氏は「幕僚は、情勢及び行動方針を見積り、彼我行動方針を分析し、我が行動方針を比較し、指揮官が判断し決断できるように、資料を提供する。SUW( 対水上戦)を例にとって説明すると、
Ⅰ 各種情報を分析して「敵が射程内に入った」と見積もった。
Ⅱ 各種状況を組合わせ「今こそ、攻撃すべし」と判断した。
Ⅲ 情勢判断とROEから「攻撃命令を発令せよ」と決断した。
Ⅰ は幕僚の仕事であり、Ⅲ は指揮官の仕事である。ここまでは諸官承知のとおりである。十分に認識してもらいたいのは、Ⅱ が指揮官だけの仕事でなく、Ⅱ が幕僚の仕事であり指揮官の仕事であることである。幕僚の判断としてのⅡ が提供されて、初めて指揮官は自分なりにⅡ の判断が出来るのである。幕僚は、このⅡ レベルを提供出来てこそ、指揮官の決断に寄与したことになる。」
つまり、ある程度の規模の組織では、決断の問題は単に指揮官・最終意思決定権者のみの課題ではなく、情報を収集・分析し指揮官がInformedされた状況下で決断できるようになっていることが求められているわけです。
さて、各位の組織の“決断力”と“スタッフ力”はどの程度と見積もっておられますか?

参考文献
ケビン・メイアの「決断できない日本」
佐藤喜久二氏は著書「主導の地震応急対策」
福島原発事故独立検証委員会報告書
フロリダ州危機管理局HP
牧本信近氏の<防大54 期生に特別講話>
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