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九州技報 第42号 論文
大分川ダム川地地区掘削工事における周辺環境へ配慮した施工の取組みについて
九州地方整備局 野田 佳嗣
九州地方整備局 宮成秀一郎
 
1 はじめに
大分川は、由布岳(標高1,583m)に源を発し、由布院盆地を貫流し、芹川、賀来川、七瀬川などの支川を集めて別府湾に注ぐ、幹線流路延長55km、流域面積650km2の一級河川である。
上流域における年平均降雨量は2,300㎜以上と日本の平均降雨量1,730㎜を大きく上回り、また流域の約85%が山地で構成される急流河川であることから、県都大分市の中心街を貫流する下流部において洪水被害をもたらしやすい河川である。
また、近年においても、平成16・17年の台風の接近・上陸により生活に支障をきたす洪水被害が生じている。
大分川ダムは、既設の芹川ダムとあわせて、下流域の基準地点において約700m3/sの洪水調節を行うとともに、河川環境保全等のための流水確保、大分市の水道用水の確保などの機能を兼備する多目的ダムとして、大分川の一次支川である七瀬川に建設中である。(図-1、図-2)
 

図-1 大分川ダム完成予想図

 

図-2 大分川ダム建設位置図

 
ダムサイト周辺ではダム本体の施工に先立ち、仮排水路の整備などを進めており、中でも二次支川である河内川の流路を七瀬川へ転流し、仮排水路トンネルへの導水を行う連結水路(図-3)の大規模な掘削工事が終盤を迎えている。(写真-1)
 

図-3 大分川ダムの転流イメージ

 

写真-1 大分川ダム川地地区掘削工事(平成19年11月現況)

 
2 ダム建設における掘削工事の位置付け
川地地区掘削工事は、前述のとおり連結水路の構築を目的とした掘削工事であるとともに、掘削土を利用して、締切堤およびダム本体の堤体材料への流用を目的としている。これは、掘削土を流用ロック材(内部ロック)、コア材(混合粗粒材)として有効利用することにより、自然環境への負荷低減、コスト縮減を図ることを目的としたものである。(図-4)
 

図-4 大分川ダム標準断面図

 
1)堤体材料の選別
本掘削工事における掘削対象は、中生代白亜紀の「荷尾杵花崗岩」と呼ばれる基盤岩を「阿蘇火砕流堆積物」が覆う地質である。「荷尾杵花崗岩」は風化の度合いにより、「阿蘇火砕流堆積物」は噴出物の溶結の度合いにより骨材としての品質が大きく異なる。このため、材料区分においては、岩盤の性状、力学特性とともに比重、吸水率などの物理特性が重要なパラメータとなっている。しかし、写真-2に示すとおり急峻な地山を対象とした掘削であり、施工初期段階の頂部においては地質の変化が著しい。また、掘削の難易度や色調の変化などで岩質の選別を行うことが困難なことから、施工時の堤体材料の選別に特に留意する必要があった。そこで、設計から施工関係者、特に直接作業を行う重機オペレータを含めた形態で岩種判定を行うことで、設計で意図する堤体材料の選別を施工者の末端にまでブレイクダウンし、要求品質の確保に努めた。
 

写真-2 掘削前の状況

 
2)材料試験
掘削土をダム本体の堤体材料として流用するに当たり、盛立て試験を実施し、流用材料の物理特性、力学特性および施工性の確認を行った。これにより、室内試験結果に基づいて設定した間隙比、密度、透水係数などの設計パラメータが設計値として妥当な水準にあることを確認するとともに、力学試験に基づいて設計強度の妥当性を確認した。
 
3)振動・騒音調査
本掘削工事においては、後述するとおり施工振動・騒音の低減に留意した施工を進めているが、これと同時に、後に控えているダム本体工事における施工振動・騒音の影響評価を目的とした振動・騒音調査を実施している。
一般に発破振動の予測は、変位速度(cm/sec)の大きさと振動被害の程度との関係が比較的一致するため、次式を用いて行われる。
 
V = K×W0.75×D-2
V:変位速度(cm/s)
K:発破条件、岩盤特性による係数
W:段当たりの薬量(kg)
D:発破場所からの距離(m)
 
ここで、K値は発破条件毎に火薬メーカーなどから提案されているが、現場条件に応じた発破振動の予測を精度良く行うため、発破場所からの距離D(m)を計測パラメータとした振動値の調査を行い、当該の岩盤特性と変位速度の関係を得ている。
また、騒音の影響を評価するためには音響エネルギーの減衰量の予測は必須であるが、距離減衰、回折による減衰、空気吸収等に比べ、地表面等による減衰、山や丘等の地形遮蔽物の影響、谷間を伝播するときの影響は定量的に予測することが一般的に困難である。しかし、本掘削工事の施工位置はダムサイトに隣接しているため、ここで得られた発生騒音と減衰して到達した計測地点での騒音の関係は、ダム本体建設における施工騒音の影響を評価する上で有用なデータであると考えられる。
 
3 周辺環境への配慮
本掘削工事において掘削対象となる地質は、前述のとおり「荷尾杵花崗岩」と呼ばれる基盤岩を「阿蘇火砕流堆積物」が覆う比較的硬質な岩盤であり、その多くは掘削分類上の「中硬岩」に区分されている。このため掘削工法の主体は、発破掘削やブレーカ掘削など周辺環境への影響が大きい方法となる。一方、当地区周辺では環境省のレッドデータブックで「絶滅危ぐIB類」に指定される「クマタカ」(写真-3)の生息が確認されていることや、七瀬川上流域の清流に近接しての施工であることなどから、周辺自然環境への配慮が重要な課題となった。また、ダムサイトの近傍には大分川ダムの建設により生じる水没予定地に対する代替地も存在することから、社会環境に対する影響についても十分な対応が必要であった。
 

写真-3 クマタカ

 
1)クマタカに対する保全対策
クマタカに対する保全対策については、ハード的な対策により発破騒音および振動、ブレーカやバックホウなどの大型建設機械の稼働による騒音の低減を図るとともに、ソフト面の対策としてクマタカへの影響が最も大きいと考えられる作業を段階的に始めてクマタカに機械の存在や掘削騒音に対して慣れさせていく対策「コンディショニング(順化)」を実施した。本掘削工事での「コンディショニング」は、大型ブレーカでの岩掘削作業および発破作業を対象として、表-1、表-2に示す手順により実施した。
 

表-1 大型ブレーカのコンディショニング

表-2 発破作業のコンディショニング

 
専門の学識者で組織する「大分川ダム猛禽類検討部会」の指導・助言を得ながら、モニタリング調査を継続した結果、営巣期間中におけるクマタカの特異行動も見られず、有効な環境保全対策が実行できていると考えられる。
 
2)河川環境に対する保全対策
大分川ダム建設地である七瀬川は、その下流域に大分市七瀬川ホタル保護地区が存在し、環境庁自然保護局により『ふるさといきものの里100選』に選定されている。また、大分川との合流点付近は、アユの生息地として大分川水系で唯一の水産資源保護法による保護水面に指定されており、河川環境の保全対策が強く求められている。そこで、「大分川ダム汚濁監視委員会」を設置し、ダム事業全体の汚濁水の流出を監視している。
また、本掘削工事においては、濁水流出の1次対策として、写真-4に示すとおり、掘削箇所の外周に土堤を設けながら掘削を進めることにより、表面排水が河川へ直接流出しないように集水している。
その後、2次対策として掘削箇所全域の表面排水を写真-5に示す排水路(延長30m)に集水し、排水路内に配置した粗粒材料のフィルタ材内部を浸透通過することにより、濁水のろ過を行っている。
排水路を通過した排水は、3次対策として写真-6に示す多段式の沈砂池に集め、濁水中の浮遊物質の自然沈降を図った後に放流している。また、上下段の沈砂池を結ぶ連絡水路および下段沈砂池の放流口にはフトン篭を設置し、浮遊物の流出を防止している。
また、ダムサイト近傍の河川に沿って点在する堤体材料の仮置場についても同様の濁水対策を行い、工事区域全域の河川環境の保全を図っている。

写真-4 表面排水集積土堤

写真-5 排水路の設置状況

写真-6 沈砂池設置状況

 
3)植物相に対する保全対策
のり面緑化に関しては、平成14年3月に公表された「新・生物多様性国家戦略」を受け、「自然再生推進法」、「外来生物法」が公布されるなど「生物の多様性保全」がキーワードとして注目されている。本掘削工事において発生するのり面の緑化工についても、外来植物による地域固有植物への影響を防止するため、地域の在来植物種を用いた緑化工法の採用を計画している。
サーチャージ水位より高い位置の永久のり面については、「自然林復元工法」(NETIS登録QS-030003)の採用を決定している。「自然林復元工法」は、周辺地域に自生する樹木から採取した種子より無肥料育苗した芽苗を使用し、支持根の丈夫な自然の実生稚苗と同様の状態を再現することで、根系の緊縛によるのり面の安定を図る工法である。
 

図-5 「自然林復元工法」概要図

 
また、サーチャージ水位より低い位置ののり面についても、地域の在来植物種を用いた草本類による植生基材吹付を計画している。さらに、植生基盤材は、伐採材をチップ処理した後に有効活性菌を多量に含む「種堆肥」を混合撹拌することで、有機質土壌を製造する「ゼロ・エミッションソイル工法」(NETIS登録KT-990578)により製造している。このような形で近年の循環型社会の形成に向けた取組みのひとつである、建設副産物のリサイクル対策を図っている。
4)社会環境に対する保全対策
中硬岩の掘削を主体とした本掘削工事では、発破地点上方に位置する代替地における発破振動被害を、最も高い社会的な環境負荷として位置付け、保全対策に当たった。
① 発破振動の低減対策
振動規制法に基づく特定建設作業の振動の規制値は75db以下であることが定められているが、本掘削工事においては計測点(最も近接する民家境界)における振動レベルの規制値を60db以下と定め、民家への発破振動の影響低減について検討を重ねた。
前述のとおり、発破振動の予測式における変位速度は段当たり薬量と距離の関数であり、一定距離において振動レベルを低減するためには、段当たり薬量を制限する必要がある。そこで、本施工に先立ち、試験発破を行い目標とした規制値を満足する薬量を求めた。
試験発破は、一般的な実績値に基づいて推定した段当たり薬量の1/5程度の装薬量で行い、振動レベル測定の結果得られたK値を基に使用可能な最大段当り薬量を推定した。
なお、薬量の推定に当たっては、距離や地質による影響を受け、発破毎に若干変動するK値の特性を考慮して、安全側の管理値として55dbを設定した。
 

写真-7 試験発破における振動騒音測定

 
推定した段当たり薬量において、確認試験を行った結果、計測地点における振動レベルが56dbであったことを受け、推定値の妥当性を確認した上で本施工における最大段当り薬量を決定した。
また、同時に住民に対するアンケートによって、感覚による発破振動・騒音に関する影響を調査した結果、「不安感・不快感は覚えない」、「この程度であれば続けても問題ない」との回答を得、本施工に着手した。
 

図-6 薬量決定のフロー

 
② 発破作業に対する心理的対策
発破振動・騒音の人体への影響は、不安感や驚き等の心理的影響、睡眠妨害等の生理的影響、仕事が中断される活動妨害等がある。一方、発破振動・騒音は、単発的かつ発生時間が極めて短く、直接的な不快感の発生原因とは考え難い。
本掘削工事における発破作業は昼間のみであることから睡眠妨害を除き、不安感や驚きなどの心理的影響およびに情報の欠如などによる恐怖感、不信感から生ずる不快感に対する対策を図った。
まず、地元説明会において大分川ダム建設事業における本掘削工事の位置付け、目的等から工事の公共性、公益性を説明するとともに、発破施工の必要性、妥当性について説明した。また、発破の施工方法を説明することで、工事の安全性に関しても理解を得ることができた。
発破の施工方法については、発破作業の時間帯を一定時間に定め、それを周辺住民へ広報すること、および心理的圧迫感の小さな発破の合図方法を採用した。
発破の予告は通常5分前からサイレンを用いて行われるが、本掘削工事においては図-7に示すように発破30分前から音楽を流し、15分前からアナウンスを行うことで、不安感や驚きなどの心理的影響の排除に努めた。なお、合図の音楽に用いた童謡やクラシック音楽が周辺住民に好評であったことを付け加えておく。
これらの取組みにより、発破作業に関して地元住民との合意形成を図ることができ、以降の本格的な発破掘削作業においても現時点まで特段の苦情もなく、順調に施工を進めている。
 

図-7 発破の合図方法

 
6 おわりに
今回紹介した掘削工事に係わらず、大分川ダムの建設事業においては、周辺の動植物相等の自然環境への影響、周辺住民への社会環境に対する影響が少なからず考えられる。そこで、国や県などの関係機関、学識経験者、地元代表者らと共同で各種の委員会を設置し環境対策に取組んでいる。
その一環として、ダム本体建設に先立つ本掘削工事を、環境側面における試験施工工事として位置づけることにより、環境負荷を検討する上での有用なデータ、施工上の指針等が得られたと考えている。今後の大分川ダム建設事業の本格化に向けて、更なる環境対策に取組むとともに、効果的かつ経済的に事業を進めることで、より良質な社会資本の提供に資する所存である。
最後に、本掘削工事において㈱さとうベネックが実施したダム事業全体の環境調査への協力に対して謝意を表す次第である。
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