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国道219号球泉洞トンネル工事における石灰岩層の空洞対策について


熊本県 西  基 章


1.はじめに
一般国道219号の八代市から人吉市までの約50km区間は、急流として知られる一級河川球磨川に沿って急峻な山間部を蛇行し、山崩れや落石、路肩決壊等の危険箇所を多く抱えている。中でも球磨村大瀬地区の区間は、落石の危険性が特に高いことに加え、道路が大きく湾曲していることから、安全確保と走行性向上を図るため、「球泉洞トンネル」を中心にしたバイパス整備を計画した。
球泉洞トンネルは、ルート上に約2億9千万年前の石灰岩層が存在し、周辺には数多くの鍾乳洞が確認され、特に起点側坑口地点には、九州最長を誇る鍾乳洞である観光名所「球泉洞」(写真-1参照)が存在しており、トンネル工事における空洞の出現が懸念された。
施工時の安全性や構造上の強度の確保を行うため、空洞の出現に対して実施した、調査から処理までの一連の対策について報告する。


2. 工事概要
工 事 名 国道219号地域連携推進改築(球泉洞トンネル)工事
工事場所 熊本県球磨郡球磨村大瀬地先
工  期 平成17年12月~平成20年10月
延  長 1,190m
内空断面積 69.318㎡
掘削方式 NATM工法(発破掘削)
支保パターン
CⅠ,CⅡ(補助ベンチ付き全断面工法)
DⅠ,DⅡ,DⅢa(上半先進ショートベンチカット工法)
補助工法 FIT、注入式フォアポーリング他

3. 地質概要および鍾乳洞との位置関係
トンネル周辺には、古生代から中生代にかけて形成された砂岩、粘板岩、チャート及び石灰岩などの堆積岩類が層状に広く分布する。
これら堆積岩類の構造は、全体的に北東-南西方向の方向性を有しており、トンネルの北西側には中部九州に広く分布する堆積岩類(秩父帯神瀬層群)が、南東側には中生代の堆積岩類(四万十累層群)が分布する。
トンネルは、図-2に示すように古生代~中生代の秩父帯神瀬層群(図左上側)と中生代~新生代の四万十累層群(図右下側)との境界域に位置しており、この両層は仏像構造線と呼ばれる境界断層で接している。


なお、計画地周辺では仏像構造線が大坂間地内を通ることから大坂間構造線と称されており、大坂間構造線による破砕帯は、中央構造線等の大規模な構造線と比べて小さいものとなっている。
秩父帯は、神瀬層群と呼ばれる層準の分布域に位置している。下半部は灰白色の石灰岩からなり、層状チャートを伴う。上半部は中性~塩基性火山岩類・火砕岩類とチャート・石灰岩の不規則な互層からなる。
一方の四万十帯の四万十累層群は、砂岩及び粘板岩からなり、調査地付近では砂岩を主体とする。
図-3にトンネルの地質縦断図を示す。


4. 空洞対策の調査と対策工
(1)空洞調査方法
空洞の探査には、確実性と効率性の面から穿孔探査とし、トンネルの外周方向(横断方向)と切羽前方に対して実施した。
トンネル外周方向の調査範囲( 探査長) について事前に検討した。特に、トンネル底盤方向に対しては、空洞が存在する場合、施工時の重機荷重や将来の通行荷重に対して岩盤自身の剛性で負担することになるが、計算から、空洞長6mまでは概ね岩盤の厚さが4m以上確保されていれば安全であるとの結果を得た。
底盤以外の方向に対しても、4m以上の岩盤の厚さがあれば安定するという計算結果となったことから、探査長を4mに決定し、ロックボルト施工範囲はその穿孔との兼用とした。
なお、底盤方向で空洞長が6mを超える場合は状況に応じた対応が必要であったが、該当するものはなかった。
また、施工時の安全を確保するため、事前に空洞を切羽前方で検知する必要性から、突発出水を回避するための穿孔と兼用として、切羽の左右2箇所(過去の実績から1箇所当りの探査長40m)で実施した。うち1箇所は地山性状を定量的に評価・予測が可能なDRISS(Drilling Survey System)を採用した。DRISS はドリルジャンボを使って、各油圧データから削孔速度や削孔エネルギー,ダンピング圧(削孔反力)などの地山評価パラメータを求めるものである。図-4に穿孔探査パターンを示す。


(2)探査結果及び出現空洞
探査の結果、No.35~No.15付近までは、数ヶ所において厚さ( 延長方向)30~50cm程度の小規模な空隙を示す値が観測され、掘削の結果、褐色の粘土で満たされた空隙が確認された。図-5に代表的な探査結果とその掘削状況を示す。


その後No.14+15.2地点で、写真-2に示すようなトンネルを上下方向に貫く比較的大きな空洞が確認されたため、直ちに現地調査を実施した。図-6に空洞と球泉洞鍾乳洞の位置関係を示す。


球泉洞の水は、球磨川沿いの大瀬洞から球磨川へ流れ出しており、当トンネルはその地下河川と直角に交差し約30m上方に位置する。ちなみに、大瀬洞はコウモリの生息地としても知られている。
今回発見された空洞は、2つの鍾乳洞を結んだラインとの交差部に位置しており、それらの鍾乳洞やコウモリ等の生物への影響も考えられたことから、工事を一時中断し空洞の詳細な調査を実施した。調査結果を表-1、入孔による空洞内観察状況を図-7に示す。



今回出現した空洞は、雨水による浸食で生じたもので、大瀬洞付近に複数存在すると考えられる縦穴の1つと考えられた。
その下部や周辺は流入粘土や崩落土砂で閉塞していると想定され、また、入口の規模としてコウモリが出入りできる大きさではないと想定された。また、空洞内には溜まり水がないので空洞下部は水が抜ける構造になっていると想定した。

(3)球泉洞トンネル鍾乳洞調査検討委員会
空洞の出現をはじめとする不測の事態に的確に対応するため、地学、岩盤、トンネル構造、振動(耐震)、文化財保護、環境(生物)等の専門家と地元代表者からなる「球泉洞トンネル鍾乳洞調査検討委員会」を設置した。
出現した空洞については、実施した調査結果を報告し、現地調査を含めて審議して頂いた。
球泉洞や大瀬洞のような規模・重要性を持つ空洞ではなく、また、周辺への影響も少ないとして了承された対応方針に基づき、空洞対策工を実施した。

(4)空洞対策工
対策工として、トンネルの安定性を確保するためには、アーチ部および底盤部ともに空洞を充填する必要があった。
したがって、図-8に空洞対策工を示すが、アーチ部にはエアーモルタルを充填し、底盤部には、ずり及びコンクリートによる充填を行った。
さらに、底盤部には将来的な沈下対策として、鉄筋構造の床版コンクリートを構築した。


5.おわりに
球泉洞トンネルは、類例の少ない石灰岩層を通過することから、地元からは観光資源としての新たな鍾乳洞の発見という期待が寄せられる一方、空洞の出現や異常出水等による周囲への影響が懸念された。
結果として、地元が期待するような鍾乳洞の発見はなく、前述のとおり小規模な空洞が1箇所出現したが、「球泉洞トンネル鍾乳洞調査検討委員会」の委員の方々のご指導もあって、適切に対応することができた。
トンネルの設計は、弾性波探査を中心とした調査結果に基づき行われるが、調査段階での把握が難しい岩の劣化や細かな亀裂等により設計が変更となることが多い。今後、限られた調査費・建設費の中で、事業がより円滑に推進されるよう、詳細な地盤情報を得るための探査技術の更なる向上・開発にも期待したい。
なお、球泉洞トンネルの施工において、工事関係者の方々や、ご指導頂いた球泉洞トンネル鍾乳洞調査検討委員会の委員の皆様にお礼を申し上げるとともに、本工事に伴いご迷惑・ご不便をおかけしたにも関わらず、多大なるご協力を頂いた地元の皆様方に心から感謝を申し上げる。


【参考文献】
1 応用地質㈱:平成11年度 球泉洞トンネル本体工設計報告書
2 国道219号球泉洞トンネル工事報告書(臨床トンネル工学)
3 穿孔探査システム(DRISS)による空洞探査および出現空洞対策(臨床トンネル工学)

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