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PFIによる社会甚盤整備の現状と考察

NPOタウン・コンパス
古 賀 嘉 幸

1 はじめに
PFIに関する検討は,平成9年頃より国や民間団体により始められていた。平成11年7月に「民間資金等の活用による公共施設等の促進に関する法律」(以下,PFI法)が成立し,平成12年3月にPFI法に基づき「基本方針」が策定されPFIの具体的な推進が始まった。平成11年9月のPFI法施行より,今年で4年目を迎えた。九州では,「福岡市臨海工場余熱利用施設整備事業」タラソ福岡がPFI事業として開業している。本文においてPFIの考え方や現状を紹介しながら若干の考察を行います。

2 PFIの考え方
PFIの考え方は,PFI法・基本方針に示されPFI推進での,制度づくりや関連法の背景となっている。基本的な考え方としては,次の三つの視点で捉える事ができる。①VFM注1)の最大化を求める事業②民間からの公共サービスの調達による事業③官民のリスク分担による事業である。
注1)Value For Money「支払いに対して最も価値の高いサービスを供給する」という考え方

(1)PFIの目的(PFI法第1条)
「民間の資金,経営能力及び技術的能力を活用した公共施設等の建設,維持管理及び運営の促進を図り,効率的かつ効果的な社会資本の整備を行う事を目的とする」

(2)公共施設の定義(PFI法第2条)
(公共施設)
  道路,鉄道,港湾,空港,河川,下水道,工業用下水道
(公用施設)
  庁舎,宿舎
(公益的施設)
  公営住宅,教育文化施設,廃棄物処理施設,医療施設,更生保護施設,駐車場,
  地下街
(その他)
  情報通信施設,熱供給施設,新エネルギー施設,リサイクル施設,観光施設,
  研究施設,政令で定めるもの

(3)PFIの5原則3主義(基本方針)
(公共性原則)
  公共性のある事業が対象
(民間経営資源活用原則)
  民間の資金,経営能力および技術的能力活用
(効率性原則)
  民間の自主性と創意工夫を尊重し効率的かつ効果的に実施
(公平性原則)
  特定事業および民間事業者の選定における公平性担保
(透明性原則)
  事業の全過程を通じての透明性の確保
(客観主義)
  各段階の評価決定についての客観性
(契約主義)
  明文化による責任分担等契約内容の明確化
(独立主義)
  事業体の法人格上および経理上の独立性確保

(4)PFIの効果(基本方針)
民間事業者の経営ノウハウの蓄積および技術的能力の向上を背景に公共施設の整備等を民間事業者にゆだねる事で次の効果が期待されている。
① 低廉かつ,良質な公共サービスの提供
リスク分担による効率的なリスク管理の実現と事業期間全体のコスト削減の実現による公共サービスの提供
② 公共サービスの提供における行政の関わり方の改革
官民の適切な役割分担に基づく新たな官民パートナーシップの形成による公共サービスへの関わり
③ 民間の事業機会創出
•公共施設の整備等を民間事業者にゆだねられる事からの事業機会創出
•他の収益事業と組合せる事からの事業機会創出
•プロジェクトファイナンス等の資金調達方法等により新しいファイナンスマーケットの事業機会創出

3 PFI事業の現況
新聞記事等で公表された,構想および事業化検討を含むPFI事業案件は,500件を超えている。この中で実施方針が策定・公表されたPFI事業は,内閣府PFI推進室の公表資料(平成15年4月17日現在)によると96件のPFI事業がある。
対象事業は,概ね公益事業が全体の70%を公用事業が10%を占めている。PFI事業としての対象事業は,教育・文化施設,産業物処理施設,駐車場等の利用料金が見込まれる施設が多く道路等の基幹インフラは,PFIで事業化されていない。国・地方公共団体別にPFI事業数(表ー1)をみると地方公共団体が圧倒的に多い,これは,地方自治体からPFIが推進された経緯からである。国の事業は,昨年度より国立大学の事業が増加している。地域別にPFI事業数(表ー2)をみると都道府県の地区別では,約60%の地区でPFI事業が実施されている。財政規模の大きい都市を抱える地区が,幾分多くなっている。財政規模が小さな自治体は,可能性調査費用やアドバイザー委託料等の費用負担の他,人材や体制整備等の問題があり取組みが遅れている。

4 事業化方式の選択肢としてのPFI
PFI事業化案件が,500を超えている中で断念したプロジェクトは,かなりの数に昇る。三重県紀南交通拠点事業は,事業契約直前の段階で断念した。可能性調査や事業者との交渉で事業化が難しければ中断できるのがPFIの特徴でもある。福岡県古賀市ユニバーサルセンターの場合,従来型かPFIかの選択で断念したのではなく,当初からの狙いであった長期での事業コストの縮減に対してデザイン・ビルドを採用し,読めないリスク分担のリスクを回避するために公設・民営の形態を選択したのである。PFIでの事業化は,官民双方が利益を得るウィン・ウィン(Win-Win)の事業である事が前提。可能性調査の段階でのVFMやリスク分担の内容の検証は,重要な判断材料となるが,古賀市の例の様に事業目的に応じた適切な事業化手法を検討し選択する事は大切である。公共事業の事業化は,行政が事業化に一切関与しない民営化から行政の関与の仕方により様々なバリエーションが考えられる。下記の(公共事業の事業化区分)は,画一的なものではない,組み合わせによる事業化等様々なバリエーションが考えられる。選択肢の視点としての区分である。PFIの導入は,公共サービスの調達の選択肢を拡げる事であり,日本版PFIとして,官民パートナーシップ(PPP) の視点での取り組みが大切であると考える。

5 VFMの考察
(VFMとは)
PFIは,民間の資金,経営能力及び技術的能力活用する事で,公共財源を有効に活用できるとの考え方が前提にあり,これまで行政にあった事業リスクをできるだけ多く民間に移転させる事業化方式である。VFMは,PFIでの事業化の判断指標であり,一方では,官民の優位性に影響を与えるリスク分担を定量化するものである。VFMは,PFI事業が成功するか又は,官民双方が,ウィン・ウィンとなるかを判断する重要な指標となる。VFMについて「基本方針」では,①財政負担の縮減,②公共サービスの水準の向上を選定基準とするとしている。

基本方針ー3(2)抜粋
「民間事業者にゆだねることにより,公共サービスが同一の水準にある場合において事業期間全体を通じた財政負担の縮減が期待できること。又は,公的財政負担の縮減が同一の水準にある場合においても公共サービスの水準の向上を期待することができること等を選定の基準とすること」

(1)VFM評価について
VFMの有無の評価は,PSC注2)の算定とPF I事業のLCC注3)の算定の比較により行われるが,PSCとして算定すべき要素の確定や関連データの蓄積等の環境は,行政が一様に整っているわけではない。この事がPFIの取り組みを鈍らせている原因となっている可能性もある。また,VFMの算定要素と関連データの精度を上げて行く事がVFMの信頼性向上に繋がる事は,言うまでもない。関連データの整備において,先行PFI事業のデータが公開され共有化される事も必要な事と考える。

注2)Public Sector Comparator 公共が自ら実施する場合の事業期間全体を通じた公的財政負担の見込額の現在価値。
注3)Life Cycle Cost  PFI事業として実施する場合の事業期間全体を通じた公的財政負担の見込額の現在価値。

(2)公共サービスの水準について
民間事業者を活用する事で事業期間全体に渡りコスト縮減が期待できるとしても,公共サービスの水準がどうであるかは,見過ごせない。公共サービスの水準について,評価事項および客観的な評価基準が用意されているかである。施設や維持管理のコスト縮減ができたとしても利用者にとって満足行かないサービスの内容であれば,客離れを起こし,いずれその事業は,成り立たなくなる。公共サービスの水準については,定性的なサービスとして利便的な配慮の他,環境やユニバーサルデザイン等の配慮もその一つである。コスト縮減効果への偏重評価には,危惧するものである。

(3)イクオールフィティングについて
VFM評価の前提として,官民の条件が同じである(イクオールフィティング)事は言うまでもない。又は,条件が同じでない事の認識が前提としてある事が必要である。従来型の公共事業では,補助金の他低金利の起債等資金調達や民間事業者に発生する事業所税・固定資産税の非課税等行政側に優位性があり,民間事業者が,PFI事業に参入する場合,現行制度において不利な状況にある。現行制度に基づき最適なPFI事業方式を組み立てる事も大切であるが,官民の格差を是正し,民間事業者が,PFI事業に参入し易くなる環境として,資金調達や税制度に関する措置が必要である。

(4)VFMの決定過程について
VFMが確定するまでには,事前の調査・検討段階からPFI事業者との契約までに充分な見直しが必要である。リスク分担が適切であったか,不確定要素をどの様に取り扱うか等 行政とPFI事業者が,対等な立場で協議·交渉を行う過程である。この過程を通して,信頼性のあるVFMが決定され,PFI事業を成功に導く端緒ができる事となる。VFMの決定過程は,事前にできるだけ多くの問題解決を行おうとする過程でもある。

6 おわりに
PFIは,「低廉かつ,良質な公共サービスの提供」を実現するための一つの手法であり,「万能な手法」ではない。現行法制度やその事業を取り巻く環境に適用できるかの判断の下に活用を考える必要があり,事業化方式の選択が必要となる。PFI活用のための基準づくりやデータ蓄積と言った整備課題に対しては,全国96の事業事例を参考できる。PFIの活用については,着実に環境が整ってきていると言える。一方,イクオールフィティングの課題は,PFI事業への民間事業者の参入機会をどう考えるかに及ぶものであり,法律や制度の見直しが必要となっている。PFIの活用は,緒に就いたところでありこれからが本番。今,重要な事は,「定量化・基準化の追求」と「課題の顕在化」と考える。

参考文献
◦西野文雄監修:日本版PFI(山海堂)
◦東北経済連合会:東北におけるPFI活用の促進に向けて(平成13年9月)
◦日本プロジェクト産業協会(JAPIC):PFI実施案件の実態調査報告書 中間報告書(平成14年8月)
◦土木学会建設マネジメント委員会PFI研究小委員会:インフラ整備を伴うPFI事業形成のための課題の明確化とその解決策の提言に向けて(平成14年9月)

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