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JR佐世保線武雄温泉駅付近連続立体交差事業
佐賀県 三根建一
1 はじめに

佐賀県の社会資本整備については、県民ニーズの多様化・高度化や環境に対する県民意識の高まり、厳しい財政状況など、社会経済情勢が大きく変化する中で、中長期的な財政見通しを踏まえた推進を図ることとしています。
特に人口減少・超高齢社会を迎えるにあたり、高齢者も含めた多くの県民の暮らしやすさを確保するために、都市の拡大成長を前提とした「まちづくり」から、社会資本のストックを有効に活用しながら、商業、医療・福祉、教育・文化など多様な都市機能を地域の規模に応じ集約した社会資本整備へと方向転換を図りつつ、県土の整備を図ることとしています。
佐賀県の将来の発展に向けて、「快適な県民生活の確保」、「産業の振興」、「県土の発展」を三本柱として、これまで以上に選択と集中を徹底し、真に必要な社会資本を堅実に推進していくとともに、県民協働の視点から社会資本を活用する多様な主体による活動についても積極的に取り組むこととしています。
道路整備の一環として、都市を分断している鉄道を立体化することにより、多数の踏切を一挙に除却し、都市交通の円滑化や踏切事故の解消をはかるため、連続立体交差事業を進めてきており、これまでに佐賀市の佐賀駅、唐津市の唐津駅付近の鉄道高架化を行っております。県下において3番目となる武雄市の武雄温泉駅付近の高架化は、平成9年度に都市計画決定、翌年度に県事業として着手し、鋭意事業促進を図り、平成20年2月17日に高架切替を完了しました。
本稿では、この連続立体交差事業について紹介します。

2 武雄市の概要

武雄市は、佐賀県西部に位置する都市です。平成18年3月に、旧武雄市、山内町、北方町の合併により面積約195㎞2、人口約53,000人となり、「いで湯と陶芸のふるさと」として新しい歴史を歩みだしました。
福岡市、佐賀市方面から長崎市、佐世保市に通じる九州の主要な幹線ルートに位置し、交通の基軸としてJR佐世保線及び長崎自動車道、西九州自動車道、それに伴う2つのインターチェンジ・ジャンクションがあります。また国道34号、35号、498号が通過し、九州新幹線(西九州ルート)の整備も着手されており、西九州における内陸交通の要衝として一層発展が期待されます。

3 まちづくりの変遷

武雄市は「いで湯と陶芸の里」であります。
温泉については、古代の神功皇后の伝説や肥前風土記(8世紀)に記載されている記事から、1300年の歴史を持つと思われます。文禄(1590年)・慶長(1597年)の役では朝鮮出兵の前進基地だった名護屋城に多くの将兵が駐留し、その将兵達が戦傷病の治療や湯治のため武雄温泉に多数訪れ、温泉町として繁盛していたようです。
陶芸は、文禄・慶長の役の後、武雄領主が朝鮮陶工を呼び寄せたため、従来の技術が大きく改革発展し、武雄市の各地に大型の登り窯が開かれています。
製品は主として伊万里港から積み出されました。長崎街道が享保年間になって塩田道から塚崎道(当時武雄は塚崎と呼ばれた)に代わったため、街道の拡幅も進み陶器輸送も便利になったようです。また、明治の中頃まで物流では有明海に注ぐ六角川の船運が大きな力を示し、武雄市の西に位置する朝日町高橋が物流と商業の中心として栄えていました。明治初期には、現在の国道34号、35号が国道に指定され、その後、武雄鹿島線、武雄伊万里線など次々に県道に指定されています。一方、鉄路においては、明治28年に九州鉄道会社が佐賀~武雄間を開業、明治31年には佐世保まで(現JR佐世保線)延伸、その後、明治40年に国鉄に買収され、国家事業としての現在の鉄道網完成とともに、物流は鉄道輸送に代わり商業の中心地も現在の武雄市街地に移っています。

4 武雄温泉駅周辺整備構想

武雄市の北部市街地は、古くから温泉を核とした観光都市として栄えてきた街ですが、JR佐世保線が東西に貫通しているため、南北方向の交通が阻害され、すでに土地区画整理事業による基盤整備が進んだ南部市街地に比べ、商業施設の郊外進出あるいは都市基盤整備の立ち後れなどにより、観光産業の停滞や商業地としての機能・魅力が衰退し、市街地の空洞化が深刻な問題となっています。
武雄市を訪れる人にとっての玄関口である武雄温泉駅付近においては、まちのイメージを印象づけるような景観形成とともに、駅から温泉界隈への導入部の雰囲気づくり、空間整備により活気を取り戻すことが必要です。
このようなことから、武雄市の南北市街地の交通利便性の向上と温泉街を擁する北部市街地の活性化を図るため、佐賀県と武雄市は連携し、連続立体交差事業(県事業)と、土地区画整理事業(市事業)に取り組むこととなりました。

5 連続立体交差事業の目的

武雄市中心部の武雄温泉駅付近は道路とJR佐世保線が平面交差をしているため市街地が南北に分断され、交通混雑など著しい都市機能障害が生じています。

「JR佐世保線武雄温泉駅付近連続立体交差事業」によって、鉄道を高架化することで交通混雑・踏切事故を解消し、南北市街地の交流を促進させ、均衡のとれた都市の発展を図ります。また、「武雄北部土地区画整理事業」との一体的な都市基盤の整備により『21世紀の魅力あるまちづくり』を推進します。

6 連続立体交差事業の概要

佐賀県では、昭和62年に事業採択を受け、JR九州とともに武雄温泉駅付近連続立体交差事業を進めており、JR佐世保線の約3.05㎞の高架化を行い、市街地にある8箇所の踏切を除却します。

■武雄温泉駅付近連続立体交差事業の概要

○高架区間:約3.05㎞
○除却踏切:8箇所
○駅施設規模:2面3線
○鉄道と交差する都市計画道路:3路線(幹線道路)
■事業経緯
○昭和57年度 連続立体交差事業補助調査 (昭和58年度までの2ヵ年調査)
○昭和60年度 新幹線長崎ルート公表に伴う計画の見直し
○昭和62年度 連続立体交差事業補助採択
○平成 9 年度 都市計画決定
○平成10年度 事業認可
○平成10年度 工事基本協定締結
○平成13年度 高架本体工事着手
○平成19年度 高架供用開始(Ⅰ期)

7 新しい武雄温泉駅の特徴

新しい駅舎のデザインについては、武雄市のシンボルである楼門を設計した建築家「辰野金吾」にゆかりの東京駅を模した煉瓦調外壁が落ち着いた雰囲気を醸し出しています。 また、ユニバーサルデザインに配慮し、駅舎にはエレベーター、エスカレーター、多機能トイレを設置し、駅南広場から連続する視覚障害者用誘導ブロック及び車いす用のスロープを整備しています。

8 今後の目標

平成19年度にⅠ期工事の完成により高架への切り替えを行い、市街地内の踏切8箇所が除却され、交通渋滞が緩和されました。
引き続きⅡ期高架工事を施工するとともに高架と交差する都市計画道路(幹線道路)の整備を進め、平成21年度の事業完了を目指します。

9 おわりに

合併で誕生した新「武雄市」は、知名度アップに取り組んでいます。平成18年から、「テレビドラマ・佐賀のがばいばあちゃん」のメインロケ地として次々とメディアで取り上げられ、全国的な知名度の向上と相まって交流人口も増加しました。また、「新しい武雄の特産品」を目指して、平成19年度からレモングラス(ハーブの一種)の栽培を開始し、商品化に取り組んだ結果、「レモングラス乾燥葉」も完成しました。その後、レモングラスを活かした入浴剤や名物料理も作られて、地区の活性化と武雄市の特産品化を夢見ての挑戦は広がり続けています。
「いで湯と陶芸のふるさと」+「がばいよか武雄」を目指し、地域資源を観光資源として発掘し、新たなまちづくりに取り組んでいる「武雄市」を是非訪れてみてください。

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