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九州技報 第41号 論文

温泉環境下における橋梁建設

 ~一般国道223号道路改築事業(丸尾の滝橋)~

鹿児島県 堀之内 毅

 
1 はじめに
一般国道223号は、宮崎県小林市を起点に、霧島屋久国立公園の霧島火山群の山麓、霧島温泉郷を経由して、鹿児島県霧島市隼人町の東九州自動車道隼人東ICに至る幹線道路であり、霧島方面への観光道路、県北西部から鹿児島空港や九州縦貫自動車道へのアクセス道路となっている。
現在施工中の「丸尾の滝橋」は、霧島市丸尾温泉地区の霧島屋久国立公園第2種特別地域内に計画された橋梁であり、本橋梁が跨ぐ2級河川中津川上流300mには、丸尾随一の景勝地である「丸尾の滝」があり、四季を通じて温泉観光のルートとして賑わっている。

図-1 道路改築事業の概要
 
2 道路改築事業の概要
牧園町の小谷地区から丸尾地区にかけての本工区は、本県を代表する観光地である霧島温泉郷から、霧島神宮やえびの高原に通じる重要な観光道路の一部となっているが、幅員が6mと狭小なうえ歩道もなく、急カーブの連続で交通安全上問題が多いことから,昭和56年度から小谷地区の霧島国際音楽ホール「みやまコンセール」入り口を起点に整備に着手し、丸尾地区の主要地方道「小林えびの高原牧園線」との交差点付近までの約3kmの区間について、平成11年度までに完成した。
しかし、「丸尾の滝」付近の現道は、これまでに豪雨による斜面崩壊や路肩決壊等により幾度となく交通止めが生じ、特に平成9年3月に発生した県北西部地震や、平成14年7月の梅雨前線豪雨による斜面崩壊では復旧までの半年間に亘って交通規制が続いた。
道路改築に併せてまちなみ整備を行った地元としては、不安を抱えての経済活動を余儀なくされており安全な道路づくりが喫緊の課題であった。
このようなことから、危険箇所を解消し、丸尾温泉街の活性化に寄与するため、道路改築事業小谷拡幅の一部として、平成11年度に工区延伸したものである。

写真-1 道路改築後の丸尾温泉街

写真-2 「丸尾の滝」前の斜面崩壊

  
3 橋梁の諸元

図-2 P2橋脚横断面図

   

図-3 橋梁全体側面図

 
4 温泉環境下における施工検討
(1) 検討の日的
現場条件や自然公園法等の制約もあり、ルート及び橋梁の構造形式の見直しは難しいことから、地熱、火山性ガスへの安全対策、施工管理、品質管理等について、専門家の指導・援助を仰ぎながら、工事を実施している。
具体的には、平成14年5月に、学識経験者及び専門的な知識・経験を有する技術者(TC)からなる「一般国道223号丸尾の滝橋施工技術検討委員会」を設置し、課題並びに問題点の抽出を行い、施工方法や品質確保、安全管理等について検討している。
(2) 検討の課題
一般国道223号「丸尾の滝橋」の検討課題は、温泉腐食環境下における、安全な施工計画と構造物の品質確保である。
 


5 深礎杭の施工方法
地質調査結果によると、P1~P3橋脚建設位置は、何れも施工途中に高温温泉水や有害なガスの噴出が充分考えられる。このような環境条件に直接対応することは、余りにも危険性が高くほとんど不可能と考えられるため何らかの対策工を講ずる必要がある。
高熱(温泉水) ・噴出ガスへの対策工
地質調査の結果では、高温の温泉脈により地盤が高温になっていると推定されている。よって、このような高温の温泉水を遮断することで、一般環境に近づけることが可能であると考えられる。
そのため本橋においては、薬液注入による遮断工及び地中配管による地盤冷却工を採用することとした。
また、坑内の作業環境を確保するため、ガス濃度の希釈及び坑内温度の低下を目的とした「大型送風機による換気」を行うこととし、作業前はもとより、作業中においても自動計測により常時坑内の温度やガス濃度の測定を行い、安全な作業環境を確保することとした。

写真-3 地質調査時の水蒸気噴出状況

 
(1) 遮断工(薬液注入工)の施工
深礎杭周囲の遮断工としては、連続地中壁工法、鋼矢板等による工法、薬液注入工法が考えられるが、高温の温泉水は、支持地盤の亀裂を通じて底面下からも湧き出ることが考えられ、連続地中壁工法や鋼矢板による工法は、側面の遮断は可能であるが、底面の遮断はできないことから、薬液注入工法が最も有効と考えられる。
薬液注入工法では、まず、蒸気噴出の防止を目的とし、比較的大きなクラックを詰めるために、深礎杭の側面、底面に「外郭注入」としてセメントベントナイトを無圧で注入した。
次に「内郭注入」の1次注入として、今度はセメントベントナイトを圧入し、その後、2次注入として超微粒子系注入材による注入を行った。
注入材の選定においては、地盤が酸性土壌であるため一般的な非アルカリ系注入材は中和反応が起こらない可能性があることから、地下水のpHに左右されない自硬性でゲルタイムが長い長結性注入材を採用した。
 この注入材は、その主成分が超微粒子の特殊スラグであり、固結することによりセメント水和物と同等の結晶を生成し、高い固結強度と恒久性を得ることができる。
さらに、3次注入として地盤温度の関係からゲルタイムの確保が困難であった溶液型注入材を地盤冷却後に注入することにより、より確実な遮断層を形成した。

図-4 薬液注入工施工概念図
 
(2)地盤冷却工の施工
P2橋脚の施工においては、深礎杭底の地盤温度が約110℃ と高温であり、掘削及びコンクリート打設に支障がある。
この高温地盤を地中に埋設した冷却管で平均温度45℃程度に冷却するとともに、コンクリートの養生温度の管理を行った。
冷却工の施工において深礎杭外周部に配置される冷却管は、薬液注入工において埋設されたAGF鋼管内に挿入した。
深礎杭内部に配置される冷却管については、ドリルにより削孔し冷却管を埋設した。
冷却水は、水道水を当初11℃ に冷却し循環を行い、その後、測温管で観測された地盤温度の状況により、最低4℃ まで下げて冷却した結果、60日間で所定の温度に降下した。
また、抗体コンクリート打設時には、この冷却施設及び周辺地盤の高温度を利用し、事前の高温養生実験で確認された適切な温度環境である40℃程度にまで周囲の地盤温度を上昇させ、より品質の高い基礎構造物の構築に努めた。
P2橋脚深礎杭冷却工の規模については、以下のとおりである。

 

 

図-5 地盤冷却工平面図

 

図-6 地盤冷却工断面図

 

 

 

写真-4 地盤冷却の状況

 
(3) 無人化掘削による施工
P2及びP1橋脚においては、事前のボーリング調査の結果から非常に高濃度の硫化水素ガスが検出されているほか、地盤温度も100℃ を超え、水蒸気の噴発が懸念される。
そのため、最も危険度の高い深礎杭の掘削及び支保工の吹付コンクリートにおいて、バックホーの遠隔操作による施工を行う。
操作は、上空からの目視や坑内及びバックホーに設置された4台の固定カメラにより状況を判断しながら作業を行っている。
また、吹付コンクリートについては、粉じんによる視界を確保するため、リバウンド量が少なくサイクルタイムが早い液体急結剤を使用するとともに、金網設置に伴う有人作業を省略するためにファイバー入りコンクリートを採用した。

写真-5 無人化施工の状況
(4) シラスコンクリートの採用
高温地熱、火山性ガス、酸性土壌という腐食性環境下におけるコンクリートの品質確保と完成後の耐久性が懸念されたが、これまで全国的にも本橋梁と同様の条件下での施工事例がほとんど見つからないため、これらに関する研究報告や文献等を参考に、セメントや骨材の種類及び対策工について検討、実験を行った。
その結果、温泉腐食環境下でのコンクリートの耐久性を研究し、多くの実験を行っている鹿児島大学工学部武若耕司教授の御助言により、南九州の未利用資源の一つである「シラス」を細骨材に用いたシラスコンクリートを重要構造物として初めて杭本体に採用した。
これまでの研究成果によると、通常の骨材を用いたよりも長期強度特性に優れ、シラスの置換率が高いほど強度増加も大きくなる傾向があるとともに、温泉環境下において非常に優れた化学抵抗性があることが分かっている。
また、コンクリートが材齢初期から高温下に曝されることから、初期温度を抑制し、温度ひび割れの発生を防ぐために、高温養生環境においてもその影響を受けにくい低熱ポルトランドセメントを使用している。

図-7 深礎杭要素説明図
 
6 施工時の安全対策
深礎杭の施工においては、できる限り無人化施工を適用する方針であるが、すべての作業を無人化することは技術的課題やコスト面から現実的ではない。
そこで下記のような保安設備を常備するとともに、換気・送気、坑内環境、保護具、作業員の装着装置及び救護・避難用具等の確認を強化し、有人における作業環境の安全を図っている。
①大型送風機

温度低下及び火山性ガス発生時の希釈のための送気・吸気。
②昇 降 設 備

周囲をシートで覆い、中を新鮮な空気で満たし安全なスペースを確保。
③作  業  員

送気マスクもしくは防毒マスクを着用し、携帯型ガス検知器を携帯。
④ガス検知器

自動ガス検知器と警報ユニットを常備し、別途、複合型ガス検知器を設置し、入坑前に確認。
⑤給 水 設 備

ガス・蒸気の発生時に坑内に注水し、噴発を抑制。
⑥入 坑 基 準

ガス及び温度について、有人及び無人作業での管理基準を設定。
 
7 コンクリート計測管理計画
本橋梁が温泉腐食環境下で施工されることから、基礎工の大口径深礎杭において、施工中の品質管理及び施工後の維持管理を目的とし、モニタリングに必要な計測機器を設置している。
施工時の品質管理としては、コンクリートの水和熱や内部応力を計測し、養生環境を管理することにより、有害なクラックの発生を抑制し、良質で密実なコンクリート構造物を構築することを目的としている。
また、施工後の維持管理としては、コンクリートや鋼材の劣化度の計測を行い、構造物を定期的に観察することにより、将来の維持補修費用を抑え、長寿命化することを目的としている。
P2橋脚に設置した計測機器は下記のとおりである。
 
 
8 おわりに
現在、P2橋脚がほぼ完成し、P1橋脚の施工に着手したところである。
P1橋脚は、ガス濃度、地盤温度ともに最も厳しい環境条件であり、また、地盤の一部にはこれまでは発生しなかった硬岩が確認されていることから、無人化掘削の方法についてもさらに検討が必要である。
そのほか、基礎上部周辺の緩んだ地盤を改良し橋脚の安定を図るため、高温下でのスラリー攪拌工の施工も計画しており、施工時の安全対策や固化材の配合計画等の検討も進めている。
本橋梁が、最後まで事故なく、より良質な構造物として完成するよう願っている。
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