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九州技報 第41号 論文

番匠大橋耐震補強工事における橋脚耐震補強方法について

九州地方整備局 児玉 敏幸

九州地方整備局 原薗 良和

九州地方整備局 佐藤 晴章

九州地方整備局 北平 京治


 
1 はじめに
一般国道10号は、福岡県北九州市を起点とし、大分県別府市や同大分市、宮崎県延岡市、同宮崎市、同都城市などの東九州の主要都市を経由して鹿児島県鹿児島市に至る延長約470kmの主要幹線道路であり、九州地方の国道で最長の長さを有する東九州の大動脈となっている。
番匠大橋は当該国道の路線内(大分県佐伯市弥生大字小田)に位置する、橋長220m、幅員8.20m(拡幅部11.25m)のPC7径間単純ポストテンション方式T桁橋であり、控え壁式橋台2基と小判型張出式橋脚6基を有する。竣工は昭和37年であり約45年が経過している。
図-1に番匠大橋の架設位置図、図-2に番匠大橋全体図(側面)、表-1に橋梁諸元を示す。
また、写真-1は本工事着手前の状況写真である。

 
当該橋梁は、「緊急輸送道路の橋梁耐震補強3箇年プログラム」の対象橋梁となっており、設計検討の結果、橋脚の耐震性(曲げ耐力、せん断耐力)が不足していることが判明した。また当該橋梁は、大分県南部を流下する一級河川番匠川の中流域に位置することから、海洋性波浪や凍結防止材の散布などによる塩分の影響はほとんどないが、拡幅部の上・下部工にアルカリ骨材反応によるものと思われるひび割れが数多く確認された。
よって今回、橋脚に対する耐震補強工事を行うとともに、耐久性向上のための補修工事も行い、本年3月に無事竣工した。以下に当該橋梁における橋脚耐震補強工事の内容を紹介する。
 
2 既設橋脚状況
番匠大橋の本線橋脚の形状は小判型張出式橋脚であるが、P1~P3橋脚は本線橋脚に歩道部の橋脚と拡幅部の橋脚が接続されており、P4~P6橋脚は本線橋脚に歩道部の橋脚が接続された形状となっている。外観からは一体化された壁式橋脚のように見受けられるが、各々の橋脚の基礎および柱主鉄筋は独立しており、それぞれの構造(振動)特性は異なった状態にある。図-3にP1橋脚図を、写真-2にP1橋脚の施工前写真を示す。
また当該橋梁の架設場所(番匠大橋観測所)では、宮崎県を中心とした東九州に大きな被害をもたらした平成17年9月の台風14号により、番匠川の河川水位が計画高水位の10cm程度下まで迫るという事態となった(計画高水位6.37mに対し、ピーク水位6.28m)。図-4に平成17年台風14号襲来時の水位の状況を示す。

 

 

図-3 P1橋脚正面図

写真-2 P1橋脚施工前状況

 

図-4 水位状況図(番匠川 番匠大橋観測所)

 

  
3 補強工法選定
当該橋梁は、渇水期であれば陸上施工が可能であり、「緊急輸送道路の橋梁耐震補強3箇年プログラム耐震補強マニュアル(案)」によれば、その場合には鉄筋コンクリート巻立て工法が橋脚耐震補強の標準工法となる。
しかしながら、当該橋梁の架設場所では前述のように、治水の面から河川阻害率を現状から大きくすることができず、巻立て厚さがt=250mm程度と大きくなる鉄筋コンクリート巻立て工法の採用は困難であった。また、橋脚本体を補強せずに橋脚頂部をPC連結材にて結ぶことで耐震性能を確保する工法について検討を行ったが、多径間連続桁であり補強効果があまり得られない結果となった。
そこで橋脚の耐震補強工法に、巻立て厚さを薄くできるポリマーセメントモルタルを用いた橋脚巻立て工法を採用し、モルタルの巻立て厚さ分だけ既設コンクリートをはつることで、河川阻害率の増大を抑制した。従来のポリマーセメントモルタルを用いた橋脚巻立て工法では、モルタル増厚が左官のコテ塗りにより行われてきた。しかしコテ塗りによるモルタル増厚では、施工が人力になることから作業性(工期長期化)に問題があり、またモルタルの付着や充填性が左官の技量に左右されるといった品質の均一化に課題が存在した。
そこで、平成18年12月に九州大学大学院工学研究院とRC構造物のポリマーセメントモルタル吹付け補修・補強工法協会(以下、吹付け協会)が、モルタル増厚を吹付けにより行う「ポリマーセメントモルタル吹付け耐震補強工法」について共同で模型実験を行い耐震性能が確認されたことから、橋脚耐震補強に同工法を採用し、作業性の向上と工期の短縮、および品質の均一化を図った。
 
4 模型実験
これまで、ポリマーセメントモルタルを用いた橋脚巻立て工法では、コテ塗りによる施工の耐震性能は確認されていたが、吹付けにて施工を行った場合の耐震性の確認は行われていなかった。
そこで、九州大学大学院工学研究院と吹付け協会が、ポリマーセメントモルタル吹付けにより巻立て補強した約1/5スケールの橋脚模型に対して、地震時を想定した正負交番載荷試験を行った。
その結果、道路橋示方書Ⅴ耐震設計編1) に基づく設計値と実験による最大耐力が極めてよく一致し、「ポリマーセメントモルタル吹付け耐震補強工法」の耐震性能の妥当性が実証された2)。図-5に今回の実験における荷重-水平変位曲線の一例を示す。赤線で示された設計値と黒縁の実験値がよく一致していることが分かる。また、写真-3は実験中の供試体写真である。

 

図-5 荷重-水平変位曲線

写真-3 実験状況

 


5  現地施工
図-6に、今回施工した橋脚耐震補強の施工フローを示す。
 

図-6 施工フロー図
① コンクリート取壊し工
当該橋梁の橋脚は、2 既設橋脚状況で述べたとおり、歩道部や拡幅部の橋脚が本線部の橋脚に接続されていたことから、本線部橋脚に帯鉄筋の巻き付けが行えるように、接続部分のコンクリートを300mmの幅で撤去した。
なお、コンクリート取壊しの施工については、既設コンクリートへの影響を避けるために大型ブレーカは使用せず、クローラドリルにて取壊し箇所を削孔した後、ピックハンマを使用した人力作業にて仕上げはつりを行うことで、既設コンクリートへの影響を低減し、かつ工期の短縮を図った。図-7にコンクリート取壊し範囲図を、写真-4に取壊し状況を示す。

 

図-7 既設コンクリート取壊し図

写真-4 既設コンクリート取壊し状況

② コンクリートはつり工
当該橋梁の橋脚耐震補強には、3 補強工法選定にて述べたとおり、巻立て厚さを薄くできる「ポリマーセメントモルタル吹付け耐震補強工法」を採用したが、それでもt=64~76mmの巻立て厚が必要になることから、その分だけ既設コンクリートのかぶり部をはつることで、河川阻害率の増大を抑制した。
はつりの施工は、施工場所が河川内でありウオータージェットによるはつりが困難であったことから、スパイキ-ハンマと呼ばれる専用アタッチメントを取り付けたバックホウにて作業を行った。これにより、排水を生じさせることなく、かつ短期間にはつり作業を終了することが可能となった。図-8にコンクリートはつり範囲図を、写真-5にスパイキ-ハンマによるはつりの状況を、写真-6にスパイキ-ハンマの写真を示す。

 

図-8 既設コンクリートはつり図

写真-5 既設コンクリートはつり状況

写真-6 スパイキーハンマ

 ③ コンクリート削孔工
主鉄筋を基礎に定着するためのコンクリート削孔の施工は、基礎の鉄筋を損傷することのないように事前に鉄筋探査を行って既設鉄筋の位置を確認し、それを避けるようにして削孔機(レッグハンマ)にて削孔を行った。
削孔にあたっては、粉塵の飛散や孔への堆積を極力低減するために、吸引機にて粉塵を吸引しながら施工を行った。図-9に主鉄筋定着部の詳細図を、写真-7には既設コンクリートの削孔状況を示す。

図-9 定着部詳細図

 

 

 

 

 

 

写真-7 既設コンクリート削孔状況

④ 鉄筋組立工
補強鉄筋の組立てにおいては、主鉄筋建込み前にアンカー孔にくり粉が残らないようコンプレッサにより十分清掃を行い、主鉄筋を建込んだ後にエポキシ樹脂により基礎コンクリートに定着した。基礎コンクリート上面に露出した主鉄筋は、固定用バンドとコンクリートアンカーを用いて既設コンクリートに国定し、その上から帯鉄筋を巻き付け設置した。写真-8に鉄筋組立状況を示す。

写真-8 鉄筋組立状況
⑤ 吹付け増厚工
今回の吹付け増厚には、再乳化型粉末樹脂を配合したポリマーセメントモルタルを使用した。この材料は、セメント、砂、ポリマー(再乳化型粉末樹脂)、ビニロン繊維、およびその他の混和剤などがあらかじめ混合された状態で袋詰めされており(プレミックス)、現場では水を加えるだけであるため、品質の安定が図りやすいという特徴を有するものである。
またポリマーセメントモルタルは、水の配合量を一定にしても温度や湿度などの外部環境条件によりコンシステンシーが変動し、ワーカビリティなどに影響を与えるため、今回の施工では現場で練混ぜられたポリマーセメントモルタルのコンシステンシー評価手法として、大分工業高等専門学校と本工事の施工業者である㈱さとうベネックが共同で開発したベーンせん断試験を用いた。この試験は、軟弱地盤のせん断強さの測定に使用される簡易型ベーンせん断試験機を練りあがったポリマーセメントモルタルに挿入し、試験機を回転させることで得られる最大せん断力によりコンシステンシーを評価するというものである3)。この試験を実施したことにより、吹付け時のモルタルポンプの閉塞やタレ・剥がれ落ちなどが生じることなく施工を行うことできた。図-10にベーンせん断試験の測定結果を、写真-9にベーンせん断試験状況を示す。

図-10 ベーンせん断試験結果

写真-9 ベーンせん断試験状況
 
ポリマーセメントモルタルの吹付けは2層に分けて行った。1層目の吹付けは、既設コンクリート面にプライマーを塗布し、指触にてこれが乾燥したことを確認してから、帯鉄筋が隠れる厚さまで行った。2層目の吹付けが翌日以降になった場合には、2層目吹付け前にプライマーを塗布して施工を行った。吹付け施工をフロー図で表すと図-11のようになる。写真-10にポリマーセメントモルタルの練混ぜ状況を、写真-11に吹付け状況を示す。

 

 

図-11 ポリマーセメントモルタル吹付けフロー図

写真-10 ポリマーセメントモルタル練混ぜ状況
 
写真-11 ポリマーセメントモルタル吹付け状況
⑥ 取壊し部復旧工
ポリマーセメントモルタルの吹付けが完了した後に、帯鉄筋の巻き付けが行えるように撤去した接続部分をコンクリートにて復旧して施工を完了した。写真-12に、P1橋脚の施工完了写真を示す。

写真-12 P1橋脚施工完了
 
6 おわりに
今回の工事では、当該橋梁の架設場所における治水に与える影響の面などから、「ポリマーセメントモルタル吹付け耐震補強工法」という耐震性能が確認されたばかりの新工法を採用した。本工事における施工の実績が、今後の耐震補強工事における一助となれば幸いである。
最近では、新NETISや総合評価落札方式などの方策により、新技術等の活用が促進されつつある。これからも、標準工法や一般的工法といった枠組にとらわれることなく、構造物のおかれた状況・条件とそれに最も見合う工法・技術を適切に判断し、より効果的かつ経済的に事業を進める所存である。
 
参考文献
1) 道路橋示方書・同解説Ⅴ耐震補強編,(社)日本道路協会,平成14年3月
2) 中村智,日野伸一,山口浩平,谷口硯士,石田耕生,衛藤誠:PCM吹付け工法による既設RC橋脚の耐震補強に関する実験的研究,平成18年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集,2007年3月,pp757-758
3) 蒲生和久,衛藤誠,佐藤智和,一宮一夫:施工現場におけるポリマーセメントモルタルの品質管理手法の提案,土木学会第60回年次学術講演会講演概要集,2005年9月,pp523-524
 
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