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九州における今後の建設分野のあり方


社団法人 建設コンサルタンツ協会 九州支部長

植 田   薫


平成23年3月11日午後2時46分、東北および関東地方に三陸沖を震源とする国内観測史上最大のマグニチュード9.0の大地震が発生し、それに伴う千年に一度ともいわれる高さ15メートルを超える巨大津波、そして福島第一原子力発電所の事故が続いて発生した。
とりわけ、巨大津波の恐ろしさは例えようもなく、真っ黒い濁流が万全の備えだったはずの海岸堤防を乗り越え、美しく整備された田畑に、家屋に、車に、次々に襲い掛かって飲み込んでいく光景を、リアルタイムでテレビ画面に映し出されたときのことが、はっきりと脳裏に焼き付いている。
あれから4ヶ月経った7月中旬、津波の直撃を受けた宮城県の石巻市と仙台空港のある名取市周辺を見て廻ったが、積み上げられたがれきの山、無人化した住宅地、倒れたままの墓石、稲のない田圃に放置された車や小さな漁船など、目を覆いたくなるばかりの惨状であった。
どのような近代的な構造物や快適な住宅であろうと、美しい景観や生態系に配慮した施設であろうと自然災害の前には全く無力であり、凄まじいエネルギーで牙をむいて襲い掛かってくると一瞬にして根こそぎ破壊し尽くす様を目の当たりにして、改めて自然災害の恐ろしさを痛感した。破壊は一瞬で、復興するには多くの時間と労力を必要とするが、失われた人命は帰ってこない。
この東日本大震災の状況を見ると、九州における建設分野の今後のあり方がはっきりと見えてくる。九州は、梅雨前線の移動で雨が多く、台風の通路にもなっている。また、筑紫次郎の異名を持つ筑後川に代表されるように暴れ川が多く、阿蘇山、霧島山に代表される日本有数の活火山もある。
したがって、九州においては、安心・安全な国土 の整備が最重要課題である。
こうした国土整備のあり方を考えるうえで重要なことは、先人の培ってきた多くの知恵や経験が詰まっているその地域に特有の歴史的な構造物や施設を見直すことである。その施設がなぜ、長年にわたって機能してきたか、その機能を持続させたものは何か、それをしっかりと認識すると、さまざまな自然の猛威と共生してきた先人たちの知恵や経験が見えてくる。これは、近代化の波のなかで忘れ去られ、その役割を失ってしまったものも多くあるが、いまこそ、これらを掘り起こして、安心・安全な国土を整備していくための貴重な指針として再評価することが必要である。
これらのひとつの例として、水害との長い戦いがある。コンクリートがない時代、強固な堤防を築くことができなかった先人たちは、常に水防意識を持って先祖代々から受け継いだ避難情報や組織を守り、そしてそれを子々孫々に伝承として教育し、掟として法整備した。
また、京都大学の藤井聡教授は、東日本大震災からの復興という観点から、「列島強靱化論」で「めざすべきは災害を限りなくゼロにする強固な国でなく、想定外であろうがなかろうがどのような災害でも致命傷を避けて、可能な限り被害を最小にし、できるだけ迅速に回復する強靱な国である。」と述べている。さらに、次のように続ける。我々は、「天変地異が起こることを覚悟せねばならないが、それを乗り越える第一の条件は、いかなる被害を受けようとも、全体が滅び去るほどの致命傷を避けることである。そして、第二の条件は、それらによる被害を完全にゼロにすることは不可能であり、それらの被害を最小限に食い止めることである。また、第三の条件は、できるだけ早く傷を癒すことである。」
こうした考えは、自然を畏怖するとともに共生してきた先人たちと相通ずるものではないだろうか。
これに関連して、建設コンサルタンツ協会は、東日本大震災後、直ちに復興ための委員会(東日本大震災の復興に関する緊急提言委員会)を立ち上げ、復興に向けた新たな計画・設計思想、「ハード・ソフトベストミックス」を提言した(HSBM宣言)。
「ハード・ソフトベストミックス」とは、「防災のためのハード(基盤整備)と避難を主とするソフトの最適な組み合わせにより人の命だけは何としても守る」ことを目指す考え方である。
これらを概略記述すると次のようになる。
1.防災施設(ハード対策)に設計外力に対する追加概念を導入する。
  1. (1)今までの設計外力に加え、必要に応じてそれを上回る外力に対応する考え方を導入する。
  2. (2)超過した外力に対して被害を最小限度におさえる粘り強い壊れ方をするとともに、壊れた後の機能回復を迅速かつ容易に行えるよう配慮する。
2.ソフト対策による安全行動を更に充実する。
  1. (1)ソフト対策として、「避難」、「情報」、「組織」、「教育」、「法整備」を対象とする。
  2. (2)具体策として、ハザードマップの整備、通報装置の整備、避難を主とする防災教育の徹底、避難誘導等への法的義務の裏付け等を行う。
3.ハード・ソフトベストミックス(HSBM)により人命を守る。
  1. (1)想定する災害規模に応じてハードおよびソフトの対策を組み合わせる。
  2. (2)単体および連帯構造物による減災と避難地、避難路、避難ビルの整備を行う。
  3. (3)災害リスクを考慮した土地利用・建築規制の一体化を図る。
こうした東日本大震災の復興に関する緊急提言も、やはり、自然を畏怖しつつ共生してきた先人たちと根っこの部分ではしっかりと繋がっている。
この自然豊かで温暖な気候に恵まれた美しい九州を、自然の猛威から守り安心で安全な国土とするためには、建設分野の果たす役割は以前にも増して重要になってきている。今こそ先人たちの知恵と経験に学び、建設技術者たちが培ってきた知識と技能を、さらに発展させていくことが、我々建設分野に従事する者の使命であろう。


  1. 参考文献1:藤井聡 列島強靱化論 文藝春秋
  2. 参考文献2:(社)建設コンサルタンツ協会 東日本大震災の復興に関する緊急提言「ハード・ソフトベストミックス(HSBM)宣言」



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