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「宮崎海岸の侵食対策」に至るまでの経緯とその検討結果


つる さき ひで 


 なべ しょう いち


キーワード:海岸侵食、合意形成、突堤、養浜、埋設護岸

1.はじめに
宮崎海岸(写真-1)は、一級河川大淀川と二級河川一ツ瀬川の間に位置する約10㎞の直線状の砂浜海岸である。元来、「宮崎海岸」という呼称はなく、それぞれの地先の背後地名を冠した海岸名であるが、直轄事業の実施にあたり、まとめて「宮崎海岸」と呼んでいる。


具体的には、大淀川河口に位置する宮崎港の港湾区域北端から、一ツ瀬川河口に位置する富田漁港の漁港区域南端の間の海岸である(図-1)。なお、直轄施行区域(L=6,856m)については、一ツ葉有料道路のシーガイアIC 付近以北となっているほか、二級河川石崎川の河口は河川区域であるため施行区域外となっている。海岸の背後の特徴は大きく3 つに分けることができる(写真-2)。
まず、南側区域(住吉海岸)は一ツ葉有料道路が沿岸を走り、それが住吉IC 付近まで続く。写真-2の住吉海岸はシーガイアIC付近であるが、前面には護岸が設置されている。なお、ここから南側は宮崎港に至るまで護岸だけではなく離岸堤が整備されているなど、自然浜はほとんど残っていないが、住吉IC付近は約1㎞程度の自然浜が現存している。
次に中間区域(石崎浜)では、有料道路が内陸に入り、背後の規模の大きな砂丘と保安林が直接海岸に面する地形となる。写真-2の石崎浜は石崎川の河口に広がる砂浜である。
最後に北側区域(大炊田海岸)は、南側区域及び中間区域と比較して、砂丘も保安林も規模が小さい地形である。海岸では2㎞弱の自然浜が現存しており、背後の低地には公共施設、人家等が多く分布している。



環境面では、夏場にアカウミガメ(写真-3)が産卵する場所であり、宮崎県が「アカウミガメ及びその産卵地」を天然記念物として指定している。また、環境省や宮崎県がレッドリストに指定している夏鳥のコアジサシが砂浜に営巣を行うなど、その他の希少種を含め、多くの野生の動植物の生息域としての役割も担っている。


利用面では、機船船曳網(バッチ網)によるチリメン漁(写真-4)をはじめ、小型底引網、ひき縄、一本釣り等の漁場となっているほか、国内でも有数のサーフスポットとして、県外からも多くのサーファーが訪れるなどサーフィン(写真-5)が盛んである。また、地元住民を始めとした散歩等の利用もあり、数多くの方々が利用する海岸であるといえる。



以上に挙げたすべての関係者が宮崎海岸における主なステークホルダーといえる。事業実施に当たって、それぞれの利害が対立することがあるが、詳細については後述する。

2.海岸侵食の進行
現在の利用面については、前段のとおりであるが、昔は砂浜で運動会(写真-6)やソフトボール大会等のレクリエーションが開催できていたほか、遠足の場としてもよく利用されていたことから、それらのイベントに見合った広大な自然の砂浜が広がっていたことが伺える。また、その環境を活かして地曳網も盛んであったが、今日では、陸から海への動線を確保するために設置された一ツ葉有料道路のボックス通路にその名残を感じることができるばかりである。


この頃は宮崎海岸全域が自然の砂浜の海岸であり、海岸保全施設等としての構造物は一切設置されていない。しかし、徐々に侵食が顕在化し始め、昭和57年の災害復旧として一ツ葉有料道路パーキングエリア前面等に緩傾斜護岸が設置されて以降、侵食防止のために次々に護岸、離岸堤等の構造物を設置することとなり、今日では宮崎海岸約10㎞のうち、自然浜区間は3㎞弱にまで縮小している。
構造物設置後も砂浜の侵食は続き、波浪や潮位の状況によっては、護岸前面にまったく砂浜がない区間も発生している(写真-7)。
構造物が設置されていない区間においては、高波浪の度に砂丘が削られる侵食が進んでおり、ほぼ全区間において大規模な浜崖が生じている状況にある。波浪を遮ったり低減したりする施設がなく、浜幅も狭いため、比較的短期間に10m単位で砂丘が侵食されることも珍しくない(写真-8)。



これらの侵食について、汀線位置の観点から比較すると、昭和37年(1962年)から平成16年(2004年)までの約40年間に、平均で約40mの後退が確認されている。

3.住民訴訟と署名運動
侵食が相変わらず進行する中、平成16年は史上最多の10 個の台風が日本に上陸した記録的な年となり、宮崎県においても大きな被害が発生した。宮崎海岸の一部では、台風の通過に伴う高波浪が、砂浜による減衰なしに緩傾斜護岸等の施設を直撃し、破壊してしまった。宮崎空港の南に位置する赤江浜(「宮崎海岸」区域外。図-1参照。)では、最大で20m以上も砂丘が侵食された事態を受け、宮崎県が人工リーフの設置による災害復旧に着手することとなった。
平成17年秋に着手された災害復旧工事は、前年の計画段階から、サーファーや自然環境保護を訴える市民等より「サーフィン、アカウミガメの産卵等の自然環境、景観や観光への配慮等の観点から問題がある」という趣旨の異論が出ていたが、工事の本格化に伴い次第にデモ行進、工事現場での人間の鎖、住民監査請求、住民訴訟へと発展していった。災害復旧工事は平成18年度に入ってから終了したが、工事に係る公金支出の中止を求めた訴訟はしばらく続くこととなる。
一方、宮崎海岸においては、平成19年度予算に直轄事業化の準備調査費が盛り込まれ、翌年度の直轄事業化に向けて、その具体的な工法等の検討が行われていた。当時の検討では、約1㎞の間隔で延長約300mのヘッドランド(T字型突堤)を7基建設するとともに、養浜を実施する対策が計画され(写真-9)、その事業費は294億円と見積もられた。


この間、様々な立場の方々から多様な意見を得るために「宮崎海岸懇談会」(以下、「懇談会」という。)を、行政の仕組みから侵食対策に関連する幅広い分野まで知識を深め情報を共有するために「海岸勉強会」(以下、「勉強会」という。)を一般の方々向けに開催するとともに、平成18年度までの「住吉海岸技術検討委員会」(事務局は、宮崎県。)に代わって「宮崎海岸侵食対策検討委員会」(事務局は、国土交通省及び宮崎県。当時は、「住吉海岸(仮称)侵食対策検討委員会」と称していた。)が設置され、学識経験者等からの御指導、御助言をいただく体制が整った。
直轄化の決定の報を待っていた平成19年12月、市民団体から「コンクリート構造物による侵食対策ではなく、原因究明をおこなった上で抜本的な対策がとられ、行政と住民とが一緒になって宮崎の美しい砂浜を復元させるという構想に賛同」するとの署名が宮崎県知事及び宮崎河川国道事務所長あてに提出され、その数は全国から集まり1万人を超えるものであった。その後、同月内にヘッドランド7 基等により侵食対策を実施する「宮崎海岸直轄海岸保全施設整備事業」として直轄化が決定されたものの、赤江浜の住民訴訟及び宮崎海岸の署名運動も鑑み、さらなる検討が求められることとなる。
なお、紙面の都合上割愛するが、平成19年から20年にかけては、赤江浜の訴訟や宮崎海岸のヘッドランド案を受けて、行政に対する市民の不信感が非常に高くなっていた時期であり、会議が険悪な雰囲気となったり、一部市民が退出したりするなどの紛糾も見られた。次項の直轄事業化後の取り組みにおいては、そのような状況があったことにも留意いただきたい。詳しくは、参考文献の3)等を参照されたい。

4.直轄事業化後の取り組み
平成20年4月、宮崎河川国道事務所に海岸課及び宮崎海岸出張所が設置され、侵食対策の実施に向けて名実ともに直轄事業として本格的な取り組みが開始された。
4.1 平成20年度
「宮崎海岸侵食対策検討委員会」(以下、「委員会」という。)においては、当面は試験養浜とそのモニタリング調査を行う一方で、その結果や多様な意見等を踏まえ、侵食対策について技術的に検討、評価を行うこととし、その役割は委員会の下に設ける「技術分科会」(以下、「分科会」という。)が担うこととなった。
また、引き続き懇談会と勉強会を開催し、その中で宮崎海岸侵食対策2本の柱として、行政・市民・専門家が一体となり検討を進める「宮崎海岸トライアングル」(以下、「トライアングル」という。)といわゆるPDCA サイクルをうたった「宮崎海岸ステップアップサイクル」(以下、「ステップアップサイクル」という。)が紹介され、委員会においてもこの理念を了承し、その後の検討の大前提となっている。
中でも、「市民連携コーディネータ」と「宮崎海岸市民談義所」(以下、「談義所」という。)は特長的なものである(図-2 参照)。前者は、市民からの多様な意見を取りまとめ事業主体に伝えるとともに、事業主体がその意見を専門家に正確に伝えているか、また、専門家は伝えられた意見についてきちんと検討しているか、中立・公正な立場からチェックする役割を担っている。後者は、その多様な意見を主に聴取する場であるが、市民同士の広く開かれた議論の場としての位置づけであり、行政による単なる説明の場としての位置づけではないことに留意されたい。
先立って10月には、市民を始めとする関係者との合意形成や事業(プロジェクト)の円滑な推進を目的として、宮崎河川国道事務所内にプロジェクト・マネジメントチームを設置した。学識経験者の御指導の下、市民連携コーディネータとともに、行政関係者として、九州地方整備局河川部、宮崎河川国道事務所、宮崎海岸出張所、宮崎県県土整備部河川課が、また、関連業務を請け負っているコンサルタントの方々にも集まっていただき、平成23 年度までに60回に渡り臨機に協議を行うなど、侵食対策の実施にあたり重要な場となっている。
なお、赤江浜の訴訟については、海岸の防護、環境、利用等について、行政と市民が意見交換を図る場(赤江浜海岸づくりフォーラム)を設置することを条件に12 月に和解が成立し、現在でもその場は継続して開催されている。


4.2 平成21・22年度
トライアングルに基づき、それまでの懇談会と勉強会を発展的に統合し、侵食対策について手段を含めた方向性を見出す場として談義所が設置され、対策や試験養浜に対する意見、工法提案に関する意見等、様々な議論が行われた。必要に応じて行われた分科会委員との談義や合同現地踏査は、市民の疑問や意見に対する専門家の見解がその場で示される貴重な機会となった。
この間の委員会、分科会においては、背後地への越波防止のため宮崎海岸全域で浜幅50m(護岸区間はその法肩、自然浜区間は平成20年12月の砂丘法肩から汀線までの距離を指す。)を確保するという防護目標を立て、侵食メカニズムの解明(表-1及び図-3)や、それを受けた侵食対策に求められる機能(表-2)について検討を進めるとともに、市民から提案のあった施設等(表-3)についてもその評価を行うなど、具体的な対策に向けての検討を進めた。





4.3 平成23年度
平成23年1月の鳥インフルエンザ発生及び新燃岳噴火、あるいは3月の東日本大震災に伴う災害対応のため、前年度から半年以上の空白期間が生じることとなったが、7月から8月にかけて、談義所、分科会、委員会を開催し、具体的な対策も含めた詰めの議論を行った。
議論に当たっては、「新たに設置するコンクリート構造物は出来るだけ減らす」「豊かな自然環境を最大限残す」「美しい景観、漁業・サーフィン・散歩等の利用に配慮する」「(直轄)工事完了後も維持管理に過剰な負担がかからないようにする」等の方針を重視しながらも、「海岸侵食に脅かされる海岸背後地の人々の安全・安心を確保するとともに、国土を保全する」という目的をしっかりと達成できるよう、ぎりぎりの調整が行われた。
すなわち、1.で述べた利害対立の調整である。自然浜背後の居住する市民としては、いち早くコンクリートで護岸整備を行ってもらいたい。なぜ、残り約3㎞だけ整備してもらえないのかと考えている。逆に環境を重視する市民としては、その残り約3㎞は貴重な自然浜であり、残すべきではないかと考えている。では、護岸に頼らず離岸堤等を整備することも考えられるが、アカウミガメの上陸やサーフィンの妨げとなる。養浜だけで対応しようとすると、予算がいくらあっても足りない。漂砂を制御するために突堤だけで対応すると約700m もの長大な延長となる・・・。
このような事情の中、できるだけ構造物を減らすように検討した結果、表-2に示す①については養浜、②については突堤による漂砂制御、③についてはできるだけコンクリート以外の材料を使った上で通常時は養浜で覆われた埋設護岸により対策を実施することで了承された。また、表-3に示す市民から提案のあった施設等については、表-4のとおり取り扱うこととした。


一方で、併せて議論を行っていた対策の具体的な諸元の了承にまでは至らなかった。300m、150m、50m の3基の突堤のうち、特に300mのものについてもっと短くできないのかといった意見や、どのような施工順序で延伸していくのかといった意見が挙げられたため、「突堤の規模、構造、施工順序等」について再検討するとともに、「埋設護岸の具体的な構造、安全性等」についても併せて検討することとなった。
これを受け、11月から12月にかけて、再度、談義所、分科会、委員会を開催し、300mの突堤の延長について再検討した結果、約3万㎥/年の維持養浜を前提とすれば約85%の漂砂制御が必要であり、そのためには300mの延長が必要であること、仮に200mとした場合は必要な浜幅が確保できないことが改めて確認されたため、計画上は引き続き300mとした。ただし、ステップアップの方法について明確に記述することにより(表-5)、300mありきで突き進むものではないことを示し、委員の了承を得ることが出来た。
表-5については、下線部(本報告用に引いたものである。)が主要な約束事である。委員等が懸念している行政関係者の異動による対応の変化が起きないようにするため、細かな点まで記述しているのが特徴である。


施工順序については、現在も進行している自然浜の侵食へ対応するため、突堤の施工を最低限行いながら、埋設護岸へ可能な限りの工事量を確保することとした。その埋設護岸の具体的な構造、安全性等については、「できるだけコンクリート以外の材料を使う」という条件に基づき、現時点でその採用が有望視されている新技術であるサンドパック工法の現地実験(写真-10)の結果を待つこととなった。現地実験については、国土交通省国土技術政策総合研究所により現在も継続中であり、平成24 年の高波浪を受けた後に、効果性、安定性等の検証が行われる見込みである。


最終的に了承された「宮崎海岸保全の基本方針」及び「宮崎海岸の侵食対策」はそれぞれ図-4及び図-5を参照されたい。今後は、これらに沿って事業を進めていくこととしている。



5.おわりに
平成24年度は直轄化5年目を迎え、本格的な工事に着手する段階に入った一方で、トライアングルとステップアップサイクルに基づいたモニタリング、また、その結果に応じた改善策等を常に検討していく必要がある。また、中長期的な土砂供給については、総合土砂管理の考え方の下、関係者と連携して結論を見出さなければならないという困難な課題も抱えている。そういった意味では、工事着手は一つの段階に過ぎず、今後も過年度までと何ら変わらず、市民、専門家の方々とともにたゆみない努力を重ねていく所存である。

<謝辞>
本報告は、宮崎海岸の侵食対策について共に検討を行ってきた学識経験者、市民、国・県・市の各行政機関、コンサルタント等、多くの方々の熱意があってこそ、取りまとめられたものである。これらの方々に謝意を申し上げるとともに、今後とも変わらぬ御協力を賜りたいと考えている。

<参考文献>
1)杉山光徳:~宮崎海岸の新規直轄化~、雑誌「海岸」、第48-1号、平成20年12月
2)桑子敏雄:社会基盤整備を巡る社会的合意形成、 雑誌「海岸」、第48-2号、平成21年3月
3)吉武哲信:合意形成のための新たな取り組み~宮 崎海岸市民談義所の活動~、雑誌「河川」、65巻第11号、平成21年11月
4)吉武哲信:多様な主体の合意形成を目指す宮崎海 岸侵食対策事業、日本砂丘学会誌第58巻第2号、平成23年12月
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