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鹿児島県の土砂災害警戒情報の発表状況について

鹿児島県 小 杉 淳 悟


1.はじめに
鹿児島県は九州の南端に位置し県本土と南方海上に位置する奄美大島や屋久島など大小の島々よりなり,その県域は南北600kmにもおよぶ。県本土は比較的土砂災害の発生しやすいシラスに覆われ,梅雨前線や台風により毎年土石流やがけ崩れなどの土砂災害が多発している。平成11年から平成20年までの10年間の災害発生件数は多い年では約180件,少ない年では10件で,年間平均では58件もの土砂災害が発生しており,同一面積当たりの災害発生件数は全国平均と比較しても約2.3倍災害が発生している。土砂災害危険箇所のうち優先順位が高い箇所から砂防えん堤・擁壁等のハード対策を進めているものの,整備率は依然として30%程度であり,予算も減少傾向にあるので,警戒避難体制整備のためのソフト対策の推進が急務である。(図-1)


図―1 鹿児島県の自然条件


ソフト対策として,鹿児島県では土砂災害防止法に基づき,平成16年度から県内の指定を進め,平成20年度末時点において,17市町村8427箇所の土砂災害警戒区域,3市町768箇所の土砂災害警戒区域の指定を行うとともに,平成17年9月1日から全国で初めて鹿児島地方気象台と共同で土砂災害警戒情報の運用を開始し,現在までにのべ36回土砂災害警戒情報を発表している。今回は土砂災害警戒情報の発表を通して明らかになった課題や市町村の防災担当者の意見や要望,それを受けた今後の対応について報告したい。


2.土砂災害警戒情報の概要
本県では気象台が作成する降水短時間予報等による3時間先までの降雨予測を用いて,県が監視する指標(土砂災害発生予測情報システムによる危険指標)と気象台が監視する指標(土壌雨量指数の過去10年間の履歴順位)がともに基準を超過した(超過する見込みがある)時に土砂災害警戒情報を発表している。
土砂災害警戒情報は気象台から県危機管理防災課に伝達された後,専用回線を通じて市町村防災担当部局に伝達され,避難勧告等の判断基準として活用されている。また,気象台から直接マスコミに伝達されテレビやラジオを通して住民に伝達され,住民の自主避難等の判断材料としても活用されている。(図-2)


図―2 土砂災害警戒情報の伝達ルート


また,県地域防災計画書においては,災害危険箇所等の警戒避難体制の整備の中で,土砂災害警戒情報などをもとに住民への避難勧告等の基準を定めるよう努めると記載されている。


3.土砂災害警戒情報の発表状況
17年は2回,18年は12回,19年は10回,平成20年は10回,平成21年は現在までに2回の土砂災害警戒情報を発表している。(表-1)


表―1 土砂災害警戒情報の発表状況


土砂災害警戒情報を運用した平成17年9月から平成20年までの2次細分区域ごとの大雨注意報,大雨警報,土砂災害警戒情報の発表回数は以下のとおりである。土砂災害警戒情報の発表頻度は注意報,警報に比べて非常に小さく,それだけ危険な状況であることがわかる。(表-2)


表―2 大雨注警報・土砂災害警戒情報の発表回数



4.市町村の防災意識の向上
4―1.土砂災害警戒情報の活用に関するアンケート
市町村の土砂災害警戒情報の活用状況を把握し,今後の参考とするために市町村の防災担当者を対象に,その活用状況についてアンケートを実施している。

4-2.アンケートをとおして
運用開始直後であったこともあり,平成17年9月のアンケートでは土砂災害警戒情報を全く活用しなかったという市町村も全体の15%程度あった。運用2年目以降は全市町村で活用を行っており,活用内容に差があるものの土砂災害警戒情報がかなり浸透してきているように思われる。平成20年12月に市町村防災担当者向けに行ったアンケートでは(表-3),9割以上の市町村で土砂災害警戒情報を活用しているとの結果が出ている。活用内容は主に自主避難の呼びかけや避難勧告等であり,土砂災害警戒情報の発表が市町村の防災担当者の行動に直接結びつくようになってきている。災害が頻発している市町村ほど意識が高く土砂災害警戒情報を高度に活用しているようであるが,これは土砂災害警戒情報が発表されるときの危険性を市町村も理解し大雨警報以上の「スーパー警報」として認識してきているからと考えられる。
現在は市町村単位で土砂災害警戒情報が発表しているが,市町村の合併による発表単位が広域化しており,発表単位の細分化を希望する市町村が9割占めている。細分化の議論は別として土砂災害警戒情報を活用する意思の表れと考えられる。


表―3 土砂災害警戒情報に関するアンケート



5.土砂災害警戒情報が活かされた事例
5-1.平成18年7月5日 垂水市 上市木地区
平成17年9月に来襲した台風14号により垂水市内では各地で土砂災害が発生し,5名もの尊い人命が失われた。その経験から垂水市では避難勧告の基準が従来は雨量のみであったが,土砂災害警戒情報を避難勧告の判断材料に取り込むなど,警戒避難体制の強化に着手した。
平成18年7月5日梅雨前線に伴う豪雨により,21:45に垂水市では土砂災害警戒情報が発表された。前年度から,警戒避難体制の強化に着手しており,土砂災害警戒情報や降雨状況などを総合的に判断し避難勧告発令するという体制が整っていたため,市では22:10に避難勧告を発令した。地域住民も前年の台風14号のときの経験から防災意識が高かったこともあり,避難勧告発表後に上市木地区の住民は避難を開始した。23:00に上市木谷で土石流が発生し,谷の出口の人家を土石流が直撃したが,避難が完了していたため人的被害を免れた。


図―3.土砂災害警戒情報が活かされた事例
(垂水市 上市木地区)


5-2.垂水市二川地区 平成19年7月14日
7月11日から12日にかけての一連の降雨により垂水市には土砂災害警戒情報が発表され,市では3世帯5人を対象に避難勧告が発令された。
その2日後,7月14日に鹿児島県の大隅半島に台風4号が接近した。7月に接近する台風としては最大級の台風であり,12日までの先行雨量もあることから,一旦は土砂災害警戒情報が解除されたものの,今後再び発表されるのも確実であり,暗くなる前に避難を完了しておく必要があったことから13日の14:00には3905世帯8574人を対象に避難勧告を発令し,15:30には土砂災害警戒情報が発表された。台風が再接近した14日の12時頃,垂水市内の二川地区では住宅裏のがけが高さ約130m,幅60mにわたって崩壊した。崩壊した土砂が土石流となり人家4戸と郵便局1棟が全壊したが,住民は避難を完了していたため人的被害を免れた。二川地区の事例は災害発生前の避難により人的被害を免れた例として国土交通省からも紹介されている。


図―4.土砂災害警戒情報が活かされた事例
(垂水市 二川地区)


6.今後の課題
6-1.発表単位の細分化について
土砂災害警戒情報の運用を開始した平成17年9月1日時点では県内の市町村数は76であったが,その後市町村合併が進み,平成21年4月時点の市町村数は45となっており,今後も市町村合併が進むものと思われる。土砂災害警戒情報は市町村単位で発表するので,以前より広域で警戒情報を発表することになった。そのため同一市町村でも降雨状況に地域差があることから,避難勧告の発表エリアを特定しにくいため,合併前の市町村単位で土砂災害警戒情報を発表して欲しいとの意見が多くの市町村防災担当者から挙がっている。今後,降雨状況と災害発生状況などのデータを蓄積し,細分化にすべきかについて検討を行う。鹿児島地方気象台,県の消防防災部局とは土砂災害警戒情報に関する問題点やその改善策を相互に認識し,よりよい土砂災害警戒情報のありかたを議論する場として連絡調整会を年に2回程度開催しているが,その中で発表単位の細分化についても議論していきたい。

6-2.空振りに関する住民意識について
市町村が避難勧告を発令するにも,空振りが問題視されている。避難勧告を発令し住民が避難して災害が発生しないと,どうしても住民の避難所への足は遠のくため,市町村も避難勧告の発令に慎重になる。逆に過去に災害を受けて死者が出たような市町村は,防災への意識が高く避難勧告を発令する環境が整っている。土砂災害警戒情報が活かされた事例を2例挙げたが,2例とも垂水市であり高い防災意識が伺える。今後県と市町村は“避難したのに災害が発生しなかった”ではなく“避難して災害の発生もなく良かった”という意識を住民にもってもらえるよう努力していかなければならない。
土砂災害警戒情報は避難時間を考慮し3時間先までの予測雨量から発表する。土砂災害警戒情報は避難準備時間や避難に要する時間が必要なのでリードタイムを考慮した予測雨量で運用することに意義がある。全ての事象においていえることだが予測で運用するからにははずれることも含めて,住民意識の啓発に努力していきたい。

6-3.土砂災害警戒情報の周知・利活用について
鹿児島県では,平成17年9月の土砂災害警戒情報の本格運用前や平成18~20年の梅雨時期の前に県内全市町村の防災担当者を対象に土砂災害警戒情報を含めた警戒避難に関しての説明会を実施し周知を図っている。市町村の防災担当者も異動があるため,今後とも説明会を開催し土砂災害警戒情報の周知を図っていく必要がある。
土砂災害警戒情報はマスコミを通じて直接住民へ伝達され,住民の自主避難の判断材料になる。土砂災害警戒情報の運用前や平成18~21年の梅雨前には県内全世帯に配布される県広報誌(図-5)で土砂災害警戒情報を紹介している。また,土砂災害警戒情報の発表時にはテレビテロップやラジオ等でも発表市町村がわかるため,今後ともマスコミへ土砂災害警戒情報発表時におけるテレビテロップ等による周知等を依頼していく必要がある。
土砂災害警戒情報は,新しい防災情報であり,その利活用方法に苦慮している市町村も多い。このため,県は平成18年5月と平成19年5月に「土砂災害警戒情報の有効な活用について」市町村に通知している。通知では,“日頃の備え”,“避難準備期の対応”,“避難勧告等の判断”の3段階に分け,土砂災害警戒情報を有効に利活用するための各段階における対応を示している。日頃の備えでは土砂災害危険箇所・雨量観測所の確認や情報収集体制の確立などの平常時の準備項目を示し,避難準備期の対応では大雨警報が発表され市町村の防災部局が待機に入ってからの対応項目で,気象情報の確認や土砂災害の前兆現象の有無などの地元からの情報収集や避難勧告等の防災対策の検討などがある。土砂災害警戒情報発表後の避難勧告等の判断では監視してきた雨量情報や地元からの情報を総合的に判断し避難勧告を発令する地域を抽出するなどの対応状況を示している。今後も延べ5年間の運用をふまえた上で,土砂災害警戒情報の更なる有効な活用方法を模索検討していき,市町村の防災業務に役立てたい。


図―5.県政かわら版(H21.6)


6-4.住民の避難行動につながる情報の配信
県では平成20年4月1日からインターネット で,県内254箇所の観測所雨量データや5km メッシュごとの降雨状況や土砂災害危険指標を確 認できる“ 土砂災害発生予測情報システム” の情 報をインターネットで配信しており,より細分化 した地域で土砂災害の危険性を把握することがで きるようになった。
併せて土砂災害危険箇所や土砂災害特別警戒区 域(レッドゾーン),土砂災害警戒区域(イエロ ーゾーン)を表示した基盤図をインターネットで 配信している。


図―6.土砂災害発生予測情報システム
http://www.doboku-bousai.pref.kagoshima.jp/


図―7.土砂災害情報マップ
http://www.sabomap.jp/kagoshima


これらのサイトを閲覧することにより,自分が住んでいる地域の土砂災害の危険性やリアルタイムの降雨状況を把握し,自主避難等の判断材料に役立ててもらうよう,今後とも周知を図っていきたい。


6-5.住民の防災意識の高揚
市町村が避難勧告等を発令しても避難行動を起こす住民は依然として少ない。避難勧告の対象のうち実際に避難した人の割合(主要豪雨時の市町村からの報告による)は平成17年では約6%,平成18年では約6%,平成19年では約7%,平成20年は約10%となっており,いかにして住民の避難率を向上させ土砂災害による人的被害を軽減するかが今後の課題である。
土砂災害防止法の警戒区域等を指定する前には当該市町村と共同で説明会を開催しており,警戒情報や警戒区域等の説明を実施し防災意識の高揚を図っている。
また,平成21年1月~3月にNPO法人鹿児島県砂防ボランティア協会の協力を得て,旧鹿児島市と薩摩川内市旧東郷町の藤川・烏丸地区の警戒区域内やその近辺において各戸(約3万世帯)を訪問し,土砂災害防止の推進に関する住民アンケート調査を行った(調査結果については現在取りまとめ中)。戸別訪問によるアンケート調査により,土砂災害に関する住民意識の把握とともに,土砂災害に対する注意喚起を行い防災意識の向上を図り,早期避難の呼びかけを行った。
県消防防災部局においても,土砂災害・水害・地震等による被害を軽減するべく“自助”“共助”“公助”の観点から,様々な施策を行っているところである。“自助”“共助”の施策の一環として,各地域における自主防災組織の設立を進めており,防災組織リーダーを育成するための防災教育などを行っている。「自らの身の安全は自ら守る」「自分たちの地域は自分たちで守る」という意識をもってもらえるよう,県の消防防災部局とも連携し緊急時に自主避難も含めた避難行動を取ってもらえるよう住民啓発活動を行っていきたい。


写真-1.土砂災害防止の推進に関する住民アンケート調査実施状況


7.おわりに
避難勧告・避難命令を含めた住民の警戒避難体制の整備を行う主体は市町村であり,避難行動をするのは地域住民である。県としては市町村の防災業務や住民の避難行動のための判断材料となるような防災情報提供していきたい。今後とも発表単位や発表基準や情報伝達方法を含めた土砂災害警戒情報のよりよいありかたを検討していきたい。


図―8.土砂災害警戒情報のよりよいあり方



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