九州技報 第41号 論文

「環境に配慮したダムづくり」~河川総合開発事業(大和ダム)~

鹿児島県 石田 知謙


1 はじめに
大和ダムは、奄美大島の中部に位置し、東シナ海へ注ぐ二級河川大和川の支川三田川の中流に、鹿児島県と大和村の共同事業として建設を行った生活貯水池である。
本ダムは、平成2年度に河川総合開発事業の生活貯水池として事業採択され、平成14年10月に本体工事に着手、平成16年4月からは本体コンクリートの打設を開始し、平成19年4月11日に試験湛水を終了したところである。
ダム形式は重力式コンクリートダムで堤高45.0m、堤頂長90.0m、堤体積48,000m3,総貯水容量784,000m3、有効貯水容量721,000m3である。
ダムの完成により、洪水時にはダム地点で42m3/Sの洪水をカットして河川の氾濫を防止し、渇水時には水を放流して下流河川の環境を保全するとともに、大和村(5地区)の簡易水道の水資源として新たに750m3/ 日の安定供給を図ることが可能となる。
奄美大島は、日本の離島の中で佐渡島に次いで二番目の大きさで、亜熱帯地域に属するため高温多湿な気候で「東洋のガラパゴス」と呼ばれており、国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギ(写真-1)や天然記念物であるケナガネズミ、アマミトカゲネズミ、ルリカケス、オオトラツグミ等が生息している。
また、わが国第2位の面積を有するマングローブ原生林等貴重な動植物が多数生息・生育する自然豊かな島である。
計画当初から、ダム建設地の周辺には、事前の環境調査でアマミノクロウサギや、絶滅の恐れのある希少動植物の生息・生育が確認されたため、これらの動植物の生態系を保全するための工夫を行い、自然環境にやさしいダムづくりを進めてきた。

図-1

写真-1

 
2 調査の概要
大和ダム建設工事に関わる自然環境調査は、平成3年度から開始している。これらの環境調査と併行して、平成5年度から必要に応じて天然記念物等に精通した野生動植物の学識経験者からなる「調査検討会」を開催し、調査方法や計画内容、保全対策案などについての検討を進めてきた。
また、平成13年度からは、取り付け道路等の工事が開始されるため、工事の進め方や河川魚介類への影響の程度や配慮事項について検討するために、河川工学・淡水魚の学識者も委員に加え、検討会の名称を「自然環境検討会」と変えて実施してきた。
       大和ダム調査・環境検討会 経緯

年   度

     検  討  会  名

平成 5年度

 第1回大和ダム調査検討会

平成 6年度

 第2回大和ダム調査検討会

平成11年度

 第3回大和ダム調査検討会

平成14年度

 第1回大和ダム自然環境検討会

平成15年度

 第2回大和ダム自然環境検討会

平成16年度

 第3回大和ダム自然環境検討会

平成17年度

 第4回大和ダム自然環境検討会

平成18年度

 第5回大和ダム自然環境検討会
 
3 環境保全対策
調査検討会及び自然環境検討会において提案された意見を受けて、大和ダムでは以下の環境保全対策を実施している。
(1)ダム湖管理用周回道路
大和ダム上流の周回道路は、周辺に生息・生育する動植物への影響を軽減するため、計画地内から発生する木材を利用した幅1m程度の未舗装歩道を設置して土地の改変面積を出来るだけ小さくするとともに、ロードキルの防止を図っている。

写真-2

 
(2)魚道の設置
大和ダムの堤体及び貯水池の存在により、三田川の上流域及び下流域で生息が確認された魚類、甲殻類等の移動の阻害が生じるため、ダム堤体右岸及び貯水池右岸側に魚道を設置している。魚道の遡上対象種としては、ハゼ科のヨシノポリ類(クロヨシノポリ、シマヨシノポリ等)やボウズハゼ、ルリボウズハゼ等、エビ・カニ類(ヌマエビ類、テナガエビ類、モクズガニ類)を想定している。

写真-3

 

(3)スロープ付き側溝の設置
小動物への配慮として、付け替え道路の側溝については、小動物避難用のスロープを設置している。

写真-4

 

(4)改変面積の縮小
現地に生息する動物への影響を軽減するため、風化した岩盤をコンクリートで置き換えるアバットメント造成工法(人工岩盤)を採用することにより、掘削する斜面の改変面積を小さくしている。

図-2

図-3

 

 

図-4

(5)樹木伐採計画の見直し
工事を始める際の樹木等の伐採は、計画地内に生息する鳥等の繁殖時期、アマミノクロウサギの繁殖時期を避けて、9月から10月にかけて行った。
また、伐採は、計画地内の動物が山側に逃げられるように、原則として低標高部から徐々に進めた。

図-5

(6)残存植生の保護
貯水池周辺部の樹木を保護するため、本格的な伐採に入る前に、常時満水位以上の5m程度を先行伐採し、乾燥害や風害を防ぐためのマント群落(低木やツル植物からなる植生帯)を形成させた。
(7)保護上重要な植物の移植
現地調査で確認された、ダム堤体の区域、付け替え道路の区域、湛水予定区域内の保護上重要な植物については、個体の消失が避けられないため、地域における種の保存、個体保護の観点から、代償措置として種の育成に適した環境に移植を行い影響の低減を図った。
(8)赤土等流出防止対策
ダム建設工事現場から発生する濁水については、発生源対策を行うことで発生量を極力抑え、発生した濁水については濁水処理プラントできれいな水に処理し、可能な限り現場内で循環利用した。
(9)伐採樹木等の有効活用・在来植生の回復
伐採した樹木等は、木材へ再利用し、チップにして付け替え道路等の法面保護材として有効活用させた。
また、法面保護工の吹き付け材料は、無種子とし、伐採樹木のチップと現地の表土等を練り混ぜ使用することで、在来植生を復元させた。
 
4 おわりに
大和ダムの建設にあたっては、周辺の環境(水質、騒音、振動ならびに生物)調査を行い、工事中あるいは完成後においても関連する法規を遵守すべく、環境保全に対する万全な対策を施しており、ダムサイト周辺に生息する貴重な動植物に対しての保全、保護を目的として「大和ダム建設に当っての貴重な動植物への配慮事項 環境配慮技術ノート」を作成し、また、赤土等流出防止に対しては、「赤土等流出防止対策技術手帳」を作成して、環境保全対策に活用していた。
特に、大和ダム建設に携わる工事関係者の方々を中心に、地元の方々にダム建設地周辺の野生動植物やその生息環境について理解していただくとともに、貴重な動植物への配慮を心がけてもらうことを目的として、充分活用された。
なお、工事期間中であった平成17年2月の調査において、ダム本体右岸の法面でアマミノクロウサギの糞が多数確認されている。
今後も、アマミノクロウサギの生息範囲等の生活環境について追跡調査していくこととしている。
冒頭にも述べたが、当ダムは平成19年4月11日に試験湛水を終了したところであるが、数年間は自然環境検討会を継続し、指導・助言をいただきながら、今後も「環境に配慮したダム管理」を行うこととしている。

写真-5
 

写真-6
 
 

 

写真-7
 
写真-8
 
写真-9